めす)” の例文
おすめすと」ふたりの雇い人がいた。新しい雇い人がやって来る時には、ジルノルマン氏は新たに洗礼名をつけてやるのを常とした。
と、洞穴の外で異様なうなり声がした。わが棲家すみかのうちの怪しき気ぶりに鏡のような眼をぎすまして帰って来た小虎の親のめすだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めすの狐の作った歌である。うらみくずの葉というところ、やっぱり畜生の、あさましい恋情がこもっていて、はかなく、悲しいのである。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「勘や見當で下手人をきめられてたまるものか。——それより、主人の寅五郎が殺される前に、めす犬が一匹死んだ筈だ。それはどうしたんだ」
虎はここで彼女を下ろしたので、どうするのかと思ってよく視ると、そこには一頭のめすの虎が難産に苦しんでいるのである。
が、Yahoo のめすを軽蔑したスウィフトは狂死せずにはいなかったのである。これは女性ののろいであろうか? 或は又理性の呪いであろうか?
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このパリーのきれいな人たちは、おすが自分を裏切っためすを殺そうとする畜生的な本能にたいして、いろいろ抗弁して、寛大な理性を説くんですね。
其處そこへあの、めす黒猫くろねこが、横合よこあひから、フイとりかゝつて、おきみのかいたうた懷紙ふところがみを、後脚あとあしつてて前脚まへあしふたつで、咽喉のどかゝむやうにした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
上品ぶったつらはしているが、ひと皮けばこいつらはめすだ、色と欲で固まった牝にすぎない。彼はこれまでに知った女たちの、幾人かを思いだした。
自由に相手を選んでゐた境涯きやうがいから、狭いとらはれのをりの中で、あてがはれためすをせつかちに追ひまはすやうな、空虚な心が、ゆき子との接吻のなかに
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「此奴も奇抜な意匠だ。左右少し面相のかわっているのはめすおすの積りなんだろう。君、用心し給え。掏摸すりがいるぜ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「明日、めすをのぞいた残りを全部るというんだ。人道的な方法というからには、アカスガの毒を使うだろう」
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ピオニーと云うのは前から飼っているコリー種のめすで、去年の五月に神戸の犬屋から買った時にちょうど花壇に咲いていた牡丹ぼたんちなんで名をつけたのだが
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「天国には女が居ませんて——」娘は軍鶏しやもめすのやうにきつとなつて顔をあげた。「違ひますよ、先生、そんな理由わけで天国に結婚が無いんぢやございますまい。」
家畜の宰領をしているラファエレに、現在の頭数を聞いて見たら、乳牛三頭、こうしめすおす各一頭ずつ、馬八頭、(ここ迄は聞かなくても知っている。)豚が三十匹余り。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
これをチベットでヤクと言って居りますがこの獣は西洋にもないものですから翻訳が出来ぬものと見えてやはり英語でも「ヤク」といって居る。そのめすをリーといいます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ゴリラが多くのめすを連れて生活しおるのは、原始人の生活と同様であるといわれる。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
牝牡めすをすおなじあなこもらず、めすの子あるは子とおなじくこもる。其蔵蟄あなごもりする所は大木の雪頽なだれたふれてくちたるうろ(なだれの事下にしるす)又は岩間いはのあひ土穴つちあな、かれが心にしたがつる処さだめがたし。
「どうも内の狆がめすだもんですから、いろんな犬が来て困ります」と云って置いて、「畜生々々」と顧みがちに出て行く犬を叱っている。狆は帳場から、よそよそしい様子をして見ている。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
どこの動物園へ行って見ても、猛獣の檻には大ていおすめすとがお揃いでいるものだわ。あたし、もうせんから、あんたにお嫁さんをお世話しなけりゃと思って、いろいろ心がけていたのよ。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
別になんでもないので、ところで、アトスでは、お聞き及びでしょうが、女性の訪問が禁制になっとるばかりか、どんな生物でもめすはならん、牝鶏でも、牝の七面鳥でも、牝のこうしでも……
「捨犬でしょう。」お婆さんは一寸調べるように見ていたが、「めすですね。」
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
斯の狆の種を得たいと言つて、同じやうな美しい毛並のめすを引連れて来る人もあつた。時とすると狆は人の習慣を無視する動物の本性に反つて、殆んど本能的に私のまはりを狂つて歩いた。
(新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
して僕等の先輩が、生物を善用して比較解剖をしたればこそ、成熟期に達した人間の女に月經があると同時に、猿のめすにも月經があるといふ、宇宙の一大事件が發見されたのぢやないか。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「お浜、おすにばかり親切するのでなかど。めすにもオカラをやってくれよ」
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
栗毛の、片眼で老いためすの馬が、ある晩遅く、若い頃博労ばくろうをやったことのある祖父と、父と二人して、っぱられてきた。そして長屋の背後に、小さい掘立ほったて小屋が作られて、馬は其処そこに入れられた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「このめすはずか/\肥えるじゃないかいや。」
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
体重 おすで一一〇封度ポンドめすで八〇封度まで
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
... 買って料理に使いますが犢の肉もやっぱり一週間位けますか」お登和嬢「イイエ犢の肉は牛肉よりも食頃たべごろが速いのでく寒い時でもほふってから三、四日目位でございます」妻君「犢の肉はやっぱり大牛おおうしのように牝牛めうしの方がいいのでしょうか」お登和嬢「犢の時は孰方どちらも同じ事ですが大概おすばかりでめす滅多めったほふりません。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「見苦しいのは、あなたという人間の行いではありませんか。あんなめすけだもののような白粉おしろいの女たちを、五人も六人も飼いちらして」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしれ私一人ひとりの好みを云へば、やはり、犬よりは狼がい。子供を育てたり裁縫したりする優しいめす白狼はくらうい。
世の中と女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かねてからわしも知っとる、お孝はなお孝はな、……それがために、めす、われが身になって、食いものねだりの無理非道よりも泣かされたぞ、に、に。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとりはほほえんでる恐ろしいジョンドレット、また片すみにはめすおおかみのようなジョンドッレットの女房、それから壁の後ろには、人に見えない所にたたずんで
馬はめすの事を考へてにやにやしてゐた。ふと気が附くと、直ぐ眼の前を美しい女が歩いてゐる。
「それなら分る。両方に鬚があるなり……か。成程、面白い。猫は確かにめすでも鬚がある」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「だって小父さん、めすおすならば喧嘩けんかしないって云うじゃありませんか」
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここ怜悧りこう観世物師みせものしがあったら、ただちに前代未聞と吹聴すべき山𤢖やまわろなるものの正体はそもんなであったか。勿論もちろん、彼等にもめすおすはあろうが、今ここに屍体となって現われたのは、たしかに女性であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うつゝなきの鼻先に尻を向けこれも眠れりめすのライオン
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
めすが一匹に、男が一人さ」
女は今も信輔にはその為に美しさを伝えている。しそれ等に学ばなかったとすれば、彼は或は女の代りにめすばかり発見していたかも知れない。…………
そっちのめすまげびんが、頬先に渦毛うずげを巻いとる、見しゃれ。人間の言葉が通ずるうちに、よう聞け、よう聞けや。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとたちまち、あたりは暗くなり、雲のごとき気流のうちから、数千の豼貅ひきゅう(大昔、中国で飼い馴らして戦場で使ったという猛獣のこと、おすきゅうめす
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女房はおおかみめすおすに従うように、うなりながらその言葉に従った。
赤黒きタンクの如く並びゐる河馬のめすをすわれは知らずも
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
めすが一匹に、男が一人さ」
けれども橙色の人間獣のめすは何か僕を引き寄せようとしてゐる。かう云ふ「野性の呼び声」を僕等の中に感ずるものは僕一人に限つてゐるのであらうか?
年久しく十四五年を経ためすが、置炬燵おきごたつの上で長々と寝て、そっと薄目をみひらくと、そこにうとうとしていた老人としよりの顔を伺った、と思えば、張裂けるような大欠伸おおあくびを一つして
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、このめすの獣め」と、年景が、こんどは平手をこぶしにして、もう一つ、頬へ加えると
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この膃肭獣おっとせいと云うやつは、おすが一匹いる所には、めすが百匹もくっついている。まあ人間にすると、牧野さんと云う所です。そう云えば顔も似ていますな。だからです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
團右衞門方だんゑもんかた飼猫かひねこをすが一ぴき、これははじめからたのであるが、元二げんじ邸内ていない奉公ほうこうをしてから以來いらい何處どこからたか、むく/\とふとつた黒毛くろげつや天鵝絨びろうどのやうなめすひと
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)