堅気かたぎ)” の例文
旧字:堅氣
すると染吉は、近頃いろいろ考えた末、危ない商売とフッツリ縁を切って、本当に堅気かたぎになるつもりだから安心してくれと申します。
今は堅気かたぎのおかみさんでも、若い時にゃあ泥水を飲んだ女じゃあないかと思われました。木綿物じゃあありますが、小ざっぱりしたなり
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然し此の数年来すうねんらい賭博風とばくかぜは吹き過ぎて、遊人と云う者も東京に往ったり、比較的ひかくてき堅気かたぎになったりして、今は村民一同真面目まじめに稼いで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
榊原は堅気かたぎの家から貰った細君もあれば、十五六の娘を頭に二三人の子供もありましたが、かみさん始め、女中達まで皆桜井を可愛がって
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
皆寒そうであった。白い服の何ともいえないほどすすけてきたなくなった物の上に、堅気かたぎらしくの形をした物を後ろにくくりつけている。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昼の日中ひなかたれはばかるおそれもなく茶屋小屋ちゃやこやに出入りして女に戯れ遊ぶこと、これのみにても堅気かたぎの若きものの目にはうらやましきかぎりなるべきに
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
或はまた堅気かたぎの娘さんなのか、井関さんのせんだっての口振りでは、まさか芸妓げいしゃなどではありますまいが、何しろ、全く見当がつかないのです。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あとは池の廻りや花屋敷の近所に、堅気かたぎな茶店で吹きさらしの店さきに、今戸焼の猫の火入れをおいて、牀几しょうぎを出していた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
大声でしゃべっても、聞く耳もねえ。あっしはこれでも堅気かたぎ一方な牙彫師げぼりしというわけで、御覧の通り、次の間は仕事場ですよ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
堅気かたぎの旦那で納まッているおめえの所へ、迷惑な居候いそうろうだろうが、当分世話になるかも知れない。そのつもりで、ゆっくりと今日はひとつ……」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたなんか、ヤイヤイ云われてもらわれたレッキとした堅気かたぎのおじょうさんみたようなもので、それを免職と云えば無理離縁りえんのようなものですからネ。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見る処人形町居廻りから使に頼まれたというが堅気かたぎ商人あきんどとも見えず、米屋町辺の手代とも見えず、中小僧という柄にあらず、書生では無論ない。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藍微塵あいみじん素袷すあわせ算盤玉そろばんだまの三じゃくは、るから堅気かたぎ着付きつけではなく、ことった頬冠ほおかむりの手拭てぬぐいを、鷲掴わしづかみにしたかたちには、にくいまでの落着おちつきがあった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「あたりめえじゃァねえか。——いわなくったってそんな分ってるじゃァねえか。——どんなふみ倒しの屑屋にみせたって堅気かたぎとはみやァしねえ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
堅気かたぎのうちからお嫁さんをもらわなくちゃなりませんが、どうかしてるのですか、奥さんも心配してらっしゃいますよ
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
源「さような御苦労人とも知らず、只の堅気かたぎの旦那と心得、おどして金を取ろうとしたのは誠に恐縮の至り、しからば相済みませんが、これを拝借願います」
それも旅で知り合ったひと堅気かたぎになって、五里ばかり離れた町に住んでいるからと言って、添書てんしょをしてくれた。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
遠目にはまず堅気かたぎな西洋婦人の二人連れとも見えて、行きずりの人目をひくやうなものは何一つありません。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
露西亜ロシアの女が各国で乞食と売春と恋慕のために深い忍耐力を養っている間妾一人が堅気かたぎにはなれないのです。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
言葉使いから見ても、彼は全くの町人であった。そうかといって、決して堅気かたぎ商人あきんどとは受取れなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目立たない洋髪に結び、市楽いちらくの着物を堅気かたぎ風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夕方、方々の工場こうば退け時になると、彼女は街へ出て、堅気かたぎ女らしい風でそぞろ歩きをした。ときどき微かに歩調をゆるめたかと思うと、また元のように歩いて行った。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
部屋へやの片すみに女中の置いて行った古風な行燈あんどんからして、堅気かたぎな旅籠屋らしいところだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この二月ふたつきほど真人間まにんげんに返って、驚くほど堅気かたぎになり、真黒くなって家業に精を出し、和歌山へ行ったのも宿屋の実地調べで、これからますます家業へ身を入れようとした金蔵の心が
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
恩のある女だから、堅気かたぎになるまで面倒はみてやるつもりだ。うん、その話は聞いたよ、と平八が云った。しかし、二人の生活をみるのはたいへんじゃないか。なに、どうにかなるさ。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
背中のこれさえなければ堅気かたぎくらしも出来たろうにと思えば、やはりさびしく、だから競馬へ行っても自分の一生を支配した一の番号が果たして最悪のインケツかどうかと試す気になって
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私はどんならき事ありとも必らず辛抱しとげて一人前の男になり、ととさんをもお前をも今に楽をばおせ申ます、どうぞそれまで何なりと堅気かたぎの事をして一人で世渡りをしてゐて下され
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どこの何者だかは知んねえが、貴様にもててはたまるべえ、そのはしたねえ恰好かっこう見せつけられたら何と思うかよ、商売は堅気かたぎに限る、女なんてもっての外だ、失せやがれ。さっさと失せやがれ。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
「とか何とかおっしゃいますね。白粉おしろいっけなしの、わざと櫛巻か何かで堅気かたぎらしく見せたって、商売人はどこかこう意気だからたまらないわね。どこの芸者? 隠さずに言っておしまいなさいよ」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
いっそ俺のうちにいて、ミシンでも覚えて、堅気かたぎな商人にでもえんづいた方がどんなに仕合しあわせかも知れないと、な。何といっても今は、金の世の中だ。ちっとやそっとの生学問なまがくもんじゃ身が立って行かん
峰蔵は堅気かたぎな職人であるのに、とんだ婿を取って気の毒だと亭主は話した。それを聴いてしまって、半七は何げなくうなずいた。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やみでもてえげええるだろうが、おいらァ堅気かたぎ商人しょうにんで、四かくおびを、うしろでむすんでわけじゃねえんだ。面目めんぼくねえが五一三分六ごいちさぶろくのやくざものだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
新女優のはは川上貞奴とならずに堅気かたぎな家の細君であって、時折の芝居見物に鬱散うっさんする身となっていたかも知れない。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「——だが、どうしたッていうんだい二人とも。まるで、化け物みたいに不意にやッて来て、堅気かたぎ暖簾のれんを掛けているこッちはまッたく面食らッたぜ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうした堅気かたぎ(この場合の水稼業に対してである)の店々のそこにそういう適当な配置をもつにいたったことが否むことの出来ない堅実感を与えている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
わっちも根からの海賊じゃアござんせぬ、新潟在の堅気かたぎ舟乗ふなのりでござんしたが、友達の勧めに従って不図ふとした事から海賊の手下となり、女でござれ金品でござれ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
築地のこの界隈かいわいにはお妾新道めかけじんみちという処もある位で妾が大勢住んでいる。堅気かたぎの女房も赤い手柄てがらをかける位の年頃としごろのものはお妾に見まがうような身なりをしている。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
而已のみならず、乙姫様が囲われたか、玄人くろうとでなし、堅気かたぎでなし、粋で自堕落じだらくの風のない、品がいいのに、なまめかしく、澄ましたようで優容おとなしやか、おきゃんに見えて懐かしい。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まあ、姐御、そんなに腐らねえでもいいじゃねえか——どうせ踏み込んだ泥沼だよ——それに、堅気かたぎがっている奴だって、大ていおれ達と違ったものでもねえようだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
此女は愛をもつぱらにする時機が余り短かぎて、親子おやこの関係が容赦もなく、若いあたまうへを襲つてたのに、一種の無定を感じたのであつた。それは無論堅気かたぎの女ではなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小初は堅気かたぎな料理屋と知っていて、わざととぼけて貝原にいた。貝原は何の衝動しょうどうも見せず
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こんな商売にも似合わない、まるで堅気かたぎの娘さんの様な子でしたわ
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「知るものかい、俺は堅気かたぎ商人あきんどだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
堅気かたぎに見せかけても何となくうしろ暗いところがあるので、彼は半七にむかっては特別に腰を低くして、しきりに如才なく挨拶していた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ヘエ誠にうもね、これがむこう堅気かたぎでなければいが、ア云う三藏さん、此の野郎がきそう/\方々から借金取が来て、新吉に/\と居催促いざいそくでもされちゃア
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
口紅くちべにだけはすこくしてゐるが、白粉おしろいはつけてゐるのかないのかわからぬほどの薄化粧うすげしやうなので、公園こうゑん映画えいぐわ堅気かたぎわか女達をんなたちよりも、かへつてジミなくらい。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
御維新の騒ぎに刀さしをやめたのはいんですけれど、そういう人ですから、堅気かたぎの商売が出来ないで、まだ——街道がにぎやかだったそうですから、片原の町はずれへ
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもそうした堅気かたぎの士族出が、社会の最暗黒面であるさと近くに住居して、場末の下層級の者や、流れ寄った諸国の喰詰くいつめものや、そうでなくてもやみの女の生血いきちから絞りとる
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この女は愛をもっぱらにする時機が余り短か過ぎて、親子の関係が容赦もなく、若い頭の上を襲って来たのに、一種の無定むじょうを感じたのであった。それは無論堅気かたぎの女ではなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例の堅気かたぎ牙彫げぼりの職人らしい扮装つくり、落ちつき払った容子ようすで、雪之丞の宿の一間に、女がたの戻りを待っているのだが、もう顔を見せそうなものだと思いはじめてから、四半とき、半晌
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)