おれ)” の例文
「あのつらに、げんこつをくらわせることはなんでもない。だが、おれが、うでちからをいれてったら、あのかおけてしまいはせぬか?」
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
「これは名を嗅げと言って、どんな遠い所の事でもぎ出して来る利口な犬だ。では、一生おれの代りに、大事に飼ってやってくれ。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに良人うちがあの通りの男で、自分一人さえ好けりゃ女房なんかどうなったって、おれの知った事じゃないって顔をしているんだから。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
圓次どんが見兼て引いてくれたら青が歩くから、おれ馬を引いてやんべいから、われ荷担いでけえれと云って、圓次どんは先へけえりやしたよ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見たが可い、こう、おれが腕がちょいと触ると、学校や、道学者が、新粉しんこ細工でこしらえた、貞女も賢母も良妻も、ばたばたと将棊倒しだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三兩出て博奕友達ばくちともだちよしみだと言てひらに頼む故おれ詮方無せんかたなやいて仕舞てほねは利根川へ流したに相違は無いぜこれサ段右衞門今此彌十に顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これであの娘、おれの顔を見覚えたナ……と思う。これから電車で邂逅かいこうしても、あの人が私の留針を拾ってくれた人だと思うに相違ない。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「今晩の事はおれを始、一同が見ていた。いかにも勘弁出来ぬと云えばそれまでだ。しかし先へ刀を抜いた所存を、一応聞いて置きたい」
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いや。そんな事はせ。おれはこれでも並の人間とは違う積りだ。並の人間にするような事はしたくない。己には何もかも分かっている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
あるいは藝術が凡人の職業であっても一向差支えないかも知れないが、おれはどうしても藝術の位置を、そんなにやすっぽく見たくなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
めえがここへやって来たなあこのジョンじいもまったくもって嬉しいが驚いたよ。お前がはしっこい奴だってこたぁおれが初めてお前を
優れた小説を読むとすべての人が自分をモデルにしたのではないかと思う。おれがモデルだと自称する人が幾人も出て来たりする。
スパーク (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「お前たちが選考してよろしい。おれには今、これという心当りがない」と、一任するという意味でした。(註『九条武子夫人』、一四九頁)
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あいつはおれ財産ざいさん惹着ひきつけられてゐるんだ。」大久保おほくぼはいつかさうつてゐたけれど、竹村たけむらには其意味そのいみ全然ぜんぜん不可解ふかかいであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
私は得意になってあたりを見まわして、こう独言ひとりごとを言った。——「さあ、これで少なくとも今度だけはおれの骨折りも無駄むだじゃなかったぞ」
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
おれが死んだ後では己の金を藻西太郎がの様に仕ようと勝手だけれど角も己の稼ぎ溜た金だから生て居る間は己の勝手にせねば成らぬ
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
街が全焼してしまったら、明日からおれはどうなるのだろう、そう思いながらも、正三は目の前の避難民の行方ゆくえに興味を感じるのであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
おれは首をつて受けなかつた。牛飼君も大いに心配してナ、それから警保局長ならとぼ相談が纏まつた処が、内閣は俄然瓦解しおつた……
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
小金吾金をほうり出すを見「持つていかなくて、おれが金だ」と云ひかけ「あゝ痛え/\、ひどい事をしやあがる」と尻をまくり撫づ。
「なんだ。おれは這入らないぞ。己のもんの石段に位は己だつてゐても好い筈だ。」主人は頗る威厳を保つて言つた積りである。
薔薇 (新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
だが、無ろんたがひけうひそかに「なアにおれの方が……」とおもつてゐる事は、それが將棋せうきをたしなむ者のくせで御多分にれざる所。
古実『中村さんは明日か明後日あさつて帰ると云つてゐました。どうもおれが行つて赤彦を興奮させて済まなかつたといつてゐました』
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「動くな小僧、今度はおれの勝だ‼」と云いながら、ひょっこり一人の少年が部屋の中へあらわれた。龍介はひと眼見るなり。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
コロコロ転がしていたじゃないか。空気のない処じゃ石でも羽根でも重さは同じだ。飛行船だっておれ一人でも持って行ける。
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それではどうもお位牌に対しても済まぬから、おれ始終しょっちゅう其が苦になっての……と眼をしばだたかれた時には、私も妙な心持がした。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お粂と金兵衛の姿を見た! いったいどうしたというのだろう? ……とうとう源兵衛は討たれてしまった……なぜおれもあの時紋也を相手に
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その報告に父が伺ったら、西氏はひどく喜ばれて、「おれも近頃は医者にかかるが、心安くしても相当の謝礼はする。経済上にもよい。専門は何か」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
今少してば、おれの中の人間の心は、獸としての習慣の中にすつかりうもれて消えて了ふだらう。恰度、古い宮殿の礎が次第に土砂に埋沒するやうに。
山月記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
『心配しなさんな。明日あしたからおれが書き出す。此処こゝへ来てから大分に気分もいのだから。月末げつまつにはうにか成るさ。』
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「みんな言ひ合せたやうに真つ黒な頭をしてやがる。屹度何だらう、おれいぢめようと思つてかづらでもかぶつてるのだらう。」
実は悠々たる行路の人なのです。しかしヂックは「おれは牧師ではない」というのがいやなのです。ヂックは非常な仁人とか義士とかに見えるでしょう。
おれは、たうとう死んでしまつた、なんといふ情ないことになつただらう。道理で今までの世の中とはまるつきり違つてゐる、どうしたらいいだらう』
子供に化けた狐 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
それにしては話声もせずかがりはぜる音も聞えぬのは何故であろう? いや、矢張やッぱりおれが弱っているから何も聞えぬので、其実味方は此処に居るに相違ない。
一英人ビル族二人藪の隅の虎王族を詈るを立ち聞くと「此奴こやつおれが豆とあつものと鶏を遣ったに己の水牛を殺しやがった」
「堪忍しなければ、今まで黙っていやしない。お千代、みんなおれが……つまり己のためなんだから仕方がない。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……おれは貴様をのろう。貴様の歓心を買うために己がどんな苦労をしたか。とうとう己は泥坊とまでなり下った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「その日のうちに奉公口がまって、その上にこんな御馳走が食べられるとは、こんなうまい話はない。おれが進んで来た真中の道は一番さいわいな道だったな。」
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おれは貴様達に負ける男ではないから、閉口して、おれが今この折詰のお馳走を召上めしあがるところを、拝見しろ」
狸問答 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
そんなら庭から往来へ出る処の戸を閉めてしまって、お前はもう寝るがい。おれには構わないでも好いから。
女はおれより目下なもの、弱いものと云う感じを持って居る子供等は、どんなににくらしい気持になるだろう。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おれだ!」振り向いた長田はそれが平一郎であるのに少したじろいだらしかった。腕力の強いものにあり勝ちな、権威の前に臆病な心を長田も持っていたのだ。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
ちょっと伺上候。毎日来客無意味に打過候。考えるとおれはこんな事をして死ぬはずではないと思い出し候。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
貴郎あなた、今の奥様のです、だから二た言目には此の山木の財産しんだいおれの物だつて威張るので、あんな高慢な山木様も、家内うちでは頭が上がらないさうです、——先生
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
シナのラマはなかなか豪い方だと言って大いに私を信用するようになりましたからある時は私は「どうだおれは名跡へ参詣したいが案内して行ってくれないか。」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「それサ、おれ先刻さっきから其奴を言おうと思ってたんだ、何しろ難有ありがてエ難有てエ、ア、助ったナア」
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
おやじおれもおめえ此頃こないだ馬を買った覚がある。どうだい、この馬は何程どのくれえ評価ねぶみをする——え、背骨の具合は浅間号に彷彿そっくりだ。今日この原へ集った中で、このくれえ良い馬は少なかろう
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よね 日本に戻ることん、そぎやんまでうれしうなかわけは、おれにやわかつとるばツてん。さうかと云うて、こぎやん話んなつとるもんば、引き留むるわけんも行かず……。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
おれはおまえを何処かで見たようなふしぎな気がしてならない。」男はもの静かに言った。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おれはな、此処から戻らにやならんことになつたが、貴様一人でワルソウへ行くか?」
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
バルタザル・アルドラミンは生きてゐた間、おれが大ぶくはしく知つてゐたから、己が今あの男に成り代つて身上話をして、諸君に聞かせることが出来る。もうあれが口は開く時は無い。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)