じょう)” の例文
さて、夜がふけてから、御寺を出て、だらだら下りの坂路を、五条へくだろうとしますと、案のじょううしろから、男が一人抱きつきました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あんじょう、兄は押絵になって、カンテラの光りの中で、吉三の代りに、嬉し相な顔をして、お七を抱きしめていたではありませんか。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
某という僧がじょうに入って夢みた竜宮の塔を、うつつに現出したものといわれるが、かような様式はわが国にもただ一つこの東塔あるのみ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「あの、ただいまの虚無僧ぼろんじを?」と、女中は一方へ気兼ねをして、すぐには応じかねていると、あんじょう、向うでは聞きとがめた九鬼弥助が
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の刑事は、あんじょう大手柄を立てたことになった。そのよろこびのあまり、一旦不審ふしんけた私だったが、何事もなく離してくれたのだった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三昧のじょうを出て説いたのは通途つうずの経文である。定中の説の超越的、含蓄的なるには及ばない。そういってあの宗の人はありがたがっている。
ある時のこと、毎日晨朝諸々じんちょうもろもろじょうり、六道に遊化ゆうげするという大菩薩だいぼさつが、この峰——今でいう大菩薩の峰——の上に一休みしたことがある。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と——案のじょう、それまで供揃いもいかめしく、練りに練ってやって来た行列先のお徒士頭かちがしららしい一人が、早くも源七郎ぎみの釣り姿をみとめて
といいながらうりをりますと、中にはあんじょう小蛇こへびが一ぴきはいっていました。ると忠明ただあきらのうったはりが、ちゃんと両方りょうほうの目にささっていました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
葛籠つづら押立おったてて、天窓あたまから、その尻まですっぽりと安置に及んで、秘仏はどうだ、と達磨だるまめて、寂寞じゃくまくとしてじょうる。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでまた一度沈めた。もうおかくれになったろうと思って挙げますとまだじょうに入って居らるるようで死に切りませぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「馬鹿云うねえ。他処せえ行って、稼ぎためて戻って来る者あ一人もありゃしねえ。みんな遊びばかり覚えやがって、極道者になるがじょうじゃねえか。」
土地 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
スパイたちはそんな物へは眼もくれなかった。伯爵夫人の指揮ですぐ腹部の釦鈕ボタンを開く。案のじょう、膚に直接厳丈がんじょう革帯ベルトを締めていた。ポケットがある。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
犍稚かんち(わが邦の寺でたたき鳴らす雲板、チョウハンの類)の音を聞けば起るとも、日光に触れば起るともいう、さもない間は動かず、じょうの力で身体壊れず
へへへ、案のじょうひどくシケていますね。たぶん、こんなこったろうと思ってこうしてお見舞いにあがりました。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
婆や婆やたらいって、大事にしておくれなさったが……ま、行く行くは皆ああして羽根が生えて飛んでいかれるはじょうなれど、何んとやら悲しゅうてなもし。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
案のじょうそうであったか。この邪神は年を経たおろちである。かれの本性は淫蕩いんとうなもので、牛と交尾してはりんを生み、馬と交わっては竜馬を生むといわれている。
「へ、案のじょうおいでなすったな。色男。用事は馬にあるんじゃない。この牝馬めすうまに乗っている貴様にあるんさ。」
「それがじょうならばどのように嬉しかろう。その嬉しさにつけても又一つの心がかりは、数ならぬわたくしゆえにお身さまによしない禍いをしょうかと……」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ボロ市過ぎて、冬至もやがてあとになり、行く/\年もくれになる。へびは穴に入り人は家にこもって、霜枯しもがれの武蔵野は、静かなひるにはさながら白日まひるの夢にじょうに入る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私は眼が悪う御座いますが、これこそと思って近寄って見ますと、あんじょう若旦那様で、高岩の蔭に腰をかけて、何か巻物のようなものを見ておいでになります。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
頭取 これでは、半左衛門の人々も、あいた口が、ふさがらぬことでござりましょう。この評判なら百日はおろか二百日でも、打ち続けるはじょうでござりまするのう。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
御意ぎょい!」と集五郎は揶揄やゆ的に笑った。「下世話に三度目がじょうの目というが、そいつが延びて五度目が定の目、今夜こそ遁がさぬ、一式氏、充分観念なさるがよろしい」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は時どきそれを眺めていたりしたが、こちらが「もう落ちる時分だ」と思う頃、蠅も「ああ、もう落ちそうだ」というふうに動かなくなる。そして案のじょう落ちてしまう。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
(阿難と娘の対話の間、暝目してじょうに入って居た釈尊は、娘の願いを聞いて静かに眼を開く。)
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昨年幕府発表の攘夷期日五月十日も明かに空手形に終るはじょうだし。薩賊会奸何んするものぞ、田丸先生もそう言っていられた。待てば待つだけ奴等は小策を弄するだけの話。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
ただがきをつけて、一応自分の顔をとくと見た。自分はあんじょう釣り出された。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてその文字は楷書であるが何となく大田南畝おおたなんぽの筆らしく思われたので、かたわらの溜り水にハンケチをぬらし、石の面に選挙候補者の広告や何かの幾枚となく貼ってあるのを洗い落して見ると、案のじょう
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、案のじょう河内介は、道阿弥の鼻のあたまを指のまたはさみながら
あんじょう食事がすむと、安江は男たちの去るのをまっていった。
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ふと「あの梯子かも知れない」と気づいたので、その物置に入って調べて見ると、あんじょう、梯子の脚に、まだ生々しい土が附着していた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんじょう、泉岳寺附近の者から、市中では今にも、ここへ上杉勢が斬り込んで来るとうわさして、大変な騒ぎだという事を告げて来た者がある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頬骨ほおぼねがやや高くて、口は結んで、脊梁骨せきりょうこつがしゃんとそびえ、腰はどっしりと落着いて、じっと眼をつぶって、さながらじょうったように見える人物。
さてそこへあがって見ると、あんじょう家も手広ければ、あるじおきなも卑しくない。その上酒は竹葉青ちくようせいさかなすずきかにと云うのだから、僕の満足は察してくれ給え。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
糸屋さんだったらくるくると糸車のように動くのがじょうなものですが、しかるに、ふたりのさるまわしたちの目の色は、そのすわり方といい眼の配りといい
するとあんじょう、そのばん夜中よなかちかくなって、てき義朝よしとも清盛きよもり大将たいしょうにして、どんどん夜討ようちをしかけてました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「どうも稲荷様の中でごそごそいうと思ったら、案のじょうこんな狐が這い込んでいた。さあ、番屋へ来い」
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
取着き引着ひッつき、十三の茸は、アドを、なやまし、なぶり嬲り、山伏もともに追込むのがじょうであるのに。——
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立会官吏も泣きながら尊者の腰に石をくくり付けその石と共に静かに川に沈め暫くして上に挙げて見ますと、尊者はじょうに入られたごとくまだ呼吸を引き取って居りませぬ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
昨年幕府発表の攘夷期五月十日も明らかに空手形に終るはじょうだし。薩賊会奸何んするものぞ、田丸先生もそういっていられた。待てば待つだけ奴等は小策を弄するだけの話。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
乾燥が出来ないために、折角みのったものまで腐る始末だった。小作はわやわやと事務所に集って小作料割引の歎願をしたが無益だった。彼らはあんじょう燕麦売揚うりあげ代金の中から厳密に小作料を控除された。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
するとあんじょう下からニッケル色の弾丸たまがコロリと出て来た。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
……じっと思案にふけったが「三度がじょうの例えがある。 ...
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あんじょう、そこの五階の北の端の、一番人里離れた(ビルディングの中で、人里はおかしいですが、如何いかにも人里離れたという感じの部屋でした)
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あんじょう、ドーッと、陣太鼓じんだいこをぶつけるような吹雪がきた。燃えのこった焚火たきびが雪にまじって、虚空こくうに舞い、歓喜天かんぎてんの堂のとびらもさらってゆかれそう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夜中に、馬さ出すと、あんじょう、大っ原で鬼が出やんした——わっしゃ命からがら逃げて来やしたが、お客人のこたあ、どうなったかわからねえなっし」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当然もう始めているべきがじょうなのに、香華こうげ一つたむけようともせずほったらかしておいたまま、女中のお葉を
きさきはじめおそばの人たちが心配しんぱいしますと、高麗こまくにから恵慈えじというぼうさんが、これは三昧さんまいじょうるといって、一心いっしんほとけいのっておいでになるのだろうから
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
新兵衛の初七日しょなのかが済んだ明くる晩に、案のじょうその長平が短刀を呑んで押し込んで来て、どうする積りかお浪を嚇かしているところを、すぐに踏み込んで召捕りました。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
兵藤 しかしながら、これに書いてある強訴におよばんとしたと申すはじょうか?
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)