三稜鏡:(笠松博士の奇怪な外科手術) (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
現代語訳 平家物語:06 第六巻 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
茶話:05 大正八(一九一九)年 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
彼女は、遣瀬なさとかなしさと、不安との為めに立上ることも出来ずにいた。そして、彼女の美しい腕や胸は疲れて、眼は不安に空を見つめたまゝしばらくふるえていた。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
物悲しさだった、甘い寄りどころない遣瀬なさでもまたあった。烈しくそれは次郎吉の五体を揺ってきた。否、五体の隅々果て果てまでを、切なく悩ましく揺り動かしてきた。
……むこうが追いこみにかかっているというのに、こっちは、あっけらかんと口をあいて眺めているというんじゃア、月番の北の番所としちゃ、じつにどうも遣瀬のねえ話なんで。
顎十郎捕物帳:12 咸臨丸受取 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こうしたはかない子供心の遣瀬なさを感じながら日ごと同じ場所に立つお屋敷の子の白いエプロンを掛けた小さい姿を、やがて長屋の子らが崖下から認めたまでには、どうにかして
どうしてあのように軟く人の空想を刺㦸するように出来ているのであろうと、相も変らず遣瀬なき追憶の夢にのみ打沈められるのである。
日和下駄:一名 東京散策記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
リャボーヴィチは名残りの一瞥をメステーチキ村へ送ったが、するとまるで、とても馴染みの深い親しい人に別れでもするような、ひどく遣瀬ない気持になってしまった。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
自動車をおりてから、軒並み細つこい電燈の出てゐる、静かな町へ入つて来ると、結婚前後のことが遣瀬なく思ひ出せて来て仕方がなかつた。泣くにも泣かれないやうな気持だつた。
朝寒の満潮のような遣瀬ない心地が、ヒタヒタと栄三郎の胸にあふれる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こういう恰好をするときは、かえらぬむかしの夢を辿りながら、遣瀬ない物思いに耽っているのである。係長は、そういうこととは知らないから、いい気になって、ひとりでおしゃべりをしている。