頑固ぐわんこ)” の例文
八五郎は相變らず遠慮のないところを突つ放すと、下男風な怪奇な男は、ジロリと八五郎を見やつて、頑固ぐわんこらしく口をつぐむのです。
とにかくもう一年辛抱しんばうしなさい。今の学校さへ卒業しちまへば………母親おふくろだつて段々取る年だ、さう頑固ぐわんこばかりもやアしまいから。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
日頃ならばかうなると頑固ぐわんこを云ひ張るたちであるのに、この夜は余程りたと見えて、子供は泣きじやくりをしながら、なよ/\と頭を下げた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「いゝわ、そんなに頑固ぐわんこに仰しやるのなら。私、歸ります。もう長くはをられませんもの、——露がりはじめましたわ。ぢあ、さよなら!」
主人しゆじん内儀かみさんは一おう被害者ひがいしやはなしをつけてた。被害者ひがいしや家族かぞく律義者りちぎものみなげきつてる。七十ばかりに被害者ひがいしや老人ぢいさんこと頑固ぐわんこ主張しゆちやうした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
成程なるほどさうへば何處どこ固拗かたくなのところもあるが、ぼくおもふには最初さいしよ頑固ぐわんこつたのながらのちにはかへつて孤獨こどくのわびずまひが氣樂きらくになつてたのではあるまいか。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
外のいろが、内のくらさを征服せいふくした。私は北にらなる頑固ぐわんこかべらずしらずの間に頭の中からわすれ出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
名案とは、父子爵の頑固ぐわんこな頭から結婚問題を徹回てつくわいさせて、而も自分は無事に當邸たうやしきに居付いてゐることだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其時そのときには頑固ぐわんこ教頭自身けうとうじしんもモウ加減不安かげんふあんかんじてゐたのだから、おまへまでがソウふならとやうわけで、それをキツカケにして早速さつそく校長かうちやう手元てもと辭表じへうした。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
奥様もわたしの頑固ぐわんこには余程よほど困つて居られたのだらう。「それでは兎に角、この話は今のところこれ以上に進ませもせず、また壊すこともせずといふ事にして置きませう」
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
つてるあなのぞきながら、地主ぢぬし頑固ぐわんこ中止ちうし言張いひはる。したではりながら、談判だんぱんはどうか原田はらださんのはうつてれと取合とりあはぬ。これを露西亞式ろしあしき發掘はつくつつてわらつたのであつた。
縦令たとひ石橋いしばしたゝいて理窟りくつひね頑固ぐわんことうことの如く、文学者ぶんがくしやもつ放埓はうらつ遊惰いうだ怠慢たいまん痴呆ちはう社会しやくわい穀潰ごくつぶ太平たいへい寄生虫きせいちうとなすも、かく文学者ぶんがくしや天下てんか最幸さいかう最福さいふくなる者たるにすこしも差閊さしつかへなし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
それほど彼は自分の心の奥底に隠れてゐる飽きつぽい迷ひやすい性情をおそれてゐたのであつた。それはかつたゞの一度だつて頑固ぐわんこな性情の抑制に成功したためしがなかつたからである。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
伝道なども少こし融通ゆうづうくやうに頼みますよ、今も言ふ通り梅子の結婚談で心配して居るんだが、信仰が如何どうの、品行が如何のと、頑固ぐわんこなことばかり言うて困らせ切つて仕舞ふのだ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「なか/\頑固ぐわんこな女だね。ぢや、かうして言はして上げようか。」
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
かれ容貌ようばうはぎす/\して、何處どこ百姓染ひやくしやうじみて、※鬚あごひげから、ベツそりしたかみ、ぎごちない不態ぶざま恰好かつかうは、宛然まるで大食たいしよくの、呑※のみぬけの、頑固ぐわんこ街道端かいだうばた料理屋れうりやなんどの主人しゆじんのやうで、素氣無そつけなかほには青筋あをすぢあらは
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ゾラが破産したナチュラリズムの境を頑固ぐわんこに守って
J. K. Huys Mans の小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
四十五六の用人れのした人柄ですが、平次に言はせると、んなのが案外恐ろしく頑固ぐわんこな主人思ひだつたりすることがあります。
「私は、そんなちよいとした頑固ぐわんこさに、負けはしませんよ。私は可成な處まで行けますよ。」私は續けた。
蘿月らげつはもと小石川表町こいしかはおもてまち相模屋さがみやふ質屋の後取息子あととりむすこであつたが勘当かんだうすゑ若隠居わかゐんきよの身となつた。頑固ぐわんこな父が世を去つてからは妹おとよを妻にした店の番頭が正直に相模屋さがみやの商売をつゞけてゐた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
傷は浴衣ゆかたの後ろから一と突き、路地一パイにひたす血潮の中に、頑固ぐわんこてつで鳴らした六兵衞は、石つころの樣に冷たくなつてゐるのでした。
併し運命がその後私を虐待したのです。あいつは握拳にぎりこぶしで私を滅茶々々にこねまはしさへしたのです。だから今は私は護謨毬ゴムまりのやうに堅く頑固ぐわんこになつてる積りですよ。
「いや、なか/\以つて、丹波屋さんは頑固ぐわんこで始末は惡いが、人間は立派な人で、間違つたことなどをする人ではありません」
と、頑固ぐわんこらしく首を振るのでした。自分のやることには、絶對に間違ひはないと信じきつて居る、一種の奉公人にある型です。
あかりを背負つた五十年配の屈強な親仁おやぢ、左官の彦兵衞といへば、仕事のうまいよりは、頑固ぐわんこてつなので界隈に知られた顏です。
「へエ、その通りで、父親は御家人でしたが、頑固ぐわんこ過ぎて役目を縮尻しくじり、浪人をして苦勞をしたとお關は申してをりました」
丁度吟味與力笹野新三郎を忌避きひして、無實の罪を訴へでもするやうに、生首と死體とが實に頑固ぐわんこ威嚇ゐかくをくり返しました。
そして左手は質屋の黒板塀が、忍び返しも嚴重に、塗り立ての墨の生々しさを見せて恐しく頑固ぐわんこに突つ立つて居るのです。
與母吉は拷問がうもんにまで掛けられて居ると聽きましたが、頑固ぐわんこに口をつぐんで白状せず、事件はそれつ切り足踏みをして、正月十五日になつたのです。
彦太郎は頑固ぐわんこに默り込んでしまひました。青白い顏、キラキラ光る眼、引締つた唇など、少し病的なものを感じさせます。
「俺は——死んだ人の事を惡く言つちや濟まんが、あの、福島嘉平太といふのが大嫌ひでな。高慢かうまん頑固ぐわんこで、けちで」
平次は藁打臺わらうちだいを引寄せて、どつかと腰をおろしました。今となつては、この頑固ぐわんこてつの下男の口から訊くほかに、眞相をきはめやうはなかつたのです。
頑固ぐわんこてつで、つむじ曲りで、口やかましくて、少しケチで、そしてなか/\の商賣上手といふ評判の老人でした。
お袖を出來るだけ痛々しく扱はせて、江戸中の評判になるやうにする爲には、頑固ぐわんこで一國な瀧五郎に、お袖を下手人と思ひ込ませる外はなかつたのでせう。
半農半商風の頑固ぐわんこな建物で、其處から門は直ぐですが、振り返ると建物の後ろの方から、巨大な老梅の、花少なに淺黄色の春の空にわだかまる姿が見えるのでした。
人並すぐれた頑固ぐわんこ者で、兩國の手品の娘などを、跡取息子の嫁にすることなどは、絶對に考へられないこと、——でも二人はどうしても別れられないこと——。
肉體的に弱り拔いてゐても、氣丈者らしい林太郎のハキハキした言葉を聽いて、頑固ぐわんこてつとふれ込んだ父親右京が合點々々をして喜んでゐるではありませんか。
押の強さうな頑固ぐわんこな感じのする人間ですが、一てつの忠義らしいところが、次第に平次の好感をさそひます。
少し下脹しもぶくれの可愛らしい顏が涙にれて、紅い唇のワナワナとふるふいぢらしさは、何んな剛情な平次も、折れるだらうと思はれましたが、頑固ぐわんこに眼を閉ぢた平次は
平次は頑固ぐわんこに首を振るのです。骨董を知るものは骨董を傷つける筈はないと信じ切つて居る樣子です。
丸屋の主人は頑固ぐわんこで一徹者てつものだが、商賣熱心といふだけで、人にうらみを買ふやうな人間でない事。
八五郎と力をあはせて、その日一日、平次の手にまとめた材料といふのは、總兵衞は慈悲心に富んだ人間ではあつたが、少し頑固ぐわんこで曲つた事や正しくない者には恐ろしく冷酷であつたこと
甲子太郎は頑固ぐわんこに首を振りました。ひどくお茂與に反感を抱いてゐる樣子です。
新助は本矢に近い頑固ぐわんこやじりが入つた稽古矢を一本選ると、その根の方へ、袂から取出した矢文——小菊へ細々としたゝめて、一寸幅ほどに疊んだのをキリヽと結び付け、手馴れた弓につがへて
これは矢張り黒頭巾をかぶつたのが筋を引いて、若樣とお組を別々に隱させ、頑固ぐわんこ一徹な父親をけしかけて自分達に都合の好い跡目を拵へ、萬事形付いた上で、若樣とお組を殺す心算つもりに違ひあるまい。
久三郎は親の久藏に似ぬ、少し頑固ぐわんこらしい感じの三十男で、その妹のお染は、十九といふにしては少しませた、口數の多い、お轉婆娘らしいところが、たまらない魅力みりよくでもあると言つたたちの娘です。
頑固ぐわんこに口をつぐむお玉を、なだめるやうな調子で平次は續けました。
頑固ぐわんこてつらしい用人の五十男は、眞四角にそれを迎へました。
五十男——正直で頑固ぐわんこらしいのが、平次の袖を引くのです。
彦太郎はプツリと話をきつて、頑固ぐわんこらしく口をとざすのです。