他愛たあい)” の例文
彼の人が来れば仕事の有る時は、一人ほうって置いて仕事をし、暇な時は寄っかかりっこをしながら他愛たあいもない事を云って一日位座りんで居る。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
からくりをぶちまければ、他愛たあいもないことなのさ。砲弾が、ものをいったのは、砲弾の中に、小型の受信機じゅしんきがついていて、わしの声を放送したんだ
「それっきりじゃ、あんまり他愛たあいが無さ過ぎる。そりゃ残念な事をした、僕も見ればよかったぐらい義理にも云うがいい」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ウラニウムって、どんなものか知らないけど、あの抜け目のない叔母が、そんな他愛たあいのない話に乗るでしょうか」
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しかし、なお細かい鑑定のために入院させる必要が御座るというので、この精神科へ連れてくる手筈が、今からチャンときまっているから他愛たあいないね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なにか他愛たあいなく輿のまわりでさわぎ合う風だった。兼好はそれに思い出して、ふところや袂をさぐった。雀がいない。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに立つてゐるのは、間のぬけた顔をした男で、よだれをくり/\何か他愛たあいもないことをいつてゐた。よく聞いてみると、おとがひがはづれて困つてゐるといふのだつた。
ちょっと客も途絶とだえたので、番頭と小僧が店頭みせさき獅噛火鉢しがみひばちを抱き合って、何やら他愛たあいもないはなしに笑いあってると、てついた土を踏む跫音が戸外そとに近づいて
何の他愛たあいもない一些事いちさじに過ぎない。だが、神経過敏になっている二郎には、ただ事とは思えなかった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(あゝ、あゝ、)とにごつたこゑして白痴あはうくだんのひよろりとした差向さしむけたので、婦人をんないたのをわたしてると、風呂敷ふろしきひろげたやうな、他愛たあいのない、ちからのない
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
シューラはいそいでポケットの中から、この年頃としごろの男の子につきものになっている他愛たあいのない品々しなじなを、すっかり出して見せた——それから両方りょうほうのポケットもひっくりかえした。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
これと較べると、周三を邪魔物とした辰つアんなどはまだ他愛たあいがなかつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
ヂョオジアァナは一時間毎に彼女のカナリアに他愛たあいもないことをしやべつてゐて、私を振り向きもしなかつた。しかし私はすることやたのしみがなくて手持無沙汰てもちぶさたに見えないやうにしようと決心してゐた。
ありし雛遊ひなあそびのこゝろあらたまらずあらたまりし姿すがたかたちにとめんとせねばとまりもせでりやうさん千代ちいちやんと他愛たあいもなき談笑だんせふては喧嘩けんくわ糸口いとぐち最早もう来玉きたまふななにしにんお前様まへさまこそのいひじらけに見合みあはさぬかほはつ二日目ふつかめ昨日きのふわたしるかりし此後このご
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いつかこの他愛たあいのない雰囲気にくるまれると、馬春堂のごとき男すら、身は十か九ツの子供に立ち帰って、そぞろ昔、手をひいて歩いてくれた母や姉が
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにつれてうちではどうしても解けなかった問題が、スラスラと他愛たあいもなく解けて行くので、彼はトテモ愉快な気持になって時間のつのを忘れていることが多かった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
宗助そうすけちゝんだとき東京とうきやうつた小六ころくおぼえてゐるだけだから、いまだに小六ころく他愛たあいない小供こどもぐらゐ想像さうざうするので、自分じぶん代理だいり叔父をぢ交渉かうせふさせ樣抔やうなど無論むろんおこらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、毒瓦斯なんて、他愛たあいもないものじゃ。ウィスキーになると、そうはいかん」
何とかして高飛車たかびしやに出てやらうと、幾度いくたび下腹したばらに力を入れてみたが、その都度お爺さんが自慢さうに扱いてゐる銀のやうな長い髯が目につくので、他愛たあいもない詰らぬ事を言つてしまつて
其処そこで、人形にんぎやうやら、おかめのめんやら、御機嫌取ごきげんとりこしらへてつて行つては、莞爾につこりさせて他愛たあいなく見惚みとれてたものでがす。はゝゝ、はじめのうち納戸なんど押入おしいれかざつての、るなるな、とふ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ここの侍女たちと、遠くのお部屋で、はや双六すごろく遊びなどに、他愛たあいもない御様子にございまする」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代助は相手のこゝろよささうな調子に釣り込まれて、此方こつちからも他愛たあいなく追窮した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まつた未来みらいでもへるのでせうか。』と他愛たあいのないこと新婦しんぷつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くらって他愛たあいなく沈没してしまったというあれかね
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ホホホホ、雲助なんて、何という他愛たあいがないんだろう……」お綱は見送って明るく笑った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまり他愛たあいなさに、効無かひな殺生せつしやうやめにしやう、と発心ほつしんをしたばん、これが思切おもひきりのあみくと、一面いちめんじやうぬまみづひるがへして、大四手おほよつで張裂はりさけるばかりたてつて、ざつと両隅りやうすみからたかほしそらかげして
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
思いきって、こういってのけてみたものの、もし弦之丞が承知したら、なんと間が悪いことだろう、道中も洒々しゃしゃとして歩けはしない、などとお綱は他愛たあいもない取り越し苦労までする。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたりのわるい堂上では、ややもすると、物のだとか、けがれだとか、やれ吉瑞きちずい凶兆きょうちょうのと、のべつ他愛たあいないおびえの中で暮しているが、おれたち、陽あたりのいい土壌の若者には
彼女の他愛たあいなさを、他愛なく笑ったのである。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、他愛たあいがありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)