“標(しるし)” の例文
「表に槍があろう」と光辰が云った、「あれは重代相伝であり領主の標(しるし)である、おれが領主である標に欲しいのだ、持ってまいれ」
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
徐(おもむ)ろに眼を開きたる梅子の視線は、いつしか机上に開展されたる赤紙の第三面に落ちて、父が墨もて円く標(しるし)せる雑報の上をたどるめり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
不思議なことだとは思ったが、その言う通りにして小さい石の標(しるし)を立て、誰が言い出したともなしにそれを髭塚と呼ぶようになりました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それでドウいうふうにしてやりましたかというと、そのころは測量器械もないから、山の上に標(しるし)を立って、両方から掘っていったとみえる。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
烏帽子は、階級の標(しるし)だった。商も農も、諸職も、六位七位の布衣(ほい)たちも、日常、頭に載(の)っけている。雪隠(せついん)の中でも載せている。
万葉集を通読して来て、注意すべき歌に標(しるし)をつけるとしたら、従来の評判などを全く知らずにいるとしても、標のつかる性質のものである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
各艦では、そのしらせをうけると、いちはやく水兵を檣(マスト)の上にかけあがらせて、藍色灯をつけさせた。この藍色灯は、検閲点呼の標(しるし)であった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
語が違うのはつまり意味が違うのですから、音の違いは意味を識別する標(しるし)になる。それで音の区別は大切な訳であります。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
墓地の隅には、向島に住み始めた頃に祖母が郷里から土を取寄せて、標(しるし)ばかりに建てた石がまだあって、小さい祖母の姿をさながら見るようです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
チベル河口にあるポールの司教テレンチウス聖者は、通る人々が墓に唾(つば)をかけて行くようにと、親殺しの墓につける標(しるし)を
上越後地方にはまた標(しるし)の竿(さお)という風習があった。いろいろの意味で注意に値するから、このついでに話しておきたい。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
内側の並木道(ブリヷール)と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※※と円い標(しるし)を屋根につけた電車が
草苅に小さい子や何かゞ秣(まぐさ)を苅りに出て、帰り掛(がけ)に草の中へ標(しるし)に鎌を突込(つっこ)んで置いて帰り、翌日来て、其処(そこ)から其の鎌を出して草を苅る事があるもので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此本は大判の紙にゴチツクで印刷してあつて、骨子になつてゐる語には朱と墨とで標(しるし)がしてある。丁附は無い。
十三時 (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
この者天使の描く標(しるし)を着く、汝これを見ば汝は彼が善き民と共に治むるにいたるをさだかに知らむ 二二—二四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
往来留(どめ)の提灯(ちょうちん)はもう消したが、一筋、両側の家の戸を鎖(さ)した、寂(さみ)しい町の真中(まんなか)に、六道の辻の通(みち)しるべに、鬼が植えた鉄棒(かなぼう)のごとく標(しるし)の残った、縁日果てた番町通(どおり)。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四五十年あとまでは、唯関と言うばかりで、何の標(しるし)もなかった。其があの、近江の滋賀の宮に馴染み深かった、其よ。大和では、磯城(しき)の訳語田(おさだ)の御館(みたち)に居られたお方。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その後、往来でオリヴィエに出会って、たがいに近所同士であることを知ると、自分の思い違いでなかったということを、運命の神秘な標(しるし)で示されたような気がした。
それでもその屋根の上には、木の枝を組んだ十文字の標(しるし)が、夜目にもいかめしく立って居ります。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
婚約の指環というものは許嫁(いいなずけ)の娘としてその品格を保つべき有形的の標(しるし)であるから、その指環の寸法を取るために、すぐにハミルトンの店まで来るようにと言ってやった。
沈惟敬之を承諾して、標(しるし)を城北の山に樹(た)てて日朝両軍をして互に之を越える事を禁じて去った。休戦状態である。沈惟敬は北京に還って、行長等媾和の意ある事を報じた。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
上にも言った通り、この神の一族は蛇を族霊(トテム)としたから、この時も品地別命が肥長比売の膚に雕(え)り付けた蛇の族霊の標(しるし)か何かを見て、その部族を忌み逃げ出した事と思う。
それはどんな仕事でもさうだが、仕事の手段を簡単にするのはそれが優れてゐる標(しるし)だ。一つの仕事でも単純に片づくのは知識が手伝つてゐるし、こみ入らすのは無知だからだ。
それでも字眼(じがん)なぞがあると、標(しるし)を附けて行かれるから、照応を打ち壊されることなぞはめったに無い。度々行くうちに、十六七の島田髷(まげ)が先生のお給仕をしているのに出くわした。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いづれか我が住みし家ぞと立ち惑(まど)ふに、ここ八〇二十歩(ほ)ばかりを去りて、雷(らい)に摧(くだ)かれし松の聳(そび)えて立てるが、雲間(ま)の星のひかりに見えたるを、げに八一我が軒の標(しるし)こそ見えつると
この頃僕の思想がリアリズムを離れてゐる、といふ標(しるし)になるであらう。
或る日の運動 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
厭(いと)ふ詞(ことば)二つまだと餘なり初日碓氷(うすひ)にて勞(つか)れしとき舊道へ入(い)るの道の標(しるし)を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
それ、その日時計(ひどけい)の淫亂(すけべい)な手(て)が午過(ひるすぎ)の標(しるし)に達(とゞ)いてゐるわさ。
喚き出すと伝えられる——死霊集会(シエオール)の標(しるし)なんだよ
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
第三囘に抛げ飛ばし先の二人の標(しるし)超す
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
文字の上に三角の標(しるし)をつけてあった。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
死の標(しるし)たる君のまへに春はまた輝き
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
この標(しるし)、世に克(か)つ標
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
霊魂(たましひ)の墓の標(しるし)の。
詩 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
岡村七郎兵衛はそれを指さして、昔はそこに流人村という標(しるし)の石が立ててあり、柵がまわしてあったのだ、と説明した。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
バスに一区のって山門の石の標(しるし)が見えるところへ来ると、左手の広い畑の面に一ヵ所こちゃこちゃ色とりどりの人間のかたまりがある。薯掘りなのです。
そのなすところが何であろうとも、かかる標(しるし)を、星の瞳(ひとみ)を、有している者ならば、すべて皆尊むべきではないか。
表(おもて)の入口(いりくち)には焦茶地(こげちやぢ)へ白抜(しろぬき)で「せじや」と仮名(かな)で顕(あらは)し山形(やまがた)に口といふ字が標(しるし)に附(つい)て居(を)る処(ところ)は主人(あるじ)の働(はたらき)で、世辞(せじ)を商(あきな)ふのだから主人(あるじ)も莞爾(にこやか)な顔、番頭(ばんとう)も愛(あい)くるしく
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今の本名もツクツクシだが、このツクシにはもはや「継ぐ」という意味はなく、澪(みお)の標(しるし)のミオツクシなどと同じに、土に突立てた榜杭(ぼうぐい)のことに解しているらしい。
人の越ゆるなからんためエルクレが標(しるし)をたてしせまき口にいたれるころには 一〇六—
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
屍骸は今でもあの男の家の跡に埋まつて居ります。尤も小さな標(しるし)の石は、その後何十年かの雨風(あめかぜ)に曝(さら)されて、とうの昔誰の墓とも知れないやうに、苔蒸(こけむ)してゐるにちがひございません。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もしわれわれが真実をもって行動するならば、われわれから生れ出て来るところのものは(何が出て来るかをわれわれは予見することはできないが、)われわれの共通の標(しるし)をつけているだろう。
虎松はギョッとして暗闇に立ち止ったが、提灯(ちょうちん)の標(しるし)を見て安心した。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いまだ少年であった頃の私が紅(あか)鉛筆で標(しるし)を打ってある文章の一つに
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
標(しるし)の石をたてて笛塚の二字を刻ませた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この家の三代前弥兵衛という御先祖さまが堅田(かただ)から移したもんだ、二本柳から横橋までの五町が活け場になっている、その五町の上下に標(しるし)を打って
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その建物は当時ニヴェルの領有であって、道路の交差点の標(しるし)になっており、十六世紀式の建築で、砲弾もそれに対してはただはね返るのみで破壊し得なかったほど頑丈(がんじょう)にできていた。
屍骸は今でもあの男の家の跡に埋まつて居ります。尤も小さな標(しるし)の石は、その後何十年かの雨風(あめかぜ)に曝(さら)されて、とうの昔誰の墓とも知れないやうに、苔蒸(こけむ)してゐるにちがひございません。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日本を中心として、右には米大陸の西岸が見え、上には北氷洋が、西には印度(インド)の全体が、そして下には遥かに濠洲(ごうしゅう)が見えている。その地図の上には、ところどころに太い青線で妙な標(しるし)がついていた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから直(すぐ)に本所(ほんじよ)を出て吾妻橋(あづまばし)を渡つて、森下(もりした)へ行(い)つて捜(さが)すと、今(いま)の八軒寺町(けんでらまち)に曹洞宗(さうどうしう)の東陽寺(とうやうじ)といふ寺(てら)があつた。門の所で車から下(お)りてズツと這入(はい)ると、玄関(げんくわん)の襖紙(からかみ)に円(まる)に十の字(じ)の標(しるし)が付(つ)いてゐる。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)