紺絣こんがすり)” の例文
銘仙の紺絣こんがすりに、唐草からくさ模様の一重帯を締めて、この前とはまるで違った服装なりをしているので、一目見た代助には、新らしい感じがした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸外は相かわらず紺絣こんがすりを振るように、みぞれが風にあふれて降って、まばらに道ゆく人も寒そうに傘の下に躯を固くしながら歩いている。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
紺絣こんがすりの兄と白絣しろがすりおととと二人並んで、じり/\と上から照り附ける暑い日影ひかげにも頓着とんぢやくせず、余念なく移り変つて行く川を眺めて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
紺絣こんがすりの着物、きつく絞った襷、端折った裾から覗いている赤い腰巻、逞しく肉付いた足や、まるく張り切った腕や、ふさふさとした腋毛。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
久留米か、薩摩か、紺絣こんがすり単衣ひとえもの、これだけは新しいから今年出来たので、卯の花が咲くとともに、おつたが心懸けたものであろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しい声の主は紺絣こんがすりのもんぺをはき、同じ紺絣のちゃんちゃんを着ていた。そして丁寧に御辞儀をされた。三十近い智的な美しい人である。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そこには紺絣こんがすりを着て鳥打ち帽をかぶった十二三の小僧が、一生懸命肉付けの首を見つめていましたが、私はその顔を見てぎょっとしました。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ふと気がついて見ると、私のすぐ左側に、いつの間に来たのか、紺絣こんがすりに学生帽をかぶった一人の青年が私と並んで立っていた。
つんつるてんの紺絣こんがすりの筒っぽに白木綿しろもめんおびをグルグル巻きにして冷飯草履ひやめしぞうり、いま言ったように釣竿を肩にどこにでも出かける。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
さむらいは立ち上り、どてらの上に紺絣こんがすり羽織はおりをひっかけ、鞄から財布を取り出し、ちょっとその内容を調べてから、真面目くさって廊下へ出た。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
東京の女たちはそんな野暮やぼな和装を纏ってはいないのですのに。それに比べあの紺絣こんがすりの琉装を見ると如何に品位があるかに打たれざるを得ません。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あわせから単衣ひとえに変るセルの代用に、私の娘の頃には、ところどころ赤のはいった紺絣こんがすりを着せられたものですが、あれはなかなかいいものだと思います。
着物雑考 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
はかまもつけず薄汚うすよごれた紺絣こんがすりの着流しで、貧乏臭びんぼうくさふところ手をし、ぼんやりダンスをみているけれど、選手ではないし、招待側の邦人のひとりかとおもい
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
とうとう次郎吉は洗いざらしたつんつるてんの紺絣こんがすりの袖を目へ押し当てて、ヒイヒイヒイヒイ泣きじゃくりだした。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
紺絣こんがすりの木戸は温泉旅館へ招かれて公式に手合するさえはじめてだ。そうでなくとも対局中に中座して散歩にでるなぞというのはあまり例のないことである。
桂馬の幻想 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ただ老夫婦の枕元に古い、大きな紺絣こんがすりの財布が一個落ちていたのを取上げてみると、中味は麻糸に繋いだ大小十二三の鍵と、数十枚の証文ばかりであった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
紺絣こんがすりあわせに小倉の袴をはいた、小作りで風采のあがらぬ藤波金三郎と、紫の袴に紋羽二重を羽織った美少女お染の旅は、思いも寄らぬ障害に出逢わしました。
勿論風俗習慣に反したからとて一々罰せらるる訳ではない、青年は普通に紺絣こんがすりを着ている、この風俗を破って真赤な服で登校してもこれを罰することは出来ぬ。
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
直助は地味な美貌びぼうの若者だ。紺絣こんがすりの書生風でない、しまの着物とも砕けて居ない。直助はいつも丹念な山里の実家の母から届けて寄越よこす純無地木綿の筒袖つつそでを着て居た。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
少時しばらくすると由三は、薄茶のクシャ/\となツた中をりを被ツて、紺絣こんがすり單衣ひとへの上に、たけも裄も引ツつまツた間に合せ物の羽織を着て、庭の方からコソ/\と家を出た。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
汚れた紺絣こんがすりの着物をきて、小屋から出て、忙しさうにせかせかと歩いて、上半身を左右に搖すぶるやうにして、臺所口の方へ、そこから井戸端へと、ふらつき動いた。
南方 (旧字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
五月田植の日の支度などは、近世は白い菅笠すげがさあかたすきをかけ、桔梗染ききょうぞめの手拭てぬぐいなどをかぶり、着物は紺絣こんがすり単衣ひとえを着ていたが、その一つ前には布に白糸の刺繍ししゅうなどをしたようである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
紺絣こんがすり洗洒あらいさらしたのが太い筋張った腕にからまっている。ぎょろぎょろと馬車の中の一人一人に目を止めて見たが、別に何と言うでもなく、そのままぐっと幕を引いて下りてしまった。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
僕は人の案内するままに二階へのぼって、一間ひとまを見渡したが、どれもどれも知らぬ顔の男ばかりの中に、ひげの白い依田よだ学海さんが、紺絣こんがすり銘撰めいせんの着流しに、薄羽織を引っ掛けて据わっていた。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
色沢いろつやの悪い顔を、土埃ほこりと汗に汚なくして、小い竹行李二箇ふたつ前後まへうしろに肩に掛け、紺絣こんがすり単衣ひとへの裾を高々と端折り、重い物でも曳擦る様な足調あしどりで、松太郎が初めて南の方からこの村に入つたのは
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こう言われて、私は頭をいた。じつは私は昨日ようようのことで、古着屋から洗いざらしの紺絣こんがすり単衣ひとえを買った。そして久しぶりで斬髪した。それで今日会費の調達——と出かけたところなのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
なりはこの間と変りなく、撫子模様なでしこもようのめりんすの帯に紺絣こんがすりの単衣でしたが、今夜は湯上りだけに血色も美しく、銀杏返いちょうがえしのびんのあたりも、まだ濡れているのかと思うほど、艶々と櫛目くしめを見せています。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
太田君は紺絣こんがすりの単衣、足駄ばきで古い洋傘こうもり手挾たばさんで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紺絣こんがすりの着物、きつく絞った襷、端折った裾からのぞいている赤い腰巻、逞しく肉付いた足や、まるく張り切った腕や、ふさふさとした腋毛。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そんなら直木を連れて行けと兄から注意された時、直木は紺絣こんがすりを着て、はかま穿いて、むずかしく坐っていて不可いけないと答えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
北陸の片田舎で育った私たちは、中学へ行くまで、洋服を着た小学生というものは、だれも見たことがなかった。紺絣こんがすりの筒っぽに、ちびた下駄。
おにぎりの味 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
掘りだされた死体は紺絣こんがすりが単衣の筒袖で、黒い兵児帯へこおびをまとい、頭の部分には手拭てぬぐいが巻きついていて、それが後ろの方で結んでありました。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
紺絣こんがすり単衣ひとえを着ていた。僕もなんだかなつかしくて、彼の痩せた肩にもたれかかるようにして部屋へはいったのである。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
染物屋を呼んで「紺屋こうや」といいます。庶民の着物であったかすりもまた「紺絣こんがすり」の名で親しまれました。それほどわが国では紺が色のもとでありました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
白地にあい縦縞たてじまの、ちぢみ襯衣しゃつを着て、襟のこはぜも見えそうに、衣紋えもんゆる紺絣こんがすり、二三度水へ入ったろう、色は薄くも透いたが、糊沢山のりだくさんの折目高。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなた、二階では、これよ」と針で着物を縫う真似まねをして、小声で、「きっと……上げるんでしょう。紺絣こんがすりの書生羽織! 白い木綿の長いひもも買ってありますよ」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
紺絣こんがすりの前掛けさえ締めれば、どこから見ても茶くみ女としか踏めない客だし、それに何かいわくありげなようすだが、そんなことはどうでもいい、一両と聞いて駕籠屋は死に身だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
紺絣こんがすり兵児帯へこおびを締めている着物の裾を、横ざまに出した片足の上に頻りに冠せながら
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
梅ちやんの着てゐる紺絣こんがすり単衣ひとへ、それは嘗て智恵子の平常着ふだんぎであつた!
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「タイメイ」さんは彼独特の気軽な何だかからみつくような馴れ馴れしい調子で「やあ」と言って、それから何か話しかけた。紺絣こんがすりを着たその娘さんはていよく挨拶して、路の傍の駄菓子屋へ寄った。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
そんなら直木を連れてけとあにから注意された時、直木は紺絣こんがすりて、はかま穿いて、六づかしくすはつてゐて不可いけないと答へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
首里しゅりの仕事を筆頭に、八重山の白絣しろがすり宮古みやこ紺絣こんがすり、それに久米島くめじまの久米つむぎなど、実は百花の美を競う有様であります。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しまあわせに、紺絣こんがすりのお羽織を召していらして、お年寄りのような、お若いような、いままで見た事もない奇獣のような、へんな初印象を私は受取った。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
笛吹は、こまかい薩摩さつま紺絣こんがすり単衣ひとえに、かりものの扱帯しごきをしめていたのが、博多はかたを取って、きちんと貝の口にしめ直し、横縁の障子を開いて、御社おやしろに。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紺絣こんがすりつつっぽに下駄をひっかけての一人旅で、汽車はもちろん三等であった。丁度漱石先生の『三四郎さんしろう』が出たばかりの時だったので、その新しい『三四郎』を一冊ふところに入れて出かけて行った。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
多くは紺絣こんがすり細袖ほそそでの着物を着、これに股引ももひきをはき前掛をかける。時としてこれらのものに刺子さしこを施すのをよろこぶ。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「仙台平を? およしなさい。紺絣こんがすりの着物に仙台平は、へんです。」家内は、反対した。私には、よそゆきの単衣ひとえとしては、紺絣のもの一枚しかないのである。
善蔵を思う (新字新仮名) / 太宰治(著)
渠は、くう恍惚うっとりと瞳を据えた。が、余りにあこがるる煩悩は、かえって行澄おこないすましたもののごとく、かたちも心も涼しそうで、紺絣こんがすりさえ松葉の散った墨染の法衣ころもに見える。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三千代は玄関から、門野かどのれられて、廊下づたひに這入つてた。銘仙めいせん紺絣こんがすりに、唐草からくさ模様の一重ひとえ帯をめて、此前とは丸でちがつた服装なりをしてゐるので、一目ひとめ見た代助には、あたらしいかんじがした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
中にも真円まんまる磨硝子すりがらすのなどは、目金をかけたふくろうで、この斑入ふいりの烏め、と紺絣こんがすり単衣ひとえあざけるように思われる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)