双手もろて)” の例文
旧字:雙手
宗三が、不平らしくなじるのを聴きながら、京子は自分の部屋へ入ったかと思うと、ピアノの鍵盤を、双手もろてでヤケにたたき鳴らした。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と、三之助はまた、ね起きてかかってくる。それをまた、武蔵は、つかみ寄せて、高々と、日輪の中へ双手もろてで差し上げながら
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畜生ゴッデム‼」と叫びながら、ふいをくらって倒れる奴、おかせず飛掛とびかかったが、なにしろ相手は大男の毛唐、双手もろてで龍介君の首を掴むと見る間に
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
力自慢の金太が、双手もろてを戸に掛けてグイと引くと、ぬれた雨戸は何んの手答えもなく、油でも引いたようにスルリと開きます。
吾輩双手もろてを挙げて賛成するね。お互いに福岡生れだから、こうした青年の気持ちがよくわかるんだよ。とにかく生命いのちがけのスゴイ奴に違いない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこへ持ってきて当の三遊派の家元で圓朝取り立ての師匠たる二代目圓生が、双手もろてを挙げてその打倒論へと賛意を表した。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
この地にてなしあたわずんばさらにかの地に行くというような、いわば天下を家として随所に青山あるを信ずる北海人の気魄きはくを、双手もろてを挙げて讃美する者である。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
五名の賊は、双手もろてを高くあげてうしろをふりかえった。機銃を構えて猫背の肥満漢が茶色の大きな眼鏡をかけて、人をばかにしたような顔で、にこついていた。
紅葉を焚いて、ふすふすと白うくすぼる煙のかげで、あつたかいぞと私がかがめば、妻も双手もろてをかざして蹲む。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
清兵衛は、大地にふり積もった雪を、かぶとの中にかきこみ、火をたくにもたきぎがなかったので、自分の双手もろてをつっこみ、手のひらのあたたかみでもんで水にとかして
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
早速、会議が開かれて、討論が始まったが、事が、事だけに、無論、双手もろてをあげて賛成する者はいない。
段通に双手もろてをかけて力任せに引き剥ぐと、ちょうど象の背中のみねからすこし下ったあたりに、ひとが一人はいるくらいの大きさに胡粉の色が変ったところがある。
刀の柄頭つかがしらを胸へあて、肩を縮めたも一刹那、うむと突き出した双手もろて突き、きまった! まさしく! 敵の咽喉へ! だがその間に敵の一人、右手からさっと切り込んで来た。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
双手もろてにわらんべをかい抱いて、日頃の如く肩へのせると、例の太杖をてうとついて、岸べの青蘆を押し分けながら、嵐に狂ふ夜河の中へ、胆太くもざんぶと身をしたいた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
とつ! 奇怪! ——怪しの駕籠の中から、二本の腕がぬっと出るやいっしょで、きりきりと双手もろてさばきの半弓が満月に引きしぼられたかと思われましたが、ヒュウと一箭いっせん
二人で懇談こんだんを重ねた結果、具体案を作って寄付者に提示したところ、先方では、その根本方針に双手もろてをあげて賛成し、一切いっさいを田沼さんの自由な処理にゆだねたばかりでなく
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
重吉は夢中で怒鳴った、そして門のかんぬき双手もろてをかけ、総身の力を入れて引きぬいた。門のとびらは左右に開き、喚声をあげて突撃して来る味方の兵士が、そこの隙間すきまから遠く見えた。
慢心和尚が双手もろてを挙げて賛成したものですから、百姓弥之助も大いによろこびました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三の露国革命党員とも交際してかれらの苦辛や心事に相応の理解を持っていても、双手もろてを挙げて渠らの革命の成功を祝するにはまた余りに多く渠らの陰謀史や虐殺史を知り過ぎていた。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
喇叭らつぱあるひと喇叭らつぱ吹奏ならし、何物なにひと双手もろてげて、こゑかぎりに帝國萬歳ていこくばんざい! 帝國海軍萬歳ていこくかいぐんばんざい連呼れんこせられよ、だん/″\とちかづく二そう甲板かんぱん巡洋艦じゆんやうかん縱帆架ガーフに、怪艇くわいてい艇尾ていび
良寛りょうかんが否認する料理屋の料理とか、書家の書歌みの歌の意は、小生しょうせい双手もろてを挙げて同感するが、世人は一向反省の色を見せない。世人の多くは真剣にものを考えないとしか考えられない。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
捨てかへらんもをしければその所にいたり柴の枝に手をかけ引上んとするにすこしもうごかず、落たるいきほひつきいれたるならん、さらばおもきかたより引上んと匍匐はらばひして双手もろてのばし一声かけて上んとしたる時
その趣味しゆみしぶれいげると、三上みかみがその著名ちよめいなる東京市内出沒行脚とうきやうしないしゆつぼつあんぎやをやつて、二十日はつかかへつてないと時雨しぐれさんは、薄暗うすぐら部屋へやなか端座たんざして、たゞ一人ひとり双手もろて香爐かうろさゝげて、かういてゐる。
それの駆使については、阿賀妻以外に人は無いと思われた。彼らの家中も双手もろてをあげて推挙した。是非とも成功してもらわねばならぬ——と、しかしそう思うこと、邦夷ほど切実なものはないのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
カソリック教会堂の裏庭はがけになっていて、そこに洞窟どうくつがあり、等身より稍々小さいマリアの像が安置されていた。所謂いわゆる受苦聖母という像で、双手もろてをあわせながら眼を天へ向けて祈っている姿である。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
双手もろて振り歩み初めし児を獄窓のかなあみの日のひとつにみたり
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「寒いね、」と私は双手もろてを火の上に翳して暖まろうとした。
烏帽子岳の頂上 (新字新仮名) / 窪田空穂(著)
枯木と一緒に双手もろてを振っている女房子供の目の底には
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「大いによろしい。双手もろてをあげて賛成だな」
破門 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
君が双手もろてはわが手を取りてたすけしものを。
何分にも双手もろてを懷中に突つ込んで、だらしのない彌造を二つ拵へて居たので、水中の働き思ふに任せず、船頭に襟髮を取つて引揚げられた時は
「わかってはいたが、ああ強いとは思わなかったよ。双手もろてで薄がねのむちをつかい、そばへ寄りつくこともできねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの、あの豚ども、わしは破滅だあの虫けらの泥棒のいかさま師のごろつきの破廉恥漢めら、ああわしは破滅だ」蓑賀殿は双手もろてで空をたたきめされる
「二刀を使うのは、片手でも双手もろてと同様に働かせるための練習である」
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
猛狒ゴリラいかつて刀身たうしん双手もろてにぎると、水兵すいへいいらだつてその胸先むなさき蹴上けあげる、この大奮鬪だいふんとう最中さいちう沈着ちんちやくなる海軍士官かいぐんしくわんしづかにすゝつて、二連銃にれんじう筒先つゝさき猛狒ゴリラ心臟しんぞうねらふよとえしが、たちまきこゆる一發いつぱつ銃聲じうせい
今を盛りの梅花の影を双手もろてとりてあるかせば歩くこの児がかはゆさ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼等は喜悦に堪えないで双手もろてを挙げて躍り狂うのでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
久慈たちは双手もろてをあげて、凱歌がいかをあげた。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
双手もろて突き! 全く同じだ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
中ではあの氣むづかしさうな板屋主水、涙を流しながら、疊に双手もろてを突いて、障子の隙間から、御用聞風情の平次の後ろ姿を拜んで居るのでした。
「戦場は輿こしにかぎる。乱軍となれば、双手もろてに剣もつかえるし、敵の槍をって、突き返すことも自在。ただし、進退の駈引は、まことにままにならぬが」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぬくぬくと双手もろてさし入れ別れゆくマフの毛いろの黒き雪の日
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「田村小路がまず双手もろてをあげた」
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気丈らしい老母加世も、打ち明けて話した気のゆるみに、畳の上に双手もろてを突いたまま、ポロポロと涙をこぼすのです。
やがて遠く、長篠ながしのの城が彼方かなたに見えた。五百の戦友がたてこもっている城。——その白壁を微かに見たとき、彼は思わず双手もろてをあげたい程、心の奥で叫んだ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羅物うすものを涼しく着て、板敷に双手もろてを突いた姿、縮れた赤い毛をたった一つ難にして、このまま、中条姫ちゅうじょうひめや、照手姫てるてひめの絵巻物の中に納められそうな姿です。
いや出るが早いか、鎧櫃よろいびつには必ず付いている荷担革にないがわ双手もろてをさしこみ、それを背に負ったと思うと、もう例の破風はふあしがかりとして、大屋根の天ッ辺に立ち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松藏は膝に双手もろてを置いたまゝ、ボロボロと涙をこぼすのです。日光と土とに荒された、澁紙しぶがみ色の頬を傳はつて、その涙は胸から膝小僧まで落ちるのです。
しかし呼延灼の双手もろてから噴き出す二タ筋の薄刃金うすはがねむちに対しては、とても敵であろうはずもない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松蔵は膝に双手もろてを置いたまま、ボロボロと涙をこぼすのです。日光と土とに荒らされた、渋紙しぶがみ色の頬を伝わって、その涙は胸から膝小僧まで落ちるのです。