小刀ナイフ)” の例文
彼は口腔内にも光があるのを確かめてから、死体をうつ向けて、背に現われている鮮紅色の屍斑を目がけ、グサリと小刀ナイフの刃を入れた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
……そこで宵のに死ぬつもりで、対手あいてたもとには、あきないものの、(何とか入らず)と、懐中には小刀ナイフさえ用意していたと言うのである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一そんな気を起こす前に、大抵の人なら、小刀ナイフけい動脈へつきさして、時間的に、そういう考えの起こる余裕を無くしているだろう。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「おまえ、豚におなり。ぼくは、ぶたをつぶす人になる」と言って、抜き身の小刀ナイフを手にとるなり、弟の咽喉のどを、ぐさりと突きました。
文吾は手早く小刀ナイフを取りだすと右手に空缶をつかんでいる一人の胸へ当てて、蒼黒い布をさっと引きさいた。そしてヘルメットをぬがせた。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
玩具おもちゃといっても、木の幹を小刀ナイフ一本でけずって、どうやら舟の形に似せたもので、土人の細工さいく物のように不器用な、小さな独木舟まるきぶねだった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
先生は直ぐに紅矢の腕に取り付いて、二の腕の処に小刀ナイフを突き立てて、ギリギリと引きまわしましたが、何の役にも立ちませんでした。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そのうちに、彼は手に持っている道具を靴造り用の小刀ナイフに持ち替える必要が出来た。その小刀ナイフは彼女の立っている側と反対の側にあった。
きいちゃんはだ七つか八つで、泣き虫だ。一寸ちょっと頭の毛を引張っても直ぐに泣く。殺してしまうといって小刀ナイフを見せても泣く。泣いてばかりいる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
兵さんは低くうなると、サッと右手を前へ突きだした。次郎はワッと言って尻餅をついた。兵さんの手には、三四寸の肥後守ひごのかみ小刀ナイフが握られてあった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
タオルには折ったあいだへ、石鹸や歯みがきは包み紙に、小刀ナイフにはへ飾り、靴下はなかへ落し、その他の小箱類には蓋の内側へ貼りつけたりして。
其時そのときは、この武村新八郎たけむらしんぱちらう先鋒せんぽうぢや/\。』と威勢いせいよくテーブルのうへたゝまわすと、さらをどつて、小刀ナイフゆかちた。
それから私が手洗をすまして帰って来ると、その人は棚の上の信玄袋から、梨と小刀ナイフを取り出し私にもすすめた。
猫と村正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その瑣細ささい道理だうりふのはたとへば、眞赤まツかけた火箸ひばしながあひだつてると火傷やけどするとか、またゆび小刀ナイフごくふかると何時いつでもるとかふことです。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すると、今まで黙つて見てゐた智慧者のM氏がついと立ち上つたと思ふと、ポケツトから鉛筆削りの小刀ナイフを取り出して、いきなり久米氏の口の中に突つ込んだ。
中から出たのは四切よつぎりの写真で、平泉館の地下の宝庫の絵図面が、銅板の原図よりも明瞭に見られるばかりでなく、端っこの方に、小刀ナイフか何かで引っ掻いた文字。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
机の上の傷は小刀ナイフで白くえぐった傷である。X形のもあればS形のもある。ある傷は故意に付けたものだ。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
キリストの名を唱えたり聞いたりすることは、小刀ナイフで突き倒されるよりも痛くこたえるからでした。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
新式のは馬来マレイ半島のジヨホオルへけば観られると云ふ事だ。樹幹にはどれにも左右から矢の羽形はがたに斜めに小刀ナイフで欠刻を附け、更に中央に溝として一線が引いてある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
……………………もうこれまでと思った私は、矢庭に懐の小刀ナイフを抜くと、ぶッつかる様に、その友人の胸を目がけて突進しました。……………………一瞬間の出来事です。
彼が彼の小刀ナイフを筆入に入れないで、いつも衣嚢かくしに入れていたのも、実はそのためだったのである。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
広田先生は書斎へつて、小刀ナイフを取つてる。三四郎は台所から庖丁を持つてた。三人でかきを食ひ出した。食ひながら、先生と知らぬ男はしきりに地方の中学のはなしを始めた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
札場の若い男が昼のボックスに長々と寝て西瓜すゐくわの皮をペン小刀ナイフでむいて居る詩であつた。何の関係も無い事だがその詩を思出した。そして、「寂れた沈着おちつきの無い町だ。」とこの町を見た。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
アア口惜しの有様やとて、ほとんど自失せし様子なりしが、たちま小刀ナイフをポッケットにさぐりて、妾に投げつけ、また卓子テーブルに突き立てて妾を脅迫し、いて結婚を承諾せしめんとは試みつ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
土橋どばしの方角を指して帰って行く道すがらも、まだ捨吉はあのむかしの窓の下に、あの墨汁すみやインキで汚したり小刀ナイフえぐり削ったりした古い机の前に、自分の身を置くような気もしていた。壁がある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ひどく指垢ゆびあかのついた書物がめちゃくちゃに積み重ねてあり、名前の頭文字や、略さないで書いた姓名や、怪異な形の絵や、その他さまざまな小刀ナイフで彫りつけたものなどの、創痕きずあとをつけられているので
烈々れつ/\える暖炉だんろのほてりで、あかかほの、小刀ナイフつたまゝ頤杖あごづゑをついて、仰向あふむいて、ひよいと此方こちらいたちゝかほ真蒼まつさをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
殊に小刀ナイフの扱い方がまるで外科医のように素人離れしていて鳥渡常識以上の人体解剖の知識と経験を示しているように思われることなど
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼女がそうした時に奇妙な戦慄が彼を襲い、それが目に見えて彼の体中に伝わった。彼は彼女を見つめながら、小刀ナイフをそっと下に置いた。
それから、医者の言葉によると、致命傷は、後頭部の打撲傷で、小刀ナイフは余程あとから死体にさしたものらしいということです。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
骨でも肉でも豆腐のように切れる鋭い小刀ナイフも、まるで鉛か銀のようにやわらかく曲がり折れて、疵痕きずあとさえ付ける事が出来ません。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
驚いてその方を見ると、右手の林の中で、一人の怪漢が片手に角灯を持ち、片手に小刀ナイフを振上げて、一人の農夫のような男を刺殺さしころす有様が見えた。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕は森川さんに決闘を申込む。小刀ナイフも持って来た。それから僕に黙っていてくれろって頼んだ事も皆新聞へ出してやります。お春さんだって……
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
卓子は、マアク・トウェイン、ビョルンソン、ゴウゴル、ゲエテ、グノウ、ビゼエと言った詩人ポエタ達の、手垢と、楽書らくがきと、小刀ナイフの痕とで、有名に装飾されてあった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「わたし、おとうさんからもらった小刀ナイフをあげるから、にがしておやり。」と、光子みつこさんはいいました。
花とあかり (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕等も試みに小刀ナイフを取つて欠刻を附けて見るとすぐに牛乳の様な液が滴り、其れが端から凝結する。手に取つて両指りやうしで引いて見ると、既に弾力性を持つて居て伸縮する。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そう云って、隠していた小刀ナイフきりを、ポンと床のうえに投げ捨てたが、そうして、彼の詭策が成功したにもかかわらず、またもとの憂鬱な表情に帰ってしまうのだった。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
我々があの人は肉刺フォークの持ちようも知らないとか、小刀ナイフの持ちようも心得ないとか何とか云って、他を批評して得意なのは、つまりは何でもない、ただ西洋人が我々より強いからである。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は返事をする代りに、思わず手を衣嚢かくしに突っこんで、小刀ナイフを握った。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
『はゝゝゝゝ。ひどつたよ。しかしこれで當分たうぶん餓死うゑじにする氣遣きづかひはない。』とわたくしたゞちに小刀ナイフ取出とりだした。勿論もちろん沙魚ふかといふさかな左程さほど美味びみなものではないが、この塲合ばあひにはいくらつても喰足くひたらぬ心地こゝち
へう小刀ナイフ肉叉にくさじ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すそひぢかゝつて、はしつてゆかく、仰向あふむけのしろ咽喉のどを、小刀ナイフでざつくりと、さあ、りましたか、いたんですか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
背部に小刀ナイフがつきさしてあったことになっていますし、実際現場捜査の結果は林の陳述と一致しているのですが、御子息は
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
晩飯を部屋へ取ったので、その時ついて来た焼肉ステイキ用の鋭い小刀ナイフが、床に落ちていた。その刄に、電話線の包皮の絹糸の屑が、引っ掛っていた。
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
が、彼女は片手を動して彼等を制止した。彼がその小刀ナイフで彼女を突き刺しはしまいかと、彼等は懸念したにしても、彼女は少しもしなかった。
と叫びながら、懐から鋭い小刀ナイフを出して、その腕を黒くなった処から切り落そうとしました。これを見た両親はいきなり青眼先生の腕を捕えて引き離しながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
その男だけのためによろこばれる種々の他愛ない日用品——タオル・しゃぼん・歯みがき・小刀ナイフ・靴下・その他・それぞれにリンピイの細工がほどこしてある——それから
四人は種々いろいろ談話はなしをしながら小刀ナイフとホークをかちかちいわせている。行儀の悪い奴だ。あまり音をさせるものでないと、お母さんは始終いっている。乃公は時々神保さんの靴を引掻いてやる。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
男はかたわらにある羊皮ようひの表紙に朱で書名を入れた詩集をとりあげて膝の上に置く。読みさした所に象牙ぞうげを薄くけずったかみ小刀ナイフはさんである。かんに余って長く外へみ出した所だけは細かい汗をかいている。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
龍介は勧められるままに、博士たちと共に小刀ナイフを取りあげた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)