そうら)” の例文
昔は戦略のためにいらざる娘を内室にいたしそうらいしが、今もなお商略のために、娘を売買することを見そうろうまことに罪になることにそうろう
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
「おえいは日々雪のつもる山にくずをほりに行きそうろうみなしてかせぎためろぎん出来そうらえば其身にあいに参り候たのしみいてくれられよ」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
梶原かじわら申しけるは、一歳ひととせ百日ひゃくにちひでりそうらひけるに、賀茂川かもがわ桂川かつらがわ水瀬みなせ切れて流れず、筒井つついの水も絶えて、国土こくどの悩みにて候ひけるに、——
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おのおののやまと歌、から歌、さらに道理にかないそうらわず、ただおもしろくもありがたくも聞こえはべるは、黄金にてぞはべる。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
恐れあることにはそうらえども、召させたもう御鎧直垂おんよろいひたたれと、おん物の具とをたまわって、御諱おんいみなの字おかさせくださるべし、御命に代わり申すべし!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
実はかく申すせいも数年前までは『古今集』崇拝の一人にてそうらいしかば、今日世人が『古今集』を崇拝する気味合きみあいはよく存申ぞんじもうし候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
総て功利の念をもって物をそうらわば、世の中にとうとき物は無くなるべし、ましてやその方が持ち帰り候伽羅は早速き試み候に
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
子を思う親の心は上下みな一つと存じそうろう。お取り上げこれなきをさらさらお恨みには存ぜずそうらえどもご政道に依怙えこのお沙汰さたあるときは天下乱る。
昨日さくじつ父より帰国しろという手紙を受取り候う時は、とっさにはぼんやりいたそうらいしかど、ようやくにして悲しさ申しわけなさに泣き申し候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まことにつまらぬ一場の夢記にはそうらえども、万一御研究の御材料にも相成り候わば大幸と存じ、大略左に申し述べ候。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「押しかけ女房というは、これありそうらえども、押しかけ亭主も、またちんに候わずや。いずれ近日、ゆるゆる推参、道場と萩乃どのを申し受くべくそうろう
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もし天にして小生に才能を与えたまいしならんには、小生は学士院(科学院)会員テナル男爵となり得そうらいしものを、ついにしからずして終わりそうろう
一筆ひとふで示しまいらせそろ、さても時こうがら日増しにお寒う相成りそうらえども御無事にお勤め被成なされ候や、それのみあんじくらし※、母事ははこともこの頃はめっきり年をとり
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一、当今天下の形勢晋代五胡ごこ雑居の姿にも相成る可く、そうらはゞ堂々たる皇国も羶腥せんせいに汚され歎かはしき事なり。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
関東では弓矢の名家です、この三楽斎が秀吉の前に出て申すことには、城中の松田尾張守の陣中に返り忠の模様が見える、手を入れてごらんそうらえ——とある。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
およそ昔も今も真虫海より打ち上げらるる事は伊勢国にそうらわず、くだんの蛇海より来り寄す云々と見ゆ。
已に当市社交界の立物T氏K氏その他十数名の賛成を得居りそうらえば、必ず御列席下されたく、御帰着の時間には小生停車場に出迎え、その場より宴会場へ御伴い申す手筈にそうろう
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
椎の大木のそばたちたる蔭の、ささやかなる宿をおたずね下されそうらわば、そなたさまのみ恋い明かし申しおり候、あわれなる女のすがたをこそ、お見いだしなさるべく候。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
但しこの際、ぜひぜひげて御承知願いたき一事これ有り、余の儀にはこれ無くそうらえども、明日拝顔の際にはロジオン・ロマーヌイチの御同席なきよう、御取計はからい下されたく候。
エート東京へんは追々暖気に向いそうらえども御地おんちはいまだ寒さはげし御事おんこと存候処ぞんじそろところ御両親様始め御本家の伯父上伯母上お代どのまで御一同御無事に御暮おんくら被遊候由あそばされそろよし何よりの御事と奉賀候がしたてまつりそろ
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
今はわれ貴嬢きみに願うべき時となりぬ。貴嬢きみはわが願いを入れ、忍びて事の成り行きを見ざるべからず、しかも貴嬢きみ、事の落着は遠くもあるまじ、次を見そうらえ。——手荒く窓を開きぬ。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
女の弱き心につけ入りたもうはあまりにむごきお心とただ恨めしく存じ参らせそろわらわの運命はこの船に結ばれたるしきえにしやそうらいけん心がらとは申せ今は過去のすべて未来のすべてを
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そのおつもりにて、準備、お手配、抜かりなく、筑前の到るをお待ちうけそうら
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶は飲んでしまい、短冊はくしてしまうとは、余りと申せば……とまた端書に書いて来た。そうしてその冒頭には依然として拝啓失敬申しそうらえどもという文句が規則通り繰り返されていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして用いられる言葉も、ごく古い和語であって、今も候文そうろうぶんがそのまま活きた会話であります。「そうらえ」とか「はべれ」とかいう言葉で今も語り合うのは、もうこの沖縄だけとなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「ずいぶん骨が折れそうらえども、仕事はかなり細かきつもりに御座候ござそうろう。ちなみに見本の皿破片全部別送仕候つかまつりそうろうあいだ、なにとぞ新品とおくらべのうえ御満足をもって御嘉納下さるよう願上げ候。頓首。」
時刻は正午ひる間近なので、朝飯の不足に腹が減って堪らず、ここは掛茶家ではないが、一同は御免そうらえと腰を下し、何か食う物は無いかと聴くと、何も食う物は無いが、焼酎に漬物位なら有るという。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
追い追い伝聞いたしおり申すべくそうらえども、上方辺かみがたへんの騒動容易ならざる事にこれあり、右残党諸所へ散乱いたし候につき、御関所においてもその取り締まり方、御老中より御話し相成りし次第に候。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むそうにしておわし候わば、それこそまことの御心にてそうらえ…………
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
得ずそうらえ共お辰様身の上につき御厚情こうせい相掛あいかけられし事承り及びあり難く奉存候ぞんじたてまつりそうろうさて今日貴殿御計おんはからいにてお辰婚姻取結ばせられ候由驚入申おどろきいりもうし仔細しさいこれあり御辰様儀婚姻には私かた故障御座候故従来の御礼かたがたまかり出て相止申あいとめもうすべくともぞんい候えども如何いかにも場合切迫致しかつはお辰様心底によりては私一存にも参りがたくようの義に至り候ては
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吐く煙筒などいうものは昔はなかりしほどに、世の中は桜も、藤も、美しく見物いたしそうろうが、煙のある今日は花も、紅葉も、みな煙りそうら
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
定めし御聞込おんききこみの事とは存じそうらへども、杵屋おん家元様は死去被遊候あそばされそろそれつき私共は今日こんにち午後四時同所に相寄候事あいよりそろことに御坐候。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
小生、大いに驚き、家内を呼び寄せ、「なんじらの不注意より、事のここに至りしぞ」と叱咤しったすれば、これぞ、この夜(十一月十九日)一場の夢にてそうらいし。
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「菜摘川のほとりにて、いずくともなく女のきたそうらいて、———」と、謡曲ではそこへ静の亡霊ぼうれいが現じて、「あまりに罪業ざいごうのほど悲しく候えば、一日経書いてたまわれ」
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女ちと打笑うて、うれしや候。さらば御桟敷おんさじきへ参りそうらわんと云いて、あとに付きてぞ歩みける。羅綺らきにだも不勝姿たえざるすがたまこと物痛ものいたわしく、まだ一足も土をば不蹈人ふまざるひとよと覚えて、南無妙。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
試みに想いそうらえ、十蔵とはよこしまなる妻のために片目を失いし十蔵なり、妻なく子なく兄弟なく言葉少なく気重く心怪しき十蔵なり。二郎とはすなわち貴嬢きみこそよく知りたもう二郎なり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぎょうてんつかまつりさっそくに八方心当たりを捜し求めそうらえども、いずれへ参りしものかさらに行くえしれず、親の身として心痛ひとかたならず候につき、書面をもってお訴え申し上げ候。
「みどり殿、遠慮してはいけない、さあ、この札をよく見て、それから自分の前へ斯様かようなあんばいに並べてお置きなされ、よいか、あれにて神尾殿が読み上げたなら、遠慮なく拾い取りそうらえ」
「さそうらえば、ゆめ、怪しき者どもではございません。なにとぞ、ご安心のうえ、刑部殿よりおさし向けの駒の背へお移りあって、われらどもの案内に、しばしお身おまかせ願わしゅう存じまする」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「妖怪の正体見現わしたるぞ! 方々今こそ出合いそうらえ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大慈大悲のきょうようにてそうらえ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「大阪のごとく、煙の立ちこむる都にてはいみじく美しき恋は遂げらるべくもこれなくそうろう。恋の煙るをただただ怖れそうらえ」
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
元和七年三斎公致仕遊ばされ候時、父も剃髪いたしそうらえば、某二十八歳にて弥五右衛門景吉やごえもんかげよしと名告り、三斎公の御供いたし候て、豊前国興津に参り候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「仰せのとおり好きにはそうらえども、下手にてそうろう」と例の卑下の言葉に、「下手とありても江戸衆のことなれば、さはあるまじ。われらお相手つかまつるべし」
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
同寺より届けいでこれありそうらえども、いささか不審にたえざる節々これあり候えば、火急にご詮議せんぎくだされたく、南町奉行所のほうへは当所よりしかるべくごあいさついたしおくべく候あいだ
「出合いそうらえッ」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがし今年今月今日切腹して相果あいはてそろ事いかにも唐突とうとついたりにて、弥五右衛門老耄ろうもうしたるか、乱心したるかと申候者も可有之これあるべくそうらえども、決して左様の事には無之これなくそろ
急ぎさんそうら
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上で言ひたい事をも申すべしと存じそうらひしにはちがいなく、かやうな悪しき心を持ち候ひし事、今更申すも恥しく候、さて女のしょうは悪しきものと我ながら驚き候は
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わらそうら
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)