天日てんぴ)” の例文
おれのからだが、天日てんぴさらされて、見る/\腐るとこだつた。だが、をかしいぞ。あれは昔だ。あのこじあける音がしたのも、昔だ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
口びるは上下ともからからになって内紫うちむらさきという柑類かんるいの実をむいて天日てんぴに干したようにかわいていた。それは見るもいたいたしかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
悉皆しっかい焼印の御かめのごとく作り得たならばますます神の全能を表明し得るもので、同時に今日こんにちのごとく勝手次第な顔を天日てんぴらさして
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私たちは、そんなものを集めて来ると、ムシメガネで、天日てんぴを枯れ草に取って、流れ木に燃やしつけて、焼いて喰べました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日の照る日何枚もの板に白い紙をって立て掛けてある様は、農村の風情を一入ひとしお美しくします。乾かすには天日てんぴ板干いたぼしとにくはありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
唐金色からかねいろ薔薇ばらの花、天日てんぴに乾いた捏粉ねりこ唐金色からかねいろ薔薇ばらの花、どんなにれる投槍なげやりも、おまへの肌に當つては齒もにぶる、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「私は濡れても天日てんぴで干すわさ。いや、またまこと困れば、天神様の神官殿別懇かんぬしどのべっこんじゃ、宿坊しゅくぼうで借りて行く……南無妙、」
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さぞ困苦艱難こんくかんなんしたであろう、この文治もの、そちに劣らぬ難儀はしたが、天日てんぴに消ゆる日向ひなたの雪同前、胸も晴々はれ/″\したわい、おゝ斯様こんな悦ばしい事は……
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
金網で焼いてコゲたの落ちたのという心配がなく、天日てんぴに干したのと違ってハイはたからず、手数もはぶける。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
もし洗えば天日てんぴで干すときにくいから水を切って塗物ぬりものの箱へ入れて乾かすのだ。それを蒸す時は水で少しねてそれをサラサラするようにほごして蒸す。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
おほいなる都會をうづつくさうとする埃!………其の埃は今日も東京の空にみなぎツて、目路めじはてはぼやけて、ヂリ/″\り付ける天日てんぴがされたやうになツてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だが、その男も犬みてえにくびり殺されて、他の奴らと同じに天日てんぴに曝されたぜ、コーソー要塞(註四七)でよ。あれはロバーツ(註四八)の手下だった、あれはな。
天日てんぴさらして乾かしてから生麩なまふの粉などを入れてな、それで団子を作って食ったものもあったぞ、それから松の枝を剥いでするめのようにして食い出した者もあったぞ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四寸ぐらいの小アジを裂いて無塩で天日てんぴで三時間ぐらい干したのを金網で骨のほうから骨がコンガリこげるまで焼いたのを、猫も好むが人間が食べてもすてきにうまい。
猫料理 (新字新仮名) / 村松梢風(著)
さうして根よく天日てんぴに晒しておゐでなさいましたから、染は上染じやうそめ、眞黒々に染めあがりました。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
天日てんぴのさしこんだ所で見ると、わきの下や首のつけ根に、ちょうど腐ったあんずのような、どす黒いまだらがあって、そこからなんとも言いようのない、異様な臭気が、もれるらしい。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれども、今日は如何うかして、小学校の子供のように、お婆さんは只コックリと頭を下げた限りで、ぼんやりと天日てんぴに頭を曝した儘、薄紫の愛らしい馬鈴薯の花を眺めて居る。
麦畑 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
やがて二人の間に破滅の末の日が来て、具張氏は寂しい姿で、桜子夫人のもとにと帰っていった。ささやの三階から立ち出た人には、あまり天日てんぴ赫々かくかくとあからさますぎた事であろう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日はお父さんとお母さんとが、お家の前で鈴蘭すずらん天日てんぴにほしておりました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あとれい快活くわいくわつなる武村兵曹たけむらへいそうがやつてて、武骨ぶこつなる姿すがた親切しんせつに、吾等われら海水かいすいみ、天日てんぴこがされて、ぼろ/\になつた衣服ゐふく取更とりかへやら、洗湯せんたう世話せわやら、日出雄少年ひでをせうねんためには
佛教の方ぢや、髮なんぞかぶらずに、凸凹でこぼこ瘤頭こぶあたまを臆面もなく天日てんぴに曝して居るし、耶蘇の方ぢや、教會の人の澤山集つた所でなけれあ、大きい聲を出して祈祷なんぞしない。これあ然し尤もだよ。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
天日てんぴに美しくさらすものだ
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
天日てんぴのさすに
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
おれのからだが、天日てんぴさらされて、見る見る、腐るところだった。だが、おかしいぞ。こうつと——あれは昔だ。あのこじあける音がするのも、昔だ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
林「其の時使ったのかって置きたいと思って糠袋のかぶくろをあけて、ちゃんと天日てんぴにかけて、乾かして紙袋かんぶくろに入れて貯っておいて、炊立たきたての飯の上へかけてうだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
同時に胃嚢いぶくろが運動を停止して、雨に逢った鹿皮を天日てんぴし堅めたように腹の中が窮窟きゅうくつになる。犬がえればいと思う。吠えているうちはいやでも、厭な度合が分る。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知多木綿ちたもめん」はその半島の半田はんだが中心地で、地面の上に広げて天日てんぴさらす様は見ものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
着物きものまをすまでもなし、つち砂利じやり松脂まつやにあめぼう等分とうぶんぜて天日てんぴかわかしたものにほかならず。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
足に引きずる草履ぞうりと見たれば。泥で固めたカチカチ山だよ。まるで狸の泥舟どろぶねまがいじゃ。乞食まがいのケッタイ坊主が。流れ渡って来た国々の。風にさらされ天日てんぴに焼かれて。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お前のへまのために己たちぁみんなぶらんこになって天日てんぴさらされるだろうよ。」
はげしい天日てんぴに、照りつけられたせいか、変色した皮膚のところどころが、べっとりと紫がかった肉を出して、その上にはまた青蝿あおばえが、何匹となく止まっている。そればかりではない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その間にお玉は米友の衣裳いしょうに着替えてしまって火の傍へ来ると、米友は干場にかけた着物を表は天日てんぴで、裏は焚火で両面から乾かすようにしておいて、二人が焚火を囲んで座を占めます。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ことに世の中が変動する前には、安政の大疑獄以来、幾多有為の士を、再び天日てんぴの下にかえさずんでしまった牢屋の所在地だ。鬼哭啾々きこくしゅうしゅう、人の心は、そこの土を踏むだけで傷みにふるえる。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこで田に水を落す前にたまりを作っておいて、天日てんぴで暖める工夫をしたものだが、それが図にあたって、それだけのことであんな一代分限ぶげんになり上ったのだ。人ってものは運賦天賦うんぷてんぷで何が……
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ところがやっぱり天日てんぴは思うように行きませんや。なかなか半熟にならないから、下へおりて新聞を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
與吉よきち天日てんぴおほふ、しげつた五抱いつかゝへもあらうといふみき注連繩しめなはつたくすのき大樹だいじゆに、あたかやまおもところに、しツきりなくりかゝるみどりなかに、ちてかさなるうへ
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
要らぬ赤恥、天日てんぴにさらげる。事の起りはキチガイ地獄じゃ。文明社会の裏面に拡がる。無茶と野蛮の底抜け地獄じゃ。筆も言葉も木魚も及ばぬ。むごさ、せつなさ、悲しさらさを。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
壁と云うとこての力で塗り固めたような心持がするが、この壁は普通のどろ天日てんぴ干上ひあがったものである。ただ大地と直角ちょっかくにでき上っている所だけが泥でなくって壁に似ている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……なぞと云うたら皆さん方は。そういうお前の脳味噌だけが。毎日天日てんぴに焼かれたお蔭で。しょうが変ってきたものダンベイ。なぞとお笑いなさるか知らぬが。真実ほんとにそうダンベイかも知れぬが。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)