もく)” の例文
旧字:
人びとがおのおのもくして仕事しごとをしてるのを見ると、自分はのけものにされてるのじゃないかという考えをきんずることができない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ハバトフはそのあいだ何故なにゆえもくしたまま、さッさと六号室ごうしつ這入はいってったが、ニキタはれいとお雑具がらくたつかうえから起上おきあがって、彼等かれられいをする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そこで余等も馬におとらじと鼻孔びこうを開いて初秋高原清爽の気を存分ぞんぶんいつゝ、或は関翁と打語らい、或はもくして四辺あたりの景色を眺めつゝ行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
暗い地下の隠れ部屋に左膳の思い出を抱いて独り沈湎ちんめんしているものの、かのお藤、一度左膳を得て、はたしてこのままにもくするであろうか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
君かくまで魔界まかい悪業あくごふにつながれて、一二六仏土ぶつどに億万里を隔て給へば、ふたたびいはじとて、只もくしてむかひ居たりける。
それから二人は、もくしたまま、その場に突立っていた。そのうえいうべき別の言葉を互いに持合わさなかったからである。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
只物語の時と所とに就いて、杉孫七郎、青木梅三郎、中岡もく、徳富猪一郎、志水小一郎、山辺丈夫やまのべたけをの諸君にたゞして、二三の補正を加へただけである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
併し振り返ると、そこにはあけそまった死人が無気味な人形の様にもくしていた。その様子が明らかに夢ではなかった。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたと語り合うことは、おそろしく、眼を見交みかわすことが、楽しく、もくして身近くあるよりも、ただ訳もなく一緒いっしょに遊んでいるほうが、うれしかったのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私は、そのことに考え至ると、一種の恐怖すらもよおすのである。どんな粗悪なものを食べさせようと、またどんな不潔な着物をせようと、子供はもくしている。
子供は虐待に黙従す (新字新仮名) / 小川未明(著)
なお応ずる者のあらざりければ、かれこうじ果てたる面色おももちにてしばらくもくせしが、やがておくしたる声音こわねにて
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見まわした空には、なにもののかげも見あたらなかった。ただ、しずかにもくしている、月はある、星はある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頓首とんしゅして謝し、ついで卒すと。篋中きょうちゅうの朱書、道士の霊夢、王鉞おうえつの言、呉亮ごりょうの死と、道衍のこいと、溥洽のもくと、嗚呼ああ、数たると数たらざると、道衍けだし知ることあらん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼が三四百年の昔からちょっと顔を出したかまたは余が急に三四百年のいにしえをのぞいたような感じがする。余はもくしてかろくうなずく。こちらへ来たまえと云うからいて行く。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ霍光かくこう上官桀じょうかんけつとの名をげて陵の心をこうとしたのである。陵はもくして答えない。しばらく立政りっせいを熟視してから、おのが髪をでた。その髪も椎結ついけいとてすでに中国のふうではない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし、私はたゞなにらずに煙草たばこを吹かせてぼんやりとしてゐただけである。このぼんやりとしたゆるんだ心理しんりつゞいてゐる空虚くうきよ時間じかんに、もく々として私達わたしたち運命うんめいうごかせてゐた何物なにものかがあつた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
右のごとく上士の気風は少しく退却たいきゃくあとあらわし、下士の力はようやく進歩の路に在り。一方にきんじょうずべきものあれば、他の一方においてこれをもくせざるもまた自然のいきおい、これを如何いかんともすべからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わが思量をもくせしめ
もくしてながる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
みなはまたしばしもくしてしまう。そのうちちゃる。ドクトル、ハバトフはみなとの一ぱんはなしうちも、院長いんちょうことば注意ちゅういをしていていたが突然だしぬけに。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
紀州灘きしゅうなだ荒濤あらなみおにじょう巉巌ざんがんにぶつかって微塵みじんに砕けて散る処、欝々うつうつとした熊野くまのの山が胸に一物いちもつかくしてもくして居る処、秦始皇しんのしこうていのよい謀叛した徐福じょふく移住いじゅうして来た処
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
まめしぼりの手ぬぐいをほおかむりにして、歌もうたわずただもくもく掃除そうじしている。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
昌木教授は、すこし苛々いらいらした面持おももちになって来て、卓を叩いてワンワン詰め寄るかのように見えた。他から人が立って来て昌木教授をなだめている様子だ。しかし博士はもくして語らない。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのの当然に、忍剣もすっかり後悔して、しばらくもくしあっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其波瀾を掛念けねんとならば、もくして弊事へいじの中に安んずるの外なし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「人よりも空、よりももく。……肩に来て人なつかしや赤蜻蛉あかとんぼ
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
廣介は、千代子がもくしたのを、追駈ける様に繰返しました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もくおもむき……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
われて、アンドレイ、エヒミチはもくしたまま、財嚢さいふぜにかぞて。『八十六えん。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いまこの書が講談社から再刊となるにあたって、私は初版の序文に約した自己の良心にたいして、どうしてももくしているわけにゆかない。私の年齢はすでにさきの公約の時期に来ているからである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といったまま、しばらくもくしている。細君はじれ気味ぎみ
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
だが、もくしていた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)