燦爛さんらん)” の例文
その薄明の中に、きわめて細かい星くずのような点々が燦爛さんらんとして青白く輝く、輝いたかと思った瞬間にはもう消えてしまっている。
詩と官能 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
本堂にはお説経の壇が出来て、赤地錦あかじにしきのきれが燦爛さんらんとしている。広い場処に、定連じょうれんの人たちがちらほらいて、低い声で読経どきょうしていた。
近代の仏詩は高踏派の名篇において発展の極に達し、彫心鏤骨るこつの技巧実に燦爛さんらんの美をほしいままにす、今ここに一転機を生ぜずむばあらざるなり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
燦爛さんらんたる火光あかり、千万の物音を合せた様な轟々たる都の響。其火光がお定を溶かして了ひさうだ。其響がお定を押潰して了ひさうだ。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女は燦爛さんらんとして輝いているが、しかも退屈な応接間からそっと忍び出て、小さなみじめな自分の部屋へ泣きにゆくこともしばしばあった。
人が足に踏みにじり、炉のうちに投じ、溶解し、沸騰せしむる、あのいやしき石くれも、やがては燦爛さんらんたる結晶体となるであろう。
否、塵芥は至粋をとゞむるのちからなきなり、漁郎天人の至美を悟らずして、いたづらに天衣の燦爛さんらんたるををしむ、こゝに於てか天人に五衰の悲痛あり。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
正面に燦爛さんらんとして輝くのは、二間ほどの大仏壇で、その前に端座して、何やらゴツゴツやっているのは、主人の正兵衛でした。
この日、曹操は、七宝の金冠をいただき、緑錦りょっきんひたたれを着、黄金こがねの太刀を玉帯に佩いて、足には、一歩一歩燦爛さんらんと光を放つ珠履しゅりをはいていた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入日の雲が真紅に紫にあるいは黄色に燃えて燦爛さんらんの美を尽すのも今だ。この原の奇観の一つにかぞえられている大旋風の起るのもこの頃である。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
とたんに、室中のものがハッと息をのみ、思わず土まみれのままの燦爛さんらんたる光に……ダイヤ、しかも原石! と唖然あぜんたる態。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
せんじ詰めるとこれだけであるが、そのこれだけが、非常にもっともらしい口吻こうふん燦爛さんらんたる警句とによって前後二十七ページに延長している。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際に我我のような平凡人でも、山頂に宿って燦爛さんらんとして且つ静粛な夜天の星群を望むと、心も身も共に浄まる気がする。
高きへ憧れる心 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
燦爛さんらんとした星の下を。昂奮と怖れと苦悶に圧せられながら。ひっそりとした暗い町を今人間の形をした苦悶が火照って行き過ぎるのではないか。
小さき良心:断片 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
その刹那から、己の目の前には、現実の世界が消えてしまって、燦爛さんらんたる色彩と、妖艶ようえんなる女神めがみと、甘美かんびなる空気との世界ばかりが見えて居た。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
燦爛さんらんたる羅馬文化……しかも立派に完全したものを見たのでありますから、この駆逐艦乗組員一同の驚きもさこそと察し得られるのであります。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夜明けの微光とともに開いて、夜の暗さとともに眠るのです。太陽の輝きが燦爛さんらんたれば燦爛さんらんたるほど元気で、曇れば福寿草も元気なく項垂うなだれます。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
壁には、象を料理するのじゃないかと思うほどの大鉞おおまさかり大鋸おおのこぎり、さては小さい青竜刀せいりゅうとうほどもある肉切庖丁にくきりほうちょうなどが、燦爛さんらんたる光輝ひかりを放って掛っていた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
電車のきしる音、乱れ足で行き違う群集の影。たそがれの気を帯びて黒い一と塊りになりかけている広場を囲む町の家々に燦爛さんらんと灯がともり出した。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかれどもさらに精密にこれを観察せば兵の太陽はその光輝燦爛さんらんたるがごとしといえども夕暉せききすでに斜めに西山に入らんとする絶望的のものにして
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
仏間に這入ると、すでに、新しい蝋燭ろうそくに火がともされていて、仏壇が燦爛さんらんと光っていた。念仏の声が急に繁くなった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
これであるから余りに鄭重ていちょうな供養を提出された時に、恵心が其の燦爛さんらんたる膳部に対して「かくては余りに見ぐるし」と云ったのも無理はないことで
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
このとき、うらなしゃそらあおぎました。いつしかそらには、金銀きんぎんすなをまいたように、燦爛さんらんとしてほしかがやいていました。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すべては黒く、しかし燦爛さんらんとしていた、——ちょうどタータリアン10の文体が譬えられているあの黒檀のように。
群集の人 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
洪大尉の石碣せきけつを開いて一百八の魔君を走らせしも恐らくはこう言う所ならん。霊官殿、玉皇殿、四御殿など、皆えんじゅ合歓ねむの中に金碧燦爛さんらんとしていたり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、居間に入って、ひとりでチビリチビリとやり出した時に、ようやく鬱憤うっぷんが、酒杯の中へ燦爛さんらんと散り、あらゆる貪著どんじゃくがこの酒杯にかぶりつきました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
棺をおおうて定まる批評は燦爛さんらんたる勲章よりもヨリ以上に沼南の一生の政治的功績を顕揚するに足るものがあった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それは真に一宗の開拓であった。光悦に続いて宗達そうたつ光琳こうりん、乾山と燦爛さんらんたる命脈が持続されたのも無理はない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
騎兵と歩兵と砲兵と、服色燦爛さんらんたる数十万の狂人の大軍が林の中から、三色の雲となって層々と進軍した。砲車のわだちの連続は響を立てた河原のようであった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
孟宗もうそうの根竹に梅花を彫った筆筒ふでづつの中に乱れさす長い孔雀くじゃくの尾は行燈あんどう火影ほかげ金光きんこう燦爛さんらんとして眼を射るばかり。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
河の向う岸では橋に近く光輝燦爛さんらんたる花火が発射されつつあり、我々はこの舟の迷路の中で、衝突したり、後退したり、時に反対の方向に転じたりしながら
すなわち私共はその北の口からずっと入って見ますと実に金碧きんぺき燦爛さんらんとして何ともいえない感に打たれたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
生きながら彼はいま戒壇院を睥睨へいげいしているわけである。ここのこの木牌室ほど県下で立派なものはないということだが、私も一度見た。金色燦爛さんらんたる部屋である。
博士 正史でなく、小説、浄瑠璃じょうるりの中を見ましょうで。時の人情と風俗とは、史書よりもむしろこの方が適当でありますので。(金光燦爛さんらんたる洋綴ようとじの書をひらく。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
リボンの紫はおいおいにせてゆくが、海神ネプチュヌの金色こんじき燦爛さんらんたる名は、日光にもめげないでいる。
数寄屋橋すきやばし門内の夜の冬、雨蕭々せう/\として立ち並らぶ電燈の光さへ、ナカ/\に寂寞せきばくを添ふるに過ぎず、電車は燈華燦爛さんらんとして、時をさだめて出で行けど行人かうじんまれなれば
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ある時は、燦爛さんらんたる光に満ちた大空であって、九月の麗わしい夜に、一つ離れて滑り落ち静かに消えてゆく、見ても胸踊るばかりの星が一つ、そこに見えていた。
それと同時どうじに、一旦いつたんいへかへつた櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさは、きんモールのひかり燦爛さんらんたる海軍大佐かいぐんたいさ盛裝せいさうで、一隊いつたい水兵すいへい指揮しきして、屏風岩べうぶいわしたなる秘密造船所ひみつざうせんじよなかへと進入すゝみいつた。
貧乏寺でもさすがにこればかりは金色こんじき燦爛さんらんとした天蓋が、大藤の花の垂るるがごとく咲き垂れていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ところで、白い帽子の白詰め襟の老ボーイ、食堂の入口に現れるなり、燦爛さんらんと、さて悲しげに笑ったが、左に銅鑼どら、右にばち、じゃん、じゃららん、らんらんらんらん。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
特務曹長「ええ、只今ただいまのは実は現在完了かんりょうのつもりであります。ところで閣下、この好機会をもちましてさらに閣下の燦爛さんらんたるエボレットを拝見いたしたいものであります。」
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
在来の雌雀老いて痛き目を見るを悲しんで烏の窠下かかにおり雨降るに気付かず、烏の窠中に色々に染めた布片あり、雨に溶けて老雀に滴り燦爛さんらんたる五采孔雀のごとしと来た
いま春の光りが燦爛さんらんとこの姿を照らして、漆黒の全身がもえあがらんばかりに輝いてみえる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
三十三間堂では薄闇の中に金色きんしょく燦爛さんらんとして何列にも立ち並んでいる千手観音せんじゅかんのんの数に驚いた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
其傍に光輝こうき燦爛さんらんたるものあるをしものありと、此等の迷霧めいむはらさしめんとのこころざしは一行の胸中に勃然ぼつぜんたり、此挙このきよや数年前より県庁内けんちやうないに於ておこなはんとのありしもつね其機そのきを得ず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
燦爛さんらんたる光耀を伴うような、神への尊崇と神への敬順を具象化したような宝玉や金属で飾られた寺院本、紋章や唐草や絡み模様などでけんらんと装われた貴族蔵本などは自ら過剰な
書籍の風俗 (新字新仮名) / 恩地孝四郎(著)
荒蕪地こうぶちの方は、ハリエニシダの花が満開中で、四月の太陽を受けて、黄金色に燦爛さんらんとしていた。私はその一つの茂みのかげの、道路の両端と、廃院の門とがよく見える位置に身をひそめた。
外では猛烈な嵐が城をかすめて物凄い千切雲ちぎれぐもを吹飛ばした。そしてこの細長い空の中に闇を投げ込んだ。その時師父ブラウンは、その小さな本を手にとって燦爛さんらんと光るそのページをしらべ始めた。
司祭しさいの肩なる鉤鈕かぎぼたんの如く、いろ燦爛さんらんたる寶玉ほうぎよくちりばめたる莊嚴さうごんに似たるを知る。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
雛店というと、目の前に描き出されるのは直ちに店一杯真赤な色をしている、その赤い中に、金色もあれば、青色もあり、紫色もあり、白色もあり、紅紫こうし燦爛さんらん、人目をくらまするような感じである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)