あら)” の例文
それにどこか気風のあらッぽい者ですから、お仙ちゃんのようなおとなしい娘には、もう少しどうかいう人の方がとそうも思うんですよ
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
もしそうならばあらことばをかけるのではなかったと、半七は少し気の毒になって元来た方をふり返ると、男の姿はもう見えなかった。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三日ぶりで家に帰った彼は、あらびた気持で夕餉の酒を飲んでいた、酔いはなかなか起こらず、疲れた神経はとげとげしくなる許りだった。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
美しい芝生を踏みあらしたりして、たとえ一時なりともこの有為な頭の安静をかき乱すような事がありはしないかというような気がする。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
こはそもいかに! 賊はあらくれたる大のおのこにはあらで、軆度とりなり優しき女子おんなならんとは、渠は今その正体を見て、くみしやすしと思えば
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高い声では言われないが、明日にも運が傾けば、どんなあらしが吹いて来て、このいのちを、吹き散らしてしまうか知れないのです。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
日あたり風あたりがあらく、水も荒く、軽い土が耳の中鼻の中までむ余の住む武蔵野の百姓女なぞは中々、う美しくはして居られぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
妙源 (手に珠数を持たず、中年にして容姿ことごとくあららかなり。若僧を直視するにある敵意を持ちたるが、妙信に向い)
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
こゝ天上より眺むれば、牧者の衣を着たるあらき狼隨處いたるところ牧場まきばに見ゆ、あゝ神の擁護みまもりよ、何ぞ今もたざるや 五五—五七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それを如何いかんというに、この時洋中ようちゅう風浪ふうろうあらくして、予がほかに伴いたる従者じゅうしゃは皆昏暈こんうん疲憊ひはいして、一人もつことあたわず。
その証拠にゃア十年めえわっちに何と云いなすった、親方忘れやしないだろう、箱というものは木を寄せてこせえるものだから、あらくすりア毀れるのが当然あたりめえ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
長吉のわからずやはれも知る乱暴の上なしなれど、信如の尻おし無くはあれほどに思ひ切りて表町をばあらし得じ、人前をば物識ものしりらしく温順すなほにつくりて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時向うからあらい声の歌がまた聞えて参りました。大烏は見る見る顔色を変えて身体からだはげしくふるわせました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
外海そとうみあらい怒號の外に、なほ町自身の膊動はくどうがある。何かと云ふとそれはかの平地を驅けつて來る汽車である。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
お島は昔気質むかしかたぎ律義りちぎな父親に手をひかれて、或日の晩方、自分に深い憎しみを持っている母親のあらい怒と惨酷ざんこく折檻せっかんからのがれるために、野原をそっち此方こっち彷徨うろついていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それで、高利貸のやうな残刻のはなはだしい、ほとんど人を殺す程の度胸を要する事を毎日扱つて、さうして感情をあらしてゐなければとても堪へられんので、発狂者には適当の商売です。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ここにそのあらき浪おのづからぎて、御船え進みき。ここにその后の歌よみしたまひしく
さすがに再び手あらき事はせねど、火の手は叔父の方へ移りて、夜一夜いぢり通されぬ。
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
どれほど軽部の奴がさきから暴れたのかと思ってあたりを見廻すと一番ひどくあらされているのは私の顔でカルシウムがざらざらしたまま唇から耳へまで這入っているのに気がついた。
機械 (新字新仮名) / 横光利一(著)
このような物静かな生活に接しては、われのあらい息づかいさえはばかられ、一ひらの桜の花びらを、掌に載せているようなこそばゆさで、充分に伸ばした筈の四肢さえいまは萎縮して来て
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
たった今、そこで四人を一人で斬り捨てた侍に対して、こういう口がきける気のあらさは、お稚児やこもの口を借りて、関東の勃興文化がいうのである。新将軍の威勢や江戸の土がいうのである。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛宕山は七高山の一として修験の大修行場で、本尊は雷神らいじんにせよ素盞嗚尊すさのおのみことにせよ破旡神はむじんにせよ、いずれもあらい神で、この頃は既に勝軍地蔵を本宮とし、奥の院は太郎坊、天狗様の拠所よりどころであった。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
柔術を取る、鐵砲を打つ抔といふあらツぽい方の眞似ばかりして居た。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
彼是二十ひろばかり引き去りて、止まりたれば、即ち又手繰れるに、ごつごつと、綸に従きて近づく様明に知れ、近づきては又急に延し、其の勢いのあらき、綸はびんびん鳴りて、切るるか切るるかと
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
あはれ、いまあらびゆく接吻くちつけよ、ししむらきよく。……
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
若者あり、巨人おおひとあり、あらきあり、8300
あらく斜めに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
親方というのはあらっぽい男で、まかり間違えばぶち殺し兼ねないので、西山も真っ蒼になってしまったそうですよ。はははははは。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まえの夜から降りだしたのが明け方には二尺あまりも積り、なおもあらあらしい風とともに乾いた粉雪が霏々ひひと降りしきっていた。
日本婦道記:おもかげ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほんとうに、ここまで苦労して来て、思わぬことから、たくらみがあらわれてしまったら、それまでだ。敵は強い——敵は多い。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
主夫妻あるじふさいが東京に出ると屹度いて来る。甲州こうしゅう街道かいどうを新宿へ行くあいだには、大きな犬、強い犬、あらい犬、意地悪い犬が沢山居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
長吉ちやうきちのわからずやはれも亂暴らんぼううへなしなれど、信如しんによしりおしくはれほどにおもりて表町おもてまちをばあらじ、人前ひとまへをば物識ものしりらしく温順すなほにつくりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いいえ、山さえおあらしなさいませねば、誰方どなたがおいでなさいましても、大事ないそうでございます。薬の草もあります上は、毒な草もないことはございません。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
○「勘次てめえの身分にしちゃア金遣いが滅法にあらえが、桔梗屋で使用つかった金はありゃア何処どこから持って来た金だ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かたじけない。然し、私は天引三割の三月縛みつきしばりと云ふ躍利をどりを貸して、あらかせぎを為てゐるのだから、何も人に恩などを被せて、それを種に銭儲かねまうけを為るやうな、廻りくどい事を為る必要は、まあ無いのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
土足のままに踏みあらさるる板場の扱ひ、嫉妬やくなとはさておいて、うつかりすれば、今の間も、この身躰が焚きものに、つぶされでもせぬ事かと、腹が立つそのたび毎、羨ましい種子にもしました
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
土神はしばらく考へてゐましたがにはかに又声をあららげました。
土神と狐 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あらぶる荒御魂あらみたま大童おほわらはべ
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あらい獣を仕込むのに馴れている彼女は、巧みに二匹の犬を教えて、自分の仕事に出る時にはかならず一匹ずつを連れてゆくことにした。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが、おとよの泣き叫ぶのを聞きつけたらしく、戸口の外で「なんだなんだ」という声がし、二人の男があらあらしく土間へはいって来た。
其の或者あるものは、高波たかなみのやうに飛び、或者はあみを投げるやうに駆け、と行き、さっと走つて、ほしいままに姉の留守の部屋をあらすので、悩みわずらふものはただ小児こどもばかりではない。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
飴屋源兵衞を柔らかにだまして白状させようという了簡、其の頃お武家があらい事をいたすと、町人はかえって驚いて、云うことも前後致したり、言いたいことも言いかね
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、坊主は、大きな鼻の孔から、あらしのような息を吐き出したが、それが微笑なのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
まつりの夜の處爲しうちはいかなる卑怯ぞや、長吉のわからずやは誰れも知る亂暴の上なしなれど、信如の尻おし無くば彼れほどに思ひ切りて表町をばあらし得じ、人前をば物識ものしりらしく温順すなほにつくりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あ、いた! さう強くくから毎々球がころげ出すのだ。風早の球はあらいから癇癪玉かんしやくだまと謂ふのだし、遊佐のは馬鹿にやはらかいから蒟蒻玉こんにやくだま。それで、二人の撞くところは電公かみなり蚊帳かや捫択もんちやくしてゐるやうなものだ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
土神はしばらく考えていましたが俄かに又声をあららげました。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あらぶる荒御魂あらみたま大童おほわらはべ
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
縁伝いにあらい足音が聞えて、十太夫が再びここにあらわれた。それは客来のしらせではなかった。彼は眼をいからせて主人に重ねて訴えた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雪と霜と、あらあらしい風と、荒涼と枯れたながめのなかで、冬を越した。そして春となったが、お紋は笑うことの少ない沈みがちな娘になった。
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あれとは違いますが、やっぱりわたくしの時計で、それは先刻さっき掏摸すりられた品だが。怪しからん、どこでお拾いなすった。」とあららかになじれば、三郎少しも騒がず
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)