おもり)” の例文
釣鈎、釣竿、釣糸、おもり、えばにいたりますまで、いちいちこまかい習いがあることでございまして、とても、ひとくちには……へい
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
何だか先におもりのようななまりがぶら下がってるだけだ。うきがない。浮がなくって釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかるようなものだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
などという理由がどこにあるか? 中途に止まるか否かはおもりに関することであって、錘を投ぐる者のあずかり知るところではない。
「そうですね。身体の他の部分にも別のおもりをつけましょう。あたしはもっといろいろと考えていますのよ、発展的な実験をね」
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小さいおもりのついたひもが、この島からおろされると、下にいる人民は、それに手紙をくゝりつけます。そして、紐はすぐまたり上げられます。
死体におもりをつけてなかったことも、この考えを確証するものだ。もし岸から投げこむのだったら、錘をつけておいたろう。
二間一尺の小鮎竿を片手に、肩からこぶしまで一直線に伸ばして、すいすいと水面から抜き上げるおもりに絡んで、一度に二尾も三尾も若鮎が釣れてくる。
父の俤 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
が、フト、後ろからガラッ八の近づくのに気が付くと、草履を脱いで、その上に何やら紙片かみきれを置き、かんざしおもりにして
そして、その間に細孔を無数に穿うがった軽量の船形棺を作って、その中に十分腐敗を見定めてから死体を収め、それに長い紐でおもりを附けて湖底に沈めました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
枝におもりをかけられて強く曲ったむくの木が、ばさッと水玉の粒を散らして、元の姿勢にハネ返ったかと思うと——
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はまだ思い切って十分にその歓喜を表白できなかったが、まるで五プードもあるおもりが胸から取りのけられでもしたように、まるで熱病やみのように震えた。
足枷あしかせをおもわせる赤い豚革の編上靴あみあげぐつが、まるで彼を風に吹き飛ばされないためのおもりのようにならんでいた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
用尿の折はその鍵を外してこれを行うのだが、相当に重いこの鍵はぶらんぶらんしていて、おもりに似ていた。
上方の横木からおもりが下っていて、その重さによって門は常に閉じてあるが、人が入る時には、錘が数回、門にぶつかって音を立て、かくて門鈴の役もつとめる。
一俵掛けて、兄弟してうんと力を入れた時は、二人とも顔が真紅まつかに成る。地主ははかりざを平均たひらになつたのを見澄まして、おもりの糸を動かないやうに持添へ乍ら調べた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼の足には鎖が附いて重さが七八貫も有ろうかと思われる鉛のおもりへ、極短く結び附けられて居るのだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
悔恨の銀の色のおもりを胸に置かれた鏡子が庭口にはぐちから入つて行つた時、書斎の敷居の上に坐つて英也は新聞を見て居た。座敷のえんではお照がまだ榮子にちゝを含ませて居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
彼は帆布で縫いぐるみにされて、火床の鉄棒を二本おもりに入れられる。帆布に縫い込まれた彼は、人参か大根のように見える。頭の方が拡がって、足の方がつぼまっている。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
云わばわたくしの心のはかりは数馬に傾いて居るのでございまする。わたくしはこの心のはかりたいらに致したい一心から、自然と多門の皿の上へおもりを加えることになりました。
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なまりおもりかとおもう心持、何か木の実ででもあるかしらんと、二三度振ってみたが附着くッついていてそのままには取れないから、何心なく手をやってつかむと、なめらかにひやりと来た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また錘石おもりいしといふのがあります。それはひらたい石塊いしころ上下じようげすこいて紐絲ひもいとけるのに便利べんりにしてあるもので、あみおもりとか、機織はたおりに使用しようしたものかといはれてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
不意に、一種異様なる鼻唄の聞え出したのは、例の茂太郎の出鱈目でたらめではなく、マドロス君がマドロス服で、おかしい節をつけながら、海の中からおもりをひきあげているのです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼にとってジョーンはいかりであった。時には厄介千万であったが、又時には落付かせて呉れるおもりであった。嫌に取りすましたのが生意気に見えてしゃくに触ったが、なつかしくも思った。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ふふ。」浅井も笑いながら、尻におもりのついた動物どもを、手に取りあげて眺めていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それはツイ一時間ばかり前に、二重の麻袋ドンゴロスに入れて、松脂チャンやタールでコチンコチンに塗り固めて、大きな銑鉄せんてつおもりを付けて、確かに海の底へ沈めた筈の二人の水夫に違いなかった。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
水の深さを測るには、長い糸のはしにつけたおもりを海の中に投げ込む。糸は錘で巻かれる気づかいはないから、錘が落ちて行つて水につかつた糸の長さが、その水の深さを示すのだ。
たゞぽんつなしりには彼等かれらのいふ「どツぺ」がいててそれがどさりとたゝみつて一人ひとりもとへかれる。どつぺは一厘錢りんせんを三ずんばかりのあつさにあなとほしてぎつとくゝつたおもりである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それでもはかりおもりの方がはね上った。すると肉屋はまたそれを俎の上におろして、ほんの少しばかり端っこを切りとった。そしてもう一度秤にかけた、今度は錘の方がやや低目になった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そは今書かずさふらふ。千きんおもりこの日より我胸を押すとたゞ知り給へ。昼前ベツカ夫人に誘はれ私は甲板かふばんに出でてとう椅子の上の一人ひとりとなり申しさふらふ。安達様夫婦もかたはらにて書見しよけんなど遊ばしられさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
つまりピアノ線の両端におもりをつけたようなものをやたらと空中へ打ち上げれば襲撃飛行機隊は多少の迷惑を感じそうな気がする。少なくも爆弾よりも安価でしかもかえって有効かもしれない。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
仰向になつて、足の先に分銅の様なおもりをつけて引き伸ばされたなりに身動きも出来ず、次第に間遠にはなつて行つたが、時々きりで揉み通される様に襲うて来る傷口の痛みには堪へられなかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
俊男は今年ことし三十になる。ぼう私立大學しりつだいがく倫理りんり擔任たんにんしてゐるが、講義の眞面目まじめで親切であるわりに生徒のうけくない。自躰じたい心におもりがくツついてゐるか、ことばにしろ態度にしろ、いやに沈むでハキ/\せぬ。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
何度も突っかえてはやめ、ついにはうらめしそうに実枝の顔を見た。突然、怒ったような顔つきになり、重吉は手近の太刀魚鉤をつかんで縁側へ投げつけた。テグスについているおもりが大きな音を立てた。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
無限の夜が、その向ふにおもりのやうにつらなる。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
二つ死滅の運命のおもりをおけり、其一は 210
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
支柱にかけた竪網の 風に搖らぐ瀬戸のおもり
閒花集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
きん秤目はかりめ、そのはての星にかかれる身のおもり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「言葉じゃないよ、おもりだ!」
音もなく……おもりの底から
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
かなり重いおもりでしたが
樹木とその葉:13 釣 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
何だか先におもりの様な鉛がぶら下がつてる丈だ。うきがない。浮がなくつて釣をするのは寒暖計なしで熱度をはかる様なものだ。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
道糸は秋田の三十本撚りくらいにしておもりから上を三、四尺三厘柄のテグス、鈎は中輪の三分くらいで二本鈎にする。
巣離れの鮒 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
死体を沈めるのにおもりをつけるくらいの用心はたやすくできたろうに、それをしないで死体を投げこむということは、どうしてもありそうもないことである
その未知の世界をしらべること、そのやみの中におもりを投ずること、その深淵しんえんの中に探査に行くこと、だれがそれをあえてなし得たろうか。それこそ戦慄せんりつすべきことだった。
千貫目のおもりを掛けられたやうな腕を差出して、苦痛にゆがむ頬に、我慢の微笑を浮べます。
私がひざまずいていると、地面から首のところへ梯子をかけ、一人がこの梯子にのぼって、私の襟首えりくびから地面まで、おもりのついた綱をおろす、それがちょうど、上衣の丈になるのでした。
おもりをつけられかつ呪われたままで泥底のなかに沈みこんでいることなどがあった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
勝美かつみ夫人の問題へ話題を進めようと思いましたから、早速三浦の言尻ことばじりをつかまえて、『そんなに君が旧弊好きなら、あの開化な細君はどうするのだ。』と、さぐりのおもりを投げこみました。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
笹村は階下したへ降りて来て、また机の前に坐った。大きな西洋紙に書いた原稿の初めの方が二、三冊机の上にあった。笹村はおもりのかかったような気を引き立てて、ぽつぽつ筆を加えはじめた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
八人坊主はちにんばうずといふのはそのなはいたいはゞちひさなおもりである、やつつあるので八人坊主はちにんばうずといつてる。小作米こさくまいれる藁俵わらだはらを四五俵分へうぶんつくらねばらぬことがかせぎにときからかれには心掛こころがかりであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)