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慌
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あわただ
ふりがな文庫
“
慌
(
あわただ
)” の例文
そこへ二人の若者が、棒で一つの
行李
(
こうり
)
を担って、
慌
(
あわただ
)
しく空地へかけ込みながら「火を消して、火を消して」とただならぬ声で叫んだ。
地異印象記
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
時代も
環境
(
かんきょう
)
も、また戦争一本によってうごいていたときだったので、風に吹きまくられるような
慌
(
あわただ
)
しい気持で、大陸へ従軍したり
親馬鹿入堂記
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
私はあの前夜に
慌
(
あわただ
)
しい別れを聴かせられたとき、その時は別離の悲しみよりか、かえって、あの美しい幻に魅せられてしまいましたわ。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
聴水は
可笑
(
おか
)
しさを
堪
(
こら
)
えて、「
慌
(
あわただ
)
し何事ぞや。
面
(
おもて
)
の色も常ならぬに……物にや追はれ給ひたる」ト、
問
(
とい
)
かくれば。黒衣は初めて
太息
(
といき
)
吻
(
つ
)
き
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
主膳はその一類の者と共に馬場の下から、桟敷の上の舞台面を見上げているうちに、何に気がついたか、
面
(
かお
)
を
顰
(
しか
)
めて
慌
(
あわただ
)
しく左右を顧み
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
▼ もっと見る
すると、此の乱心ものは、
慌
(
あわただ
)
しさうに、懐中を
開
(
あ
)
け、
袂
(
たもと
)
を探した。それでも
鞘
(
さや
)
へは納めないで、
大刀
(
だんびら
)
を、ズバツと
畳
(
たたみ
)
に
突刺
(
つっさ
)
したのである。
妖魔の辻占
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがて、男は、日の
暮
(
くれ
)
に帰ると云って、娘一人を
留守居
(
るすい
)
に、
慌
(
あわただ
)
しくどこかへ出て参りました。その
後
(
あと
)
の淋しさは、また一倍でございます。
運
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
押しつまって何となく
慌
(
あわただ
)
しい気持のするある日、正月の
紋附
(
もんつき
)
などを取りに行くと言って、柳吉は
梅田
(
うめだ
)
新道
(
しんみち
)
の家へ出掛けて行った。
夫婦善哉
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
春生はそれを聞くと、
慌
(
あわただ
)
しく、もう一度兄の身体を
撫
(
な
)
で廻して見た。そして、見えぬ眼から溢れる
泪
(
なみだ
)
を、頬に流しながら叫んだ。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
本人にあっては滑稽でも何でもないであろうが、
慌
(
あわただ
)
しく三味線をやめて嚔をしたという事実には、
慥
(
たしか
)
に或滑稽味が伴っている。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
世の中は戦争の
慌
(
あわただ
)
しい空気に包まれて街頭では千人針や献金函が号外売りの鈴の音と相ともに、戦時気分を高調している真最中だというのに
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
風景は絶えず重力の法則に脅かされていた。そのうえ光と影の移り変わりは溪間にいる人に始終
慌
(
あわただ
)
しい感情を与えていた。
蒼穹
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
実際このような
慌
(
あわただ
)
しい乱世に、しかも諸国を
渉
(
わた
)
り歩かねばならぬ連歌師の身であってみれば、今宵の話が明日は遺言とならぬものでもあるまい。
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
食べられたくない赤蛙よりも、これを食べようという先生の方が、より以上に
慌
(
あわただ
)
しく惨澹たる悪戦苦闘をするのであった。
勉強記
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
用の相間に
慌
(
あわただ
)
しく書いたらしい筆の跡を見て、姉や雪子がどんなに忙しい目に
遭
(
あ
)
っているかを直ちに察しることが出来た。
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
と無口な學士にしては、滅多と無い叮嚀な説明をして、ガチヤン、
肉叉
(
フオーク
)
と
刀
(
ナイフ
)
を皿の上に投出し、カナキンの
手巾
(
ハンケチ
)
で
慌
(
あわただ
)
しく口の
周
(
まはり
)
を拭くのであツた。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
柾木は金を払って、その店を飛び出すと、それから、今度は近くの薬屋へ車をつけて、防腐液をしこたま買求め、
慌
(
あわただ
)
しく家路についたのであった。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
丁度十時頃その軽い雨音が止んだ時、会社員らしい四人達れの客は
慌
(
あわただ
)
しそうに帰っていった。そして後には三人の学生とゲーム取りの女とが残った。
球突場の一隅
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
擬
(
まが
)
ひアストラカンの冬帽をかむつて、三日ばかり
剃刀
(
かみそり
)
を知らない
頬
(
ほほ
)
のままの礼助、しかも
何処
(
どこ
)
となく旅先の
慌
(
あわただ
)
しい疲労を浮べてゐる目つきの礼助は
曠日
(新字旧仮名)
/
佐佐木茂索
(著)
通例あまりにつつましくて
慌
(
あわただ
)
しいから、悪の根源にまでは手をつけ得ない。しかるにそこにこそ、オリヴィエの精神が看過し得ない探求があるのだった。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
残した家中のものを連れて来ることを宣言したとき、彼らの
聚落
(
しゅうらく
)
には時ならぬ
慌
(
あわただ
)
しいほどの往来がはじまったのだ。抑えていた郷愁がぱッと跳ね起きた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
慌
(
あわただ
)
しい思出ばかり残っている。然るに今度は将来のお婿さんとして出頭する。それも一日ゆっくりとの註文だ。
脱線息子
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
彼は、「ひえッ」とも違う、「うおッ」とも違う、音標記号ではとても現わせられない声を出して、
慌
(
あわただ
)
しくすッくと起ちあがって、私の顔を暫く凝視していた。
幽霊を見る人を見る
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
彼は自分の犬どもの名を
慌
(
あわただ
)
しく呼んだ。呼びつづけた。其処らには居ないのか、犬どもは彼の声には応じなかつた。妻には何事が起つたのか、少しも解らなかつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
猫
(
ねこ
)
に
追
(
お
)
われた
鼠
(
ねずみ
)
のように、
慌
(
あわただ
)
しく
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
んで
来
(
き
)
たおせんの
声
(
こえ
)
に、
折
(
おり
)
から
夕餉
(
ゆうげ
)
の
支度
(
したく
)
を
急
(
いそ
)
いでいた
母
(
はは
)
のお
岸
(
きし
)
は、
何
(
なに
)
やら
胸
(
むね
)
に
凶事
(
きょうじ
)
を
浮
(
うか
)
べて、
勝手
(
かって
)
の
障子
(
しょうじ
)
をがらりと
明
(
あ
)
けた。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
が、うっかり、速度を
緩
(
ゆる
)
めようものなら、彼の耳に
慌
(
あわただ
)
しいキスの音が聞こえてくるのである。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
信一郎は、その
裡
(
うち
)
の誰かゞ、
屹度
(
きっと
)
瑠璃子に違いないと思いながら、一人から他へと、
慌
(
あわただ
)
しい眼を移した。が、たゞいら/\する
丈
(
だけ
)
で、ハッキリと確める
術
(
すべ
)
は、少しもなかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
そのまはりでは、すべてが
慌
(
あわただ
)
しげに、馬の蹄の音が絶えずしてゐた。そのとき侯爵は右手の大きな手袋を脱いだ。さうして小さな薔薇を取り出して、その
花瓣
(
はなびら
)
をひとひら毮つた。
旗手クリストフ・リルケ抄
(旧字旧仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
『だがこの家の書記は見えませんが?……殺されましたか……』と警部が
慌
(
あわただ
)
しく訊ねた。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
ばばが町駕に
舁
(
かつ
)
がれ、お
稚児
(
ちご
)
の小六と迎えに行った男はわきに付き、
慌
(
あわただ
)
しく戻って来る。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私は
慌
(
あわただ
)
しく身の始末をつけて東京を立ち退いた。
僻遠
(
へきえん
)
の土地で一年を送った。その町の派出所の若い巡査の顔を見て、私はなんだか見覚えがあると思った。そのうちに思い当った。
朴歯の下駄
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
「法則は人によつて活き、かつ死すだ。危いかな、法の
虜
(
とりこ
)
……」などと、他愛なく、応酬する二人の眼が同時に、廊下の外に向けられた。
慌
(
あわただ
)
しく階段を上つて来る女の足音である。
この握りめし
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
木
(
こ
)
の葉の騒ぐのとは思いながら、澄んだ耳には、聴き覚えのある
皺嗄
(
しゃが
)
れた声や、快活な
高声
(
たかごえ
)
や、低い
繊弱
(
かぼそ
)
い声が
紛々
(
ごちゃごちゃ
)
と絡み合って、何やら
切
(
しき
)
りに
慌
(
あわただ
)
しく話しているように思われる。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
足許
(
あしもと
)
から鳥が立つような
慌
(
あわただ
)
しさの中にも、八という末広がりの日を選んで、世間なみの式を挙げることになった。その日家を出るときミネは、彼女の唇にうすく口紅をつけてやった。
妻の座
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
私はただ泪にうるむ眼をとじて思考すること五分間……又となき若き日の思い出は……ああ、頼もしくもあり寂しくもある日は……時の運行! 尚相変らず
慌
(
あわただ
)
しゅう御座いますのね。
東京人の堕落時代
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
明治以来、我々の文壇や文明やは、その
慌
(
あわただ
)
しい力行にかかわらず、一も外国の精神に追いついてはいなかった。逆に
益々
(
ますます
)
、
彼我
(
ひが
)
の行きちがった線路の上で、走れば走るほど遠ざかった。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
今日の社会にしても、一つの動きのある絵として見、音のある詩として聞き、光と色の錯雑し、
流転
(
るてん
)
する世界として感じた時に、この
慌
(
あわただ
)
しい現実にも、自ら夢幻の湧くがごときものです。
時代・児童・作品
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
この騒ぎに顔を挙げようとするのを
惧
(
おそ
)
れて、人々の点在の有無に従って、交互に
慌
(
あわただ
)
しく己れの上体を米つきバッタのようにゼーロンの鬣の蔭に飜しながら尊大な歌を続けて冷汗を搾った。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
幌
(
ほろ
)
の中で聞いている京都の春雨の音は静かであったが、それでも賑やかな通に出ると俥の
轍
(
わだち
)
の音が騒々しく行き
交
(
まじ
)
ってやわらかみのある京都言葉も、
慌
(
あわただ
)
しげに強く響いて来るのであった。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
慌
(
あわただ
)
しく手を押して、山の上から上空へと延べている
紫藤
(
むらさきふじ
)
の一株を引き抜き、咲いたばかりの大きい藤の花の一房々々を打ち振れば、藤の花は地上に落ち、半紫半白の花弁が一面に散り敷いた。
不周山
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
刑事が車掌に小声で
訊
(
き
)
いて居るのを後ろに聞いた。如何にも新米の刑事らしい感じがした。彼は悠々とデパートの方へ足を運んで行った。が其瞬間、
慌
(
あわただ
)
しい
胴間声
(
どうまごえ
)
が起って再び彼を振向かした。
乗合自動車
(新字新仮名)
/
川田功
(著)
ダブリンの町とその湾とは、
蒼白
(
あおじろ
)
い光に
慌
(
あわただ
)
しい雑音を織返していた。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
黄櫨
(
はぜ
)
もみぢこの
山本
(
やまもと
)
にさやかにて
慌
(
あわただ
)
しくも秋は深まむ
つゆじも
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
何か
慌
(
あわただ
)
しい気配が二人の背後に起こったと思うと
地図にない街
(新字新仮名)
/
橋本五郎
(著)
非常な事にでも、無意味な
慌
(
あわただ
)
しさは
嫌
(
きらい
)
だ。
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
慌
(
あわただ
)
しそうに彼は家を出て行った。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
号外の鈴が
慌
(
あわただ
)
しく鳴りひびき
夜雲の下
(新字新仮名)
/
榎南謙一
(著)
サガレンの
慌
(
あわただ
)
しい秋が去って
サガレンの浮浪者
(新字新仮名)
/
広海大治
(著)
白雲として、自分ながらかなり
慌
(
あわただ
)
しい挙動であると思ったが、事態、そうしなければならない場合を、先方は全く静かなもので
大菩薩峠:34 白雲の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
白い姿の
慌
(
あわただ
)
しく
行交
(
ゆきか
)
うのを、見る者の目には極めて無意味であるが、彼等は
各々
(
めいめい
)
に大雨を意識して四壁の窓を閉めようとあせるのである。
三枚続
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
慌
常用漢字
中学
部首:⼼
12画
“慌”を含む語句
恐慌
慌忙
大慌
大恐慌
匆慌
唯慌
愴慌
慌忙惑
慌惚
慌狼狽
慌立
慌者等奴
慌騒
慌騷