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ふりがな文庫
“
常磐木
(
ときわぎ
)” の例文
冬青樹
(
あおき
)
、
扇骨木
(
かなめ
)
、八ツ
手
(
で
)
、
木斛
(
もっこく
)
なぞいう
常磐木
(
ときわぎ
)
の葉が蝋細工のように輝く。大空は小春の頃にもまして又一層青く澄み渡って見える。
写況雑記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
常磐木
(
ときわぎ
)
の
葉蔭
(
はかげ
)
から、
赤
(
あか
)
い
空
(
そら
)
の
色
(
いろ
)
が
見
(
み
)
られました。すると、みつばちは、
彼
(
かれ
)
に
別
(
わか
)
れを
告
(
つ
)
げて、いずこへとなく
飛
(
と
)
んでいってしまいました。
みつばちのきた日
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
常磐木
(
ときわぎ
)
の梢に在るのだとそれほど目立たないのであるが、落葉してしまっている枯木であるから、それが特に目立って見えるのである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
前の
常磐木
(
ときわぎ
)
のかげにあるベンチ。背むしはやはり焼き芋を食っている。少年はやっと立ち上り、頭を垂れてどこかへ歩いて
行
(
ゆ
)
く。
浅草公園:或シナリオ
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その土塀の内側には、
常磐木
(
ときわぎ
)
が
鬱々
(
うつうつ
)
と
籠
(
こも
)
っている。で、屋敷の構内の、どの部屋で講義をしようとも、声は外界へは聞こえないであろう。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
とうとう、彼は
信濃
(
しなの
)
と美濃の
国境
(
くにざかい
)
にあたる
一里塚
(
いちりづか
)
まで、そこにこんもりとした
常磐木
(
ときわぎ
)
らしい全景を見せている静かな
榎
(
え
)
の木の下まで歩いた。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
と言い、船のしばらくとどめられた所を御覧になると、大きい岩のような形に見えて
常磐木
(
ときわぎ
)
のおもしろい姿に繁茂した嶋が倒影もつくっていた。
源氏物語:53 浮舟
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
自分はそれを
機
(
しお
)
に拝殿の前面を左右に
逍遥
(
しょうよう
)
した。そうして暑い日を
遮
(
さえぎ
)
る高い
常磐木
(
ときわぎ
)
を見ていた。ところへ兄が不平な顔をして自分に近づいて来た。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
百日紅
(
さるすべり
)
あり、
花桐
(
はなぎり
)
あり、また
常磐木
(
ときわぎ
)
あり。梅、桜、花咲くはここならで、
御手洗
(
みたらし
)
と
後合
(
うしろあわ
)
せなるかの君の庭なりき。
照葉狂言
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
しかし、一八——年の十月のなかばごろ、ひどくひえびえする日があった。ちょうど日没前、私はあの
常磐木
(
ときわぎ
)
のあいだをかきわけて友の小屋の方へ行った。
黄金虫
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
純一は拝む気にもなれぬので、小さい門を左の方へ出ると、
溝
(
みぞ
)
のような池があって、向うの小高い処には
常磐木
(
ときわぎ
)
の間に葉の黄ばんだ木の
雑
(
まじ
)
った木立がある。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
小さな草花の鉢が並んでいるかと思いますと、根に土を附けたまま
薦
(
こも
)
で包んで、丈の一間くらいもある杉とか、檜とかいう
常磐木
(
ときわぎ
)
も廻りに立ててあります。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
霜枯れ時だのに、美しい
常磐木
(
ときわぎ
)
の緑と、青玉のような水の色とが古びた家の黄や赤や茶によくうつります。
先生への通信
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
その向うのこんもりと茂った
常磐木
(
ときわぎ
)
の森の中の道を行くと、すぐ眼の前が
展
(
ひら
)
けて、其処に、その森を自然の生垣にした一軒の
藁葺
(
わらぶき
)
の農家が、ぽつんと建っていた。
火星の魔術師
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
寂しい十三湊の民家は、ことごとく白い大きなこの御山の根に抱えられて、名に高い屏風山保安林の
常磐木
(
ときわぎ
)
の緑が、わずかに遠い雪と近い砂山との堺を劃している。
雪国の春
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
しかしそれがために、桐の葉は秋に落ちるものだから、雪に配するのは
常磐木
(
ときわぎ
)
か枯木に限るというような既成観念を生じて来ると、多少の危険を伴うことを免れぬ。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
わたしはまた、野草を摘み
常磐木
(
ときわぎ
)
をはこんで森のことを思いだすのが好きな村びとたちのところに、あるいは都会にまで、乾草車に積んで持っていこうかとも夢みた。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
はて、見たような所と思って見まわすと、
紫宸殿
(
ししんでん
)
の広庭にちがいない。けれど「
右近
(
うこん
)
ノ橘」「左近ノ桜」は見あたらず、そこには一本の大きな
常磐木
(
ときわぎ
)
だけがそびえていた。
私本太平記:04 帝獄帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ちょっといぶきのような趣きがあり、枝先は素直に垂れて、
粉紅
(
こなべに
)
色の花をつける。あんな
常磐木
(
ときわぎ
)
にこんな柔かい花が咲くかと思わせるような、奇異で、うるわしい花である。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
家へ入ってからの母親との
紛紜
(
いさくさ
)
が
気煩
(
きうるさ
)
さに、
矢張
(
やっぱり
)
大きな如露をさげて、
其方
(
そっち
)
こっち植木の根にそそいだり、
可也
(
かなり
)
の距離から来る煤煙に汚れた
常磐木
(
ときわぎ
)
の枝葉を払いなどしていたが
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
今まで深く茂った大きな
常磐木
(
ときわぎ
)
の森の間に、王宮と向い合って立っていた紅木大臣の
邸宅
(
やしき
)
は
住居
(
すまい
)
も床も立ち樹もすっかり
黒焦
(
くろこげ
)
になってしまって、数限りなく立ち並んだ
焼木杭
(
やけぼっくい
)
の間から
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
常磐木
(
ときわぎ
)
が、こんもりと繁り、その奥ゆかしさが私をまねいて、私は、すすきや野いばらを
掻
(
か
)
きわけ、崖のうえにゆける路を捜したけれども、なかなか、それらしきものは見当らず、ついには
狂言の神
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
けだし十月は多くの木の葉の落つる時なれば、俳諧において落葉を十月の季とし、松の落葉の如き
常磐木
(
ときわぎ
)
の落葉は総て夏季に属す。しかれども松の落葉の如きは四時絶えざること論を
俟
(
ま
)
たず。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
そこには、高い
常磐木
(
ときわぎ
)
にとり囲まれて、異様な建物がひろがっていた。
人間豹
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
いつからか
常磐木
(
ときわぎ
)
色の小旗が一つ立っていて
獄中への手紙:09 一九四二年(昭和十七年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
おびただしいまでに庭木があって、いずれも年を経た
常磐木
(
ときわぎ
)
と見えて、土塀の
甍
(
いらか
)
から高くぬきんでて、林のように繁っていた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
うぐいすは、
赤
(
あか
)
い
実
(
み
)
のなった
枝
(
えだ
)
に
止
(
と
)
まったり、また
常磐木
(
ときわぎ
)
の
間
(
あいだ
)
をくぐったりして
虫
(
むし
)
をさがしながら、チャッ、チャッと、いって
鳴
(
な
)
いていました。
子うぐいすと母うぐいす
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
またさまざまなる
常磐木
(
ときわぎ
)
は、日本の風土に
馴
(
な
)
れた
蘇鉄
(
そてつ
)
や竹などと一緒になって、四季不変なる緑色の着物を着ている。
仮寐の夢
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
大学の池の水へ、曇った
常磐木
(
ときわぎ
)
の影が映る時のようである。それはあざやかな
縞
(
しま
)
が、上から下へ貫いている。
三四郎
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
よい形をした
常磐木
(
ときわぎ
)
にまとった
蔦
(
つた
)
の紅葉だけがまだ残った
紅
(
あか
)
さであった。こだにの
蔓
(
つる
)
などを少し引きちぎらせて中の君への贈り物にするらしく薫は従者に持たせた。
源氏物語:51 宿り木
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
枝と枝を交えた
常磐木
(
ときわぎ
)
がささえる雪は恐ろしい音を立てて、半蔵らが踏んで行く路傍に
崩
(
くず
)
れ落ちた。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
ともするとまた
常磐木
(
ときわぎ
)
が落葉する、何の樹とも知れずばらばらと鳴り、かさかさと音がしてぱっと
檜笠
(
ひのきがさ
)
にかかることもある、あるいは行過ぎた
背後
(
うしろ
)
へこぼれるのもある
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大きい
常磐木
(
ときわぎ
)
の下にあるベンチ。木々の向うに見えているのは前の池の一部らしい。少年はそこへ歩み寄り、がっかりしたように腰をかける。それから涙を
拭
(
ぬぐ
)
いはじめる。
浅草公園:或シナリオ
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
シジュウカラが
常磐木
(
ときわぎ
)
の葉がくれにさえずり、シャコと兎がその下にこそこそやっている。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
また春が来ますと、今までは
蕭条
(
しょうじょう
)
として
常磐木
(
ときわぎ
)
のほかの万木千草はことごとく枯れ果てたかと思われていた中に、その一つの枯木の枝頭に
忽
(
こつ
)
として
芬香
(
ふんこう
)
を吐くところの白いものを
見出
(
みいだ
)
します。
俳句とはどんなものか
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
周囲
(
しゅうい
)
の
常磐木
(
ときわぎ
)
の
葉
(
は
)
に、
強
(
つよ
)
く
照
(
て
)
りつけた
太陽
(
たいよう
)
の
光
(
ひかり
)
も、このしぼみかかった、
哀
(
あわ
)
れな
花
(
はな
)
の
上
(
うえ
)
には
頼
(
たよ
)
りなげに
照
(
て
)
らしたのです。
公園の花と毒蛾
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
主人といっしょに
崖
(
がけ
)
を下りて、
小暗
(
おぐら
)
い
路
(
みち
)
に
這入
(
はい
)
った。スコッチ・ファーと云う
常磐木
(
ときわぎ
)
の葉が、
刻
(
きざ
)
み
昆布
(
こんぶ
)
に雲が
這
(
は
)
いかかって、払っても落ちないように見える。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
常磐木
(
ときわぎ
)
が青々と茂っている、泉が地面から湧き出ている。村には一つの
祠
(
ほこら
)
があって狛犬が二匹並んでいる。
沙漠の古都
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
後
(
うしろ
)
の黒い
常磐木
(
ときわぎ
)
の間からは
四阿屋
(
あずまや
)
の
藁
(
わら
)
屋根と
花畠
(
はなばたけ
)
に枯れ死した秋草の
黄色
(
きばみ
)
が
際立
(
きわだ
)
って見えます。縁先の
置石
(
おきいし
)
のかげには
黄金色
(
こがねいろ
)
の小菊が星のように咲き出しました。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
大木の
常磐木
(
ときわぎ
)
へおもしろくかかった
蔦紅葉
(
つたもみじ
)
の色さえも高雅さの現われのように見え、遠くからはすごくさえ思われる一構えがそれであるのを、中納言も船にながめて
源氏物語:49 総角
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
石を、青と赤い
踵
(
かかと
)
で踏んで抜けた二頭の鬼が、
後
(
うしろ
)
から、前を引いて、ずしずしずしと小戻りして、
人立
(
ひとだち
)
の薄さに、植込の
常磐木
(
ときわぎ
)
の影もあらわな、夫人の前へ寄って来た。
怨霊借用
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
節子は元来た道の方へ石段を降りかけようとしたところで、傾斜の半途に蔭の落ちている
常磐木
(
ときわぎ
)
の間を通して、
逸早
(
いちはや
)
く向うの方から歩いて来る人の影を見つけた。そして岸本の側から離れた。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
電線
(
でんせん
)
はうなって、
公園
(
こうえん
)
の
常磐木
(
ときわぎ
)
や、
落葉樹
(
らくようじゅ
)
は、
風
(
かぜ
)
にたわんで、
黒
(
くろ
)
い
頭
(
あたま
)
が、
空
(
そら
)
に
波
(
なみ
)
のごとく、
起伏
(
きふく
)
していました。
公園の花と毒蛾
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
大学の池の水へ、曇つた
常磐木
(
ときわぎ
)
の影が
映
(
うつ
)
る時の様である。それを
鮮
(
あざ
)
やかな
縞
(
しま
)
が、上から下へ貫ぬいてゐる。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
と、黒々と茂っている、
常磐木
(
ときわぎ
)
の葉を背景にして、瓦屋根の上へ夕顔のような、白い女の笑っている顔が、月の光のない中へ、抜けるように浮き出して見えていた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
江戸の武士はその邸宅に花ある木を植えず、
常磐木
(
ときわぎ
)
の中にても殊に松を
尊
(
たっと
)
び愛した故に、
元
(
もと
)
武家の屋敷のあった処には今もなお緑の色かえぬ松の姿にそぞろ昔を思わせる処が少くない。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
年つもりて、
嫩
(
ふたば
)
なりし
常磐木
(
ときわぎ
)
もハヤ丈のびつ。
竜潭譚
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ちょうど、
悪寒
(
おかん
)
に
襲
(
おそ
)
われた
患者
(
かんじゃ
)
のように、
常磐木
(
ときわぎ
)
は、その
黒
(
くろ
)
い
姿
(
すがた
)
を
暗
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
で、しきりに
身震
(
みぶる
)
いしていました。
三月の空の下
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
紙帳は、主人に
邂逅
(
めぐりあ
)
ったのを喜ぶかのように、落葉樹や
常磐木
(
ときわぎ
)
に包まれながら、左門の方へ、長方形の、長い方の面を向け、微風に、その面へ小皺を作り、笑った。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
久しく見ずにいた郊外の
景色
(
けしき
)
も忘れ物を思い出したように
嬉
(
うれ
)
しかった。眼に入るものは青い
麦畠
(
むぎばたけ
)
と青い大根畠と
常磐木
(
ときわぎ
)
の中に赤や黄や褐色を雑多に交ぜた森の色であった。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
常
常用漢字
小5
部首:⼱
11画
磐
漢検準1級
部首:⽯
15画
木
常用漢字
小1
部首:⽊
4画
“常磐”で始まる語句
常磐津
常磐
常磐樹
常磐橋
常磐会
常磐町
常磐館
常磐御前
常磐屋
常磐香