護謨ごむ)” の例文
俊助は大井に頓着とんちゃくなく、たくましい体を椅子いすから起して、あの護謨ごむの樹の鉢植のある会場の次の間へ、野村の連中を探しに行った。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その日は朝からいい天気であったのに、見るとその男は、護謨ごむびきの雨外套を着て、しかもそれがぐっしょり濡れている。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「理由は簡単てみじかです、あの人が大学の総長だつたからです。」商人あきんどは口に入れてゐたしが護謨ごむかすをペツと床に吐き出した。
半東洋風の黒い頭髪をロジェル・エ・ギャレ会社の製品で水浴用護謨ごむ帽子のように装飾して——で、私は彼にひそかにこの綽名あだなを与えたわけだが
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
その孔を糸嚢しのうといふ。虫の体の中には絹の材料がうんとはいつてゐるのだ。それは護謨ごむに似たねばねばする液体だ。
もっと護謨ごむ同様に紳縮のびちゞみする樹皮きのかわなれば其穴はおのずかふさがりてだ其傷だけ残れるを見るのみなれば更にくつがえしてしもの端を眺ればこゝには異様なる切創きりきずあり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
すると、そこにあにくるまかつと云ふのがゐた。ちやんと、護謨ごむ輪のくるまを玄関へ横付よこづけにして、叮嚀に御辞義をした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
イギリス旦那マスターの「文明履物かわぐつ」のようなチョコレート色の皮膚と、象牙ぞうげの眼と、蝋引ろうびきの歯、護謨ごむ細工のように柔軟やわらかな弾力に富む彼女らの yoni とは
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かくして、身体しんたいを七十日間曹達水そうだすいひたしたる後、之を取出し、護謨ごむにて接合せる麻布をもって綿密に包巻ほうかんするなり
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また電気灯をともすと、白つぽくなつた壁際かべぎはの二段の吊棚が目の前へ現はれて来るのです。私は洋杯こつぷの中にはひつた三郎の使ひ残した護謨ごむ乳首ちヽくびづ目が附きます。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
左右の欠刻から沁み出る護謨ごむ液が中央に集つて落ちるのを採収夫が硝子ガラス小杯コツプに受けて廻るのである。採収は未明から午前六時迄に終らねばならないと云ふ事だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それは紫のひもで首を縛った空気入りの護謨ごむ人形で、少年が手品に使用したものを油絵具か何かで塗り直してドアの上のかまちに突込んだ白箸しろばしに引っかけたものらしかった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
護謨ごむほうずきを吹くようなかわずの声が四方に起ると、若葉の色が愁うるように青黒くくもって来る。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
氷川神社ひかはじんじや石段いしだんしたにてをがみ、此宮このみや植物園しよくぶつゑん竹藪たけやぶとのあひださかのぼりて原町はらまちかゝれり。みち彼方あなた名代なだい護謨ごむ製造所せいざうしよのあるあり。職人しよくにん眞黒まつくろになつてはたらく。護謨ごむにほひおもてつ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『そうか。俺はね、この箱へ細い護謨ごむを巻き付けておいたのだ。その護謨紐が切れておる』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
と見ると茶店の方から古びた茶の中折帽なかおれぼうをかぶって、れいくせ下顋したあごを少し突出し、れ手拭を入れた護謨ごむふくろをぶらげながら、例の足駄あしだでぽッくり/\刻足きざみあしに翁が歩いて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
米内光政の写真を見ると、護謨ごむ人形のような感じがするが、きょうの答弁には何となく弾力がない。それに、国民に対してもっと親切があるのと、もっと決然たるところがあっていいと思う。
議会見物 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
護謨ごむの木のはたの苗木の重き葉の大きなる葉の照りひびくなり (一五九頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
で、やむを得ず三田土護謨ごむ工場へ通って僅かに七十八銭の日給を得ていたのだが、物価の高い今日今日七十八銭で自分も食べた上病気の良人一人を養ってゆくことは、困難以上の無理であった。
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
さりながら、毛織物、護謨ごむ藥種店やくしゆてん物思ものおもひ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
おほきな護謨ごむ葉樹のしげれるさまは
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
赤い護謨ごむのやうにおびえる唇が
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
ロジェル・エ・ギャレ会社製の煉香油ねりこうゆで海水浴用護謨ごむ帽子のように固めていたことも——だが、彼が、外見を急造して
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「さう。阿母おつかさんも有つたの。」娘は護謨ごむ人形のやうに急に母親に飛びついた。「やつぱり往時むかしも今も同じだわねえ。」
ひるすこまへ迄は、ぼんやりあめながめてゐた。午飯ひるめしますや否や、護謨ごむ合羽かつぱを引き掛けて表へ出た。なか神楽坂下かぐらざかした青山あをやまうちへ電話をけた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
俊助は、大きな護謨ごむの樹の鉢植が据えてある部屋の隅にたたずみながら、別に開会を待ち兼ねるでもなく、ぼんやり周囲の話し声に屈托くったくのない耳を傾けていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
引きあげてみると蒼黒いぬるぬるしたものは、強い護謨ごむ引きの布であった。頭のうしろや背中や、手足の一部などにひれのようなものが附いている。指のあいだにみずかきがある。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
護謨ごむあたひも一ポンド十四五円まで暴騰したが、現今ではその反動で二円に下落して居るさうだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
店を出る時白がすりを着て出たが、死骸は紺飛白こんがすりを着て居た。百二十円の貯金全部を引出した角谷の蟇口がまぐちには、唯一銭五厘しか残って居なかった。死骸は護謨ごむ草履ぞうり穿いて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
三十二相極めて行儀好く揃って居る。若しや此の女は何か護謨ごむででも拵え屈伸自在な仮面をかぶって居るのでは無かろうか、併し其の様な巧みな仮面は未だ発明されたと云う事を聞かぬ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ある日の午後学校から帰りましたしげる護謨ごむまりしいと頼むものですから、私はひかるに買つて来て遣ることを命じたのでした。簡単な買物として私はひかるの経験にとも思つて出したのでした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
肉厚く重き護謨ごむの葉照り久しおのづからふかき息たてにける (一五九頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そうしてその長いびんの生え際を引き剥がすとそのまま、丸卓子テーブルの上にうつむいて両手をかけて仮髪かつらを脱いだが、その下の護謨ごむ製の肉色をした鬘下かつらしたも手早く一緒に引き剥いで、机の上に置いた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おほきな護謨ごむ葉樹のしげれるさまは
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
が、大井はこの方面には全然無感覚に出来上っていると見えて、鉢植はちうえ護謨ごむの葉を遠慮なく爪でむしりながら
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と書いて、手紙の端にアラビヤ護謨ごむで滅多にめくれないやうに切手が貼つてあつた。言ふ迄もなくデヰスやヰルキンスは、切手を取りつ放しにした連中れんぢゆうである。
それはあの護謨ごむ糸で自動的に中箱の引っ込む仕掛けの、ミラノ製の Italianissima 燐寸マッチのような、非常に役立つ、寸分のすきもない効果だった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そしてくしの目を髪に立てやうとは思はないのであるから、こてを当てるとぐ手で上へ差櫛さしぐしで止めて、やがて護謨ごむの紐で其れが結ばれ、自分の髪は三つに組まれて投げる様に輪にされる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
護謨ごむの木のはたの苗木の重き葉の大きなる葉のふとひびらぎぬ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ハキダメから拾った片チンバの護謨ごむ靴を引きずって
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おまへは護謨ごむ製の操人形あやつりか。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
故人長田秋濤をさだしうとうが風流才子であり、仏蘭西語学者であり、護謨ごむ栽培家であつたのはよく世間に聞えてゐるが、それと同時に秀れた経済学者であつたのは、知らぬ人が多いやうだ。
またその自動車の後窓に、都会の迷信中の傑作として護謨ごむ糸に吊るされて踊ってる身振り人形のピエロのように、彼女は近代的速度を備えた淡いエゴイズムの一本の感覚の尖端にぶら下ってるのだ。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
忘却ばうきやく護謨ごむおもてすごとく
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この頃のやうな寒さには、刀自は護謨ごむ製の懐中湯たんぽを背中に入れて、背筋を鼠のやうに円くして歩いてゐる。いつだつたか大阪教会で牧師宮川経輝氏のお説教を聴いてゐた事があつた。