みが)” の例文
幼少の時、剣槍けんそう男谷おたにの道場へ、後に九段の斎藤弥九郎の練兵館にみがき、学問はいう迄もなく、孜々ししと毎日三田の塾まで通っている。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅水は、以前築地一流の本懐石、江戸前の料理人が庖丁をびさせない腕をみがいて、吸ものの運びにも女中のすそさばきをにらんだ割烹かっぽう
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されば始めは格別将来の目算もなくただ好きにまかせて一生懸命けんめいに技をみがいたのであろうが天稟てんぴんの才能に熱心が拍車はくしゃをかけたので
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
気まぐれな奴だと、神尾は横目で、じろじろと丸髷をながめながら通ると、お絹は自分の部屋で、ひとりギヤマンをみがいていたらしい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを修繕し修復しみがり動かし光らして、使われなかったために調子がくるっているその古いさびた機械にふたたび油をぬりはじめる。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
上框あがりがまちには妻の敏子が、垢着いた木綿物の上に女児こどもおぶつて、顔にかゝるほつれ毛を気にしながら、ランプの火屋ほやみがいてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
素敵すてききをかけられてよくみがかれた鋼鉄製こうてつせいの天の野原に銀河ぎんがの水は音なくながれ、鋼玉こうぎょく小砂利こじゃりも光りきしの砂も一つぶずつ数えられたのです。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
佐保子が永年の間いろいろの困難や苦痛と黙って闘いつつ、たゆまず芸術をみがいて行こうとする努力の姿は、伸子にとって少なからず薬であった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ふたには、うろこのかたにみがきをかけた松の皮をそのまま用いて、上には朱漆しゅうるしで、わからぬ書体が二字ばかり書いてある。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一条 人は人たるの品位を進め、智徳をみがき、ます/\其光輝を発揚するを以て、本分とさざるべからず。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
男は自分の都合のいように女を奴隷の位地に置いて対等に人格をみがくことを許さなかった。愚に育てられた女は貞女の名を得て満足し、かくして今日に到った。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
仮にあの材料の石類がみな手近てぢかにあったとしても、あれをみがって穴をあける技術が備わるまで、頸に玉を貫いて掛ける風習が、始まらずに待っていたか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
イヤでも腕をみがかなければならなくなった。一方にお客の方でも、なじみであるなしにかかわらずそんな方面を撰んで押かけて、そんな女を奪い合って遊ぶようになった。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
何をいって聞かせたってろくろく分りはしないのだから、俺は札幌の方を優等で卒業したから、これから東京に出て、もっとえらい大学でみがきをかけるんだといい聞せておいた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家に生拔はえぬきの我れ實子にてもあらば、かゝる迎へのよしや十度十五たび來たらんとも、おもひ立ちての修業なれば一ト廉の學問をみがかぬほどは不孝の罪ゆるし給へとでもいひやりて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
荒挽あらびきする機械や上下の車輪に張り渡されて非常な速さで廻転してゐる鋭利なリボン鋸や水車のやうに廻転してゐる車鋸や鋸の歯を一本々々金剛砂砥こんがうしやとみがいてゐる人間よりも巧妙なる機械やを
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
秀子は愛らしさよりも美しさが優って居るとでもいうのでしょう、一方は天真爛漫の美で、一方はみがける丈研き揚げた美という者です、是だけの違いは有っても、其の実は同じ者だという事が
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
さうなるまでには一方ひとかたならぬ苦心が重ねられてゐたのであつて、およそ世の中の「芸」と称せられるものには、何処か頭の下がるやうな底光りが感じられるのは、切瑳琢磨と云つたやうな心のみがきが
或る日の小せん (新字旧仮名) / 吉井勇(著)
諸君、我々は人格をみがくことを怠ってはならぬ。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
みがきいづれ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
一杯飲んでいる内には、木賊とくさ刈るという歌のまま、みがかれづる秋のの月となるであろうと、その気でしのノ井で汽車を乗替えた。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むしろ貴族的な美しさと、年たつほど、みがかれてくる教養美とが、以前とはちがった光をもって、化粧や黒髪のほかにきらめいてきた。
西洋人は食器などにも銀や鋼鉄やニッケル製のものを用いて、ピカピカ光る様にみがき立てるが、われ/\はあゝ云う風に光るものを嫌う。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この真白な雪でみがかれたんですもの、下界の花とは色の深さが違います、強さが違います、位も違うのは仕方がありません
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると、雲もなくみがきあげられたやうな群青ぐんじやうの空から、まつ白な雪が、さぎの毛のやうに、いちめんに落ちてきました。
水仙月の四日 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
皆もう後生大切にみがきをかけては光り、光っては研きをかけつつ、身動きさえもそっとして、鼻の表現にそのプライドを輝かすばかりに夜を明かし日を暮しておいでになります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ学識を育して判断の明をみがくの一方に力をつくし、業成り塾を去るの後は、行くところに任して、かつてその言行に干渉するなしといえども、つねにその軽率ならざるを祈り
経世の学、また講究すべし (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いゑ生㧞はへぬきの實子じつしにてもあらば、かゝるむかへのよしや十たび十五たびたらんとも、おもひちての修業しゆぎやうなれば一トかど學問がくもんみがかぬほどは不孝ふこうつみゆるしたまへとでもいひやりて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むやみにばんたたかれぬようであるが——しかしその実行しておられるところを拝見すると、触れるの触れぬのと云う事は頓着とんじゃくなくただ熱心に技術をみがいておられるように見受けます。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余り壮健ぢやうぶでなく、痩せた、図抜けて背の高い人で、一日として無為ぶゐに暮せない性質たちなのか、一時間と唯坐つては居ない。何も用のない時は、押入の中を掃除したり、寵愛の銀煙管をみがいたりする。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
生涯のつつしみも守りもみがきも、もしその死をあやまてば、生涯の言行すべて真を失い、ふたたび生きてその汚名をぬぐい直すことはできない
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淡路の人は大阪の人形は小さ過ぎるから、舞台の上で表情が引き立たない。それに胡粉ごふんみがいてないのがいけないと云う。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると、雲もなくみがきあげられたような群青ぐんじょうの空から、まっ白な雪が、さぎの毛のように、いちめんに落ちてきました。
水仙月の四日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
家に生抜はへぬきの我れ実子にてもあらば、かかる迎へのよしや十度十五たび来たらんとも、おもひ立ちての修業なれば一トかどの学問をみがかぬほどは不孝の罪ゆるしたまへとでもいひやりて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その個性がその人の修養と経験とでみがき上げられた人格とが、鼻の表現の変化の根柢を作っている事は、今まで研究して参りましたところに依って最早充分に了解の事と信ぜられます。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なおこまやかに、もやに一面の胡粉ごふんいて、墨と、朱と、あいと、紺青こんじょうと、はた金色こんじきの幻を、露にみがいて光を沈めた、幾面の、額の文字と、額の絵と、絵馬の数と、その中から抜き出たのではない
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今回幸にして行政官直轄の諸学校を私立のていに改革せられたらば、その教員の輩はもとより無官の人民なれども、いずれも皆少小の時より学に志して、自身をみがき他を教育するの技倆ある人物にして
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
客もおんなも、茶屋や船頭に至るまでが、競い合ってみがいているなどという所は、およそ他国の遊び場所では見られないものだった。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くびのひねりよう、手の挙げよう、べてが洗煉せんれんされていて、注意深く、神経質に、人工の極致を尽してみがきをかけられた貴重品の感がありました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
奉公の道も一つであり、みがく道も一つである以上、こうした相互研究を望むことは、たしかに両家の態度であったにちがいない。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
割烹かっぽうの事、身だしなみの事、何から何までみがきをかけて、自分が死んだら何処へなりと立派な所へ縁づけられるように丹精をこめているのだけれど
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
質でありまた質のみがきによる。平常へいぜいの修養鍛錬がものをいうことになると、王者と貧者とでも、この違いはどうにもならない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頬冠ほおかむりに唐桟とうざん半纏はんてんを引っ掛け、綺麗きれいみがいた素足へ爪紅つまべにをさして雪駄せった穿くこともあった。金縁の色眼鏡に二重廻にじゅうまわしのえりを立てて出ることもあった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
智と訓練にみがかれた者のそれは、理論をこえて、理論の窮極へ、一瞬に達し、当面の判断をつかみ取ってあやまらないのである。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みがき立ての光沢つやのいい爪が、指頭と指頭のカチ合う毎にとがった先をキキと甲斐絹かいきのように鳴らした。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
下心したごころとともに、耳たぶの紅から爪の先までみがきに研いていたことである。窓外の雪明りは豪奢ごうしゃえ、内の暖炉だんろはカッカと紫金しこんの炎を立てる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勾当こうとうと云う位は持っておりましてもそれは名ばかりでござりまして、もとより長年みがきをかけました藝ではなく、お耻かしいわざに過ぎませぬのに、どうしてお気に召しましたのやら。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
群をぬいて学識をみがいてきた範宴というものが、近ごろになって何となく自分たちの脅威に感じられてきたからであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際のよりはずっとハイカラな亜米利加アメリカ式の台所で、そこらじゅうがタイルや白ペンキでピカピカ光っている中に、みがき立てた磁器やガラスの食器類がおびただしく並んでいて、それらが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
従って、ここの領主の内福ないふくなことも分るし、武器のくらには、槍鉄砲がいつでもみがきぬいてあるだろうという想像もつく
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)