工夫こうふ)” の例文
彼はいきなり、電燈工夫こうふの様に、その幹へ這い上った。全身汗びっしょりになって、やっと、窓と同じ高さの枝に達することが出来た。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
伊佐戸いさどの町の、電気工夫こうふわらすぁ、山男に手足ぃしばらえてたふうだ。」といつかだれかの話した語が、はっきり耳に聞えて来ます。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
現にバッグの話によれば、ある若い道路工夫こうふなどはやはり偶然この国へ来たのちめすの河童を妻にめとり、死ぬまで住んでいたということです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
工夫こうふの一人が、博士はくしの上になっている透明人間のせなかを、シャベルでなぐりつけた。手ごたえがあった。また、なぐった。
みちのかたわらに、小学生しょうがくせいのかぶる帽子ぼうしが、てられてちていました。そこへ、帽子ぼうしたない工夫こうふとおりかかって、その帽子ぼうしつけました。
頭をはなれた帽子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
鉄道工廠こうしようの住宅地域! 二階建ての長屋の窓から、工夫こうふのおかみさんが怒鳴つてゐる。亭主ていしゆは駅の構内で働らいてゐて、真黒の石炭がらを積みあげてゐる。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
岩と岩との間は飛んで渡るより他はない、二人は蛇のような山蔦やまづたの太いつるすがって、さながら架空線を修繕しゅぜんする工夫こうふのように、宙にぶらさがりながら通り越した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こんな時こそ三十六計の奥の手を出して一散に駆け出し、危うく吾妻川の河底かていへ生埋めになる急場を辛くも通り過ぎ、四人相顧みて工夫こうふの猛悪なるに驚ろく。
工夫こうふが夜、道具を入れて保管しておく縦六フィート横三フィートばかりの大きな箱をよく見かけた。
かつ隧道トンネル穿うがちしとき工夫こうふ鶴觜つるはし爆裂彈ばくれつだん殘虐ざんぎやくかゝつた、よわ棲主ぬしたちのまぼろしならずや。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのはずれの一軒に電力会社工夫こうふ詰所つめしょと書いた札が出ていた。森君はその中にはいって行った。中には恐い顔をした工夫が二三人いたが、森君は平気だった。森君は全く勇敢だ。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
深夜一時、かすかに工夫こうふの夜業の音が聞える。雨中、無言の労働である。シャベルと砂利の音だけが、規則正しく聞えて来るのだ。かけ声ひとつ聞えない。あすは、姉さんの結婚式だ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしたちはどの坑道こうどうから工夫こうふたちが出て来るか教えてもらった。
イギリスの工夫こうふが歌ふうたは物哀れに此の神秘の空に消えて行く。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かぜがないせいか、たかがっているたこがありません。そして、工夫こうふたちも、今日きょう仕事しごとやすみなのか、地平機じならしきされたままになっています。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕は半裸体の工夫こうふ一人ひとり、汗に体を輝かせながら、シヤベルを動かしてゐるのを見、本所全体もこの工夫のやうに烈しい生活をしてゐることを感じた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さけびながら博士は、町の大通りを、鉄道馬車てつどうばしゃえきのほうへ走った。駅の前に広場がある。その広場には砂利の山があり、シャベルを持った工夫こうふがはたらいていた。
「この屋根じゃ、どうも逃げられ相もないな。それに、すぐ下の線路に、多勢工夫こうふがいるんだし」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
外では、工夫こうふの夜業がはじまった。考えてみれば、夜の十時から朝の六時頃まで、毎日のようにやっている。約八時間の激しい労働である。エッサエッサと掛け声をかけてやっている。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大原という処は鬼怒きぬ水電工事の中心である。ために入込はいりこんでいる工夫こうふの数は三千人程あるという話だ。山間の僻地へきちの割には景気がいいらしい。商賈しょうこもドシドシ建つようだし、人間の往来も多い。
人は漠然と、もしかれらがこの株式組織と工夫こうふの鋤との活動を長くつづけてさえいけば、いつかは誰も彼も、またたくまに、無料で、どこかに乗って往けるようになるだろう、などと考えている。
そこにはいくにん土方どかた工夫こうふはいっていて、むかしからの大木たいぼくをきりたおし、みごとないしをダイナマイトでくだいて、そのあとから鉄道てつどういておりました。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こちら側のシグナルの柱の下には鉄道工夫こうふが二三人、小さい焚火たきびかこんでいた。黄いろいほのおをあげた焚火は光も煙も放たなかった。それだけにいかにも寒そうだった。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
▲薄気味悪き工夫こうふ殿
子供こどもは、さっそく、そのながぐつをひろってはいたのであります。それは、多分たぶん工夫こうふかだれかがはいて、もうふるくなってやぶれたのでてたものとおもわれます。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
工夫こうふは、野原のはらなかっている、電信柱でんしんばしらうえ仕事しごとをしていました。故障こしょうのある箇所かしょ修繕しゅうぜんしたのです。
頭をはなれた帽子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとえ、気味きみわるい、つめたいかぜが、いつかかれたいしても、すべてのものの終滅しゅうめつおもさせるように、かおをなでていったけれど、工夫こうふには、づかないことでした。
やまを一つすと、すでにさくらはな満開まんかいでした。あるちいさなえきにさしかかるまえさくらのある土手どてで四、五にん工夫こうふが、ならんでつるはしをげて線路せんろなおしていました。
汽車は走る (新字新仮名) / 小川未明(著)
その三郎さぶろうも、いぬも、工夫こうふも、そして、電信柱でんしんばしらも、この帽子ぼうし行方ゆくえについてることができなかった。ただひとり、つきだけは、世界せかいじゅうをたびしますので、それをりました。
頭をはなれた帽子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
としとった工夫こうふが、うつむきながら、線路せんろうてあるいていました。わか時分じぶんから、今日こんにちにいたるまではたらきつづけたのです。元気げんきで、よくふとっていたからだは、だんだんやせてきました。
ひじょうにながくもなかったから、かれは、このトンネルを、あちらにけようとしていたのであります。やみなかあるいてきた工夫こうふは、一つの電燈でんとうしたにくると、あゆみをめたのでした。
西山にしやまは、一どう野中のなか河普請場かわぶしんば案内あんないしました。工事こうじはなかなかの大仕掛おおじかけでした。河水かすいをふさいで、工夫こうふたちは、河底かわぞこをさらっていました。ほそいレールが、きしって、ながく、ながくつづいています。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その行方ゆくえひかったくさなかぼっしていました。工事場こうじば付近ふきんには、いし破片はへんや、小砂利こじゃりや、材木ざいもくなどがんでありました。また、ほかの工夫こうふたちは、おも鉄槌てっついで、材木ざいもくかわなかんでいます。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)