芭蕉ばせを)” の例文
蕉門せうもん龍象りゆうざうの多いことは言ふを待たない。しかし誰が最も的的てきてき芭蕉ばせを衣鉢いはつを伝へたかと言へば恐らくは内藤丈艸ないとうぢやうさうであらう。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なぎさけし芭蕉ばせをざしにかざあふぎらずや。ほゝかひなあせばみたる、そでへる古襷ふるだすきは、枯野かれのくさせたれども、うらわかえんとす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
には芭蕉ばせをのいとたかやかにびて、垣根かきねうへやがて五尺ごしやくもこえつべし、今歳ことしはいかなればくいつまでもたけのひくきなどひてしをなつすゑつかたきはめてあつかりしにたゞ一日ひとひふつか
雨の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
芭蕉ばせを草鞋わらじ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
猿簔さるみのを読む。芭蕉ばせを去来きよらい凡兆ぼんてうとの連句の中には、波瀾老成の所多し。就中なかんづくこんな所は、なんとも云へぬ心もちにさせる。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
喟然きぜんとしてわたしたんじた。人間にんげんとくによる。むかし、路次裏ろじうらのいかさま宗匠そうしやうが、芭蕉ばせをおく細道ほそみち眞似まねをして、南部なんぶのおそれやまで、おほかみにおどされたはなしがある。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
庭の芭蕉ばせをのいと高やかに延びて、葉は垣根かきねの上やがて五尺ごしやくもこえつべし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
僕はいつか小宮こみやさんとかういふ芭蕉ばせをの句を論じあつた。子規居士しきこじの考へる所によれば、この句は諧謔かいぎやくろうしたものである。僕もその説に異存はない。
文章と言葉と (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
二階にかいが、また二階にかいえる。くろはしらに、すゝ行燈あんどん木賃きちん御泊宿おとまりやど——内湯うちゆあり——と、あまざらしにつたのを、う……ると、いまめかしきことながら、芭蕉ばせをおく細道ほそみちに……
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
芭蕉ばせをの「奥の細道」もやはり又この例に洩れない。殊に冒頭の一節はあの全篇にみなぎつた写生的興味を破つてゐる。
しか刈萱かるかやみのいつしかにつゆしげく、芭蕉ばせをそゝ夜半よはあめ、やがてれてくもしろく、芙蓉ふようひるこほろぎときるとしもあらずやなぎなゝめすだれおどろかせば、夏痩なつやせにうつくしきが、轉寢うたゝねゆめよりめて
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「まづたのむ椎の木もあり夏木立こだち」——芭蕉ばせをは二百余年ぜんにも、椎の木の気質を知つてゐたのである。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ものをくらべるのは恐縮きようしゆくだけれど、むかし西行さいぎやうでも芭蕉ばせをでも、みな彼処あすこでははらいためた——おもふに、小児こどもときから武者絵むしやゑではたれもお馴染なじみの、八まん太郎義家たらうよしいへが、龍頭たつがしらかぶと緋縅ひおどしよろいで、奥州合戦おうしうかつせんとき
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
僕はああ云ふ風流をもてあそびたくない。僕の尊敬する東洋趣味は、(前の東洋種と混合してはいけない)人麻呂ひとまろの歌を生み、玉畹ぎよくゑんの蘭を生み、芭蕉ばせをの句を生んだ精神である。
東西問答 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
行暮ゆきくれて一夜ひとよ宿やどうれしさや、あはかしさへたまて、天井てんじやうすゝりうごとく、破衾やれぶすま鳳凰ほうわうつばさなるべし。ゆめめて絳欄碧軒かうらんへきけんなし。芭蕉ばせをほねいはほごとく、朝霜あさしもけるいけおもに、鴛鴦ゑんあうねむりこまやかなるのみ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
七、軽井沢かるゐざは芭蕉ばせを句碑くひあり。「馬をさへながむる雪のあしたかな」の句を刻す。これは甲子吟行かつしぎんかう中の句なれば、名古屋あたりの作なるべし。それを何ゆゑに刻したるにや。
病牀雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
むし人麻呂ひとまろ以来の短歌であり、芭蕉ばせを以来の俳句である。それを小説や戯曲ばかり幅をかせてゐるやうにひられるのは少くとも善良なる僕等には甚だ迷惑と言はなければならぬ。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一時は放蕩はうたうさへ働けば、一かど芸術がわかるやうに思ひあがつた連中がある。この頃は道義と宗教とを談ずれば、芭蕉ばせをもレオナルド・ダ・ヴインチも一呑ひとのみに呑みこみ顔をする連中がある。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たつた十七字の活殺なれど、芭蕉ばせをの自由自在には恐れ入つてしまふ。西洋の詩人の詩などは、日本人故わからぬせゐか、これ程えらいと思つた事なし。まづ「成程なるほど」と云ふ位な感心に過ぎず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)