追々おいおい)” の例文
関東の地震はほぼ周期的に起こるものであって、追々おいおいその時期が近づきつつあるとの学説を伝え聞いたのは、もう十年ほども前であった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
わたし追々おいおいに取る年だ。世間の取沙汰のしずかになるのを待っているうちには大方眼も見えず筆を持つ手も利かなくなろう……。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
追々おいおい心がけては集めるのでしたが、形も小さく価格もそれほどでないので、入手しやすいのです。折々『装剣奇賞』などを見ていました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
くわしいことはあと追々おいおいはなすとして、かく人間にんげん竜神りゅうじん子孫しそんそちとてももとさかのぼれば、矢張やはりさるとうと竜神様りゅうじんさま御末裔みすえなのじゃ。
と述べたが、天国に行かずとも、同じ地球の表面においてすらも、時の移るとともに人の勝敗しょうはいを定める標準が追々おいおい違って来るかと思われる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「土地の繁昌は結構だが、銀山の鉱夫などが大勢入込いりこんで来たので、怪しげな料理屋などが追々おいおい殖えて来るのはちっと困る。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
衆人追々おいおい支那欧亜の唱歌を聴き、韻踋に一段の妙趣あることを知り得ば、その趣にならい、邦語をもって新曲を製すること、また難からざるべし。
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
否々、しまひには自分の男の児が女として育つてり、自分の女の児が男として育つて居ることさへ追々おいおい忘れて仕舞つたかのやうでありました。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
この雑誌の読者は何万人とあるはずだから、その中から追々おいおいに跡を継いで話をすることにしたらにぎやかでよかろうと思う。
たけのこの出さかりで、孟宗藪もうそうやぶを有つ家は、朝々早起きがたのしみだ。肥料もかゝるが、一反八十円から百円にもなるので、雑木山は追々おいおい孟宗藪に化けて行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なおその上に財産が追々おいおい殖えるということを、他の動物らが聞き知ったならば、いかに不可思議に感ずるであろうか。
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
はじめはマッチ、つぎにたばこと逆なところに、これも後日追々おいおい判然したんだが、愛すべきリンピイの狡才があった。
比叡の権僧正ごんのそうじょうである弟を除くと、兄弟親族はみなほとんど兵部ひょうぶに関係した職についていたが、泰文だけは異例で、若いころから数理にすぐれて、追々おいおい
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これが追々おいおい進歩発達したならば、頗る面白いと思っていた所、ついそのままで姿を隠してしまったのは残念である。
活動写真 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
追々おいおいと世の中が世智辛せちがらくなって来たら、こうした正札一点張りの無言の商売が大流行おおはやりをするようになりはすまいか。
まるで目に見えぬ瘴気しょうきの湧きあがるように不吉な空気が追々おいおい色を深め、虫のついた大黒柱のように家ぐるみひたむきに没落の道をたどっていたのだった。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
やぶ医者の薬も瑠璃光薬師るりこうやくしより尊き善女ぜんにょの手に持たせ玉える茶碗ちゃわんにてまさるれば何きかざるべき、追々おいおい快方に赴き
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『何、よろこんで死んだわさ。貴様も、内匠頭様の中小姓とまでなって、追々おいおいと、お覚えもよいと聞いてな……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが追々おいおい笑って済ませなくなるまでには、——この幽鬱な仮面かめんに隠れている彼の煩悶はんもんに感づくまでには、まだおよそ二三箇月の時間が必要だったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おっしゃる通りこの鞄の中にあるのがその金ですが、どうして私の手に入ったかはこれから追々おいおいお話しますよ。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼は実にその身の如何に落着するかを知らず、ただその友人に向って、「天下の事追々おいおい面白く成るなり。くじけるなかれ、くじける勿れ、神州は必ず滅びざるなり」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
敵を討った三人の周囲へは、山本家の親戚が追々おいおいせ附けた。三人に鵜殿家からすし生菓子なまがしとを贈った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
一昨二十八日兵庫ひょうご着港、昨日十一番会社(オリエンタル・バンクのこと)ロッセル、ゴロンビー両人に面会したところ、造幣寮開設後追々おいおい外国人から地金を差出し
明治の五十銭銀貨 (新字新仮名) / 服部之総(著)
校長は時計を出して見て、追々おいおいゆるりと話すつもりだが、まず大体の事をみ込んでおいてもらおうと云って、それから教育の精神について長いお談義を聞かした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
トウ/\手足もかなわぬと云う程になって、追々おいおい全快するがごとく全快せざるが如くして居るあいだに、右の手は使うことが出来ずに左の手に筆をもって書くと云うような容体ようだい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それだけにまた娘の、世馴よなれて、人見知りをしない様子は、以下の挙動ふるまい追々おいおいに知れようと思う。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
追々おいおい旗色はたいろが悪くなって来るようだから退却としよう。もうソロソロ杉山さんが見える時分だ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お登和さんの料理法で君が追々おいおい物の味を覚えたら自然と大食がむだろうという評議だよ。牛肉屋の二階でビフテキを食べるように五人前もおかわりをされて溜まるものか。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
当劇団も追々おいおいとお引立てを蒙り細々ながら経営をつゞけておりますところ、座長、幹部俳優ともなりますれば、ゴヒイキは有難いもの、物資不足の当節にも拘らず、色々と差入れがありまして
退歩主義者 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そのほか、風俗言語の上に、なほいろいろと変つた事があるやうであるが、よくよく研究せねばわれわれには分らぬ事が多い。追々おいおい分つて来たらばいよいよ面白いに違ひない。(五月二十七日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
白骨しらほねまでおいでになるのですか、これから、このかんに向おうとする時分に……それはそれは大変なことでございます、あちらでは追々おいおい、お湯をとざして、大野や松本へ出てまいりまする時分に
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それについては追々おいおい申し上げるとして、さて、生理学総論に於て、私たちは、前述の人工アメーバや人工心臓のように、凡ての生活現象なるものは、それがたといどんなに複雑なものであっても
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「ハイ、それは追々おいおい御話し申上げる心算つもりでございます」
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうしてロオラも追々おいおいとわたしになついて来ます。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
追々おいおい分かる。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
しかしてゲーテ崇拝すうはいの念の増すのは、さきの某文士のげんによれば、あるいはみずか俗化ぞっかして理想の光明こうみょう追々おいおいうすらぐのそしりを受けるかも知れぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
……練出すときはさほどでもなかったが、追々おいおい陽がのぼるにつれて、象の胎内はせっかえるような暑さになった。
追々おいおい人数が殖えて来ると、そのラムプの形を知っているものは団員に相違ないと認める組織になっていたという。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
宗右衛門はこの苦痛の為めに、追々おいおい娘達の部屋を訪れなくなつたのであつた。母の無いのちの一層たよりない娘達をかえつて訪ねて来なくなつたのであつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
現在の住居は寺の堂か、お宮の軒の下などに限られているかと思うが、これだけでは追々おいおいに来なくなるだろう。
ただ、そのわたくしが、年とともに追々おいおい違って来るのを感じるのである。青年、壮年期のわたくしには、どうしてもさかんなる功利や欲情がじって燃える。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し其前彼女は実家に居る時から追々おいおいに金を信州へ送り、千曲川の辺のうちも其れで建てたと云うことであった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「まあ初めは古人の作からはじめて、追々おいおいは同人の創作なんかもやるつもりです」「古人の作というと白楽天はくらくてん琵琶行びわこうのようなものででもあるんですか」「いいえ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
○東京市内から西洋人の姿の追々おいおいまれになって行ったのは、日露戦役の頃からであろう。官省会社等に顧問として雇われていた西洋人は大方おおかた任を解かれるようになった。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
病中は括枕くくりまくら坐蒲団ざぶとんか何かをくくって枕にして居たが、追々おいおい元の体に恢復かいふくして来た所で、ただの枕をして見たいと思い、その時に私は中津の倉屋敷に兄と同居して居たので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その計画については、追々おいおいに知らせることにしよう。毎日人目のない折を見計らって、出来る丈け度々土蔵の下へ来て下さい。昼間でもここへは滅多に人も来ないから大丈夫です。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
喬介は直ちに手袋をはめると、比較的あたらしい鉄屑のそばへ腰をかがめて、ごそごそとさばき始めた。暫く一面にき廻していたが、んの変化も見られない。追々おいおい私は倦怠けんたいを覚え始めた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
正三君は安斉先生が追々おいおいこわくなくなってきた。それはこの老人の信任がダンダンましてきたからである。時々学監室へ呼びこまれるが、註文ちゅうもんを承った後で、いつもねぎらってもらえる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
するとその音色ねいろの面白さには、悪者の土蜘蛛も、追々おいおい我を忘れたのでしょう。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あけてもくれてもひじさすきもを焦がし、うえては敵の肉にくらい、渇しては敵の血を飲まんとするまで修羅しゅらちまた阿修羅あしゅらとなって働けば、功名トつあらわれ二ツあらわれて総督の御覚おんおぼえめでたく追々おいおいの出世
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)