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遣瀬
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やるせ
ふりがな文庫
“
遣瀬
(
やるせ
)” の例文
いよいよ
湧起
(
わきおこ
)
る妄想の
遣瀬
(
やるせ
)
なさに、君江は軽く
瞼
(
まぶた
)
を閉じ、われとわが胸を腕の力かぎり抱きしめながら深い息をついて身もだえした。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
遣瀬
(
やるせ
)
の無い焦燥が全身を駈巡って、心臓が熱く激しく急速度の動悸を打出して来る。同時に頭部が
沸
(
たぎ
)
って来る。続いて眩暈が来る。
三稜鏡:(笠松博士の奇怪な外科手術)
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
彼を思ひ是を思ふに、身一つに
降
(
ふ
)
りかゝる
憂
(
う
)
き事の露しげき
今日
(
けふ
)
此ごろ、瀧口三
衣
(
え
)
の袖を絞りかね、
法體
(
ほつたい
)
の
今更
(
いまさら
)
遣瀬
(
やるせ
)
なきぞいぢらしき。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
お母さんの言出した話は、それが国の方の姉の噂であるのか、自分の
遣瀬
(
やるせ
)
ない述懐であるのか、よく分らないような調子に聞えた。
桜の実の熟する時
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
しかし主上の胸中の
遣瀬
(
やるせ
)
なさは益々つのるばかりで、あるとき、古歌の恋歌を
冷泉少将隆房
(
れいぜいのしょうしょうたかふさ
)
を通じて葵の前にお渡しになった。
現代語訳 平家物語:06 第六巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
▼ もっと見る
で、
親族
(
しんぞく
)
の
男
(
をとこ
)
どもが、
挑
(
いど
)
む、
嬲
(
なぶ
)
る、
威丈高
(
ゐたけだか
)
に
成
(
な
)
つて
袖褄
(
そでつま
)
を
引
(
ひ
)
く、
其
(
そ
)
の
遣瀬
(
やるせ
)
なさに、くよ/\
浮世
(
うきよ
)
を
柳隱
(
やなぎがく
)
れに、
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れを
見
(
み
)
るのだ、と
云
(
い
)
ふ。
みつ柏
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
私が
儚
(
はか
)
ない期待を抱いて東京から九州へ参りましてから今はもう十年になりますがその間の私の生活はただ
遣瀬
(
やるせ
)
ない涙を以ておおわれました。
柳原燁子(白蓮)
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
こうして、私にとっては辛いとも
遣瀬
(
やるせ
)
ないとも、悲しいともいら立しいとも、何ともいいようのない忍苦の一年は過ぎた。
血液型殺人事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
弟にはさぞ羨しいことだらうと、思つてみては
遣瀬
(
やるせ
)
ないのであつたが、こんな場合にも、猶生活の変化は嬉しいのである。
亡弟
(新字旧仮名)
/
中原中也
(著)
その間自分はつとめて他のことを心に思ひ浮べてゐたが、それでもいつしかいかにも胸が
遣瀬
(
やるせ
)
なくなつて、つめたい涙は自然に頬を傳つて來る。
古い村
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
勘次
(
かんじ
)
が
去
(
さ
)
つてからお
品
(
しな
)
は
其
(
その
)
混雜
(
こんざつ
)
した
然
(
しか
)
も
寂
(
さび
)
しい
世間
(
せけん
)
に
交
(
まじ
)
つて
遣瀬
(
やるせ
)
のないやうな
心持
(
こゝろもち
)
がして
到頭
(
たうとう
)
罪惡
(
ざいあく
)
を
決行
(
けつかう
)
して
畢
(
しま
)
つた。お
品
(
しな
)
の
腹
(
はら
)
は四
月
(
つき
)
であつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
それは、役所から
閑
(
しず
)
かな街を通っててくてく宿へ帰って行くときよりも、もっともっと深い寂しさ、
遣瀬
(
やるせ
)
なさであった。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
梅雨どきのこととて、
国府津
(
こうづ
)
を過ぎる頃は、雨がしきりに降り出して、しとしとと窓を打ち、その音が、私の
遣瀬
(
やるせ
)
ない思いを一層強めるのであった。
猫と村正
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
このごろ
胸郭
(
むね
)
が急にうつろになって、そこを秋風が吹くような気がする。ことに夕方は身もこころも
遣瀬
(
やるせ
)
なく重い。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
襦袢
(
じゆばん
)
や何かを縫つたり又は
引釈
(
ひきと
)
きものなどをして単調な重苦しい時間を消すのであつたが、然うしてゐると牢獄のやうな
檻
(
をり
)
のなかにゐる
遣瀬
(
やるせ
)
なさを忘れて
或売笑婦の話
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
じつは無に帰したものの
遣瀬
(
やるせ
)
ない
憂愁
(
ゆうしゅう
)
、抑えに抑えつけられた絶望なのだと、ひとしきりそんなことを考えた。
イオーヌィチ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
「出来ないんです、
気根
(
きこん
)
が続かなくつて。」麦僊氏は
遣瀬
(
やるせ
)
が無ささうに左手の
掌面
(
てのひら
)
で右の二の
腕
(
かひな
)
を叩いた。「いつ迄こんななのか知ら。
真実
(
ほんとう
)
に困つちまふ。」
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
そこに無理に作った
遣瀬
(
やるせ
)
無い思いや不如意の
果敢
(
はか
)
なさを、今度は常情以上の悲痛な
液汁
(
えきじゅう
)
にして、まるで酢を好む人のようにも先生は
貪
(
むさぼ
)
り
啜
(
すす
)
ったのかも知れません。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
けれども、やがて暗い黄に移り、雲が魚のような形で、南の方に棚引き出すと、時江はその方角から、ふと
遣瀬
(
やるせ
)
ない郷愁を感じて、心が暗く沈んでしまうのだった。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
それを思うと、彼女は
遣瀬
(
やるせ
)
ないように悲しくなった。しかし又、一方から考えると、母に小判二枚を下さるというのは、殿様が自分を愛している証拠とも見られる。
番町皿屋敷
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼女は、
遣瀬
(
やるせ
)
なさとかなしさと、不安との為めに立上ることも出来ずにいた。そして、彼女の美しい腕や胸は疲れて、眼は不安に空を見つめたまゝしばらくふるえていた。
咲いてゆく花
(新字新仮名)
/
素木しづ
(著)
魚群の到来を村人に知らすサイレンのスウィッチを握ったりして、
遣瀬
(
やるせ
)
なく腕を
扼
(
やく
)
していた。
吊籠と月光と
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
遺骸だけでも捜してやることをしなかったと残念でならないのであった。どんなふうになってどこの海の底の
貝殻
(
かいがら
)
に混じってしまったかと思うと
遣瀬
(
やるせ
)
なく悲しいのであった。
源氏物語:54 蜻蛉
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
物悲しさだった、甘い寄りどころない
遣瀬
(
やるせ
)
なさでもまたあった。烈しくそれは次郎吉の五体を揺ってきた。否、五体の隅々果て果てまでを、切なく悩ましく揺り動かしてきた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
他所の
掃溜
(
はきだめ
)
あさってみたり。物を貰うて又生き延びるよ。そのうち正気に帰るにしても。そこでこの世の悲しさ辛らさが。
遣瀬
(
やるせ
)
ないほど身に
沁
(
し
)
み渡る。又は吾身の姿に恥じて。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
「そうさ、それが出来るようなら文句はねえんだが……」と
遣瀬
(
やるせ
)
なさそうに面を挙げて
深川女房
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
早く生れたものは早く老い、早く死ぬとそれ程のことですがどんなに悲しく
遣瀬
(
やるせ
)
ないことに思はれたでせう。私はそれを足つぎをして
下
(
おろ
)
さうとはせずにそのまゝ眺めて居ました。
私の生ひ立ち
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
心細さの
遣瀬
(
やるせ
)
がなく、泣くより外に
詮
(
せん
)
がなかったのだろう。そんなに母に叱られたか……一晩中泣きとおした……なるほどなどと思うと、再び熱い涙が
漲
(
みなぎ
)
り出してとめどがない。
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
……むこうが追いこみにかかっているというのに、こっちは、あっけらかんと口をあいて眺めているというんじゃア、月番の北の番所としちゃ、じつにどうも
遣瀬
(
やるせ
)
のねえ話なんで。
顎十郎捕物帳:12 咸臨丸受取
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
逸子はもう、何も彼も投げ出して仕舞ひたいやうな
遣瀬
(
やるせ
)
なさを感じて
焦
(
じ
)
り/\した。
惑ひ
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
こうしたはかない子供心の
遣瀬
(
やるせ
)
なさを感じながら日ごと同じ場所に立つお屋敷の子の白いエプロンを掛けた小さい姿を、やがて長屋の子らが崖下から認めたまでには、どうにかして
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
そのきめの
細
(
こまか
)
い皮膚は、魚のようにねっとりとした
艶
(
つや
)
とピチピチした
触感
(
しょっかん
)
とを持っていた。その白い脛が階段の一つをのぼる
度毎
(
たびごと
)
に、
緋色
(
ひいろ
)
の長い
蹴出
(
けだ
)
しが、
遣瀬
(
やるせ
)
なく
搦
(
から
)
みつくのであった。
階段
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
芳子がその二階に泊って寝ていた時、もし自分がこっそりその二階に登って行って、
遣瀬
(
やるせ
)
なき恋を語ったらどうであろう。
危座
(
きざ
)
して自分を
諌
(
いさ
)
めるかも知れぬ。声を立てて人を呼ぶかも知れぬ。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
彼が妻の
懐
(
ふところ
)
に
啜泣
(
すすりなき
)
しても足りないほどの
遣瀬
(
やるせ
)
ないこころを持ち、ある時は
蕩子
(
たわれお
)
戯女
(
たわれめ
)
の痴情にも近い多くのあわれさを考えたのもそれは皆
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
どうしてあのように軟く人の空想を刺㦸するように出来ているのであろうと、相も変らず
遣瀬
(
やるせ
)
なき追憶の夢にのみ打沈められるのである。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
と、お珊が二度ばかり勧めたけれども、
騒立
(
さわぎた
)
つらしい胸の響きに、烏帽子の
総
(
ふさ
)
の揺るるのみ。美津は
遣瀬
(
やるせ
)
なげに手を控える。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
然るに、悪いことをすれば、法律というもののために罰せられねばならない。従ってそこに法律という厭なものに触れる恐ろしさ
遣瀬
(
やるせ
)
なさが生じて来る。
「心理試験」序
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
彼は初めてそうした華やかな群の中へ入ったのだが、何というわけもなく、
沁々
(
しみじみ
)
寂しさと
遣瀬
(
やるせ
)
なさを感じた。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
リャボーヴィチは名残りの一瞥をメステーチキ村へ送ったが、するとまるで、とても馴染みの深い親しい人に別れでもするような、ひどく
遣瀬
(
やるせ
)
ない気持になってしまった。
接吻
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
然
(
しか
)
し
幾
(
いく
)
らも
耕
(
たがや
)
さぬうちに
日
(
ひ
)
は
落
(
お
)
ちて
俄
(
には
)
かに
冷
(
つめ
)
たく
成
(
な
)
つた
世間
(
せけん
)
は
暗澹
(
あんたん
)
として
來
(
き
)
た。お
品
(
しな
)
は
勘次
(
かんじ
)
を
出
(
だ
)
して
酷
(
ひど
)
く
遣瀬
(
やるせ
)
ないやうな
心持
(
こゝろもち
)
になつて、
雨戸
(
あまど
)
を
引
(
ひか
)
せて
闇
(
くら
)
い
方
(
はう
)
へ
向
(
むい
)
て
目
(
め
)
を
閉
(
と
)
ぢた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
お
互
(
たがひ
)
になんとなくつまらない、とりとめもない
不安
(
ふあん
)
と
遣瀬
(
やるせ
)
なさが、
空虚
(
くうきよ
)
な
心
(
こゝろ
)
を
包
(
つゝ
)
んでゐるやうであつた。
二人
(
ふたり
)
は
家
(
いへ
)
にゐることが
淋
(
さび
)
しく、
夜
(
よる
)
になつて
寢
(
ね
)
ることがものたりなかつた。
追憶
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
そこで、せめて、かたみに血の
繋
(
つな
)
がっているむす子を残して、なおも、この都とのつながりを取りとめて置く。そんな
遣瀬
(
やるせ
)
ない親達の欲情も手伝って、むす子は巴里に残された。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そうして、身も痩せるばかりの
果敢
(
はか
)
ない、
遣瀬
(
やるせ
)
ない思いに悩みつづけているのであった。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
自動車をおりてから、軒並み細つこい電燈の出てゐる、静かな町へ入つて来ると、結婚前後のことが
遣瀬
(
やるせ
)
なく思ひ出せて来て仕方がなかつた。泣くにも泣かれないやうな気持だつた。
のらもの
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
解きがたい
謎
(
なぞ
)
を
抱
(
いだ
)
いて青空を流れる雲の
行衛
(
ゆくえ
)
を見守った
遣瀬
(
やるせ
)
ない心持が
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
朝寒の満潮のような
遣瀬
(
やるせ
)
ない心地が、ヒタヒタと栄三郎の胸にあふれる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
こういう恰好をするときは、かえらぬむかしの夢を辿りながら、
遣瀬
(
やるせ
)
ない物思いに耽っているのである。係長は、そういうこととは知らないから、いい気になって、ひとりでおしゃべりをしている。
我が家の楽園
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
いかにも
遣瀬
(
やるせ
)
ないというように
微
(
かす
)
かに弁解した。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
君よ、わたしの
遣瀬
(
やるせ
)
なさ
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
お種は激しく身体を
震
(
ふるわ
)
せた。父が吟じたという古歌——それはやがて彼女の
遣瀬
(
やるせ
)
ない心であるかのように、殊に力を入れて吟じて聞かせた。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
遣
常用漢字
中学
部首:⾡
13画
瀬
常用漢字
中学
部首:⽔
19画
“遣瀬”で始まる語句
遣瀬無