花活はないけ)” の例文
いつの間におぼえたのか、いくつかの花を器用にあしらって、あとは花活はないけになげこめばいいだけの形の花束はなたばにまとめあげるのだった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
浪「貴方がおあつらえだと申してごみだらけのふくべを持ってまいりましたが、あれはお花活はないけに遊ばしましても余りい姿ではございません」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さてお銀様は、机の上をながめたけれども、そこに、有野村の家の居間にあるような、一輪差しの花活はないけも何もありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
丸テーブルの上には安い京焼きょうやき花活はないけに、浅ましく水仙を突きさして、葉の先が黄ばんでいるのを、いつまでもそのままに水をやらぬ気と見える。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花菖蒲はなしょうぶ及び蝿取撫子はえとりなでしこ、これは二、三日前、家の者が堀切ほりきりへ往て取つて帰つたもので、今は床の間の花活はないけに活けられて居る。花活は秀真ほつまたのである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
年中鉄舟先生てっしゅうせんせいやら誰やらの半折物はんせつものが掛けてあって、花活はないけに花の絶えたことがない……というと結構らしいが、其代り真夏にも寒菊がいけてあったりする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
未完成のまゝ花器の根元を持つてそつと桂子が押しやつたずんどうの花活はないけへ、水を差しながらせん子がいつた。
花は勁し (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
……田舍ゐなかづくりの、かご花活はないけに、づツぷりぬれし水色みづいろの、たつたをけしたのしさは、こゝろさもどこへやら……
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花活はないけに花が活けてあったりして、何だか妙なものだと思ったけれども、万事先生の指図通りにやりました。
久保田米斎君の思い出 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
例えばう云う事がある。明治十四、五年の頃、月日は忘れたが、私が日本橋の知る人の家にいって見ると、その座敷に金屏風だの蒔絵だの花活はないけだのゴテ/\一杯にならべてある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ひと目見て、床の間の花活はないけに花のなかった寂しさを、感じないわけにはゆかなかった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
顔にうすく白粉などを塗って、髪も綺麗にでつけ、神棚にさかきをあげたり、座敷の薄端うすばた花活はないけに花を活けかえなどした。お庄はそんな手伝いをしながら、昼ごろまでずるずるにいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あんらあがみ(油甕)、あんびん(水甕)、ちゅうかあ(酒土瓶どびん)、からから(酒注)、わんぶう(鉢)、まかい(わん)、その他、壺、皿、徳利とっくり花活はないけ香炉こうろ湯呑ゆのみ、等色々の小品が出来る。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
花活はないけの花あたらしき朝。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それでは、これを樽ロケットの中の花活はないけにいけましょう。さあヒトミさんも東助君も、いっしょにおはいりなさい」
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
北側にとこがあるので、申訳のために変なじくを掛けて、その前に朱泥しゅでいの色をしたせつ花活はないけが飾ってある。欄間らんまにはがくも何もない。ただ真鍮しんちゅう折釘おれくぎだけが二本光っている。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……柱かけの花活はないけにしをらしく咲いた姫百合ひめゆりは、羽の生えたうじが来て、こびりつくごとに、ゆげにも、あはれ、花片はなびらををのゝかして、一筋ひとすじ動かすかぜもないのに、弱々よわよわかぶりつた。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しげしげ足を運んでくる生花はなの先生は、小野田が段々好いお顧客とくい出入ではいりするようになったお島に習わせるつもりで、頼んだのであったが、一度も花活はないけの前に坐ったことのない彼女の代りに
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隣医ひさご花活はないけに造り椿つばきを活けて贈り来る滑稽の人なり
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
小女郎は水仙の花にちょっと手を触れて、花活はないけのそばにある新聞をとり上げた。読むかと思ったら四つに畳んでかたわらに置いた。この女は用もないのに立ち上がったのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花活はないけのところに近づくと、目を皿のようにして、花活のまわりをしらべていたが、やがて、大きくうなずくと、ナイフをもちなおし、ぷつりと、花活のうしろに刃をあてて引いた。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
掻巻の裾をなぎさのごとく、電燈に爪足白く、流れて通って、花活はないけのその桜の一枝、舞の構えに手に取ると、ひらりと直って、袖にうけつつ、一呼吸ひといき籠めた心の響、花ゆらゆらと胸へ取る。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
書齋しよさいはしらにはれいごとにしきふくろれた蒙古刀もうこたうがつてゐた。花活はないけには何處どこいたか、もう黄色きいろはなしてあつた。宗助そうすけ床柱とこばしら中途ちゆうとはなやかにいろどるふくろけて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一度いちど蕉園せうゑんさんがんでた、おまじなひ横町よこちやうはひらうとする、ちひさな道具屋だうぐやみせに、火鉢ひばち塗箱ぬりばこ茶碗ちやわん花活はないけぼん鬱金うこんきれうへふる茶碗ちやわんはしらにふツさりとしろ拂子ほつすなどのかゝつたなか
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
中国人の硝子屋が、硝子板のさきでもって、看護婦のそばにあった大きな花活はないけを床の上につき落して壊してしまった。水がざあっと看護婦の白い制服にひっかかって、たいへんなことになった。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
書斎の柱には、例のごとく錦の袋に入れた蒙古刀もうことうがっていた。花活はないけにはどこで咲いたか、もう黄色い菜の花がしてあった。宗助は床柱の中途をはなやかにいろどる袋に眼を着けて
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花活はないけに……菖蒲あやめにしては葉が細い。優しい白い杜若かきつばた、それに姫百合、その床の掛物に払子ほっすを描いた、楽書らくがき同然の、また悪く筆意を見せて毛をねた上に、「喝。」と太筆が一字にらんでいる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花活はないけの中
地獄の使者 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はちょっと其処そこへ掛けて、会釈で済ますつもりだったが、古畳で暑くるしい、せめてのおもてなしと、竹のずんどぎり花活はないけを持って、庭へ出直すと台所の前あたり、井戸があって、撥釣瓶はねつるべ
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一輪挿いちりんざしを持ったまま障子をけて椽側えんがわへ出る。花は庭へてた。水もついでにあけた。花活はないけは手に持っている。実は花活もついでに棄てるところであった。花活を持ったまま椽側に立っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
北側きたがはとこがあるので、申譯まをしわけためへんぢくけて、其前そのまへ朱泥しゆでいいろをしたせつ花活はないけかざつてある。欄間らんまにはがくなにもない。たゞ眞鍮しんちゆう折釘丈をれくぎだけが二ほんひかつてゐる。其他そのたには硝子戸がらすどつた書棚しよだなひとつある。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
炬燵の上に水仙が落ちて、花活はないけの水が点滴したたる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花活はないけさ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)