怒鳴どな)” の例文
軒下の兵が、軒下を伝って逃げ乍ら、敵に尻を向けて這っている兵へ、怒鳴どなった。兵は、黙って、もっと急いで、手足を動かした。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
仁王立におうだちになってにらみすえながら彼れは怒鳴どなった。子供たちはもうおびえるように泣き出しながらず仁右衛門の所に歩いて来た。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と読み上げた瞬間、ジャアク先生は、憤然としてち上がり、こう怒鳴どなりました——「早く席に着いて! なにぐずぐずしとる!」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
おやじといっしょに油町あぶらまちから通町とおりちょうへ散歩に出ると、向うから大きな声をして女の子はよしかな、女の子はよしかなと怒鳴どなってくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その向うは暗い木立で怒鳴どなりや叫びががやがや聞えて参ります。その黒い木をこの若い木霊は見たことも聞いたこともありませんでした。
若い木霊 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
……て大きな声で怒鳴どなったの。そうしておいて妾の手をシッカリと握ったヤングは、あの窓を指さしながらニヤニヤ笑い出したのよ……。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
黒婆くろばばどの、なさけない事せまいと、名もなるほど黒婆というのか、馬士まごが中へ割ってると、かしを返せ、この人足めと怒鳴どなったです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし身体の自由は失われて、恐ろしい力がヒシヒシと加わり、骨が折れそうになるので、思わず『痛い、助けてれ』と怒鳴どなりました。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
怒鳴どなったり、叫んだり、男の子がやたらに走り廻ったりするようなことは、更に無かった。庭園はそれ自体がすでに完全な楽園であった。
息子が係りの刑事に連れられて、入ってきたのを見るや否や、いきなり大声で「こン畜生! この親不孝の馬鹿野郎!」と怒鳴どなりつけた。
母たち (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「ただね、ちま子さんを殺した奴を用心し給え、姿は見えなくても、足音でも聞いたら、大きな声で、怒鳴どなるんだ。いいかい」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんたみたいな人だますぐらいじッきやわ、と、嘲弄ちょうろうするようになって、しまいにはそれが面白うて何ぞいうとすぐ泣いたり怒鳴どなったりして
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わるいラランもすこしばかりさびしくなつてきた。今度こんどこそはらつてきた。すると突然とつぜん、ヱヴェレストの頂上てうじやうからおほきなこえ怒鳴どなるものがあつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
行く手に浮寝うきねしていた白い鳥の群が羽ばたいて立った。勇み立って列の中で抜手ぬきてを切る生徒があると貝原が大声で怒鳴どなった。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かれ詮方せんかたなくおやすみなさい、とか、左樣さやうなら、とかつてやうとすれば、『勝手かつてにしやがれ。』と怒鳴どなける權幕けんまく
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「何をするんだ。何でこんなやつをかばうんだ。どけ、どけ」と、父は叔母に怒鳴どなった。けれど叔母は岩のようにへたばりついて動かなかった。
斯く云う彼も、東京住居中は、昼飯時ひるめしどきに掃除に来たと云っては叱り、門前に肥桶こえおけを並べたと云っては怒鳴どなったりしたものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
畳表たたみおもての麻裏を買ったもので、あとで、同組の生徒が告げ口したと云うことを聞き、その生徒の前で怒鳴どなったことがあった。
私の先生 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
とッつきがなまけがちの鍛冶屋かじやで、いつもその山の神に怒鳴どなられてる。その次ぎが女髪結いで、男が何人代ったか分らない。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
工場がえりの組合員たちは、弁当箱をひざにのせたまま居眠りしているのに、学生たちは興奮して怒鳴どなったりしている。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
だが、彼女は瞑想めいさうする多くの時間を許されはしなかつた。級長の、大きいがさつなが、強いカムバァーランドなまりで怒鳴どなりながらやつて來た——
何か素晴らしい事件が爆發するか、でなければ、大きな聲で精一杯怒鳴どなりでもしなければ、三十幾人が皆な氣がれてしまひさうな心持だつたのです。
と保雄は怒鳴どなつた。二番目の抽出ひきだしからは二人の男の子の着類きるゐが出て来た。皆洗ひ晒しの木綿物の単衣ひとへばかりであつた。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
お父さんはいつもは、いい人だけれど、どうかして浮かぬ顔でもしてゐられる時は、大層怒りつぽくなるので、その日も気短かにかういつて怒鳴どなつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
行雄が靴ぬぎで怒鳴どなった。と障子のあく音がし、同時にいない筈の作衛がおはるといっしょに出て来た。瞬間、私は何とも云えぬ不愉快な気持になった。
入梅 (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
それに荒木町よりの崖のところには、誰かの家で幽閉した気狂の部屋があって、終日鳥のような声を出して怒鳴どなるのが、崖や木立に気味悪くこだました。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
「飲むよりか早く芸当をしろ。」と客が怒鳴どなると、「飲まなくっちゃ気分が出ないんだよ。」とまた叱りつけた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
王戎簡要おうじゅうかんよう天地玄黄てんちげんこうなんぞ出鱈目でたらめ怒鳴どなり立てゝ、誠に上首尾、ぜにだの米だの随分相応にもらって来て、餅を買い鴨を買い雑煮ぞうにこしらえてタラフクくった事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
荷馬車にばしや土方どかた怒鳴どなられる——そのあひだに帽子は風の方向に走つてゆく。かう言ふ人は割合に帽子を手に入れる。
拊掌談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
怒鳴どなつてぢいさんがあつた。の権幕が恐ろしいので、人々はそばにも寄りつかずにさつさと避けてとほつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「いらざるお世話で、莫迦にしているよ」いよいよ慣れ慣れしい相手の様子に、彼女は一層腹を立て、心の中でこう怒鳴どなったが、でもやっぱり黙っていた。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「学、あに、益あらんや。」もともとこれを言うのが目的なのだから、子路は勢込んで怒鳴どなるように答える。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
と、女は情夫との媾曳あいびきの場所を見られた腹立ちまぎれに怒鳴どなりだした、するとやっこさんむらむらとして来た。
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、ヴァイォリン弾きがどやしつけるように叫ぶと、さきの男もぶっきら棒に叩きつけるように怒鳴どなった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
右へ、右へと怒鳴どなっていますな。おやおや動き出した、木の椀が転がり落ちた、それをまた拾っている。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しばらくのあいだ、龍巻と談合だんごうしていた梅雪は、伊那丸の面体めんていを、しかと見さだめたうえで、約束の褒美ほうびをわたそうといった。龍巻も心得て、うしろへ怒鳴どなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時々気に向かぬことがあると癇癪かんしゃくを立て、怒鳴どなったり、器物を投げ付けて壊したりしたが、すぐに、おとなしくなって言うなりになるような意気地のない男であった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それから自分がほんを読んだり、他の童子こどもほんを読んだり、唱歌をしたり、嬉しがって笑ったり、怒って怒鳴どなったり、キャアキャアガンガンブンブングズグズシクシク
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
第一条理すじみちがたっていないよ。まるで、雲をつかむように漠然ばくぜんとしている。そうかと思うと、突然、大声をはり上げて、「貴様はあんなあなだ!」って怒鳴どなりつけるんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
とほむかしに、燒肉ビフステーキすこぎてるからと怒鳴どなつて、肉叉フオークもつけずにいぬはせてしまつた一件いつけんや、「サンドウイツチ」は職工しよくにん辨當べんたう御坐ござるなどゝ贅澤ぜいたくつて
交通巡査は突然、貨物自動車の運転手に向かって、いかにも腹だたしげに「こらっ」と怒鳴どなった。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
そう怒鳴どなった。ブツブツ口小言をいっていた母が、かえって気の毒がって小銭を与えたりした。
叔父さんは恐い顔をして怒鳴どなりつけた。叔母さんも高い声で云い争った。そして喧嘩になった。がすぐその後で、二人共笑い出してしまった。何のことやら分らなかった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
大抵、三人連れで町家のかどに立ち大きな声で怒鳴どなり立てる。その言葉がなかなか面白いです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
向島の小梅にいた頃、寒声かんごえを練るため、夜半物干台に出ておさらいをしていたところ裏隣りの家の窓が開いていきなり「気違い。」と怒鳴どなられた。勿論助ちゃんは憤然ふんぜんとした。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
むしろ、一言ぐわんと怒鳴どなりつけてくれたらどんなに気が楽になるであろうと思うのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
百姓に見付けられて怒鳴どなられたことや、いろ/\と昔の記憶を小池も思ひ出して來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ホーイ、ホーイと怒鳴どなる声がする、羚羊は石の転がり方を冷たく見て、一、二尺ずつ退すさりながら、大石の側へ、寄って来る、そこには宗義が先刻から、銃を取り直して待っている
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ぼくは耳をふさぎ、声を大にして、「うるさいッ」とでも、怒鳴どなりつけてやりたかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
又「それはわきゃアねえ、僕が鍋焼饂飩を売ってる場所は、毎晩高橋たかばしぎわへ荷をおろして、鍋焼饂飩と怒鳴どなって居るから、君が饂飩を喰う客のつもりで、そっと話をすれば知れる気遣きづかいはあるめえ」