詮方せんかた)” の例文
聞て狂氣きやうきの如くかなしみしかども又詮方せんかたも非ざれば無念ながらも甲斐かひなき日をぞ送りける其長庵は心の内の悦び大方ならずなほ種々さま/″\と辯舌を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かく悲しく思いつづけつつ、われはなお茫然としておりたれど、一点の光だにわれをなぐさむるものもあらぬに、詮方せんかたなくてやがていねたり。
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
下女詮方せんかたなさにその火を羊の脊に置くと羊熱くなりて狂い廻り、村に火を付け人多く殺し山へ延焼して山中のさる五百疋ことごとく死んだ。
も連れて共に行かんと云いたるに《そ》は足手纏いなりとて聞入るゝ様子なければ詮方せんかたなく寧児を残す事とし母にも告げず仕度を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
やむことを得ず米友は、その下駄を手許へ引取って、片手でぶらさげて、その場を立去るよりほかには詮方せんかたがなくなりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
詮方せんかたなく一同が帰ってゆくと、周瑜は衣をかえて、魯粛と、孔明とを待たせてある水閣の一欄へ歩を運んできた。——どんな人物であろう?
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一同いちどう詮方せんかたなく海岸かいがんいへかへつたが、まつたえたあとのやうに、さびしく心細こゝろぼそ光景くわうけい櫻木大佐さくらぎたいさ默然もくねんとしてふかかんがへしづんだ。
失いたるに異ならず、里方は言わでも許諾はなかるべし、詮方せんかたなくば、遺言に身を任するか、この家に寡居するか、二つに一つのほかあるまじ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
かれ詮方せんかたなくおやすみなさい、とか、左樣さやうなら、とかつてやうとすれば、『勝手かつてにしやがれ。』と怒鳴どなける權幕けんまく
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
僅かに昼夜を弁ずるのみなれば詮方せんかたなくて机を退け筆を投げ捨てて嘆息の余りに「ながらふるかひこそなけれ見えずなりし書巻川ふみまきがはに猶わたる世は」
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
武蔵野の特色なる雑木山を無惨〻〻むざむざ拓かるゝのは、儂にとっては肉をがるゝおもいだが、生活がさすわざだ、詮方せんかたは無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さすが畜生の智慧ちえ浅きは詮方せんかたなし、と泣き泣きさとせば、猿の吉兵衛も部屋のすみで涙を流して手を合せ、夫婦はその様を見るにつけいよいよつらく
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「だってしかたがないじゃあありませんか、」と詮方せんかたなげに蝶吉はぱっちりした目を細うして、下目使いで莞爾にっこりしたが、顔を上げてまじくりして
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親の呼声しばしばなるを侘しく、詮方せんかたなさに一ト足二タ足ゑゑ何ぞいの未練くさい、思はく耻かしと身をかへして、かたかたと飛石を伝ひゆくに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
涙ながら霊を祭るとかいふ陳腐なるかんがえを有り難がるも常人ならば詮方せんかたなきも、文学者たらん者は今少し考へあるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これでは高い山への憧れが、またその純白な雪のもつ魅力が如何に強くとも、全く泣寐なきね入りの外詮方せんかたないことになる。
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もういくら待っても人通りはない。長吉は詮方せんかたなく疲れた眼を河の方に移した。河面かわづら先刻さっきよりも一体にあかるくなり気味悪い雲の峯は影もなく消えている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
詮方せんかた無さに町道場に押入りて他流試合を挑み、又は支那人の家に押入りて賭場荒しなぞするうちに、やがて春となりし或る日の午の刻下りのこと諏訪山下
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
惡黨あくたうで、お國を奪られた怨みを忘れ難く、この計畫を命取り仕事にまで押しあげたのは詮方せんかたもないことでした。
世をびて、風雅でもなく洒落でもなく、詮方せんかたなしの裏長屋、世も宇喜川のお春が住むは音羽おとわの里の片ほとり。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と袖下に忍んで様子をうかゞって居りまする。流石さすがの平林も如何いかんとも詮方せんかたなく、きびすかえして奥の方へ逃込みました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私も起つて老僧にお別れの辭儀をして頭を上げてみると老僧はまだ/\圓い頭を兩に載せて卓の上に額づいてゐられる。私は詮方せんかたなくもう一遍額を下げた。
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
傷寒しやうかんの病に紛れ無く、且は手遅れの儀も有之、今日中にも、存命覚束なかる可きやに見立て候間、詮方せんかた無く其旨、篠へ申し聞け候所、同人又々狂気の如く相成り
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
詮方せんかたなく宿所姓名を告げ、「活版所は暑くして眠られぬまま立出し」とあらましを話せばうなずきて
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
おあいは、そう厳しくいうと、内儀は、詮方せんかたなさそうにすうと垣根をはなれた。堀は、おあいの姿をみてから小さくなっていたが、それでも、内儀のあとを見送っていた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
というので、後藤君も詮方せんかたなく私に右の趣を話して「どうしたものでしょう」との話でした。
あんなに自分を慕っていはしたが岡も上陸してしまえば、詮方せんかたなくボストンのほうに旅立つ用意をするだろう。そしてやがて自分の事もいつとはなしに忘れてしまうだろう。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
封建武士は、余所よその花を傍目はために眺めて暮らすの外、別に妙手段もなし。彼らの世禄せいろくは依然たり、社会の生活は、駸々乎しんしんことして進歩せり。今は詮方せんかたなし、ただ借金の一あるのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
詮方せんかたなく、物は相談と思い、カンカン寅の許を訪ね、あのボロボロの建物を心ばかりの抵当ていとうということにして(あれでは二百円も貸すまいと云われた)、一千円の借金を申込んだ。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
武男を怒り、浪子を怒り、かの時を思いでて怒り、将来をおもうて怒り、悲しきに怒り、さびしきに怒り、詮方せんかたなきにまた怒り、怒り怒りて怒りの疲労つかれにようやくねぶるを得にき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
暫らく秘して人に知らしむるなかれとの事に、せふは不快の念に堪へざりしかど、かゝる不自由の身となりては、今更に詮方せんかたもなく、彼の言ふがまゝに従ふにかずと閑静なる処に寓居をかま
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
妻君その様子のあわてたるを笑い「ハイ来ておいでです、モシお登和さん」と振返りて呼びけるにお登和も詮方せんかたなく座敷へ入りしが心にはばかる事ありけん、余所余所よそよそしく大原に黙礼せしのみ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
女はもう詮方せんかたきたもののように、そんなものにまですべてをまかせるほかなくなった自分の身が、何だかいとおしくていとおしくてならないような、いかにもやしい思いをしながら
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
彼ももう詮方せんかたが尽きたらしく、「では、あなた。ご案内をいたしましょう」
かくのごとく強烈に生に執着するわれらにとっては死の本能を説くメチニコフの人生観はなんの慰安にもならぬのである。かくのごとくしてわれらは自然の大きな力の前に詮方せんかたなく蹲いて行く。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
詮方せんかたなく、もと十四人の人間が乗っていたが、つぎつぎに死んだので海に捨て、いまこの船に三人だけが生残っていると、手真似で仕方話しかたばなしをしてみせると、異人は毛深い大きな手で重吉の手を握り
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
雲とは何、せっかく山中に泊って雨では困るが、これも詮方せんかたがない。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
浜子は彼方あちら向いて、はるか窓外の雪の富士をや詮方せんかたなしにながむらん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
詮方せんかたなさに胸の中にて空しく心をいたむるばかり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
詮方せんかたなく眼をごく細めに開いて登高を開始した。
私はその時は詮方せんかたがありませんから、妻を
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
うちければひたひよりながれけるに四郎右衞門今は堪忍かんにん成難なりがたしと思へども其身病勞やみつかれて居るゆゑ何共なにとも詮方せんかたなく無念を堪へ寥々すご/\とこそ歸りけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は、その哀れむべき、憎むべき犠牲であってみれば、この場合に弁信風情ふぜいが取付いたとて、詮方せんかたのないものであります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれ詮方せんかたなくおやすみなさい、とか、左様さようなら、とかってようとすれば、『勝手かってにしやがれ。』と怒鳴どなける権幕けんまく
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もういくら待つても人通ひとゞほりはない。長吉ちやうきち詮方せんかたなく疲れた眼をかははうに移した。河面かはづら先刻さつきよりも一体にあかるくなり気味悪きみわるい雲のみねは影もなく消えてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かれは炫いといって小間使に謝したけれども、今瞳を据えた、パナマの夏帽の陰なる一双のまなこは、極めて冷静なものである。小間使は詮方せんかたなげに、向直って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つ一つ書いても詮方せんかたはないが、いかにも高朗優雅なもので、これをただの骨董として葬り去るのは惜しい。
ふるえてはかまの間へ手を入れ、松蔭大藏は歯噛はがみをなして居りましたが、最早詮方せんかたがないと諦め、平伏して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
明日その客(すなわち相公)呉に謁す、呉飯を食わせ、その猴を求めしに諾せず、呉曰く、くれずばその首を切ろうと、客詮方せんかたなく猴を与え、呉、白金十両をむくう。
虹汀さらば詮方せんかたなしと、竹の杖を左手ゆんでに取り、空拳を舞はして真先まっさきかけし一人のやいばを奪ひ、続いてかゝる白刃を払ひ落し、群がり落つる毬棒いがぼう刺叉さすまた戞矢かっし/\と斬落して
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)