つれ)” の例文
つれなる書生のしたり顔「左様さうサ、陸海軍御用商人、九州炭山株式会社の取締、俄大尽にはかだいじん出来星できぼし紳商山木剛造殿の御宅は此方こなたで御座いサ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
暫くしてから氷に手を添へた心程こゝろほど身を起して気恥きはづかしさうに鏡子があたりを見廻した時、まだ新しい出迎人でむかへにんもとつれの二人も影は見えなかつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのつれ ああ云ふ莫迦者ばかものは女と見ると、悪戯いたづらをせぬとも限りません。幸ひ近くならぬ内に、こちらの路へ切れてしまひませう。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つれを誘い酒を載せて、揺蕩してようやく到るという類の遊覧者に、帰って人に伝うべき何物もないのは当然と言ってよろしい。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「あんた一人で東京までようおきやすか。」と母親おふくろはもう涙を一杯眼に浮べて「しげ可憫かはいさうに、おつれちつとも出来でけよらんのかいなあ。」
「うむ、それは心配だらう。能く有る事だ。然し、飯も食はずに気をんでゐるとは、どう云ふつれなのかな。——年寄としよりか、をんなででもあるか」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
由蔵は垢摺あかすりを持ったまま呆然ぼうぜん案山子かかしのように突っ立っている。二人の職人風のつれは、それと見るより呼応こおうして湯槽の傍へ駆けつけて来た。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
つれがあったのを隠しているか、でなければ、滝山さんは奥さんと一緒に映画館へ入って、奥さんを中へ置いて、自分だけ外へ出てなんか用事を
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「麁相ではありません、貴君の傍にいなさる小供さんが、貴君が皿を持とうとすると、手で叩き落しておりますよ、おつれさんではありませんか」
一緒に歩く亡霊 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さてはつれがある——察する通り、その伴の人は、杖を下に置いて、しきりに草鞋の紐を結び直しているものに相違ない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
気質きだてのやさしい香織かおりたいへんその子供達こどもたち可愛かわいがって、三浦みうらへまいるときは、一しょつれたことも幾度いくたびかありました。
「何をあなたにおっしゃったの? あの気味の悪い支那人は?」つれの女はこう云って、不思議そうに男を見守った。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はさらに声をいただけで顔を知らなかったつれの男の方を、よそながらの初対面といった風に、女と眺め比べた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、馬は忽ち矢の如く走り出でたのである。つれの馬に遅れまいと、其男が手綱を執つてゐたわしの馬も、宙を飛んで奔馳ほんちする。わし達はひたすらに途を急いだ。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
ほかでもありませんが、わたくしどもはあなたからお招きにあずかっておりましたつれの一人、フョードル・パーヴロヴィッチを同道しないで参上いたしました。
右「へい、泊っても宜しゅうございますが、商人あきんど仲間のつれが有りますから、あの男を先へ帰しましょう」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ブラ/\と面白おもしろき空想をつれにしてどて北頭きたがしら膝栗毛ひざくりげあゆませながら、見送みおくはててドヤ/\と帰る人々が大尉たいゐとしいくつならんの、何処いづこ出生しゆつしやうならんの、あるひ短艇ボートこと
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
乗り合わした他の連中は頻に私に同情して、娘とそのつれの図々しい間抜な態度をののしった。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その時もしわが顔にあざけりの色の浮かびたりせばゆるしたまえ、二郎が耳にはこの声いかに響きつらん、ただかれがそのたなごころを静かにひざの上に置きて貴嬢がつれの方をきっと見たる
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おつれぢやないのですね。」医者が検視をするのを見ながら、巡査は信一郎に訊いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
文化のたくは此の島村しまむらにも及んで、粗末ながら小学校のもうけがある。お光八つにもなると路が遠いにつれもないからよせと父母ふたおやの拒むも聞かないで、往来ゆきもどり一里の路を日々弁当さげて通う。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
また諺に紀州人のつれ小便などもいわば天禀てんぴん人にも獣畜類似の癖あるのが本当か。
一本筋の高い処にある道を、静かながら北の山からすべり落ちて来る風にあらいざらい吹きさられて、足ののろいおつれと一緒に、私はもうちっと早く歩きたいもんだなあと思いながら歩いて行く。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「いや、今朝は一人しかつれが欲しくない、それもあなたに限ります。支度して下さい。臺所の口から出るんです。そしてマアシュ・グレンの頂上の方へ行くのです。僕も直ぐ後から行きます。」
既にして天一坊玄關へ來ければ取次案内とりつぎあんないとして平石次右衞門出迎いでむかへ平伏し先に立て案内す天一坊はくつの儘にて次右衞門につれられゆくに常樂院は天一坊のいまだ沓を脱ざるを見て其の前へ走寄り沓へ手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お銀は晩に通りまで散歩に行った時、つれの妹に話しかけた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
つれなりしかの代議士の
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つれもなくあをみしなへし
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つれにはぐれし赤蟻あかあり
茴香 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
今は誰でもいい、つれがひとり欲しくなつて来た。それが私にとつてうるさい競争者であつたところで、少しも厭はない。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
終夜よっぴて稼いだと云ったっていいだろう、急ぎの仕事がありゃあ、終夜稼があな」つれの方を見て、「なあ、与ちゃん」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鏡子かねこつれは文榮堂書肆の主人の畑尾はたをと、鏡子の良人をつとしづかの甥で、鏡子よりは五つ六つ年下の荒木英也ひでやと云ふ文学士とである。畑尾は何かを聞いた英也に
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その男とつれの女の一人が顔立から云ってよく似ているので、自分はすぐ彼らの兄妹である事をさとった。彼らは人の頭を五六列越して、三沢と挨拶あいさつを交換した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「聽いたよ、新造に達引たてひかしちやよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉もみぢを見に行つて、財布をられて、つれの女達にお茶屋の拂ひまでして貰つたといふ話だらう」
しかし、こうしておつれになってみるというと、その本当のところを確めておいておもらい申さぬと、臨機のかけひきというやつがうまくいかねえんでございますから
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
左様さやうでございますか、わたしひさしい以前いぜん二のとりの時に一人ひとりつれがあつて丸屋まるやあがり、あなたが出てくだすつて親切にしてくだすつた、翌年よくねんのやはり二のとりの時にひさりで丸屋まるやあがると
「おつれじゃないのですね。」医者が検視をするのを見ながら、巡査は信一郎に訊いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おお、つれが後から来るのか。いや、大きに御馳走ごちそうだつた」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのつれ どうだ、あれは? ゐざりの乞食が駈けて行くぜ。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つれにはぐれて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「聴いたよ、新造に達引たてひかしちゃよくねえな。二三日前瀧ノ川の紅葉もみじを見に行って、財布をられて、つれの女達にお茶屋の払いまでして貰ったという話だろう」
しかしいくらでも春が永く自分の前に続いているとしか思わないつれの青年には、彼の言葉が何ほどの効果にもならなかった。この青年はまだ二十三、四であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神職講習会へ来ていた備前びぜん国幣中社安仁こくへいちゅうしゃやすひと神社の禰宜太美万彦ねぎふとみのよろずひこと云う者が、某日あるひ一人のつれとともにやって来た。万彦は宮地翁の机の傍にあった神仙記伝の原稿に眼をけた。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
目鼻だちは十人並すぐれて整ふて居るが寂しい顔であるから、水晶の中から出て来たやうな顔をして明るい色の着物を着たつれの女に比べると、花の傍に丸太の柱がたつて居る程に見られるのであつた。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「従者を一人つれて行く、そのほかには今のところつれというものはない」
鹽「つれもある様子だが、今晩は私のうちへ泊ってはくれまいか」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「東京へおきやす言うて、だれぞおつれでもおすのかいな。」
つれの大人はみんな正面に気を取られていた。正面ではぐらぐらと柱が揺れて大きな宅がつぶれた。するとその潰れた屋根の間から、ひげを生やした軍人いくさにんが威張って出て来た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そう、それじゃ、雉子焼にしてもらおう、鰻はつれが来たら喫うかも判らない」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
平次は顧みてつれの男に訊きました。