)” の例文
その駕籠を護っているものといえば、被衣かつぎをかぶった四人の老女と、覆面姿の四人の若武士と、すねを出した二人の駕籠きとである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
猪熊の爺の死骸は、斑々はんぱんたる血痕けっこんに染まりながら、こういうことばのうちに、竹と凌霄花との茂みを、次第に奥深くかれて行った。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
春庵は年をゆるに及ばずして京都より還つた。そして丸山の伊沢の家を訪うた。背後には大いなる水盤をいた人夫が附いて来た。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「いやな所ね。あたし、腰のところがまだ痛くつてよ。駕籠をく人は苦しいでせうね。乘つてる人でさへあんなに苦しいんだから。」
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
岩松吉致いわまつよしむねや隠岐の一党はみな、元の海ばらへ返ってゆき、帝は駒に召され、妃の二人は、板輿にかれて、前後を黒々まもられながら
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生きるために生きることを拒絶しない人々は、それを拒絶して翔び去った友人の最後のかどでを、真情の手にいで送っている。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
直径をサシワタシというのと同じように、二人で棒の両はしをくことを、今でもサシニナイ、またはサシアイ持ちというのが常である。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
唐の大尉たいじょう李徳裕りとくゆうの邸へ一人の老人がたずねて来た。老人は五、六人に大木をかせていて、御主人にお目通りを願うという。
……五度も駕籠を乗り替えたのは、駕籠きなどに足取りを知らせないためであろう、そのうえ閑居かんきょというにはあまりに土地が辺鄙へんぴすぎる。
追いついた夢 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「よっこらしょ。」と、妻は云って柴を背中にいだ。どういうものか柴を背負うと急に自分の年を思い出す。どっちも姿を見合いながら
その日暮しの日傭稼ぎ、土方人足、駕籠きの女房でも不足はない……というて、私に泣きながらの頼みで御座いましたが……
どっと笑いて、左右より立懸たちかかり、小稲と重子と手と手を組みつつ、下よりすくいて、足をからみて、われをば宙にいて乗せつ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その棺を山へきあげなかばは土中へ埋め半は上より出す。棺の上には内地の神祠の勝男木かつおぎの如きものを上げ置くなり云々。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
もし輿をいて行く兵士どもが、その輿の中にある「病人」の顔を一と目でも見たらばさぞびっくりしたことであろう、鼻の落ちる病気の黴菌ばいきん
ひそむれば公用人三人は中間體ちうげんていに身をやつし外に入用の品々は駕籠の下へ敷込しきこみ二人にて駕籠をき今一人は湯灌盥ゆくわんたらひつゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
藁葬こうそうという悲しくも悲しき事を取行とりおこなわせ玉わんとて、なかの兄と二人してみずから遺骸いがいきて山麓さんろくに至りたまえるに、なわ絶えて又如何いかんともするあたわず
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
金の魚虎しゃちほこは墺国の博覧会につぎ出したれども、自国の金星の日食に、一人の天文学者なしとは不外聞ふがいぶんならずや。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
駕籠きには委細いさい命じてあるから、ギイと上ってスタスタスタ、急ぎ行きかけるかと思うと、なかなか出ない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこにおいて長老たちから芳醇ほうじゅんなる葡萄酒が供せられ、各自かごに乗駕してこの都会の貴族邸へ、賓客としてかれてまいることがしるされているのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
神輿をかせたりしたのを見ますと、彼らがあえて穢れたものだとは思われていなかった事がわかります。
余はこの釣台に乗ったまま病院の二階へげられて、三カ月ぜんに親しんだ白いベッドの上に、安らかにせた手足を延べた。雨の音の多い静かな夜であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最前船に乗って渡御しつつあった神輿が今は陸上に上げられてかれつつあるのであった。群衆のそれを取り囲んでいる容子ようすがその篝火の光に照し出されていた。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
全羅馬の生活なりはひの脈は今此辻に搏動するかと思はる。既にして法皇の行列寺門を出づ。藍色の衣を纏へる僧六人にかせたる、華美なる手輿てごしに乘りたるは法皇なり。
鉦、炬火、提灯、旗、それから兵隊帰りの喪主もしゅが羽織袴で位牌をささげ、其後から棺をおさめた輿こしは八人でかれた。七さんは着流きながしに新しい駒下駄で肩を入れて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
大名やその他身分の高い者の乗る駕籠は長棒駕籠ながぼうかごといって、棒が長く、八人で手代りにくことになっている。それを切って四人で舁くようにしたのが即ち切棒駕籠である。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
老姉はかってその身に芥子からしと胡麻の油を塗って死骸に似せ(シェッフネルの『西蔵諸譚』にこうある。唐訳には大黄を塗って死人の色のごとくすと出づ)、林中へき往かしむ。
「まあまあ、そう意気ごまんでもいい。……おれが頼みたいというのは、そんな大したことじゃない。すまないが、為と寅に駕籠をかせて、一ツ橋御門まで行ってもらいたいんだ」
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
漸く人心地ひとここちに立ちかえりぬ、聞けば予が苦しさの余りに、仙台萩せんだいはぎ殿様とのさま御膳ごぜんを恋しく思いしよりも、なお待ちこがれし八合目の石室せきしつの炉辺にえられ、一行は種々の手段を施こし
大刀たちを振りかざし掛声かけごえも猛に、どこやらのやしきから持ち出したものでございましょう、重たげな長櫃ながびつを四五人連れでいて渡る足軽の姿などは、一々目にとめているいとまもなくなります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
さっきひつぎき出されたまでは覚えて居たが、その後は道々棺で揺られたのと寺で鐘太鼓ではやされたので全く逆上してしまって、惜いかな木蓮屁茶居士などというのはかすかに聞えたが
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
大病人を逐い出すのは当時一般に行なわれたことで、三条家の知合なる某亜相のごときは、十一年間も妾同様にしておった女を、やはり大病になると近所の道場までき出させたことがある。
と、思った時、そのまま陸尺は、土足で、板の間へ、き入れかけた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
例のあんぽつがまた家の中からき出されたが、それを担ぎ出したのは、前の酔っぱらいの駕籠舁とは違った屈強な駕籠舁で、その駕籠わきに附いて行くのが宇治山田の米友で、どういうつもりか
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
下界の屑をき載せて持っているのがつろうございます。11955
七分間で最終の停車場ステエシヨンに下車し、香港ホンコンホテルの門前に出て支那人のく長い竹のしなこし椅子に乗つた。轎夫けうふは皆跣足すあしである。山じやうみちすべてコンクリイトで固められて居る。石を敷いた所もある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
困る、く人がゐない
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
息も絶え絶えな「ろおれんぞ」が、とりあへず奉教人衆の手にかれて、風上にあつたあの「えけれしや」の門へ横へられた時の事ぢや。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
翌朝深淵の家へは医者が来たり、警部や巡査が来たりして、非常に雑遝ざっとうした。夕方になって、布団をかぶせた吊台つりだいき出された。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
駕屋だまりの羽目板には何本もの、つやの出たき棒が、立てかけてあった。それを持つと、繁は、九紋龍のように、躍り出して
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(願哲は權三の繩を取り、與助は助十の繩を取りて引立てる。助八と雲哲は駕籠をき上げようとして、雲哲はよろける。)
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
飛び上がった弁天松代は、桔梗様を軽々と抱き上げたが、「表門から行こう、さあ行け行け!」桔梗様を手輿へきのせた。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
き手の若い者は四人、二人ずつ交代であった。病人は軽いけれども、揺れないようにかげんをしてゆくため、却って骨が折れるようであった。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はたけ二三枚、つい近い、前畷まえなわての夜の雪路ゆきみちを、狸が葬式を真似まねるように、陰々と火がともれて、人影のざわざわと通り過ぎたのは——真中まんなかに戸板をいていた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神の御輿みこしとか貴人の手輿てこしとかになると、二本の棒をあわせてその上にのせてき、できるだけ土から遠くしようとしており、今でも物によると天井持てんじょうもちといって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
人は余を運搬する目的をもって、一種妙なものをこしらえて、それを座敷のうちれた。長さは六尺もあったろう、幅はわずか二尺に足らないくらい狭かった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
筋骨たくましい六尺近いかごきが十人、ガッシと腰をおとして足並みゆたかに、踊りのように息杖いきづえをふるって、あっというまにあさくさばしを渡り過ぎたのだが!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
奥座敷おくざしきに入ると、次郎さんは蒲団ふとんの上に寝て居る。昨日雨中をいて来たまゝなので、蒲団がれて居る。筒袖つつそで綿入わたいれ羽織ばおりを着て、次郎さんは寝入った様に死んで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
公子とジエンナロとは手を組み合せて、フランチエスカはこれに腰掛けつゝかれ行く。
高帝こうてい升遐しょうかしたもう時、遺篋いきょうあり、大難に臨まばあばくべしとのたまいぬ。謹んで奉先殿ほうせんでんの左に収め奉れりと。羣臣ぐんしん口々に、いだすべしという。宦者かんじゃたちまちにして一のくれないなるかたみきたりぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そこに駈け付けた仲間の者の数人が担架やトロッコにき載せて、わしなく行ったり来たりする炭車の間を縫いながらユックリユックリした足取りで坑口まで運び出して来るのであるが
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)