習慣ならはし)” の例文
その後ELエルと呼ばれにき、是亦うべなり、そは人の習慣ならはしは、さながら枝の上なる葉の、彼散りて此生ずるに似たればなり 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
夕飯の後、蓮華寺では説教の準備したくを為るので多忙いそがしかつた。昔からの習慣ならはしとして、定紋つけた大提灯おほぢやうちんがいくつとなく取出された。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そんな辣腕らつわんたちちがつても、都合上つがふじやう勝手かつてよろしきところくるまへるのが道中だうちう習慣ならはしで、出發點しゆつぱつてんで、とほし、とめても、そんな約束やくそくとほさない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
寺子屋へ行く子供等の習慣ならはしが、まだ私の小い頃にまで残つて居たのです。私はお歌ちやんのうちへもよく遊びに行きました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かかる田舎の習慣ならはしで、若い男は、忍んで行く女の数の多いのを誇りにし、娘共も亦、口に出していふ事は無いけれ共、通つて来る男の多きを喜ぶ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宗助そうすけ一所いつしよになつて以來いらい御米およね毎日まいにちぜんともにしたものは、をつとよりほかになかつた。をつと留守るすときは、たゞひとはしるのが多年たねん習慣ならはしであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのころ習慣ならはしにしたがつて、三日みつかあひだ大宴會だいえんかいひらいて、近所きんじよひとたちや、そのほかおほくの男女なんによをよんでいはひました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
グリゴーリイ・グリゴーリエヸッチは、いつもの習慣ならはしで少し横になるために自室へ引きさがつた。で、お客は老主婦と二人の令嬢の案内で客間へ移つた。
それによると、この女はさる大官の一人娘だつたが、流行病はやりやまひにかゝつたので、その頃の習慣ならはし通り、まだ息を引取らぬうち生埋いきうめにしたものだといふ事が判つた。
らんさまとて册かるるひとの鬼にも取られで、淋しとも思はぬか習慣ならはしあやしく無事なる朝夕が不思議なり
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
或る者は安樂椅子ソフア褥椅オットマンに半ば凭れかゝつたやうな恰好をして居り、或る者は卓子テエブルの上に身をかゞめて花だの本だのを見て居り、他の者は火のまはりに集つてゐた。それが習慣ならはしらしい。
養生やうじやう榮燿えいやうやうおもふは世上せじやう一般いつぱん習慣ならはしなり。いまへる養生法やうじやうはふは、いかなる貧人ひんじん、いかなる賤業せんげふひとにても、日夜にちやこゝろそゝげば出來できことなり。よつその大意たいい三首さんしゆ蜂腰ほうえうつゞることしかり。
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
それも畫道の上ばかりならまだしもでございますが、あの男の負け惜しみになりますと、世間の習慣ならはしとか慣例しきたりとか申すやうなものまで、すべて莫迦に致さずには置かないのでございます。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
春なれば街の習慣ならはし美しむ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
地のさちなきによりてなるか、または惡しき習慣ならはしにそゝのかさるゝによりてなるか、人皆徳を敵と見做して逐出おひいだすこと蛇の如し 三七—三九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
土地の習慣ならはしから『奥様』と尊敬あがめられて居る有髪うはつの尼は、昔者として多少教育もあり、都会みやこの生活も万更まんざら知らないでも無いらしい口の利き振であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
関野氏は日本には息のあるうちに生埋めにしてもいゝ政治家や、軍人や、学者のたんとある事を思つて、そんな習慣ならはしのないのを幾らか物足りないやうにも思つた。
でもね、何よりいけない習慣ならはしといへば、あの麺麭をひねりかためたのを犬に抛つてよこすことだわ。
狂人日記 (旧字旧仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
桂木先生と誰れも褒めしが、下宿は十町ばかり我が家の北に、法正寺と呼ぶ寺の離室はなれかりずみなりけり、幼なきより教へを受くれば、習慣ならはしうせがたく我を愛し給ふこと人に越えて
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……一度いちど職人しよくにんいへ節分せつぶんいそがしさに、わたし一人ひとりて、したがけを踏込ふみこんだ。一度いちど雪國ゆきぐにでする習慣ならはしれた足袋たびを、やぐらにしたひもむすびめがけてちたためである。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それも画道の上ばかりならまだしもでございますが、あの男の負け惜しみになりますと、世間の習慣ならはしとか慣例しきたりとか申すやうなものまで、すべて莫迦ばかに致さずには置かないのでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
静子清子の外には友も無い身の、(富江とは同僚乍ら余り親くしなかつた。)小川家にも一週に一度は必ずたづねる習慣ならはしであつたのに、信吾が帰つてからは、何といふ事なしに訪ねようとしなかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
習慣ならはしはかしこにてかく我等のしるべとなれり、しかしてかの貴き魂のうけがへるため我等いよいよ疑はずして路に就けり 一二四—一二六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
『おつかれ』(今晩は)とふ人毎に声を掛けるのは山家の黄昏たそがれ習慣ならはしである。丁度新町の町はづれへ出て、帰つて行く農夫に出逢ふ度に、丑松はこの挨拶を交換とりかはした。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
またなんとか可恐おそろししまでね、ひとぬ、と家屬かぞくのものが、くび大事だいじしまつて、他人たにんくびきながらつて、死人しにんくび繼合つぎあはせて、それうづめると習慣ならはしがあつて、工面くめんのいゝのは
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
落葉おちばたくなるけふりすゑか、れかあらぬかふゆがれの庭木立にはこだちをかすめて、裏通うらどほりの町屋まちやかた朝毎あさごとなびくを、金村かなむら奧樣おくさまがお目覺めざめだとひとわるくちの一つにかぞへれども、習慣ならはしおそろしきは朝飯前あさはんまへの一風呂ふろ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
習慣ならはしと自然これに特殊の力を與ふるがゆゑに、罪あるかしら世をぐれどもひとり直く歩みてよこしまの道をかろんず。 一三〇—一三二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)