かたじけな)” の例文
風情ふぜいのなま/\に作り候物にまでお眼お通し下され候こと、かたじけなきよりは先づ恥しさに顔あかくなり候。勿体もつたいなきことに存じ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いや、それは段々お世話にもなつた、かたじけないと思うた事も幾度いくたびか知れん、その媛友レディフレンドに何年ぶりかで逢うたのぢやから、僕も実に可懐なつかしう思ひました
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かたじけない——。話が、前後したが、それはもう十三年も前だ、若党の佐太郎めにたばかられて、拙者の妹八重は家出した。それを
下頭橋由来 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大原は今の一言が何より有難ありがたし「僕の志を受けて下さるとはかたじけない。僕は半襟を差上げるのが目的でありません、僕の志を知って戴きたいのです」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
わたくし今更いまさらながらにあまる責任せきにんおもさをかんずると同時どうじに、かぎりなき神恩しんおんかたじけなさをしみじみとあじわったことでございました。
勿論翁丸おきなまるのやうな悪戯をして君の勅勘ちよくかんを蒙むつた者もあるが、我々は先づ君の御寵愛をかたじけなふした方だ。歴史で一番評判なだい愛犬家いぬずきは北条高時どのだ子。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
静かにこもつてゐたい赤彦君の病牀びやうしやうを邪魔したのさへ心苦しい。しかるに赤彦君は苦しいうちにかういふ心尽しをされるのであつた。僕等はかたじけなく馳走になつた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
こうした御事は世を平和にお治めなされたいというかたじけない大御心から出るのであって有り難いものなのである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
「いやかたじけない/\、………愚老はたゞもう忝うて/\、………こんな嬉しいことは八十年来始めてゞ、………」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おおかたじけない、よくそれまで、深くも探ってくれたよの! お礼は海山後で云う! 今はちょっとの時刻も大事。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そも/\われは寄辺よるべない浮浪学生ふらうがくしやう御主おんあるじ御名みなによりて、もり大路おほぢに、日々にちにちかてある難渋なんじふ学徒がくとである。おのれいまかたじけなくもたふと光景けしき幼児をさなご言葉ことばいた。
如水は敬々しく辞退して、かたじけな御諚ごじょうですが、すでに年老ひ又生来の多病でこの先の御役に立たない私です。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「そのお言葉にはお礼を申しつくせないくらい、かたじけない思いがいたします。ご老媼ろうおうさま、いまから後はえにしなき、わたくしどもではないことを承知あるように。」
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
伝わっているようにもうけたまわるのはかたじけないことで、少なくとも是は一国の古事を学ばんとする者に、或る方法を設けてあずかり知らしめておくべきとうとい事実であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
御好意はかたじけないが、今日まで何事も自力一方でやって来た自分、まあ、自分は自分の力をたよりにするにしくはないと、別に乗る気もなしそのままになっていました。
此武藤は兼而江戸に遊びし頃、実に心路こころ安き人なれバ、誠によろこびくれ候よし。旧友のよしミハ又かたじけなきものにて候。其私の存念ハ別紙に指上さしあげ候。御覧可遣候。
この飜訳に際しても、「国際貿易政策思想史研究」の場合と同様に、高垣寅次郎先生の御指導と御尽力をかたじけなくした。けれども出来上がったものは、かくも拙劣である。
それを聞いた馮大監は、大いに面目を施してかたじけないと、大よろこびで辺境の首都さして帰っていった。
軍用鮫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
朕薄徳を以てかたじけな重任ぢゆうにんけたり。未だ政化をひろめず寤寐ごみにも多くづ。いにしへの明主は皆先業をくしてくにやすらかに人楽しみわざわひ除かれさきはひ至れり。何の政化を修め能く此の道をいたさむ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
隣りに坐りし三十くらいの叔母様の御給仕かたじけなしと一碗を傾くればはやいやになりぬ。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「昨日は新しいお衣をかたじけな頂戴ちやうだいしました。このたびもう一つ御無心を申したい。針一本と、白い木綿糸をたくさんに、黄、青、赤の糸を少しづつお届け下さい。早々とお届け下さい。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
何事のおわしますかは知らねども、かたじけなさに涙こぼるる、自然ひとりでつむりが下りまする。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
過日は平三郎へ御托しの御細書下されかたじけなく拝見仕候。まずもって文履益〻御万福に御座成され欣然に存奉り候。したがつて拙宅無異御省慮下さる可く候。然れば老兄の月旦げったん上方かみがた筋宜しき旨□□□。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「——おれは学習院長だ、かたじけなくも皇太子の御教育を仰せつかっているぞ」。
風蕭々 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その時に得た懸賞金の十円位、有難くかたじけない金はなかった。自分は嬉しさの余り、思わず涙ぐんだほどだった。その時まで、自分は運命と云うものを、全体として悪意のあるものだと感じて居た。
天の配剤 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
武士の名殘も今宵こよひを限り、餘所よそながらの告別とは知り給はで、亡からん後まで頼み置かれし小松殿。御仰おんおほせかたじけなさと、是非もなき身の不忠を想ひやれば、御言葉の節々ふし/″\は骨をきざむより猶つらかりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
此処ここデ二度マデウチヲ出タ故、ソレハかたじけなイガ聞カレヌト云ッタラ、ソンナラ、今暑イ盛リダカラ七月末マデ居ロトイウ故、世話ニモナッタカラ、振リ切ラレモ出来ヌカラ、向ウノ云ウ通リニシタラ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「拝啓唯今御著『閑話休題』拝受大いにかたじけなく、今度の読書の材料豊富感謝奉り候、小説に御精根傾けあらるる事尊敬慶賀無上に御座候、小生晩春よりかけて元気無之これなく候、今度元気回復いたしたし、万々頓首、」
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
「有難う。悉皆すっかり馬鹿扱いにされたんだけれど、千万かたじけない」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「おお、許してくれるか。かたじけない。忝いぞよ。」
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ドメニカはかたじけなしとて涙を流しつ。
混食のしろとするてふかたじけなさよ。
生活のうるほひ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
滿ち滿つかたじけな
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
酒は余り飲むな? はあ、今日のやうに酔うた事はまれです。かたじけない、折角の御忠告ぢやから今後はよろしい、気を着くるです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
右、長崎高等商業学校武藤教授の教示をかたじけなうした。なほ大方博学君子の教示をこひねがつて僕の文を補はうと思ふ。
接吻 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「安国寺は、はや落成しました。いまはそこの住持、いちど折を見て、御遊歴下さればかたじけないが……あなたもすでに、長浜の御城主、お身軽には参りますまいな」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大納言は時平に格別な考があるのだろうなどゝは疑ってもみず、たゞもう有難さとかたじけなさで一杯であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
つうえいぢやないか。とかたじけなき忠告。富士見町の妓風二十年前既にかくの如く開けたものなり。そも富士見町の妓家待合いつの頃より開け始めしにや。維新以前九段の坂上は馬場なりしといふ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『あなたも随分ずいぶん苦労くろうをなさいました……。』そうって、わたくしってなみだながされたときは、わたくしかたじけないやら、難有ありがたいやらでむねいっぱいになり、われをわすれてひめ御膝おひざすがりついてしまいました。
いや、どういたして、かたじけない。私は尊いお説教を聴問したような心持じゃ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
◯天皇陛下御宸念しんねんかたじけなくも金一千万円也を戦災者へ下賜せらる。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さうかな。それはかたじけない。」
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「いや……かたじけなうござる。」
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
満ち満つかたじけな
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かたじけなく、かけまくも、一天万乗の大君を、信長公の御盛儀のため、間近う拝み奉る事、ありがたき御代みよかなと、貴賤老幼のやから、ただただ合掌、感じうやまひ申し候事
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それなら訳はないと云って、御所へ参って申し上げると、成るほどそうか、そんなことなら容易たやすいことだと仰っしゃって、かたじけなくも御所様が御自身で御文おんふみをお書きになり
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ご心配はかたじけないが大事はござらぬ。御家内はどこにおられるか。御家内へも礼を申して……」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしや後になって露顕しても、悟りの道の妨げになる疑惑を晴らす事が出来たら、必ず上人も喜んで下さるに極まって居る。そなたが案じてくれるのはかたじけないが、どうぞ止めずに置いてくれ。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いや、かたじけない。……仰せはお道理、この三郎兵衛とても、幾夜、考えぬことではござらぬ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右の耳にいたし候へと被仰候得者おほせられさふらへばかたじけなくも松雪院様雪の如き御手を以て愚老が右の耳朶みゝたぼをお持ちなされ、暫く首のていをお改め被遊あそばされ、鼻声にて低くお笑ひ被成なされ候、瑞雲院様傍より御覧なされ