あし)” の例文
旧字:
夢中で二三げんけ出すとね、ちゃらんと音がしたので、またハッと思いましたよ。おあしを落したのが先方さきへ聞えやしまいかと思って。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、何処にいるか。其様なこと聞きゃしないさ。……それでも私、後で可哀そうになったから、持っていたおあしを二三円あったのを
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「では、後からおあしと籠をねえやに持たしてあげますから、そろそろのぼつていらつしやい。」と、妻が病後の子供をかかへあげた。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ここまでくると、おもしろいからくりをせてやる。さあさあはやくおいで、一人ひとりのうちはおあしをとらない。さあさあ、はやくおいで。」
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其時も叔父は、私におあしを呉れる事を忘れなかつた。母はいつもの如く不興な顔をして叔父を見てゐたが、四周あたりに人の居なくなつた時
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それは栄蔵がお正月やお祭のときに、お小使に頂くおあしの十倍位の価であつた。栄蔵も新太郎ちやんも、ただただもう感じ入つてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「いいよいいよ返さなくても、それよりときどき俺が座敷を頼んでそのおあしで引いていくから、そのほうが返しいいだろうお前だって」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「お嬢さんのお詞によって、注いであげるから、こぼしちゃいけないよ、一滴でもおあしだ、それも、みんな、私の汗とあぶらが入ってるのだ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あしなしに稼業しょうばいをしている女と遊ぼうとするのは虫がよすぎる。ほかの客を粗末にして困ってしまう。それに浅香も浅香だって。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それをふせぐには何よりも生命保険に入つて置くに限る、何故といつて生命保険は毀れたインキ壺の代りに、おあしを出して呉れる。
あしをいただいて買ひ食ひをしたことなど、一度だつてなかつた。まして、お母さんから、そんなことをひ出したことなどあらうはずがない。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
「それがいいよ。わたしもそう思ってね。荷拵にごしらえをした時、嵩張物は持運びに不便だから半分ばかり売ってみたがなかなかおあしにならないよ」
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
べらぼうめえ、そんなおあしがころがってたらば、だなあ——こちとら親子がな、おい、先生! 三日がところおまんまにありつけようというもんだ。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「そのおあしを、どこから持っていったんだい。……さあ云ってごらん。云えないか。云えないだろう。この野郎……。」
…………うちものを泥坊するのはく無いが、阿父さんが吝々けち/″\しておあしをお遣りなさらんから、兄さんも意地に成るんだ。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
田圃向うのお琴婆さんの曰くだ、旦那は外にお職がおありなすって、おあしは土用干なさる程おありなさるから、と。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「よし、それでは僕を乗せて、ちょっと走ってみてくれ、おあしはその上で決めるよ。……ほら、向うへ走るんだ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ペンネンネンネンネン・ネネムはおあしを払って店を出る時ちらっと向うの姿見にうつった自分の姿を見ました。
家へ帰ってお母さんにおあしをいただいてこようかしら、と文子は考えた、だがそのあいだにこの本が他人に買われると困る、かの女はまったく途方にくれた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
其の間に余程手間が取れるから往々貰いそこないます、少しなれて来ると、有難う存じますとすぐに扇からてのひらへおあしを取る様に成る、もう一歩慣れたらうなりますか
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前さんのは其処そこにお葉漬はづけかありますよ、これはわたしわたしのおあしで買つたのですと天丼てんどんかゝ候如そろごときはあへて社会下流かりうの事のみともかぎられぬ形勢けいせいそろ内職ないしよく人心じんしん
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
「まアどうしてそんな遠くで買ったの。……オヤお前さん今日お米を買うおあしつかってしまやアしまいね」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかしながら私はいつでもそれを見て喜びます。その女は信者でも何でもない。毎月三日月様みかづきさまになりますと私のところへ参って「ドウゾ旦那さまおあしを六厘」という。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
味噌こし下げてはしたのおあしを手に握つて米屋のかどまでは嬉しく駆けつけたれど、帰りには寒さの身にしみて手も足もかじかみたれば五六軒隔てし溝板どぶいたの上の氷にすべり
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「婆さん/\。今帰つた。今日は売りだめのおあしは一文も持つて来なかつたが、その代りとても幾百両だしても買へないいお土産をもつて来た。何だか当てゝみなさい。」
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
それなのに君は小説家志願でいつになったらおあしがとれるようになるかわかんないでしょう。
職業婦人気質 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
それを思い出したせいか、わたしはあんまり静かにしておあしを勘定していると、次の間で誰か立聞きをしているものがあるのじゃないかと思われてなりません。米友さんは?
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高いおあしでせっかく買ったあなたの大事なお財産たからがあったらなくなるではございませぬか。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昨日少しばかりの麺麭パン屑を、この犬と二人でけて食べてから、まだ何も口に入れませぬ。今旦那さまに戴いたこのおあしで、今晩と明日の食べものを求める積りでございます。ハイ
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
そうしてその御礼には、書物を一冊買うだけのおあしを遣れば、貧乏人等は喜んで話して聞かせるに違いないと、こう考え付くと美留女姫は、最早もう一秒時間も我慢が出来なくなった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「おあしなんか持つて居よつては、買ひ食ひしたりしてあかへん。伯父さんに寄越よこし。」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「ちょっと下忍しもおしまで行ッて来るッて出かけて行ったよ。どうしても少しおあしをこしらえて来なくってはッてね……。雨が降るから、明日あしたにしたらいいだろうと言ったんだけれど……」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
家には炭団たどんを買うおあしもなくなっていますし、お父っさんの方へもたびたび無心にも行かれませんし、よんどころなしにその羽織を質に入れたり、掛地を道具屋の小父さんに買って貰ったりして
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分は他の子供のようにおあしを持って行って少しずつ菓子などを買うものでは無いと思い込んでいたが、田舎で生煎餅なませんべいというあの三角な菓子などを売りに来て、他の子供が皆それを持っていると
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「これ、おばあさんがあゝ云っていらっしゃるのに、なぜお前はお答えをしないのです。お前はまさか、いくらお母さんがおあしを上げないからと云って、人の物を盗んで来たのじゃありますまいね」
小さな王国 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ちやんやちやんやおあしをおくれ、お米を買つて来るんだからヨー。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
おくみは自分のおあしで坊ちやんに欲しいものを買つて上げた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
人間はみんなおあしをほしがるものだと考えていた。
あしと申すしれものに
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
あしが有ったらエ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あし
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
「さあ、そのあなからのぞき。だい一はあねおとうととが、母親ははおやをたずねて旅立たびだつところ。さあさあのぞき。一人ひとりのうちはおあしらない。」
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あのます紙鳶を買ふには、この十倍ものおあしが必要であるといふことを。しかし、それにもかかはらず、栄蔵の心には希望のぞみの泉がき出した。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
かえで おあしを持たずに遊ぶ者は盗人も同じ事だって。あのかたの事を台所でおさかなをくわえて逃げる泥棒猫どろぼうねこにたとえました。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あわれだとお思いなすって、母様がおあしを恵んで、肩掛ショオルを着せておやんなすったら、じいさん涙を落して拝んで喜びましたって、そうして
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お前様めえさまならタダで上げます。」と言つて、うしてもおあしを請取らなかつただらう、などと、取留とりとめもない事を考へて、おそおそる叔父を見た。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
急にその乞食が立ち上がってそのおあし懐中ふところへ、さも薄気味悪そうにスーッとどこかへ行ってしまったのは大笑いでした。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「私にはちゃんと分ってるんだよ。ほんとに油断もすきもありゃあしない。……私達の話をみんなきいて行ってしまうんだよ。おあしにつられたんだね。」
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
達二さんも、さうですか。よろしい。みなさん。剣舞は決して悪いことではありません。けれども、勿論もちろんみなさんの中にそんな方はないでせうが、それでおあし
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
いくらからうとしたが小出こだしの財布さいふにおあしがありませんから紺縮緬こんちりめん胴巻どうまきの中から出したは三りやう、○