莫大ばくだい)” の例文
莫大ばくだいな富源の宝庫ヤクーツクの関門と見るべきレナ河口と、ドヴィナ湾との間に安全な定期航路を設定しようというのだそうである。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
家柄は貴族に属していましたし、その上に父は商業を営んで莫大ばくだいな財産をもっていたので、何の不自由もなくゆたかに育ったのでした。
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
水が水蒸気になる時には、一グラムについて、五百何十カロリーという莫大ばくだい潜熱せんねつを奪うことは、中学校や女学校で習った通りである。
「茶碗の湯」のことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
振動魔しんどうまの貴方が、計算せられた紙ぎれや、また柿丘氏には不合格になったと思わせた生命保険に、貴方が莫大ばくだいな保険金を契約して
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
パリー郭外と呼ばるる莫大ばくだいな燃料の堆積の上にあちらこちら飛び移る火の粉、それらのものは軍隊の指揮官らに不安の念を与えた。
ほんの一瞬の差が一時間のあとには莫大ばくだいもない懸隔をつくるのである。今の安倍には、慰めや同情も罵詈ばり嘲笑ちょうしょうとおなじであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
……で、米価はね上がり、大坂城の粮米ろうまいは欠乏を極めておりますため、これに米を密売すれば、莫大ばくだいな利をえられるにきまっている。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、にぎやかなまちなかあるいて、それを貴族きぞくったり、金持かねもちに莫大ばくだいかねりつけたり、また商人しょうにんゆずったりしたのであります。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
夫婦の共有財産にはしなかった。あの男は君から莫大ばくだいなお小遣いをせしめていたが、財産の元金には一指も触れることを許されなかった。
断崖 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしキッドの蓄えた財宝が莫大ばくだいなものであることはよく知られている。だから、僕はそいつがまだ土のなかにあるのだと考えたんだよ。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
莫大ばくだいな(少くともポリネシアにしては)給料をむさぼりながら、何一つ——全く完全に何一つ——しないでノラクラしている役人共ばかりだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
上洛に要する莫大ばくだいな費用も惜しむところではないと言って、関東方がこの旅に多くの望みをかけて行ったというに不思議はない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その鰹船かつをぶねひとづゝこの器械きかいそなけるやうになつたら、莫大ばくだい利益りえきだつてふんで、此頃このごろ夢中むちゆうになつて其方そのはうばつかりにかゝつてゐるやうですよ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
上野介は浅野家から自分に対して莫大ばくだいな賄賂の届けらるべきことを期待していたというのが巷間の流説として残されている。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
当時欧州大戦乱時代であって、石炭は水夫たちの寝るべき室にまで詰め込まれたほどであり、従って、汽船会社の利益は莫大ばくだいなものであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
いったい世の中に、どういう人が百円なんていう莫大ばくだいもない月給をとるのだろう、大将かしら、大臣かしら、いろいろ考えたがわからなかった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
隅の食器棚はわざと開けてあるのか、古い銀の食器や、よく手入れのゆきとどいた陶器など、莫大ばくだいな宝物が見えていた。
人の話だと、あの子の母親がくなる前、莫大ばくだいな財産を一文のこらず、すっかりご主人の名義に書きかえたんですって。
さればいたるところ大入りかなわざるなきがゆえに、四方の金主きんすかれを争いて、ついにためしなき莫大ばくだいの給金を払うにいたれり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにがし大名から領地へ送る、莫大ばくだいもない黄金を、無造作むぞうさに積みこんでいるからで、こういう船を襲わなかったら、それこそ海賊としては新米であった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……それについては彼は自分のちょび髭と秘密な蘊蓄とに莫大ばくだいな自信をもっていた、ことにその妻君の嗜好しこうに関しては隅の隅まで熟知していたから
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
知らぬ間に川上の名義で借入れられた莫大ばくだいな借金が残っているばかり、約束になっているといった劇場へいって見れば釘附くぎづけになってとざされている。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今度は別な銀行が莫大ばくだいな犠牲を払ってもこの仕事を申込んでいる、と言い、最後に黙って、Kの意見を聞こうとした。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
この愚楽の進言の結果、莫大ばくだいな費用を要する日光修復は、撃剣と貧乏で日本中に有名な、柳生へ落ちることになった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これに反して他の一方は、危険と徒労とにさらされてはいるけれども、時あって莫大ばくだいな利得を挙げ得たことは、昔は今よりもさらに著しい体験であった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おれ先達せんだつ先祖せんぞ計算けいさんをして、四十代前だいまへおれ先祖せんぞすうが、一まん九百九十五おく二千一百六十二まん五千七百七十六にんだといふ莫大ばくだい數字すうじ發表はつぺうしたときには
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
文明は進んでゆく、甕や壺の需要は将来、今までのように莫大ばくだいではない。石見の焼物は方向をかえる必要がある。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
南アの辺境にいかに莫大ばくだいの金銀を蔵すればとて、大英国伝来のこの宝玉と交換せんとするは、無道の極であると。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
それでも彼は、ごく短い生涯しょうがいのうちに莫大ばくだいな知力と精力とを使った彼の父より、生涯の初めにおいてしかも努力せずに、すでに数段高い所に立っていた。
で、そこはまた拔目ぬけめのない所謂いはゆる政商せいしやうなどは莫大ばくだいもないかねけてちやう卓子たくしかこむ。そして、わざとける。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
表面に現われた財産も少ないものではないが、先祖以来、穴倉あなぐらに隠して置く金のかたまり莫大ばくだいなものだといううわさ
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
軍艦一そうが何千万円も価する、弾丸一発が何千円もかかる、かくのごとく莫大ばくだいの入費を要することゆえ、経済の側から考えると戦争は容易にできるものではない。
戦争と平和 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
外国あちらでは原語でございますとジョン、ハミールトンという人が、ナタンブノルという朋友ともだちの同類と、かのスマイル、スミスを打殺うちころしまして莫大ばくだいの金を取ります。
「その佐太郎が、たつくちの金森屋敷を退轉してから三日目、——といふと丁度昨日のことだ。佐太郎の使と言つて、金森家重役に莫大ばくだいの金子を差出した者がある」
翌日大臣相馬人を伴れて掛合かけあいに来ると、瓦師馬の教えのままに答えたから評定すると、諸臣一同この瓦師は大力あるらしいから足で牽かせたら莫大ばくだいの金を取るだろう
世間にて楽を買うには莫大ばくだいの金がいるけれども、この拙者の楽だけは一文半銭もいらずして、しかもその楽は、金で買い入れたる楽に百倍も千倍もまさりております。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
生計の事ではその進は莫大ばくだいな収入がある身となっているし、老人の質素な生活は恩給だけでも有り余るほどなので、互に家事向の話のいずべき所がないわけであった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
得ず家財殘らず分散ぶんさんいたししうとめと兩人にて淺草諏訪町に裏店うらだなを借受賃仕事或は洗濯など致しわづかに露命をつなぎ居候中又もや姑の三年越の長煩ながわづらひに入費ものいり莫大ばくだいにて困窮に困窮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
クロイゲルの死の事実か否かは梶も目撃したわけではなかったから確実なことは分らないが、彼の親戚遺族はそれぞれ莫大ばくだいな財産家となっていることだけは事実であった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「君は何しろ月給のほかに原稿料もはいるんだから、莫大ばくだいの収入を占めているんでしょう。」
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
舞踏室や宴会の席を飾るために日々切り取られ、翌日は投げ捨てられる花の数はなかなか莫大ばくだいなものに違いない。いっしょにつないだら一大陸を花輪で飾ることもできよう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
年頃数多あまた獣類けものしいたげ、あまつさへ人間をきずつけ、猛威日々にたくましかりし、彼の金眸を討ち取りて、獣類けもののために害を除き、人間のためにうれいを払ひしは、その功けだし莫大ばくだいなり
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
何万エーカーとか、何十万エーカーとかいいましたけれど、そんな莫大ばくだいな数量は忘れてしまいました。ともかく、東水の尾というこのあざだけは、全部父親の物だというのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
三百両は建築のついえを弁ずるにはあまりある金であった。しかし目見めみえに伴う飲醼贈遺いんえんぞうい一切の費は莫大ばくだいであったので、五百はつい豊芥子ほうかいしに託して、おもなる首飾しゅしょく類を売ってこれにてた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
吾人は欧州現今の形勢をて実に浩歎こうたんに堪えざるなり。しかれどもかの欧州諸国はいかにしてかくのごとく莫大ばくだいなる兵備を整うを得るか。必ず莫大なる経費を要せざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
長崎屋さまに御不便だとお思いあそばしますと、あなたさま、見す見す莫大ばくだいな御利分があると御存じでありながら、お手をおゆるめになるとは、全く以って、恐れ入る外はござりませぬ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
就而は過分くわぶん之重任を受候も、畢竟亡父御こん情を以、莫大ばくだい之金子拜借を得、是が爲に多くの子供を生育いたし候故に而、全右之御かげを以活動くわつどうを得候次第、折々亡父よりも申聞かせ候儀に而
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
私は真直まつすぐ母の居処ゐどころをさがして、生れて始めて持つた莫大ばくだいの富を母に示しました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
茶器は昔から古物を尊び、由緒ある品などは莫大ばくだいな価額のように聞きましたのに、氏は新品で低廉の器具ばかりをそろえて、あんの名もそれにちなんで半円とか附けられたとかいうことでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
と観念して、ばらりばらりと金を投げ捨て、さらにまた国元から莫大ばくだいの金銀を取寄せ、こうなると遊びは気保養にも何もならず、都の粋客に負けたくないという苦しい意地だけになって
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)