親仁おやじ)” の例文
おまけに一人の親仁おやじなぞは、媽々衆かかしゅう行水ぎょうずいの間、引渡ひきわたされたものと見えて、小児こどもを一人胡坐あぐらの上へ抱いて、雁首がんくび俯向うつむけにくわ煙管ぎせる
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又右衛門は濁酒どぶろくの燗を熱く熱くと幾度も云ったそうである。茶屋の親仁おやじだから燗の事だけは確かに明瞭はっきりと覚えていたにちがいない。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
案内はガラッ八、何となくそぐわない空気の中にも、商売柄の愛嬌あいきょうで、茶店の親仁おやじの善六と、看板娘のお常が機嫌よく迎えてくれます。
僕の親仁おやじは日本橋檜物ひもの町に開業してるから、手紙を書いてろうといって、親仁名当なあての一封を呉れたから私は喜んでこれ請取うけと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「どうせおれは薄情だ、こんな薄情者にいつまでもくっついてないで、い男でも持って、親仁おやじの讐を打ってもらうがいいよ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
警察に駈け込んで来た質屋の親仁おやじの禿頭は娘の顔を見ると泣いて喜んだ。手錠をかけられた男を見ると掴みかかろうとした。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
船頭と親仁おやじは声をらして乗客を一人一人、船の底へ移します。船の底の真暗な中へ移された二十三人の乗合は、そこで見えないかおをつき合せて
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親仁おやじは郵便局の配達か何かで、大酒呑で、阿母おふくろはお引摺ひきずりと来ているから、いつ鍵裂かぎざきだらけの着物を着て、かかとの切れた冷飯草履ひやめしぞうりを突掛け、片手に貧乏徳利を提げ
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
伊右衛門 昔気質の偏屈親仁おやじ。勘当されたも、やっぱりこれもお岩の死霊か。イヤ、あきれたものだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
花咲爺のはなしは誰も知る通り、犬に情け厚かった老爺はその犬の灰で枯木に花を咲かせて重賞され、犬に辛かった親仁おやじはそれを羨んで灰を君公の眼に入れて厳罰された次第を述べたのだが
師走しわすも押し詰まったころになると、中津川の備前屋びぜんや親仁おやじが十日あまりも馬籠へ来て泊まっていて、町中へ小貸こがしなどした。その金でようやく村のものが年を越したくらいの土地がらであった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
さて雑誌は益〻ます/\売れるのであつたが、会計くわいけい不取締ふとりしまりひとつには卸売おろしうりあるかせた親仁おやじ篤実とくじつさうに見えて、実ははなはふとやつであつたのを知らずにために、此奴こいつ余程よほどいやうな事をれたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
釜屋の親仁おやじさんは子供をつれてきて
妹の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
と低い四目垣よつめがき一足ひとあし寄ると、ゆっくりと腰をのして、背後うしろへよいとこさとるように伸びた。親仁おやじとの間は、隔てる草も別になかった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その晩親仁おやじの松蔵が練馬ねりまへ行くはずだから、疑いは万に一つも親仁へ懸るはずはないと思い込み、犬まで殺して仕事に取りかかったが
おまけに今度は全体の遣口やりくちが、以前よりもズット合理的になって来たらしく、友吉親仁おやじの千里眼、順風耳じゅんぷうじを以てしてもナカナカ見当が付けにくい。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのとき私は同行少年の名を借りて三輪光五郎みわみつごろう(今日は府下目黒のビール会社に居る)と名乗なのって居たが、一寸ちょいと上陸して髪結床かみゆいどこいった所が、床の親仁おやじ喋々ちょうちょう述べて居る
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
水手かこの勝が威勢よく返事をしました。お松は伝馬に乗って岸へ行くためにかよぐちから出直して、伝馬に乗るべく元船もとふねを下りて行きました。その後で船頭、親仁おやじ水手かこ舵手かじとりらが
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もうびんに大分白髪しらがも見える、汚ない髭の親仁おやじの私が、親に継いでは犬の事を憶い出すなんぞと、あんまり馬鹿気ていてお話にならぬ——と、被仰おっしゃるお方が有るかも知れんが、私に取っては
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
が、その時の大火傷おおやけど、享年六十有七歳にして、生まれもつかぬ不具かたわもの——渾名あだなを、てんぼうがに宰八さいはちと云う、秋谷在の名物親仁おやじ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「親分も知っていなさるだろうが、田代屋の総領というのはあの水道端の又五郎って、親仁おやじにも弟にも似ぬ、恐ろしい道楽者だ」
早速横ッ飛びに本町の事務室に帰って来て、小使部屋を覗いてみると、友吉親仁おやじは忰と差向いでヘボ将棋を指している。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
主公が家にる手紙を出して、之を屋敷に届けて呉れ、親仁おやじう/\伝言をして呉れと云い、又別に私の母の従弟いとこ大橋六助おおはしろくすけと云う男に遣る手紙を渡して、これを六助の処に持て行け
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何百年かわからない古襖ふるぶすまの正面、板ののようなゆか背負しょって、大胡坐おおあぐらで控えたのは、何と、鳴子なるこわたし仁王立におうだちで越した抜群ばつぐんなその親仁おやじで。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あかり背負しょった五十年配の屈強な親仁おやじ、左官の彦兵衛ひこべえといえば、仕事のうまいよりは、頑固一徹なので界隈かいわいに知られた顔です。
「アハハ」と今度は吾輩が頭を掻いたが、親仁おやじがちょっと両手を合わせて拝む真似をしたのを見ると可哀相になった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四十親仁おやじで、これの小僧の時は、まだ微禄びろくをしません以前の……その婆のとこに下男奉公、女房かかあも女中奉公をしたものだそうで。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親仁おやじ昔気質むかしかたぎで、腕一本は惜しくないが、家の中の取締りがつかないから、縄付を出しても仕方がない、吹矢を飛ばした女を突き出せ——とこう申します。
ところがこの友吉という親仁おやじが、持って生れた利かぬ気の上に、一種の鋭い直感力を持っていたらしいんだね。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
親仁おやじわめくと、婦人おんなはちょっと立って白いつまさきをちょろちょろと真黒まっくろすすけた太い柱をたてに取って、馬の目の届かぬほどに小隠れた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
禿頭の丸柿親仁おやじは返事をしなかった。汗を掻いてペコペコしている万平の姿を見上げ見下した。いよいよ苦々しい顔になってギョロギョロと眼を光らし初めた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文次郎はひどく吾妻屋を怨み、「折があったら、あの親仁おやじを叩き殺す」とまで放言していたというのです。
もやが分れて、海面うなづらこつとしてそびえ立った、いわつづきの見上ぐる上。草蒸す頂に人ありて、目の下に声を懸けた、樵夫きこりと覚しき一個ひとり親仁おやじ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野次馬に覗かれないように表の板戸をおろしかけていた博奕打ばくちうちの藤六という宿屋の親仁おやじがヒョコリと頭を下げて通してくれた。こっちも頭を下げながら出会いがしらに問うた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
死んだ者の悪口を言うようだが、あの喜平親仁おやじは、思いのほか判らねえ男さ。たった三十両ばかりの借りを、月に二度ずつ催促されちゃ、俺だって気が滅入るだろうじゃないか。
私とそでを合わせて立った、たちばな八郎が、ついその番傘の下になる……しじみ剥身むきみゆだったのを笊に盛ってつくばっている親仁おやじに言った。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親仁おやじは妙に笑いながら表の戸をピッタリと閉め切った。上り框に腰をかけて声を潜めた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一々お前にさからって済まねえが、——今朝っから気色きしょくの悪いことが続くんだよ、家主おおや親仁おやじがやって来て、立退く約束で家賃を棒引にした店子たなこが、此方の足元を見て、てこでも動かねえから
もう一ツ小盥をかさねたのを両方振分にして天秤てんびんで担いだ、六十ばかりの親仁おやじやせさらぼい、枯木に目と鼻とのついた姿で、さもさも寒そう。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬の熱が取れる位なら人間の熱にも利くだろうが……とその荒物屋の親仁おやじが云うので買って来た……しかし畜生は薬がよく利くから、分量が少くてよいという事を俺はきいている。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
六十を越した重左衛門は、世馴れた物わかりのよい親仁おやじです。
幕間まくあい売歩行うりあるく、売子の数の多き中に、物語の銀六とてたわけたる親仁おやじ交りたり。茶の運びもし、火鉢も持て来、下足の手伝もする事あり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
米相場が名人で親仁おやじにしかられしかられ語学をやっているのが居る。
山は御祭礼おまつりで、お迎いだ——とよう。……此奴こやつはよ、でかきのこで、釣鐘蕈つりがねだけと言うて、叩くとガーンと音のする、劫羅こうら経た親仁おやじよ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親仁おやじはどうして僕を信用してくれないんだろう」
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
可惜あたら、鼓のしらべの緒にでも干す事か、縄をもって一方から引窓の紐にかけ渡したのは無慙むざんであるが、親仁おやじが心は優しかった。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これが親仁おやじとは大違いの不肖の子で
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの、樹の下の、暗え中へ頭突込つッこんだと思わっせえまし、お前様、苦虫の親仁おやじ年効としがいもねえ、新造子しんぞっこが抱着かれたように、キャアと云うだ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すさまじくいなないて前足を両方中空なかぞらひるがえしたから、小さな親仁おやじは仰向けにひっくりかえった、ずどんどう、月夜に砂煙がぱっと立つ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……あまつさえ、目の赤い親仁おやじや、襤褸半纏ぼろばんてん漢等おのこら、俗に——云うわた拾いが、出刃庖丁を斜に構えて、このはらわたを切売する。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)