合掌がっしょう)” の例文
八王子のざい、高尾山下浅川附近の古い由緒ゆいしょある農家の墓地から買って来た六地蔵の一体だと云う。眼を半眼に開いて、合掌がっしょうしてござる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この時堂上の僧は一斉いっせい合掌がっしょうして、夢窓国師むそうこくし遺誡いかいじゅし始めた。思い思いに席を取った宗助の前後にいる居士こじも皆同音どうおんに調子を合せた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、路傍で、冗談でなく合掌がっしょうした。家へ帰ったら、あの子の眼が、あいていますようにと祈った。家へ帰ると子供の無心の歌声が聞える。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
十字架のもとに泣きまどったマリヤや弟子たちも浮き上らせている。女は日本風に合掌がっしょうしながら、静かにこの窓をふり仰いだ。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
老人ろうじんはもう行かなければならないようでした。私はほんとうに名残なごしく思い、まっすぐに立って合掌がっしょうして申しました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
武蔵はやがて、長短の二刀を円極(合掌がっしょうともいう)に組合せて、迫って来た。三宅も上段にとって爪先から寄合せてゆく。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すてはそれを少時しばらく立って見てから、ボロきれで顔を蔽い、木の葉をからだにかぶせ、そして両手はしぜんに合掌がっしょうされた。
「どうぞ、かみさま、ちいさなおとうとや、おとうとのような少年しょうねんをばたすけてやってください。」と、みつは、へやのなかでしばらく瞑目めいもくして合掌がっしょうしていたのであります。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひつぎはビロードの天蓋の下の立派な葬龕ずしに安置してあった。そのなかに故伯爵夫人はレースの帽子に純白の繻子しゅすの服を着せられ、胸に合掌がっしょうして眠っていた。
昭青年は思わず低頭合掌がっしょうして師を拝しました。その時、もう知らん顔で三要は座を立ち法堂へ急ぐ様子でした。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かくて胸なるくれないの一輪をしおりに、かたわら芍薬しゃくやくの花、ほう一尺なるにきょうえて、合掌がっしょうして、薬王品やくおうほんを夜もすがら。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分をつまらぬ者にきめていた豹一は、放浪の半年を振りかえってみて、そんな母親の愛情が身に余りすぎると思われ、涙脆く、すまない、すまないと合掌がっしょうした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
烏啼はそういって、探偵袋猫々に向って合掌がっしょうした。彼の両眼は義弟の更生こうせいしゃする涙にうるんでいた。
人間が両腕をひろげた時にこそ隔りの大なるを知るが、合掌がっしょうしたり両手の指を組む時は極端が相合う。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いよいよごんごろがね出発しゅっぱつした。老人達ろうじんたちは、またほとけ御名みなとなえながら、かねにむかって合掌がっしょうした。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
でも、さすがは名匠めいしょうの作、その円満柔和えんまんにゅうわなお顔だちは今にも笑いだすかと思われるばかり、いかなる悪人も、このお姿を拝しては、合掌がっしょうしないではいられぬほどにみえます。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
眼のすずしい、丸ぼちゃの可愛らしいのが、声をはずませて合掌がっしょうの形をして見せました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一枚は、青年文士が真青な顔して首うなだれて合掌がっしょうして坐つて居る。その後には肩に羽のある神様があめ瓊矛ぬぼことでもいひさうな剣をげて立つて居る。神様は次の如く宣告する。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
暇乞いとまごいのめにわたくしたき竜神りゅうじんさんの祠堂ほこらむかって合掌がっしょう瞑目めいもくしたのはホンの一瞬間しゅんかん、さてけると、もうそこはすでにたき修行場しゅぎょうばでもなんでもなく、一ぼう大海原おおうなばらまえにした
何だか小さい手であだか合掌がっしょうしているようなのだが、頭も足もさらに解らない、ただ灰色の瓦斯体ガスたいの様なものだ、こんな風に、同じ様なことを三度ばかり繰返くりかえしたが、そのはそれもまって
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
いよいよ本が出るようになって私は滅罪めつざいの方法の許された神仏に合掌がっしょうした。
自分はいま自分の青春を埋葬して合掌がっしょうし焼香したい敬虔けいけんな心持ちでいる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
僧は堂の方を向いて合掌がっしょうして立っていた。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四人は一ぼうの土にむかって合掌がっしょうした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
合掌がっしょうです……合掌作礼さらいしなければいけませんよ。あなたのために、いよいよ上人しょうにんさまが、お剃刀かみそりの式をとるのですから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、彼の頭だけはとうに髪の毛を落している。尼提は長者の来るのを見ると、路ばたに立ちどまって合掌がっしょうした。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一進一退、うらむきおもてむき、立ったりしゃがんだり、黒紋付の袖からぬっと出たたくましい両の手を合掌がっしょうしたりほどいたり、真面目に踊って居る。無骨ぶこつで中々愛嬌あいきょうがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その部屋の飾りつけは、夜明けだか夕暮だか分らないけれど、峨々ががたるいわおを背にして、頭の丸い地蔵菩薩じぞうぼさつらしい像が五六体、同じように合掌がっしょうをして、立ち並んでいた。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天をあおいで合掌がっしょうするもの、襦袢じゅばん一つとなって、脱いだ着物を、うちかえしうちかえしてはながむるもの、髪をといたりたばねたりして小さな手鏡にうつし見るもの、き添いに
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
右と左に少したけの低い立派な人が合掌がっしょうして立っていました。その円光はぼんやり黄金きんいろにかすみうしろにある青い星も見えました。雲がだんだんこっちへ近づくようです。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ひるには、宜道から話のあった居士こじに会った。この居士は茶碗を出して、宜道に飯をよそってもらうとき、はばかり様とも何とも云わずに、ただ合掌がっしょうして礼を述べたり、相図をしたりした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岡田上等兵おかだじょうとうへいは、月光げっこうしたって、戦死せんししたともかって、合掌がっしょうしました。かれは、あしもとにしげっている草花くさばな手当てあたりしだいに手折たおっては、武装ぶそうした戦友せんゆうからだうえにかけていました。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と宗朝はやはり俯向うつむけにとこに入ったまま合掌がっしょうしていった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とみは、涙を浮べ、小さく弟に合掌がっしょうした。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこで弁信は思わず合掌がっしょうして
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ある者は、ひそかに合掌がっしょうしていた。またある者は、よくやッてくれたと、いわぬばかりな眼をもって見送っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髭の会長は前にでて、女史に向って合掌がっしょうし、なにか呪文じゅもんのようなものをいって、えいっと声をかけると、椅子の中の女史は、うーんとうなって、身をうしろへそらせた。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
如来が雷音らいおんに呼びかけた時、尼提は途方とほうに暮れた余り、合掌がっしょうして如来を見上げていた。
尼提 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
天の子供らはまっすぐに立ってそっちへ合掌がっしょうしました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
見ると、自身で作った三体の土の御像をそこにすえたまま、あのうないがみの童子は、合掌がっしょうしたまま、さっきと寸分もたがわぬ姿をそこにじっとさせていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それはいけません。艇長のふかいなさけ合掌がっしょうします。しかしわたしはもうだめです。助かりっこありません。艇長、わたしにかまわず、はやくこの艇をはなれてください」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
忍剣は数珠じゅずをだして、しばらくそこに合掌がっしょうしていた。すると、番小屋のなかから、とびだしてきたさむらいがふたり、うむをいわさず、かれの両腕をねじあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
警官は、おそろしさに、たまらなくなって、合掌がっしょうしてお念仏ねんぶつをとなえ、目をとじた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
松本からは、島々を経て、安房峠あぼうとうげを越え、飛騨高山を通って、例の大家族部落と、合掌がっしょうづくりの屋根で名だかい白川村へ行った。白川の一夜など、忘れがたいものがある。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
臨終りんじゅうの貴人に対して合掌がっしょうしているという群像だった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ガバとして、その影が合掌がっしょうした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕は辻ヶ谷君に合掌がっしょうした。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)