あら)” の例文
大鷲おほとり神社のそばの田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二三にんの人がはあらはれた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
な会はざるにあらざるべし、作者の彼を写して粋癖をあらはすや、すでに恋愛と呼べる不粋者を度外視してかゝれるを知らざる可からず。
これは厄介な事をやり始めた者だと少々辟易へきえきしていると入口の方に浅黄木綿あさぎもめんの着物をきた七十ばかりの坊主がぬっとあらわれた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、再び学窓に其人はあらはれなかつた。山間水涯さんかんすゐがいに姓名を埋めて、平凡人となりおほするつもりに料簡をつけたのであらう。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ただ我が思ふままに馳駆ちくして可なり。試みに芭蕉一派の連句をひらき見よ。その古格を破りて縦横に思想を吐き散らせし処常にその妙をあらはすを。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
象次郎曰ふ、復古はかたきに非ず、然れども門地もんちはいし、門閥もんばつめ、けんぐることはうなきに非ざれば、則ち不可なりと。二人の本領自らあらはる。
その実際にあらわれたるところの損益を論ずることあらば、その誇るところのものはけっして誇るに足らざるものならん。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼は何の為すところなく死することを恐れた。ここに一道の光明は彼にあらわれた、それはある高官の世話で東京に留学することになったことである。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
また猪と違うて尾が外へあらわれず、鹿や羊に近くその胃が複雑し居る(一九二〇年版『剣橋ケンブリッジ動物学』十巻二七九頁)。
その下田より檻輿かんよ江戸におもむき、みち三島を経るや、警護の穢多に向い、大義を説き、人獣相距る遠からざる彼らをして憤励の気、色にあらわれしめたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
我作フルキコトとか稱するが、その始古といひ、作故といふ字句の間にも、明に彼等の尚古思想があらはれて居る。
支那人の文弱と保守 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
しかるに『史記』の記者はこの章を取って『春秋』述作の動機とし、「われ何を以てか自らを後世にあらわさん」
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
津下君は色の蒼白あをじろ細面ほそおもての青年で、いつも眉根まゆねしわを寄せてゐた。私は君の一家の否運が Kain のしるしのやうに、君の相貌の上にあらはれてゐたかと思ふ。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
意物にあらわれし者、之を物の持前という。物質の和合也。其事に見われしもの之を事の持前というに、事の持前は猶物の持前の如く、是亦形を成す所以のものなり。
小説総論 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
君が今日家の子をしやうじ給ふにでて、翁が思ふ三四こころばへをもかたりなぐさまんとて、かりかたちあらはし侍るが、十にひとつもやうなき閑談むだごとながら、三五いはざるは腹みつれば
古来の国家が初めて歴史にあらわれた時代には皆そうであったのであります
ユタの歴史的研究 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
御胎内の尊きにてましますひりおの若君をわれらにあらわしたまえ
と。擧世きよせい(六一)混濁こんだくして(六二)清士せいしすなはあらはる。
大鷲神社おおとりじんじゃそばの田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二、三にんの人があらわれた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人の力は、花大にして、弁の奇、色の妖なるにあらはれ、おのづからなる趣きは、花のすこやかにして色の純なるに見ゆ。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
国を視ること逆旅げきりょのごとく、かつて深切の意を尽くすことなく、またその気力をあらわすべき機会をも得ずして、ついに全国の気風を養いなしたるなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
アイデンチファイされると、スコットの作にあらわれた要素はことごとく浪漫主義を構成するに必要でかつ充分(necessary and sufficient)
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また安政三年三月時事に感じ、作りたる詩中にも「朝廷を推尊し幕府を重んぜば、大義赫々かくかくとして天下にあらわれん。しかる後神州た一新し、東夷とうい北狄ほくてき、赤県を仰がん」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この國家や天家といふ成語の中に、家を國や天下の原型とする思想が、よくあらはれて居る(4)。
稗の子、邦、旅より還って富人の所為と知れどその財を貪って咎めざるのみか、女を嫁しやった。一年後、邦、夢に稗あらわれ、汝不孝極まると言いて桃の枝で刺し殺す。
子曰く、しからざるかな、弗ざるかな。君子は世をおわるも名の称せられざるをむ。吾が道行なわれず。われ何を以てか自らを後世にあらわさん、と。すなわち史記に因りて春秋を作る。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
緑雨が撰みたる材料の上には商標の如くにあらはるれば、之を罵倒するは鴉の黒きを笑ひ、鷺の白きを罵るが如く感ぜらるればなり、罵倒する材料すでに如此かくのごとくなれば、其痛罵も的をはづ
わたくしは抽斎の事を叙するはじめにおいて、天保十二年の暮の作と認むべき抽斎の述志の詩を挙げて、当時の渋江氏の家族を数えたが、たちまち来り倐ち去ったむすめ好の名はあらわすことが出来なかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
第三俳句の字数少くしてこの種の大観をあらはすに苦しきことこれなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
御胎内の尊きにておはすひりをの若君を我等にあらはし玉へ
貧富同じく其製をゆたかにすると云い、富める者は産業を傾け、貧者は家資を失う、と既に其弊のあらわるるを云って居る。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
人民はすでに一国の家元にて、国を護るための入用を払うはもとよりその職分なれば、この入用を出だすにつきけっして不平の顔色をあらわすべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
支那書に見ゆる蟄竜や竜、井の中にあらわれた譚は、こんな事実を大層に伝えたなるべし。
梭の音ははたとやんで、女のまぶたは黒きまつげと共にかすかにふるえた。「凶事か」と叫んで鏡の前に寄るとき、曇は一刷いっさつに晴れて、河も柳も人影も元の如くにあらわれる。梭は再び動き出す。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことばを換へて云へば両著書が小極致とするところは、いづれにありや、何れにありて同致をあらはすや。曰く、両書共に元禄文学の心膸を穿うがち、之に思ひ思ひの装束を着けて出たるところにあり。
五と六と相合さうがふして、七百二十氣を一紀となす、凡べて三十歳なり、千四百四十氣、凡べて六十歳なり、而して不及ふきふ太過たいくわこゝに皆あらはる、と云つて居る。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
けだし十余年なり、時刻たがわずと、余ひそかに記す。張公文潜の『明道雑志』にいわく、鶏く晨を司る事経伝にあらわれて以て至論と為す、しかれどもいまだ必ずしも然らざるなり。
幽霊と他界の悪霊と協合したるものゝ如くにあらはす者に比す可きにあらず、いはんや狂公子のみに見えて其母には見えざる如き妙味に至りては、到底わが東洋思想の企及する所にあらざるなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「マクベス」の眼前にあらはるゝ幽霊にあらず、「ホーソーン」の文「コルリツヂ」の詩中に入るべき人物のいひにあらず、われ手を振り目をうごかして、而も其の何の故に手を振り目を揺かすかを知らず
人生 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
我軍わがぐんは再戦して再挫さいざし、猛将多く亡びて、衆心疑懼ぎくす。戦わんと欲すれば力足らず、帰らんとすれば前功ことごとすたりて、不振の形勢あらたあらわれんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
風なくして浪高きこと数丈、常に水上紅光あらわれ日のごとし、舟人あえて近づかず、いわくこれ竜王宮なり、而して西北塞外人跡到らざるの処、不時数千人樹を□木をくの声を聞く
このあたり川は南東に向つて流れ、水は西岸の方深く、安宅町あたけちよう地先に至つては川の東部に洲をあらはすに及ぶ。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
支那でも雲南の光明井に唐の大歴間、三角牛と四角羊と鼎足鶏あらわれ、井中火ありて天にしょくす。南詔以て妖となし、これをふさがしむ。今風雲雷雨壇をその上に建つ(『大清一統志』三二二)。
此状で見ると将門が申訳まをしわけの為に京に上つた後、郷にかへつておとなしくしてゐた様子は、「兵事を忘却し、弓弦をゆるくして安居す」といふ語に明らかにあらはれてゐる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
必ずやこれを身にもとづけ、諸を政教にあらわし、以てものを成す可き者は、ただ聖人の学、聖道を去ってしこうしてしたがわず、而してただにこれ帰す。甚しいかな惑えるや、と。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
況やまた大觀すれば、日もまた光を失ひ、海もまた底をあらはすの時の來るべきをやである。畢竟するに世間一切の相は、無定を其の本相とし、有變を其の本相として居る。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
世情は常に眼前にぢやくして走り天理は多く背後にあらはれ来るものなれば、千鐘の禄も仙化せんげの後には匹夫の情をだに致さする能はず、狗馬くばたちまちに恩を忘るゝとももとより憎むに足らず
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そこで唐君兪は遂に真鼎を出して、贋鼎に比べて視せた。双方とも立派なものでは有るが、比べて視ると、神彩霊威、もとより真物は世間に二ツとあるべきで無いところをあらはした。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そこで唐君兪は遂に真鼎を出して、贋鼎に比べて視せた。双方とも立派なものではあるが、比べて視ると、神彩霊威しんさいれいい、もとより真物は世間に二ツとあるべきでないところをあらわした。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)