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撓
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しな
ふりがな文庫
“
撓
(
しな
)” の例文
薪割りから水汲みと、越後から来た
飯炊男
(
めしたきおとこ
)
のように実を運んでも、笹の雪、
撓
(
しな
)
うと見せて肝腎なところへくるとポンと
撥
(
は
)
ねかえす。
平賀源内捕物帳:山王祭の大像
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
すぐ眼の前に藪がかぶさっていて、雪で
撓
(
しな
)
った枝葉のあいだから、細い笹の幹がぼんやりと見え、つい鼻のさきで、新らしい雪が匂った。
樅ノ木は残った:02 第二部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
しかし私はこの女優が芸術家としての修養は、これ程の重い歎きにも堪へ得るだけの感情の
撓
(
しな
)
やかさを持つてゐるに違ひないと思つてゐた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
といふやうな声を出して、彼は満足と緊張とのためにあの調子外れな表情になつて、
撓
(
しな
)
つた竿をしつかりと引きつけはじめた。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
そういううちにマダムの
背後
(
うしろ
)
に隠れていた白い肉付きのいい右手が前に出て来た。その手には黒い、短い、
皮革
(
なめしがわ
)
の
鞭
(
むち
)
がシナシナと
撓
(
しな
)
っていた。
継子
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
▼ もっと見る
それが殆ど折れそうなくらいに
撓
(
しな
)
いながら自分の花を持ち
耐
(
た
)
えている
傍
(
そば
)
などを通り過ぎる時は、私は何んだか切ないような気持にすらなった。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
ところどころ細い枝などが列を
外
(
はず
)
れて往来へ差し出ているのを、通りながら
潜
(
くぐ
)
り
抜
(
ぬ
)
けたり、
撓
(
しな
)
わしたりして行き過ぎるのが何より愉快だった。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
武道で鍛えあげた彼の体は、
脂肪
(
あぶら
)
も
贅肉
(
ぜいにく
)
も取れて、痩せすぎるほどに痩せていた。それでいて硬くはなく、
撓
(
しな
)
いそうなほどにも軟らかく見えた。
血曼陀羅紙帳武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
彼女の感じでは、平生でもミシミシ
撓
(
しな
)
うヘギのような
梯子段
(
はしごだん
)
が、両側から帆のように膨らむ壁と壁に挟まってメリメリ壊れかけて来たと思えた。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
かッと
極
(
き
)
め、極めはずした不思議のはずみに、太い竹が
篠
(
しの
)
のようにびしゃっと
撓
(
しな
)
って、右の手の指を二本
打
(
うち
)
みしゃいだ。
夫人利生記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
風にさえ、すぐブランブラン揺れる足場だし、歩くと、上下にも
撓
(
しな
)
うので、自然、その上での動作は曲芸師の身ごなしが身につく程なものだった。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
お
止
(
よし
)
よ。今じゃあ痛くもなんともないが、打たれた時にあ痛かったよ。だって
布袋竹
(
ほていちく
)
の
釣竿
(
つりざお
)
のよく
撓
(
しな
)
う
奴
(
やつ
)
でもってピューッと一ツやられたのだもの。
雁坂越
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
ポプラの大木は鞭のように
撓
(
しな
)
い曲りながら、撓い返すと見る間に、片側の葉は残らず
削
(
そ
)
ぎ飛び、現れた枝は半身
毟
(
むし
)
り取った
鰶
(
このしろ
)
の骨のように見えます。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それでも
敷居
(
しきい
)
をまたぐと土間のすみの
竈
(
かまど
)
には火が暖かい光を放って
水飴
(
みずあめ
)
のようにやわらかく
撓
(
しな
)
いながら燃えている。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
足下の地面が
撓
(
しな
)
うのを感ずる下水夫らは、いつもまず第一に、その道具袋や
負
(
お
)
い
籠
(
かご
)
や
泥桶
(
どろおけ
)
を投げ捨てるのであった。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
そう叫んだ彼は、冒険だったが横に出ている大枝の上を静かに
匍
(
は
)
っていった。枝はすこし
撓
(
しな
)
ったけれど、三つ股のあるところへは、ずっと届きやすくなった。
地球盗難
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
父は
故意
(
わざ
)
と背を反らすようにして私を困まらせようとする。私は全身に力を入れて押しあげようとする。が、父の体はどっしりして重く、手が
撓
(
しな
)
うようになる。
種紙の青む頃
(新字新仮名)
/
前田夕暮
(著)
二人分を感じて、私の心は
撓
(
しな
)
うようです。撓いつつ甘美な苦痛を感じて、折れないという自覚のよろこび。
獄中への手紙:03 一九三六年(昭和十一年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
天秤棒
(
てんびんぼう
)
を
撓
(
しな
)
はせながら「金魚ヨーイ、鯉の子……鯉の子、金魚ヨイ」といふ觸れの聲がうら淋しい諧調を奏でて聞えると、村ぢゆうの子供の小さな心臟は躍るのだつた。
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
葉のない木も、細い
梢
(
こずえ
)
の先まで雪を附けて
撓
(
しな
)
っていた。樹氷に
纏
(
まつわ
)
りつかれて重くなっているのだ。ときわ樹は枝葉の上に山のように積みあげて幹から外れそうであった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
それを無理に紫繻子が引張るので、その
度
(
たび
)
に、つかまっている柱が
撓
(
しな
)
って、テント張りの小屋全体が、大風の様にゆれ、アセチリン
瓦斯
(
ガス
)
の
釣
(
つり
)
ランプが、
鞦韆
(
ぶらんこ
)
の様に動いた。
踊る一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
撓
(
しな
)
ってる枝々はその喜びの腕を、光り輝く空のほうへ差し伸ばしていた。
急湍
(
きゅうたん
)
は笑ってる鐘のように響いていた。昨日は墳墓の中にあったその同じ景色が、今はよみがえっていた。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
しかし
撓
(
しな
)
いぐあいはたしかにこのほうが柔らかで、ぎごちなくないように思われる。
錯覚数題
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
一人が棹を弓のように
撓
(
しな
)
はせて、遅々として水に逆つて来たが、私の乗つてる船と、行き違はうとして、ひどい波におつかぶせられ、向うもこつちも、ヅブ濡れになつて、両方の船が
天竜川
(新字旧仮名)
/
小島烏水
(著)
萩の枝が
撓
(
しな
)
うばかりに露の置いた
趣
(
おもむき
)
で、そう具体的に眼前のことを云って置いて、そして、「寒くも時はなりにけるかも」と主観を云っているが、感の深い云い方であるのは、「も」
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
七分間で最終の
停車場
(
ステエシヨン
)
に下車し、
香港
(
ホンコン
)
ホテルの門前に出て支那人の
舁
(
か
)
く長い竹の
柄
(
え
)
の
撓
(
しな
)
ふ
轎
(
こし
)
椅子に乗つた。
轎夫
(
けうふ
)
は皆
跣足
(
すあし
)
である。山
上
(
じやう
)
の
路
(
みち
)
は
総
(
すべ
)
てコンクリイトで固められて居る。石を敷いた所もある。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
風は林檎の枝に歌い、花のたわわな枝は風に揺れ、風に
撓
(
しな
)
った。
少年・春
(新字新仮名)
/
竹久夢二
(著)
風を切つて刀の
撓
(
しな
)
ひを試めし
小熊秀雄全集-06:詩集(5)飛ぶ橇
(新字旧仮名)
/
小熊秀雄
(著)
撓
(
しな
)
へる棹をあやつりて
筑波ねのほとり
(旧字旧仮名)
/
横瀬夜雨
(著)
いろいろ当ってみたんだが、
撓
(
しな
)
うのも困るし重くっても困るし、それで彫物部屋の伊助さんに相談したんだ、あの人は木を
さぶ
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
眼尻の吊りあがった狐目でもしているどころか、張のある、くりっとしたうつくしい眼で、
撓
(
しな
)
ったような長い睫毛がほんのりと眼に深みをつけている。
生霊
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
頬
(
ほお
)
の豊かな面長の顔で、それに
相応
(
ふさわ
)
しい目鼻立ちは
捌
(
さば
)
けてついているが、いずれもしたたかに露を帯びていた。身丈も
格幅
(
かっぷく
)
のよい長身だが滞なく
撓
(
しな
)
った。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
向
(
むか
)
つて
左
(
ひだり
)
の
端
(
はし
)
に
居
(
ゐ
)
た、
中
(
なか
)
でも
小柄
(
こがら
)
なのが
下
(
おろ
)
して
居
(
ゐ
)
る、
棹
(
さを
)
が
滿月
(
まんげつ
)
の
如
(
ごと
)
くに
撓
(
しな
)
つた、と
思
(
おも
)
ふと、
上
(
うへ
)
へ
絞
(
しぼ
)
つた
絲
(
いと
)
が
眞直
(
まつすぐ
)
に
伸
(
の
)
びて、するりと
水
(
みづ
)
の
空
(
そら
)
へ
掛
(
かゝ
)
つた
鯉
(
こひ
)
が——
人魚の祠
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
しかし小さいだけあって、鈴なりに枝を
撓
(
しな
)
わして、
累々
(
るいるい
)
とぶら下っているところがいかにもみごとに見える。
満韓ところどころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
支
(
ささ
)
えになった竹の幹は横に
撓
(
しな
)
って、むら
笹
(
ざさ
)
の葉からバラバラと
瑠璃
(
るり
)
の雨……お米へ無残な露しぐれ。
鳴門秘帖:01 上方の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
象牙
(
ぞうげ
)
のような指を持った、ぎゅっと抱きしめたら
撓
(
しな
)
って折れてしまいそうな小柄な綺羅子は、舞台で見るよりは
遥
(
はるか
)
に美人で、その名の
如
(
ごと
)
く綺羅を極めたあでやかな衣裳に
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
タラタラと
滴
(
しずく
)
が
滴
(
したた
)
った。スーッと肩まで持ち上げた。全体格が弓のように
撓
(
しな
)
った。思うさま胸が突き出された。ワングリと両乳房が膨れ上がった。全身の力が腰に集まった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
机の上にフリージアの花があってね、はじめピンと軽く立っていたのが、花が一つ一つひらきはじめたら、その花々の重さで茎が何とも云えないリズムをもって
撓
(
しな
)
っています。
獄中への手紙:07 一九四〇年(昭和十五年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
危急の際に底の
泥
(
どろ
)
の中で出会ったその足場は、底部の向こうの一端だった。それは曲がったままこわれないでいて、板のようにまた一枚でできてるかのように、水の下に
撓
(
しな
)
っていた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
五十
哩
(
マイル
)
、六十哩、彼の車は車体が
撓
(
しな
)
う程の速力で、車輪も宙に疾駆した。
黄金仮面
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
その
夜
(
よ
)
富田
(
とんだ
)
屋の
里栄
(
さとえ
)
は、
起
(
た
)
つて地唄の『雪』を舞つた。仏蘭西の象徴派詩人の作にあるやうな、
幽婉
(
いうゑん
)
な、涙ぐましいこの曲の旋律は、心もち
面窶
(
おもやつ
)
れのした
妓
(
をんな
)
の姿に流れて
撓
(
しな
)
やかな
舞振
(
まひぶり
)
を見せた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
誰かが獲物を掛けたらしく、中腰になつて、大きく
撓
(
しな
)
つたまゝで力強く顫へてゐる竿を両手でゆるやかに引よせにかゝると、彼等は何かの気配でそれと悟るのか、いつせいに釣り手の方をふりむく。
医師高間房一氏
(新字旧仮名)
/
田畑修一郎
(著)
月光に濡れた工兵中尉の剣光がビィヨンビィヨンと空間に
撓
(
しな
)
った。
戦場
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
よく
撓
(
しな
)
う大阪格子の戸をあけると、口髯ばかりいかめしい貧相な男が、袴のうしろをひきずりながら出てきた。
雲の小径
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
夜
(
よる
)
の樹立の
森々
(
しんしん
)
としたのは、
山颪
(
やまおろし
)
に、皆……
散果
(
ちりは
)
てた柳の枝の
撓
(
しな
)
ふやうに見えて、鍵屋の
軒
(
のき
)
を吹くのである。
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
半三郎の持っている竿が
撓
(
しな
)
った。もっと大きく撓い、水面で魚が跳ねた。彼はその撓う竿を持ったまま、頭を垂れた、低く頭を垂れて、そして口の中で囁いた。
鵜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
自然だとて慾望もある、肉体もある。あのすざましい噴火の焔、あれを見て誰が意志の無いものと思えようぞ。このごうごうと
撓
(
しな
)
う大地、誰が無生物と思えようぞ。
宝永噴火
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
綺麗
(
きれい
)
に
抜
(
ぬ
)
き取った〕
頭髪
(
とうはつ
)
もまた非常に多量で真綿のごとく柔くふわふわしていた手は
華車
(
きゃしゃ
)
で掌がよく
撓
(
しな
)
い絃を扱うせいか指先に力があり平手で頬を
撲
(
う
)
たれると相当に痛かった。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
かなり荒廃した
海鼠塀
(
なまこべい
)
の一軒の屋敷、そこでミリッと生木の裂けるような音がしたかと思うと、松の枝を
撓
(
しな
)
わせて塀を越えた一人の若者が、ひらりと、大地へおどり立ちました。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
木がよく枯れていないので、重い洋書を載せると、棚板が気の引けるほど
撓
(
しな
)
った。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
撓
漢検1級
部首:⼿
15画
“撓”を含む語句
撓々
不撓
可撓性
撓曲
蝋質撓拗性
不撓不屈
不屈不撓
屈撓性
百折不撓
軟撓
豪胆不撓
袋撓刀
蝋質撓拗症
背撓馬
撓舟
撓直
撓柔
撓枉過中
撓屈
撓垂
...