奴隷どれい)” の例文
ときどき手を合せて拝みたい気もちのするのも、しき情慾の奴隷どれいとなって、のたうち廻った思い出のなせる仕業しわざとのみはいえまい。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
公用こうよう私用しようを一つにするばかもないものだ。自分じぶんからこのんで、奴隷どれいになろうとしている。」と、歎息たんそくしていたこともありました。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
また、卑劣な人もあり、生きている人にはらう卑劣な服従と下等な奴隷どれい根性のうらみを、すでに死んだ有名な人に晴らして喜ぶのだ。
生命力の弱いものに対しては肉親でも奴隷どれいのやうにしいたげて使つてしまふ親譲りのエゴイズムとが、異様で横暴な形を採つて兄に迫つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
家も国土も蹂躙じゅうりんされ掠奪凌辱りょうじょくのうき目にあうはいうまでもなく、永く呉の奴隷どれいに落され、魏の牛馬にされて、こき使わるるは知れたこと。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分がどんな奴隷どれいだか知らずに、働けば楽になると思って働く。労働者たちは、皆この感受性を麻痺まひさせられてしまったのだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
自分がいくらかは人間の力ではどうにもできない境遇の奴隷どれいであったということを、私は世の人々に信じてもらいたいのだ。
モコウは両親もなき孤児こじで船のコックになったり、労役ろうえき奴隷どれいになったりしていたが、富士男の父に救われてから幸福な月日をおくっている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あるとすれば、奴隷どれいとしての連帯感だけだ。それ以外には何もない。それはあの精神科病室の四人(五郎も含めて)のつながり方に似ている。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
此故このゆゑ当世たうせい文学者ぶんがくしやくち俗物ぞくぶつ斥罵せきばする事すこぶはなはだしけれど、人気じんきまへ枉屈わうくつして其奴隷どれいとなるはすこしもめづらしからず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
しかし恋の楽欲ぎょうよくづ了解したのはむしろ花子であつた。彼女は自分の肉体が女王に、自分の精神が奴隷どれいになり果てるのを急激に経験し理解した。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
基督キリストの道徳は奴隷どれいの道徳であると罵つたのは正にニーチエであると同時に、ビスマークを憎みトライチケを侮つたのもニーチエであるとすると
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは同時に、強権に対しては奴隷どれいのごとく従順な民衆の心から、強権に対する畏怖いふを取りのぞこうということだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「早く直した者は、奴隷どれいからゆるされるのですか。自由の身にして、かえしてくれるのですか。それはほんとうですか」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
コゼットのそばにいる時彼は、自分の幸福、自分の所有物、自分の専制君主、自分の奴隷どれいのそばにいるような気がした。
この奴隷どれい境涯きやうがいがつく/″\のろはしくなりました、そしてそれが身をこがすほどの憎惡にまで成長して行つたのです。
言ふにも及ばない事、奴隷どれいの恥も、くるしみも、孫一は、其の座でけて、娘の哥鬱賢こうつけんはなむけした其の鸚鵡を肩にゑて。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これは、ひと讀書どくしようへばかりではない。んでも、自己じここしゑてかゝらなければ、をとこでもをんなでも、一しやう精神上せいしんじやう奴隷どれいとなつてんでほかいのだ。
読書の態度 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
徳化県とくかけんの県令をしていたちょうという男は、任期が満ちたのでたくさんの奴隷どれいれ、悪いことをして蒐めた莫大な金銀財宝を小荷駄にして都の方へ帰っていた。
賭博の負債 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
機械人形のように、柔順じゅうじゅんになったのだ。奴隷どれい化したのだ。だから、本質との衝突が発生したものであろう。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
僕は多く不浄のはなしをならべるようではあるが、身をしばられた例は奴隷どれい制度の廃止された今日こんにち娼妓しょうぎをもってたとうるのほかなしと思い、ここに引例したのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
男子に圧伏せられてその奴隷どれいたるがごとき境涯に落ちたればこそ、ついにかかる迷惑の役目をも背負わされたるなれ。天職などとは実によいつらの皮と言うべし。
婦人の天職 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
御覧になってもお分りの通り、全く家庭の奴隷どれいに成り下り果てまして、世間は絶対に見られませんからね
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
縁起でもない奴隷どれいの話なんか聞かされて、仰天してあなたのところへ飛び込んで、こんな馬鹿々々しい長話なんかして、僕は、まるでもう道化役者のようですね。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「恥をお知りなさい! 恥を! 妻ではございましても奴隷どれいではありませんよ。暴力を振うなんて。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
返す見込みのない金をどうして地主(華族)が貸すかといいますと、その子が大きくなった時にその家の奴隷どれいにするのです。それを見込みに金を貸してやるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
牝馬めすうまの腹に獣骨の管を挿入さしいれ、奴隷どれいにこれをかせて乳を垂下したたらせる古来の奇法きほうが伝えられている。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わずかの月給の為めに腰を折ッて、奴隷どれい同様な真似をするなんぞッて実に卑屈極まる……しかし……まてよ……しかし今まで免官に成ッて程なく復職した者がないでも無いから
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
長いあいだ動物が人間の奴隷どれいであったけれども、それがあべこべになるときが来たのである。
これから行って倉地にわびよう、奴隷どれいのように畳に頭をこすり付けてわびよう……そうだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
明治新社会の形成をまったく男子の手にゆだねた結果として、過去四十年の間一に男子の奴隷どれいとして規定、訓練され(法規の上にも、教育の上にも、はたまた実際の家庭の上にも)
そこでは親父も祖父さんも奴隷どれいだった、台所へさえ通しちゃもらえなかった、その領地をわたしが買ったのだ。わたしが寝ぼけてるって、ただの夢だって、……気の迷いだって。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
唯々諾々いいだくだくとしていられるのは、一方では親という絶対の専制君主せんせいくんしゅの下に生まれ落ちるから圧迫されて、極端に奴隷どれい的の心持ちをやしなわれ、一方ではのんきなむかしの時代の人は
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
えたゝせたことか! なんと素晴しい感動をその光は私に與へたことだらう! そしてその新らしい感情が如何に私をはげましたか! それはあたかも殉教者や英雄が奴隷どれいや犧牲者の側を
女の顔を見ると無闇むやみに優しくする人が妻を持ってから案外その妻に優しくなかったり、結婚の当座だけ妻を大切にして一、二年も過ぎると奴隷どれい扱いにするような人物もすくなくありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
奴婢ぬひ奴隷どれいで主人の家に寄食するもの、後世の商家の例で云えば、家人はかよ番頭ばんとう奴婢ぬひは住み込みお仕着せの奉公人という様な別があるのでありますが、これを通じては奴婢ぬひとも申した。
万一、僕がその気になったら、たとえば茶色のつぐみとか、ぴょいぴょい跳び回るおめかし屋のうそとか、そのほかフランス中にいろいろいる鳥のどれかが、奴隷どれいの境遇に落ち込んでしまうんだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
現時の不正なる勢力のうちに取り囲まれて居なさるのです、何故なぜ、姉さん、貴姉あなたは之を打ち破つて、幾百万の婦女子を奴隷どれいの境遇から救ふべき先導をなさいませんか、神聖なる愛情を殺して
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
元来のうは我が国民権の拡張せず、従って婦女が古来の陋習ろうしゅうに慣れ、卑々屈々ひひくつくつ男子の奴隷どれいたるをあまんじ、天賦てんぷ自由の権利あるを知らずおのれがために如何いかなる弊制悪法あるもてんとして意に介せず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
婦女の掠奪りゃくだつや、奴隷どれいの売買や、氏族外結婚制などにより、血の混交は広汎こうはんに行われていたのであって、そもそも人種を区別する科学的標準というものは、今でもまだ確立されていないのである。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
それは怜悧れいり奴隷どれいの享楽だと、言わば言うがいい。しかし世の中では結局奴隷となるのほかはない以上、同じ奴隷となるならば、自分の意志で奴隷となって、滑稽こっけい無益な争闘を避けた方がよい。
奴は奴隷どれいで、女は奴婢ぬひであり、庶民より一階級下の賤民とされてゐた。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ずきんをかぶったやさしく恭順きょうじゅん奴隷どれいぶりの老女中が一人とである。
日本人の奴隷どれいになって虐待ぎゃくたいされるのは真平まっぴらだが、白人や黒人に使われるなら一向構わない。桑港サンフランシスコあたりのチャブ屋のボーイになるのもいゝ。アフリカの熱帯地へ行って、酋長の娘に仕えるのもいゝ。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その点で、君らは精神的にはまだ奴隷どれいの域を一歩もだっしていないということを証明している。いや、それどころか、君らはよりいっそうみじめな奴隷になることを希望しているとさえ私には思える。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
自由な貿易商としてよりも役人の奴隷どれい扱いに甘んじたのが彼らだ。港の遊女でも差し向ければ、異人はどうにでもなる、そういう考えを役人にいだかせたのも、また、その先例を開かせたのも彼らだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんな不束ふつつかな者でも、同じに生れた人間一人いちにんが、貴方の為にはまる奴隷どれいのやうに成つて、しかも今貴方のおことば一言ひとこと聞きさへ致せば、それで死んでも惜くないとまでも思込んでゐるので御座います。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うよ、奴隷どれいよりは自由民の方がいからな。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
汝もまた遂にはかの奴隷どれいの群れに入るか。
あなたは不運な奴隷どれいとなっているのです。