ちい)” の例文
人々の伺候する広い部分には、片隅にちいさい炉が仕切ってあって、その周囲に座を占めながら敷居越しに御前様と四方山の話をする。
御殿の生活 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
嬢様じょうさま、おまえさんはおちいさい時分でありましたから、顔も忘れてしまいましたが、今年で丁度十四年あとわっちが前橋にくすぶっていた時
つぼみとおもひしこずゑはな春雨しゆんうだしぬけにこれはこれはとおどろかるヽものなり、時機ときといふものヽ可笑をかしさにはおそのちいさきむねなにかんぜしか
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
遠く微かに船の形らしいものが浮かんで、檣頭燈とサイドの赤ランプと、それに甲板の灯が二つ三つ、水平線上の星に紛れて、ちいさくぼんやりと瞬いて見える。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
といつた風情ふぜい面倒臭めんだうくささうに衣服きものたから、わしなんにはずにちいさくなつてだまつてひかへた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「これにて可し」とて、其の内最も大なるを一本買ひ取りしが、魚籃びくちいさくして、もとより入るべきやうも無かりければ、えら通して露はに之をげ、ただちに帰り途に就けり。
釣好隠居の懺悔 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
私はまえにも云う通り中津の士族で、ついぞ自分は知りはせぬがちいさい時から叔父おじの家の養子になって居るから、その事を云うと、先生がれなら尚更なおさ乃公おれの家の養子になれ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
所々にちいさいを作って話をしているかと思えば、空虚な坐布団も間々あいだあいだに出来ている。芸者達は暫く酌をしていたが、何かささやき合って一度に立ってこん度は三味線を持って出た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は宋の賈秋壑こしゅうがくの侍女でございます、もと臨安の良家に生れた者でございますが、ちいさい時から囲碁が上手で、十五の春、棊童きどうということで、秋壑の邸に召し出されて、秋壑が朝廷からさがって
緑衣人伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いつまでかだかれていると、ジット顔を見つめていながら色々おっしゃったその言葉の柔和さ! それからトント赤子でもあやすように、お口の内でおぼろにおっしゃることのなつかしさ! 僕はちいさい内から
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
いろいろなことを尋ねたり語ッたりしていたが,その声の中には最愛いとおし可愛かあいという意味の声が絶えず響いていたように思われた,そして祖母は娘がちいさかッた時のように今もなお抱いたり、でたり
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
死んだ父様ばかりでねえ、叔父様もわしちいさい時から多助々々と云って可愛がっておくんなんした御恩は死んでも忘れやせんでハア
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕はまだちいさかったけれど、あの時分の事はよく覚えていますよ。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
ゆきかよふひとかほちいさく/\ちがひとかほさへもはるかとほくにるやうおもはれて、つちのみ一丈もうへにあがりごとく、がや/\といふこゑきこゆれどそこものおとしたるごとひゞきにきゝなされて
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ほんとうに感心ですねエ、おちいさいのに」
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
親父はわたくしちいさい時分行方知れずに成りましてから、いまだに音沙汰がございません、死んだと存じまして出た日を命日として居りますが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はらわたえざらんぎりなきこゝろのみだれ忍艸しのぶぐさ小紋こもんのなへたるきぬきてうすくれなゐのしごきおび前に結びたる姿(すが)たいま幾日いくひらるべきものぞ年頃としごろ日頃ひごろ片時かたときはなるゝひまなくむつひしうちになどそここゝろれざりけんちいさきむね今日けふまでの物思ものおもひはそも幾何いくばく昨日きのふ夕暮ゆふぐれふくなみだながらかたるを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長「婆さん、お願いだからおめえも己のことを此家こっちの人達へねえしょにしていてくんなせえ……これは己のちいさい時守をしてくんなすったお礼だ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親父おやじの名はわたくしちいさい時分懐に抱いて寝ていながら、迷子にならないようにと口で教えたことをかすかに覚えて居ります、本当か嘘かしりませんが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
孝「ちいさい時分に別れましたから、事に寄ったら往来でれ違った事もございましょうが、逢った事はございません」
実にお見外みそれ申します……えゝ貴方のおちいさい時分に私はお屋敷へ上ったことがございます、あの時はそれ両方のお手に大きな金平糖と小さい金平糖
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ちいせえ時分に両親が死んだゞね、それから仕様がなくって親戚みより頼りもえもんでがすが、懇意な者が引張ひっぱってくれべえと、引張られて美作国みまさかのくにめえりまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勇「丈助さん、イヤ何うも私は何んだか手の内の玉を取られたと云うのは此の事かと思うよ、おちいさい時分からお守をしただけに別れが辛うございました」
いたってえかくなっていやらしく成ったもんだから、間ア悪がって……早くっされよ、ちいさえうちは大概ていげえわしおぶったんだ、情夫おとこが居るもんだから見えして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清「うこんなに立派に成って来ましても、矢張ちいさい心持で居りますが、女房を持つようになって誠に結構だねえ、先方せんぽうは何う云うもので、女房の身分は」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
婆「貴方は本当に何時いつまでもお嬢様をおちいさいように思召おぼしめしていらっしゃいますよ、大丈夫でございますよ」
えゝ御尤ごもっともでございやす、あれだけの御身代が東京へ来て、裏家住うらやずまいをなさろうとは夢にもわっちは存じやせんでした、お嬢様もちいさかったから私も気が付かなかったが
繼「嬉しい事ね、あの他処よその子とちがって私はちいさい時からお父様とばかり一緒に寝ましたわ、おっかさんと一緒に寝られるなら何時いつまでもお父様は帰らないでもいの」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
由「ナアニちいさい子が仇を討つてえと、何だか傍に居る老爺じいさんが能く討つと云ったてえましたぜ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私が勾引かどわかされて殺されようとする処を、私のちいさいうちに許嫁に成って居る、稻垣小三郎様のお父さまの稻垣小左衞門さまというお方が、御浪人なすっていらしって
ちいさい時分にお馴染の方が芸妓に出て、お座敷でお客様に世辞を云うようになるのだから、此方こっちはベコと禿げるのは当前あたりまえで、左様そうでげすか……旦那ちょうどいのでげす
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
柳「長さん、お前ちいさい時貧乏だッたとお云いだが、おとっさんやおっかさんは何商売だったね」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると九月十日に、駒込白山前に小金屋源兵衞こがねやげんべえという飴屋があります、若様のおちいさい時分お咳が出ますと水飴を上げ、又はお風邪でこん/\お咳が出ると水飴を上ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
間違いとは云いながら、ちいさい時分に別れたお前様の子、それを貴方あんたが知らないとは云いながらはア斬って殺すと云うは、若い時分の罪だと懺悔ざんげする其の心持こゝろもちを考えますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
美「おゝそう親の無いかた温順おとなしいもんですね、可愛いじゃないか何うも、おちいさいほうは」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
婆「お蔭様かげさまで、わたくしはお嬢様のおちいさい時分からお側にいて、お気性も知って居りますのになんとも仰しゃらず、やっと此の間分ったので殿様に御苦労をかけました、誠に有がとうございます」
私もちいさい時分から丹誠して、忰と同じように生い立ったものゆえ、んな事が有ってもお内儀さん何うしたら宜かろうと云うのも、私に云いにくい事は雪に云いさえすれば相談になるものを
人はなんてえか知りませんが、施しといやア大業おおぎょうです、わたくしちいさい時分貧乏でしたから、貧乏人を見ると昔を思い出して、気の毒になるので、持合せの銭をやった事がございますから、そんな事を
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)