鶏冠とさか)” の例文
旧字:鷄冠
その間を一羽の牡鶏が、鶏冠とさかを振り振り、まるで聴耳でも立てるように時々首を横へ向けながら規則ただしい足どりで歩きまわっていた。
その日、監督は鶏冠とさかをピンと立てた喧嘩鶏けんかどりのように、工場を廻って歩いていた。「どうした、どうした⁉」と怒鳴り散らした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
奇異な赤い鶏頭、縁日物ながら血のやう鶏冠とさか疣々いぼ/″\が怪しい迄日の光を吸ひつけて、じつと凝視みつめてゐる私の瞳を狂気さす。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼の頭にはまだ鶏を追いかけ廻しているたわむれが連続していて、捕吏の頭にも、兵隊の頭にも、鶏冠とさかが生えているように見えているらしかった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
... 付けておくと双方とも大概なおります」老紳士「鶏はよく下痢げりを起すそうですね」中川「あれは鶏の胃腸病で鶏冠とさかの色が白みを ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
農婦はその足もとに大きな手籠てかごを置き家禽かきんを地上に並べている。家禽は両あしを縛られたまま、赤い鶏冠とさかをかしげて目をぎョろぎョろさしている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
かびくさい卵と、鶏冠とさかの焼いたのが一とうのごちそうでした。ぶどうしゅまでがへんな味がしました。それはたまらないまぜものがしてありました。
私は五つ位の時だったが、矮鶏の鶏冠とさかの円いものなどうまく本当のように出来るものだというようなことを感じて見ていたことを微かに覚えている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
頭に三角形の鶏冠とさかのある、竜舌蘭りゅうぜつらんの葉のようなヒョロリと長い奇妙な翼をもった灰褐色の鳥が、糸の切れたたこのように沼の上に逆落しに落ちてきて
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
くれないの小さき鶏冠とさかその眉間みけんにあり、上半身は水晶すいしょうの如く透明にしてかすかに青く、胸に南天の赤き実を二つ並べけたるが如き乳あり、下半身は
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
燃えるような鶏冠とさかの周囲に、地鶏は黄の、レグホンは白の、頸毛の円を描いて、三四寸の距離に相対峙あいたいじしている。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その葵の近所には赤い鶏冠とさかを持っている親鶏が、黄を帯びた小さなひよこを連れて餌を探しながら歩いている。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼等のまわりには数百の鶏が、尾羽根おばね鶏冠とさかをすり合せながら、絶えず嬉しそうに鳴いているのを見た。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ドス黒い雲が重く垂れている渓の入口に素張すばらしい岩山が右から突き出しているのが目を惹く。爺さんに聞くと鶏冠とさか山だと教えてれる。恐ろしい山だと思った。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
可愛い色鳥! ……バタバタもがき羽搏はばたいて、鶏冠とさかくちばしなど怪我せぬよう! ……さあおとなしく巣に籠もれ!
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一つは立派な、脚の長い、けづめの大きな、そして長くて美事な尾を持つ闘鶏で、もう一つは莫迦げて大きな鶏冠とさかと、一寸見えない位短い脚とを持つ小さな倭鶏である。
雄鶏はねたましげに蹴爪けづめの上に伸び上って、最後の決戦を試みようとする。その尾は、剣がね上げるマントのひだそのままである。彼は、鶏冠とさかに血を注いで戦いを挑む。
それ不思議ふしぎいが、如何いかひとおそれねばとて、鶏冠とさかうへで、人一人ひとひとり立騒たちさは先刻さつきから、造着つくりつけたていにきよとんとして、爪立つまだてた片脚かたあしろさうともしなかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
木理によって、うすいところはホロリと欠けぬとは定まらぬ。たとえば矮鶏ちゃぼ尾羽おははしが三五分欠けたら何となる、鶏冠とさかみねの二番目三番目が一分二分欠けたら何となる。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また神河内へと戻って来た私は、蒲田谷の乱石をわたるとき、足首を痛め、弱りこんでいたが、穂高岳の黒くおどした岩壁が、鶏冠とさかのような輪廓を、天半に投げかけ、正面を切って
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そして鶏冠とさかから眼のあたりにかけて、黒い血がおびただしくこびりついていた。人間の声が聞えるのか聞えないのか、鶏は相変らず土間に突ったったまま、びくとも動かなかった。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
あの冑と云うものは鶏冠とさか立毛たてげで飾ってあるではございませんか。10475
うなだれていた彼女の鶏冠とさかは、だんだん元のように、立ち直り始めた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鶏冠とさかのように梳き上げた前髪や、V字形に下唇を突き出したしかつめらしい口もとや——これだけのものをひと目みただけで、こいつはかつて一度も自己に疑いをさし挾んだことのない人間だなと
その札には、白い羽と赤い鶏冠とさかをもった矮鶏ちゃぼの絵が描いてあった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やはり体が白くて、鶏冠とさかの赤いレグホンの雌たちであった。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ただ笛吹川の上流子酉ねとり川の左岸に屹立した鶏冠とさか山のみが、青葉の波の上に名にし負う怪奇な峰頭をもたげて、東沢西沢の入口をやくし、それらの沢の奥深く入り込もうとする人に
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
にわとり初産ういざん肝腎かんじんで、ひな鶏冠とさか紅色あかみを増して来るとモー産み出す前ですから産卵箱というものを少し高い処へこしらえてらなければなりません。石油箱へわらを詰めれば沢山です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、すでに二人の格闘は、鶏冠とさかみ合った軍鶏しゃものようなもの。耳もかす風ではない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こましゃくれる」を「コシャマクレル」、鶏冠とさかを「トカサ」、懐を「フトロコ」、「がむしゃら」を「ガラムシャ」——その外日本語を間違える事はほとんど挙げて数えるのに堪えない。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見馴みなれねえ旅の書生さんじゃ、下ろした荷物に、そべりかかって、腕を曲げての、足をおめえ、草の上へ横投げに投出して、ソレそこいら、白鷺しらさぎ鶏冠とさかのように、川面かわづらへほんのり白く
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなあはれの柳、あなあはれかかりの小舟、寂しとも寂しとも見れ。折からや苫をはね出て、舟縁ふなべりの霜にそびえて、この朝のあか鶏冠とさかの雄のかけが、早やかうかうと啼きけるかも。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
好天気の初夏の日盛りだのに、山の手の往来であるがためか、人の通って行く姿も見えない。と、一羽の雌鶏めんどりであったが、小さい鶏冠とさかを傾けながら、近所の犬にでも追われたのであろう。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
世に化物なし、不思議なし、さるつらは赤し、犬の足は四本にきまっている。人魚だなんて、子供のお伽噺とぎばなしではあるまいし、いいとしをしたお歴々が、ひたいにはくれないの鶏冠とさかあきれるじゃないか。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鶏冠とさかに真っ赤に血を注いで戦いを挑み、空の雄鶏は残らず来いと身構える——しかし、相手は、暴風あらしおもてさらすことさえ恐れないのに、今はただ、微風にたわむれながらくるりと向うをむいてしまう。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それ等のなかを、監督は鶏冠とさかを立てた牡鶏おんどりのように見廻った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
此処ここから眺めた鶏冠とさか山は、半腹以下は樹林に埋められ、胸から上は岩骨を曝露して見るから凄い光景を呈している。間もなく水のあるナレイ沢を瀑の上で横切ると路が二つに岐れる。
がりびたのがまへ鶏冠とさかごとくになつて、頷脚えりあしねてみゝかぶさつた、おしか、白痴ばかか、これからかへるにならうとするやうな少年せうねんわしおどろいた、此方こツち生命いのち別条べつでうはないが、先方様さきさま形相ぎやうさう
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あなあはれ水の辺の柳、あなあはれかかりの小舟、寂しとも寂しとも見れ。折からや苫をはね出て、舟縁の霜にそびえて、この朝のあか鶏冠とさかの雄のかけが、早やかうかうと啼きけるかも。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
... 注意すると誰にでも出来るから一つってみ給え」大原「ウム遣ってみよう、鶏一羽は捨てる処がないというけれども何処でも食べられるものかね」中川「ウム鶏冠とさかは上等の料理になり、 ...
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鶏冠とさかの海にしているのだった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鶏冠とさか山の真黒な岩壁にはいつもながら緑の大波が渦を巻いてぶつかっている。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
五分刈ごぶがりびたのが前は鶏冠とさかのごとくになって、頸脚えりあしねて耳にかぶさった、おしか、白痴ばかか、これからかえるになろうとするような少年。わしは驚いた、こっちの生命いのちに別条はないが、先方様さきさま形相ぎょうそう
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八尺やさかなす桶のここだく、にひしぼりしたたる袋、庭広に干しもつらぬと、咽喉太のどぶとの老いしかけろも、かうかうとうちふる鶏冠とさか、尾長鳥垂り尾のおごり、七妻ななづまをし引き連れ、七十羽ななそはの雛を引き具し
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
東沢の一部では、鶏冠とさか山の懸崖が水際から殆ど千尺の高さに屹立している。
渓三題 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
蒼き鶏冠とさかの、いづれも勢よきを、日に焼けたる手して一ツ一ツ取出すを、としより、弟、またお神楽座かぐらざ一座の太夫、姓は原口、名は秋さん、呼んで女形をんながたといふ容子ようすいのと、皆縁側に出でて
草あやめ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八尺やさかなす桶のここだく、新しぼりしたたる袋、庭広に干しもつらぬと、咽喉太のどぶとの老いしかけろも、かうかうとうちふる鶏冠とさか、尾長鳥垂り尾のおごり、七妻ななづまをし引き連れ、七十羽ななそはの雛を引き具し
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
右へ下ると鶏冠とさか山と沢一つ隔てた東の尾根を子酉川へ下り込んで仕舞う。これは御料局で造った切明けで、立派に登山路と称する資格がある。此山もまた花崗岩の山であることは言う迄もない。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
冬のつちに昂然として立つ軍鶏しやも鶏冠とさか火のごとし流るる頸羽根
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鶏頭はつぶさに黒き種子たねながら鶏冠とさかあけよ燃えつきずけり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)