にぎやか)” の例文
にぎやかじゃあるし、料理が上手だからおかずうまいし、君、昨夜ゆうべは妹たちと一所に西洋料理をおごって貰った、僕は七皿喰った。ははは
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたし貴方あなたに無理にお願をしてバイヲリンの稽古けいこまでして、家庭をにぎやかにしやうと心掛けてゐるやうな譯ぢやございませんか。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それからにぎやかな往来へ出ると、ぽつぽつ雨が降つて来た。その時急にさつきの女と、以前つた所を思ひ出した。今度は急に下司げすな気がした。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
初め市中との交通は白髯橋しらひげばしの方面一筋だけであったので、去年京成電車が運転を廃止する頃までは其停留場に近いところが一番にぎやかであった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いらっしゃれば大概二週間位は遊興をお尽しなさって、その間は、常にひっそりしてる市中が大そうにぎやかになるんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
肴の荷をいて走る魚河岸うおがしの若い者では、「霜しろく荷ひつれけり」はうつるまい。但一人でないから、幾分にぎやかな様子はこの句からも窺うことが出来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
人夫を除いても四、五十人の一行が押寄せたので、山中の別天地も都会の宿屋と同じようなにぎやかさである。
うすら寒い風に送られて人々はぞろぞろにぎやかなサン・ミッシェルの通りへ出る。ここは現代が溢れた往来だ。売店のまわりに集まって大学新聞を買って読む世界の国々の学生。
食魔に贈る (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
残つた大部分の牛肉は廊下を隔てた取的の部屋を選ばれた。取的の部屋が俄ににぎやかになる。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
宗教画にいろどられた高い門をくゞつてにぎやかな街へ出た。朴氏は勧工場くわんこうばへ私をれて行つたが、私は汽車賃がいづれ又追加される様な気がして莫斯科モスコオの記念の品も買ふ気にはなれなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
友人にことわって自分だけは帰ろうとしたが、友人が無理に引止ひきとめるので、仕方なしに、そのよいはまだ早かったが、三階の一番すみの部屋で、一人寝ていると、外もそろそろにぎやかになって来たようだが
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
水色と泥色に染めわけられた波模様を手のひらにのせてみながら戻って机のうえにならべておく。どん栗と貝殻と杉の花とでにぎやかになった机に頬杖をついてぼんやりと魚狗かわせみのことを考えはじめた。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「お定さん、今日は大層にぎやかだね」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
虫の音楽 にぎやか
蛍の灯台 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
が、雷か、地震か、爆発のぜん一秒を封じた魔の殿堂の趣して、楽園の石も且つ霜柱のごとくおもかげに立つのをあとに、しばらくして、にぎやかとおりへ出た。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この景色を見た自分たちは、さすがに皆一種の羞恥しゅうちを感じて、しばらくの間はひっそりと、にぎやかな笑い声を絶ってしまった。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さびしいのも好かったし、にぎやかなのもまたわるくはなかった。涙の夜も忘れがたく、笑の日もまた忘れがたいのである。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の心は、例に依ツて淋しくも無ければ、にぎやかでも無かツた。で讀書と思索とが彼の友となツて格別退屈もせずにゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
曇った空は霧のような雨を降らして蒸暑い。ユーゼーン・コルナッシュ通りの群集は並木の緑と一緒に磨硝子すりガラスのような気体のなかに収まってにぎやかな影をぼかして居る。乗馬時間で通るものは馬が多い。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それほど私はにぎやか下座げざはやしと桜の釣枝つりえだとの世界にいながら、心は全然そう云うものと没交渉な、いまわしい色彩を帯びた想像に苦しめられていたのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……その柳の下を、駈けて通る腕車くるまも見えず、人通りはちらほらと、都で言えば朧夜おぼろよを浮れ出したようなさまだけれども、この土地ではこれでもにぎやかな町のぶん
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「友達につれられてはじめて見に行つたんですが、わたし見たやうなものには居られません。さうざうしくつて。あなた。お好きですか。にぎやかなところが……。」
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
解剖臺に据ゑられたんだからと謂ツて、人間が變ツて生れたのでも何んでも無い。矢張やツぱり我々が母の胎盤を離れた時のやうに、何か希望を持ツて、そして幾分か歡喜の間ににぎやかに生れたものだ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
茶の間の方では、癇高かんだかい妻のおひやくの声や内気らしい嫁のおみちの声がにぎやかに聞えてゐる。時々太い男の声がまじるのは、折からせがれ宗伯そうはくも帰り合せたらしい。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「こっちへ来てから一度も銀座の方へ行かないから、きっと変ったでしょうね。今どこが一番にぎやかなのか知ら。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見た処、大広間、六七十畳、舞台を二十畳ばかりとして、見物は一杯とまではない、がにぎやかであった。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度お前が浮世うきよ榮華えいぐわあこがれてゐるやうに、俺は智識慾にかつしてゐる………だから社交もいやなら、芝居見物も嫌さ。家をにぎやかにしろといふのは、なにも人を寄せてキヤツ/\とツてゐろといふのぢやない。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ふと中西屋なかにしやの前を通りかかると、なぜかにぎやかな人声と、暖い飲料とが急に恋しくなったので、そこにあったカッフェの一つへ、何気なにげなく独りではいって見た。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
商店は残らず戸を閉め、宵のうちにぎやかな露店も今は道端にあくた紙屑かみくずを散らして立去った後、ふけ渡った阪道には屋台の飲食店がところどころに残っているばかり。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「……ねえさん、ここの前を右へ出て、おおきな絵はがき屋だの、小料理屋だの、にぎやかな処を通り抜けると、旧街道のようで、町家まちやの揃った処がある。あれはどこへく道だね。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といふ呼聲よびごゑが闇の中から、にぎやかに、併し何となく物靜にきこえる。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もしそれがにぎやかな都会の中央であったならば、われわれは無限の光栄に包まれ感謝の涙にその眼を曇らして、一国の繁華を代表する偉大の背景を打目戍うちまもるであろう。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三十一日さんじふいちにち小田原をだはら見物けんぶつ遊女屋いうぢよやのきならべてにぎやかなり。蒲燒屋かばやきやのぞ外郎うゐらうあがなひなどしてぼんやりとほる。風采ふうさいきはめて北八きたはちたり。萬年町まんねんちやうといふに名代なだい藤棚ふぢだな小田原をだはらしろる。
熱海の春 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その内に二人は、本郷行ほんごうゆきの電車に乗るべき、あるにぎやかな四つ辻へ来た。そこには無数の燈火ともしびが暗い空をあぶった下に、電車、自動車、人力車じんりきしゃの流れが、絶えず四方から押し寄せていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
起きている家は一軒もないが、まだ杜絶とだえない人通りは牛込見附うしごめみつけの近くなるに従っていよいよにぎやかになる。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それ以来自分が気をつけて見ると、京都界隈かいわいにはどこへ行つても竹藪がある。どんなにぎやか町中まちなかでも、こればかりは決して油断が出来ない。一つ家並やなみはづれたと思ふと、すぐ竹藪が出現する。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
縁でながめても、二階から伸上っても、それに……地方の事だから、板葺いたぶき屋根へ上ってみまわしても、実は建連たてつらなったにぎやか町家まちやに隔てられて、その方角には、橋はもとよりの事、川のながれも見えないし
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
池のまわりは浅草公園の釣堀も及ばぬにぎやかさである。どじょうふなと時には大きなうなぎが釣れるという事だ。
洋一はそう云う間でも、絶えずにぎやかな大通りへ眼をやる事を忘れなかった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ごと、むこう三軒両隣と申しました工合ぐあいに、玉転たまころがし、射的だの、あなた、賭的かけまとがござりまして、山のように積んだ景物の数ほど、あかりが沢山きまして、いつも花盛りのような、にぎやかな処でござります。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
公園裏に逢坂屋という洋食屋があるがここも料理はわるくなかった。戦災後も引つづき商いをしているそうだ。金龍館横手のにぎやかな商店街には戦災前、花屋、みやこ、米作。
浅草むかしばなし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すてきに物干ものほしにぎやかだから、そっと寄って、隅の本箱の横、二階裏にかいうら肘掛窓ひじかけまどから、まぶしい目をぱちくりとってのぞくと、柱からも、横木からも、頭の上の小廂こびさしからも、あたたかな影をかし、羽を光らして
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老人は憮然ぶぜんとして、眼を挙げた。あたりではやはりにぎやかな談笑の声につれて、大ぜいの裸の人間が、目まぐるしく湯気の中に動いてゐる。柘榴口の中の歌祭文にも、めりやすやよしこのの声が加はつた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
にぎやかな人通に交って、むつまし気に話し合いながら買物をしている二人づれの男女があるのを、ふと見ると、男は自分の恋している山室で、連の女はその辺に出ている広告の写真などで
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのにぎやかな明るいの町へ向わずに、黒塀添いを傘で導く。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて小流れに石の橋がかかっていて、片側に交番、片側に平野という料理屋があった。それから公園に近くなるにつれて商店や飲食店が次第に増えて、にぎやかな町になるのであった。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一時は随分にぎやかでした。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鈴代 わたし夜になるとあかりのついたにぎやかな処へ行きたくなって、我慢ができないのよ。
「大分にぎやかじゃの。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大通の方から号外売の叫ぶ声が聞え、どこか近くの家からはにぎやかな人声が聞える。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)