枇杷びわ)” の例文
ただパインアップルけはよく好まれ、病気になられてからは、枇杷びわだの何だのの缶詰を召上られたが、平生は概して上らなかった。
解説 趣味を通じての先生 (新字新仮名) / 額田六福(著)
大原君、サアこの菓物くだものを取り給え。名物揃いだ。枇杷びわの方は有名な房州南無谷なむやの白枇杷だし、だいだいのようなのは淡路あわじ鳴門蜜柑なるとみかんだ。好きな方を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
枇杷びわ中納言とも、又土御門中納言とも云われ、百人一首の、「あひ見ての後の心にくらぶれば」の作者として知られているが
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、穆の息子はひっさげていた枇杷びわの木の木剣をなげだして、その兄なる者とともに、地に平伏した。詫びは兄の方がいった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枇杷びわの実は熟して百合ゆりの花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込うえごみの蔭には、七度ななたびも色を変えるという盛りの長い紫陽花あじさいの花さえ早やしおれてしまった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
庭には梅、桜、桃、椿、山吹、夏蜜柑、紫陽花、柘榴ざくろ、金木犀、枇杷びわ、山茶花等、四季の花が咲く。私はいつもその季節の落花を拾って遊んだ。
澪標 (新字新仮名) / 外村繁(著)
四角に空を切りぬいた窓の中には、枇杷びわの木が、葉の裏表に日を受けて、明暗さまざまな緑の色を、ひっそりと風のないこずえにあつめている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
特に女の眼をよろこばせそうな冬菜ふゆなは、形のまま青くで上げ、小鳥は肉をつぶしして、枇杷びわの花の形に練り慥えてあった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二人が土蔵を出ると、向ふから祖母が腰をまげて、枇杷びわの木の下をせか/\と此方こつちへ小走りに走つてくるのが見えた。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
なごやかな晩餐であつた。食後の枇杷びわを、鬼頭は、「これがよささうですよ」と云つて、母親に取つてやり、千種には
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
枇杷びわが花をつけ、遠くの日溜りからはだいだいの実が目を射った。そして初冬の時雨しぐれはもうあられとなって軒をはしった。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
水蜜桃すいみつとうや、林檎りんごや、枇杷びわや、バナナを綺麗きれいかごに盛って、すぐ見舞物みやげものに持って行けるように二列に並べてある。庄太郎はこの籠を見ては綺麗きれいだと云っている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あそこはいい処よ。一年中、果物がなっている。今行けば、梨やトマト。枇杷びわは、もうおそいかしら」
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
子規居士の「職業のわからぬ家や枇杷びわの花」という句が、ちょっとこの句に近いものを捉えている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
チチッ、チチッと少時しばらく捜して、パッと枇杷びわの樹へ飛んで帰ると、そのあとで、そっと頭を半分出してきょろきょろと見ながら、うれしそうに、羽をゆすって後からさっと飛んで行く。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それ故に直接しおをふくんだ潮風を受けるために多少の風害はあるとしても、農民達はたゆまざる努力に依って、年々、大根、いもねぎなどの野菜類はもとより、無花果いちじく枇杷びわなし
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その森を越えた二人は無言のまま、直ぐ鼻の先の小高い赤土山の上にコンモリと繁った深良屋敷の杉の樹と、梅と、枇杷びわと、だいだいと梨の木立に囲まれている白い土蔵の裏手に来た。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云うのは、墓地樹として、典型的な、ななかまどや枇杷びわたぐいがなく、無花果いちじく・糸杉・胡桃くるみ合歓樹ねむのき桃葉珊瑚あおき巴旦杏はたんきょう水蝋木犀いぼたのきの七本が、別図のような位置で配置されていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
雕工ちょうこうに聞くに山茶と枇杷びわの木の槌で身を打てば、内腫を起し一生煩う誠に毒木だと。
枇杷びわは小粒で軸付きのまま十粒ぐらいに葉を三、四枚添えて束ね、黒ボクの岩組へもったいらしく飾り、一房並べの葡萄ぶどうと共に高級品扱い、梨と柿とは一般向きで夏から秋へ第一の売物
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
興津の名物は清見寺と、坐漁荘、枇杷びわばかりではない。興津川の鮎がある。
香魚の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
万に一つ治る奇蹟きせきがあるのだろうかと、寺田は希望を捨てず、日頃ひごろけちくさい男だのに新聞広告で見た高価な短波治療機ちりょうきを取り寄せたり、枇杷びわの葉療法の機械を神戸こうべまで買いに行ったりした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
柿の木もあり、枇杷びわもあり、裏には小さな稲荷様いなりさまほこらもありました。竹の格子から外を見ているのと違って、ここでは勝手に遊ばれるので、学校の少し遠くなった位何でもないと思いました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
これは肥後熊本の人で、店は道具商で、果物くだものの標本を作っていました。枇杷びわ、桃、かきなどを張り子で拵え、それに実物そっくりの彩色さいしきをしたものでちょっと盛り籠に入れて置き物などにもなる。
マーキュ はて、こひめくらならまと射中いあてることは出來できまい。今頃いまごろはロミオめ、枇杷びわ木蔭こかげ蹲踞しゃがんで、あゝ、わし戀人おてきが、あの娘共むすめども内密ないしょわらこの枇杷びはのやうならば、なんのかのとねんじてよう。
寺の地面うちだけでも、松、杉、かえで銀杏いちょうなどの外に、しいかし、榎、むくとちほおえんじゅなどの大木にまじって、桜、梅、桃、すもも、ゆすらうめ、栗、枇杷びわ、柿などの、季節季節の花樹や果樹があった。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
その時分の、枇杷びわ葉湯、甘酒——それらは昆布と共に、もう一度、民間の飲み物になってもいい。カルピスなんかよりも、枇杷葉湯は、確に、薬効的であり、甘酒はずっと優れた栄養分を含んでいる。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
枇杷びわの花白くほころび養母ははの来る朝空瑠璃るりに澄みて晴れたり
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
うっそうと葉を垂れた枇杷びわの木のそばにあるのです。
明るい枇杷びわ色が潮に映じて揺曳ようえいする。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
枇杷びわの木に夏の日永き田舎かな 太虚たいきょ
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ハンケチにしずくをうけて枇杷びわすする
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
歓びは枇杷びわの果のしたたり
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
むかしから東京の人が口にし馴れた果物は、西瓜すいか真桑瓜まくわうり、柿、桃、葡萄、梨、栗、枇杷びわ蜜柑みかんのたぐいに過ぎなかった。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おおかた枇杷びわの木にでもつないでおいたのでございましょう、馬へとびのって、どこかへ行ってしまいました。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
師を離れて、まことの師に就け。真の師とは、いうまでもなく、仏陀ぶっだでおわす。——ちょうど東塔の無動寺に人がない。枇杷びわ大納言どののおられた由緒ゆいしょある寺。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで工夫をして、他所よそから頂戴してたくわえているひょうの皮を釣って置く。と枇杷びわの宿にいすくまって、裏屋根へ来るのさえ、おっかなびっくり、(坊主びっくりてんの皮)だから面白い。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枇杷びわ 八四・〇〇 六・三七 一・四六 — 〇・一六 〇・六〇 六・七〇
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
二本目の銚子ちょうしを半分ほどにして、あとはあっさり茶漬にしてから、食後に枇杷びわを運んで来たお久は、玄関の方で電話のベルが鳴るのを聞くと、きかけた実をギヤマンの皿の上へ置いて立ったが
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
枇杷びわの古葉に木の芽もえたつ 邦
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まだここまでも、死人しびとのにおいは、伝わって来るが、戸口のかたわらに、暗い緑の葉をたれた枇杷びわがあって、その影がわずかながら、涼しく窓に落ちている。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まるみのかかッた三角形のその種子たねは、お蝶も日本で見たことがあるようですし、そうかといって、手近な枇杷びわや梅や野菜の種子ともまるで変っていますので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半農半商ともいうべきそういう人々の庭には梅、桃、梨、柿、枇杷びわの如き果樹が立っている。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ひとしきりあのやぶの前にある枇杷びわの古木へ熊蜂くまんばちが来ておそろしい大きな巣をかけた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木剣とはいいながら枇杷びわしゃくすん薄刃うすばであるから、それは、真剣しんけんにもひとしいものだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こずえに高く一つ二つ取り残された柿の実も乾きしなびて、霜に染ったその葉さえ大抵たいていは落ちてしまうころである。百舌もずひよどりの声、藪鶯やぶうぐいす笹啼ささなきももうめずらしくはない。この時節に枇杷びわの花がさく。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
へい枇杷びわの樹の間に当って。で御飯をくれろと、催促をするのである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枇杷びわの木剣が、腰の骨に当った時、がつんといった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日頃の用心もそのかいなく鳥き花落ちる頃に及んでかえって流行感冒にかかりつづいて雨の多かったためか新竹伸びて枇杷びわ熟する頃まで湯たんぽに腹あたためぬ日とてはなく食事の前後数うれば日に都合六回水薬粉薬取交とりまぜて服用するわずらわしさ。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その小次郎が、枇杷びわの長い木太刀を持って
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)