華奢きやしや)” の例文
その爲に武士をてたといふひどい跛者ちんばで、身體も至つて華奢きやしや、町人のやうに腰の低い、縞物などを着た、至つて碎けた人柄です。
だから彼女の華奢きやしやな薔薇色の踊り靴は、物珍しさうな相手の視線が折々足もとへ落ちる度に、一層身軽くなめらかな床の上をすべつて行くのであつた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一方はなやかな通りを近くの劇場へと驅る馬車の群を眺めてゐると、その時、美しい二頭の英吉利産の馬をつけた華奢きやしやな箱馬車がやつて來ました。
その細い幹は鮮かな青緑で、その葉は華奢きやしやでこまかに動く。たつた一本の竹、竹は天を直観する。而も此竹の感情は凡てその根に沈潜して行くのである。
その細い幹は鮮かな青緑で、その葉は華奢きやしやでこまかに動く。たつた一本の竹、竹は天を直観する。而も此竹の感情は凡てその根に沈潜して行くのである。
月に吠える:01 序 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
忽ち奧さんが白い華奢きやしやな手を伸べて、夜着を跳ね上げた。奧さんは頭からすつぽり夜着を被つて寢る癖がある。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
この歸途かへりに、公園こうゑんしたで、小枝こえだくびをうなだれた、洋傘パラソルたゝんだばかり、バスケツトひとたない、薄色うすいろふくけた、中年ちうねん華奢きやしや西洋婦人せいやうふじんた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
広重、文晁に限らず、たいていの絵の富士は、鋭角である。いただきが、細く、高く、華奢きやしやである。
富嶽百景 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
かれえりしろかつたごとく、かれ洋袴づぼんすそ奇麗きれいかへされてゐたごとく、其下そのしたからえるかれ靴足袋くつたび模樣入もやういりのカシミヤであつたごとく、かれあたま華奢きやしや世間せけんきであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かのシバルリイは朝廷との関係浅からずして、其華奢きやしや麗沢も自からに王気を含みたり、而して我平民社界には之に反して、政権に抗し、威武に敵する気禀きひんあるシバルリイを成せり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
華奢きやしやな指に握らせるには痛々しいと思はれるほどの、太い鐵作りの火箸を取り上げた。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
全体に細長い胴体はスマートで一見華奢きやしやのやうに見えるが、その実しんなりと硬く強靱で、あの細腹にしてからが棒切れぐらゐで引きちぎらうとしてもさう簡単に引きちぎれるものではない。
ジガ蜂 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
華奢きやしや男女だんぢよせはしない車馬も一切が潮染うしほぞめの様な濡色ぬれいろをしてその中に動く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
唾も吐きかねざる華奢きやしやの風俗なりし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
すべてに華奢きやしやを好みしとよ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夜目よめなればこそだしもなれひるはづかしき古毛布ふるげつと乘客のりてしなさぞぞとられておほくはれぬやせづくこめしろほどりやしや九尺二間くしやくにけんけぶりつなあはれ手中しゆちゆうにかゝる此人このひと腕力ちからおぼつかなき細作ほそづくりに車夫しやふめかぬ人柄ひとがら華奢きやしやといふてめもせられぬ力役りきえき社會しやくわいつたとは請取うけとれず履歴りれき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吹けば飛ぶやうな、恐ろしく華奢きやしやな身體と、情熱的な表情的な大きな眼が、その多い髮と、小さい唇と共に、恐ろしく印象的です。
くちびるも時時ひきるらしい。その上ほのかに静脈じやうみやくの浮いた、華奢きやしや顳顬こめかみのあたりには薄い汗さへも光つてゐる。……
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
せきくと、そでからつたか、あのえだからこぼれたか、なべふたに、さつはなかゝつてて、華奢きやしやほそしべが、したのぬくもりに、う、ゆきけるやうなうすいきそよがせる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
細そりした華奢きやしやな普請の階子段から廊下に、大きな身體を一杯にして、ミシ/\音をさせながら、頭の支へさうな低い天井を氣にして、源太郎は二階の奧の方の鍵の手に曲つたところへ
鱧の皮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
彼女は、まつたくの子供で、おほかた、七つか八つ位だらう、蒼白い、華奢きやしやな、顏立のほつそりとした身體つきで、ありあまる程の髮がくる/\と捲毛まきげになつて腰のあたりまで垂れてゐた。
顫へるやうに白い華奢きやしやな身をすくめ、背を聳て、ただぢつと青い射光の一点を見上げたまま、退くにも退かれず、全身の悲哀と恐怖とをたつた二つの金色の瞳に集めて、吸入るやうに前肢まへあしをそろへた
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「主人の金兵衞の女房のお作——四十近い、名前だけは野暮な女だが、病身で華奢きやしやで、大きな聲で物も言へない癖に、妙に惱ましい女で」
その華奢きやしやな片手には、——これが最後の御定おきまりだが、——竹の鳥籠がぶらついてゐる。その中には小さい茶色の鳥が、何時でも驚いたやうな顔をしてゐる。
パステルの竜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
華奢きやしやなのを、あのくちびるあつい、おほきなべろりとしたくちだとたてくはへてねまい。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
細そりした華奢きやしや普請ふしんの階子段から廊下に、大きな身体を一杯にして、ミシ/\音をさせながら、頭のつかへさうな低い天井を気にして、源太郎は二階の奥の方の鍵の手に曲つたところへ
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
華奢きやしやな指さき濃青こあをめて
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
申すまでもなく當人もそのつもりで、へエ、綺麗な娘で御座いました。細面の、少し華奢きやしやな、何んとか小町と言はれたきりやうで、へエ。
くびは顔に比べると、むし華奢きやしやすぎると評しても好い。その頸には白い汗衫かざみの襟が、かすかに香を焚きしめた、菜の花色の水干すゐかんの襟と、細い一線をゑがいてゐる。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
石入いしいりの指輪の輝く華奢きやしやな兩手を合はして暫く祈念きねんした。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
華奢きやしやな半老人の忠兵衞では手がつけられず、さうかと言つてモノがモノだけに、奉公人任せで、土藏へ運ぶこともならなかつたのでせう。
のみならず火の気のない部屋の寒さは、床に敷きつめた石の上から、次第に彼女の鼠繻子ねずみじゆすの靴を、その靴の中の華奢きやしやな足を、水のやうに襲つて来るのであつた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
煙管を拔いて見ると、吸口だけは銀を張つた、これも華奢きやしやなものですが、雁首にはチヤンと、刻みの細かい良い煙草が詰めてあるのです。
が、彼女は華奢きやしやな手に彼の中折なかをれを持つた儘、黙つて微笑したばかりであつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
谷口金五郎は五十そこ/\、脂ぎつた身體には、まだ若さが殘つて居りますが、手足は思ひの外華奢きやしやで、血を失つた顏は蒼くさへ見えます。
太つて力のありさうな五郎助が、痩せて華奢きやしやらしく見える貫六を膝の下に引据ゑ、滅茶々々に毆つて居るところだつたのです。
年の頃四十五六、骨と皮ばかりの華奢きやしやな男ですが、算數がけてゐるのと、恐ろしく忠實なので、庄司家はお蔭で内福だといはれてをります。
色白の華奢きやしやな男で、この男は力づくではたくましい横井源太郎を殺せる筈はありませんが、何となく才氣走つて、油斷のならぬ感じを與へます。
少し華奢きやしやですが、腰繩を打たれてしをれた姿は、歌舞伎芝居の二枚目のやうで、浪人の娘お茂世と、何彼の噂が立つたのも無理のないことです。
蒼白い華奢きやしやな若者で、成程好い男振りには違ひありませんが、決して頼母たのもしさうではなく、痛々しい感じさへするのです。
それは女持らしいこしらへの華奢きやしやな短刀で、蝋塗ろぬりの鞘は少し光澤を失つて居り、拔いて見ると切尖に錆が浮いて、血潮の跡などは一つもありません。
小綺麗な平常ふだん着らしい木綿物のあはせ、帶もきちんと締めて、華奢きやしやな肩を落したまゝ、やゝ蒼白い顏をうな垂れてをります。
それは、十七になつたばかりの華奢きやしやな若者で、傷は背後から一とつき、心の臟を破られて、血の氣を失つた顏は、青白く氣高くさへ見えるのです。
三十五にしては少し若造りで、色の白い、華奢きやしやな男、斯んな肉の薄い眼の大きい男に、飛んだ激情家のあることを、平次の經驗が教へてくれます。
「お前とお玉の仲がよくなると、若樣の有馬之助がお玉を殺す氣になつた。あの刀は華奢きやしやで、贅澤で大旗本の馬鹿息子でもなきや差さない代物しろものだ」
二十二といふ立派な男、少し華奢きやしやではあるが、背が高くて色が淺黒くて、派手で豊麗でさへあつた許嫁のお絹とは、申分のない一對だつたでせう。
お關は濡れた肩を落して、疊の上へ華奢きやしやな手を突くのでした。美しい眼が少しうるんで意氣な鬘下かつらしたが心持顫へます。
少し華奢きやしやで弱々しく見えますが、多い毛の緑も、細面の眞珠色も、此世のものとも思へぬ氣高さ——『よくもこんな美しいものを生んだことかな』と
色の淺黒い華奢きやしやな男で、正直さうではありますが、ずゐぶん出入りのお屋敷の大奧の女中方からは騷がれさうです。
伊丹屋の大身代をいだばかり、まだ若旦那で通つてゐる駒次郎は、平次の顏を見ると、上がりかまちから起ち上がりました。少し華奢きやしやな、背の高い男です。