だな)” の例文
風情ふぜいもない崖裾がけすその裏庭が、そこから見通され、石楠しゃくなげや松の盆栽を並べた植木だなが見え、茄子なす胡瓜きゅうりねぎのような野菜が作ってあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庭に出て水を汲んでいた娘は、家内や子供に会釈しながら、盆栽だなの間を通り過ぎた。めずらしそうに私達の様子を眺める人もあった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちがだなを略した押入れのあるのに目をとめて、それへ手がかかる途端に、サッと、ふすまおと——そして、どたりという重苦しい響きが一瞬。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又そこの食器だな珈琲茶碗コーヒーぢゃわんや、ビールのコップや、ワイングラスや、葡萄酒ぶどうしゅやウィスキーのびんがパチャン、パチャンと破裂する。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
障子ぎわには小さな鏡台が、違いだなには手文庫と硯箱すずりばこが飾られたけれども、床の間には幅物ふくもの一つ、花活はないけ一つ置いてなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
食器だな。薬品の戸棚。部屋の中央にテーブル。旅行カバンが一つ、帽子のボール箱が幾つか。出立しゅったつの用意が見てとられる。
この箱の中の願文がんもんはお居間の置きだななどへしまってお置きになりまして、何をなさることも可能な時がまいりましたら
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
また建築にはば元禄は丸木の柱かやの屋根に庭木は有り合せの松にても杉にてもそのままにしたらんが如く、天明は柱を四角に床違とこちがだなを附け
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すると、とちゅう、ばらの花だなの下を通ったので、ふと、末むすめのラ・ベルにたのまれたことをおもいだして、おみやげにひと枝、ばらを折りました。
と云いつつ立って違いだなに載せて置いたる風呂敷包みとりおろし、結び目といて二束ふたつかねにせし書類かきものいだし、十兵衛が前に置き、我にあっては要なき此品これ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼の眼は不思議そうに室の中を見回していたが、そこの暖炉だなの上にオリヴィエの写真を一つ見つけた。クリストフは何気なく彼の視線の方向をたどった。
其所そこかはが流れて、やなぎがあつて、古風ないへであつた。くろくなつた床柱とこばしらわきちがだなに、絹帽シルクハツト引繰返ひつくりかへしに、二つならべて置いて見て、代助は妙だなとつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たわいもない幻影を追う目がガラスだなのチョコレートに移ると、そこに昔の夢のビスケット箱の中のメールコーチが出現し、五十年前の父母の面影がちらつき
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すみの三角だなのうえにおいてあるテレ・ラジオがしゃべりだす。その器械のまん中にはまっている映写幕には、アナウンサー田村君のきんちょうした顔がうつっている。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
暖炉縁マンテルピースの上、すみなる三角だなの上には、内外人の写真七八枚、軍服あり、平装のもあり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と、つと立ちあがったお蓮様の手が、床わきのちがだなの地袋を、さっと開くと!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ちがだなわきに、十畳のその辰巳たつみえた、姿見に向かった、うしろ姿である。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美登利みどりなにゆゑとなくなつかしきおもひにてちがだなの一りんざしにれてさびしくきよ姿すがたをめでけるが、くともなしにつたそのけの信如しんによなにがしの學林がくりんそでいろかへぬべき當日たうじつなりしとぞ(をわり
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
イギリスものらしい古風なかざだながある。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
青竹の神々しさよえほうだな 遅望
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
暇があるとよく小裂こぎれを切り刻んでいたずらしていたものであったが、だんだん技術が進歩して、百貨店の陳列だなへ作品が出るようになった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
食事や洗濯せんたくの世話などしてくれる家族の隣りに住み、池を前に、違いだな、床の間のついた部屋から、毎日宮司のつとめにかよっているらしい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分にあてがわれたきらびやかな縮緬ちりめんの座ぶとんを移して、それに倉地をすわらせておいて、ちがだなから郵便の束をいくつとなく取りおろして来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
唐紙からかみのはいった置きだなの戸をあけて紙を選び出したり、筆を気にしたりして源氏が書いている返事はただ事であるとは女房たちの目にも見えなかった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
思いついたようにちがだなの上を眺めた彼は、まだ手をつけなかった吉川夫人の贈物が、昨日きのうのままでちゃんと載せてあるのを見て、すぐそれを下へおろした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
街路から三段降りて中にはいるようになっていて、中では背をかがめなければ立っておれなかった。一つの古靴だなと二つの腰掛とを並べるだけの場所しかなかった。
召使でも置き忘れたものか、ちがだなの端に裸火の手燭てしょくが一つ、ゆら、ゆら、と明滅の息をついている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀子が父のあとから土間へ入って行くと、東京を立つ時にはまだい出しもしなかった末の妹が、黒い顔に例のどんよりした目をして、飾りだなの後ろからよちよち歩き出し
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
(幸子は彼女の頸飾くびかざりとか指輪の中には、奥畑貴金属店の陳列だなから出た物もあるのではないかと、ひそかに疑ったこともあった)
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わしかえ」とお隅は手桶を夕顔だなの蔭に置いて、「だってもとっさんが帰れと言いなさるから、みんなと一緒に帰りやしたよ」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
古くさい書物だなから、唐守からもり藐姑射はこや刀自とじ赫耶姫かぐやひめ物語などを絵に描いた物を引き出して退屈しのぎにしていた。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
とこの横にちがだながあって、えんと反対の側には一間いっけん押入おしいれが付いていました。窓は一つもなかったのですが、その代り南向みなみむきの縁に明るい日がよく差しました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どこを掃除したのだと思われるような掃除のしかたで、はたきまでがちがだなの下におき忘られていた。過敏にきちょうめんできれい好きな葉子はもうたまらなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そうした風潮が時の官権へいかに腐心して媚びを競ったかという実例に、当時、吉原あたりでは“ままごとだな”と称する一つの名物を生んだと「匏庵遺稿」は書いている。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
バールトはクリストフを青葉だなの下へ引っ張っていって、ビールを命じた。空気は気持よく暖まっていて、蜜蜂みつばちの羽音が響いていた。クリストフは何しに来たのか忘れていた。
その本を取り出した置きだなにあった、それぞれ違った色の紙に書かれた手紙のからの内容を頭中将とうのちゅうじょうは見たがった。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と叔父に言われて、お俊は花の絶えない盆栽だなの方へ、植木好な直樹を誘った。お延も一緒にいて行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手にある写真を持てあつかって、違いだなの上に置くと、廊下の欄干のところへ出て行ってぼんやり庭を見おろしている雪子の、後姿に向って幸子はつづけた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
三人は約三十分ばかり根気こんきに働いた。仕舞にはさすがの与次郎もあまりつ付かなくなつた。見ると書だなの方を向いて胡坐あぐらをかいてだまつてゐる。美禰子は三四郎のかた一寸ちよつといた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼が着いたとき、彼らは庭に出ていて、夏の暑い午後を、丸がさのように茂った秦皮とねりこの下でうつらうつらしていた。手を取り合って青葉だなの下で居眠ってるベックリンの老夫婦に似ていた。
“ままごとだな”世相
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
螺鈿らでんの置きだな二つへ院のお召し料の衣服箱四つを置いて、夏冬の装束、香壺こうご、薬の箱、おすずり洗髪器ゆするつきくしの具の箱なども皆美術的な作品ばかりが選んであった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
飾り付けと云っては一隅の三角だなに、西洋の骨董品こっとうひんらしい、きたならしく蝋涙ろうるいのこびり着いた燭台しょくだいと、その他二三の蚤市のみいちからでも買って来たらしいガラクタと
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
学士は家の方の朝顔だなが案じられるという風で、大急ぎで高瀬に別れて行った。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが有産者らの書物の中にとどまってる間は、あたかも死んでるのに等しかった。博物館の品物であり、ガラスだなの中の包み込まれたミイラであって、だれも目に止めるものはなかった。
カタリナはそう云って、三角だなの下の段から、第一回の試作品である舞妓まいこの人形を出して来た。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くらの中も別段細かなものがたくさん置かれてあるのでなく、香の唐櫃からびつ、お置きだななどだけを体裁よくあちこちのすみへ置いて、感じよく居間に作って宮はおいでになるのである。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ローマ人の夫婦墓が道に沿って並んでいて、その憂わしい顔と忠実な握手とを、木の葉がくれに示していた。二人は並木道のつきる所に、白い石棺を背にして、薔薇の青葉だなの下にすわった。
食堂のドーアを細目に開けてのぞいて見ると、今までいたはずの妙子が見えず、幸子と雪子とが食器だな抽出ひきだしからテーブルクロースを出したり、一輪挿いちりんざしを片附けたりしていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よけいに幾つもの屏風びょうぶを持って来て立て、飾りだな、二階棚なども気持ちの悪いほど並べ、そんなのを標準にしてすべての用意のととのえられているのを、夫人は見苦しく思うのであるが
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)