しり)” の例文
が、正直のところ、肩の厚い、しりの大きい、胸のつき出た彼女の体には、その水のように柔かい地質が、あまり似合いませんでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と云うから、多助は紋付の着物の片肌脱ぎてしり端折はしおって、向う鉢巻を致しまして、せっせと炭を担ぎ始めました。そうすると嫁も
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのときつぎはぎだらけの垢染あかじみたあわせがぶざまにみだれて、びっくりするほど白いやわらかな内腿うちももしりのほうまでむきだしになった。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しりもも膝頭ひざがしらが一時に飛び上がった。自分は五位鷺ごいさぎのように布団の上に立った。そうして、四囲あたりを見廻した。そうして泣き出した。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのショペンハウエルは、女というものは足の短い肩の狭いしりばかり大きいものだといった。これは欧羅巴の女をののしった言葉なのである。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
女がね、おしりの肉を斬られたんでね。なんでも十二三人もやられたらしいんで。大道臼だいどううすのようなのは、随分斬り出があったろうと思います
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「あゝ、よく光る太陽の下で、豚と一緒に駈け廻り、ふざけ合ひ、寝つ転がり、しりを叩き、ああおまへ豚の皮膚の色を知つてゐるかい。」
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
男はもう大変疲れているらしく、彼に出会うと、馬のしりの方にでも乗せてくれないかと頼んだ。魚屋はそれに答えもしないで足を早めた。
彼等は鐡鉤かぎをおろせり、その一者ひとりほか一者ひとりにいふ、汝わが彼のしりに觸るゝをねがふや、彼等答へて、然り一撃ひとうち彼にあつべしといふ
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
意志は、いななきつつ通りかかる夢想のしりに飛び乗って、それを両ひざでしめつける。精神は、おのれを引き込む節奏リズムの規則を認める。
そう云って、茶屋の男が、私にことばも掛けないで、その中でも、なかんずくしりの大きな大年増を一人、こっちの場所へ送込んだ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちゝなるものは蚊柱かばしらたつてるうまやそばでぶる/\とたてがみゆるがしながら、ぱさり/\としりあたりたゝいてうままぐさあたへてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自分の這入る蚊帳を覗くと、坊ちやんはお暑いのだと見えて、枕をはづして横の方へおあばれになつて、おしりをすつかり出してお出でになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
お庄は小僧に言いかけて、手でしりのあたりをでながら、奥の方へ行った。奥は四、五日甲高かんだかな老人の声も聞えなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しりの大きいのと、ももの太いのが際立って目につく身体つき。笑ったり話をしたりする時の態度や声柄までが、姉妹ででもあるようにく似ていた。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
善ニョムさんは、また天秤棒を振りあげたが、図々しく、断髪娘はおしりをなぐられて、まだヘタリ込んだままであった。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
死体は、そのほとんど右はずれに俯臥うつむけの姿勢で横たわり、右手は、背の方へじ曲げたように甲をしりの上に置き、左手は寝台から垂れ下っていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
木の根で、すねもも、それからしりをひっかかれる。水が腹まで来ると、もう上へあがろうとする。逃げ出そうとする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
甚だしき怒声を発してそのすねや尾をき、またしりを咬むと相手またこれに返報し、姫御前ひめごぜに不似合の大立ち廻りを演ずるを酋長らえ飛ばして鎮静す。
家の者はすこしおこたってきた。主人はその時かわやに往った。と、俄かに狐兵があらわれて、弓を張って主人を取り囲んで乱射した。矢がしりにあつまってきた。
胡氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
臺所から箒を持つて來て、掃除を始めようとしたお駒は、かう言つて、箒で一つ定吉のしりをどやし付けた。定吉は竹丸と一所に道臣の居室ゐまに逃げ込んだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それから叩くというたところで柳の太い生棒なまぼうで叩くのですから、仕舞にはおしりが破れて血がほとばしって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
老師は、無理やりにおしりに刺された睡眠解下剤すいみんかいげざいの注射のあとがまだ痛むので、すこし不機嫌であった。
彼女はおしりのような蒼白い顔の女になった、それは美しいというよりも、皮膚の静まり切ったふくらがりが、自分のしたことをっとも悔いていない平坦さを見せ
私抔わたしなどを御覧なせい、御舘おやかたへ帰つて見りや、豚小屋からしりの来さうな中に御台所みだいどころ御公達ごきんだち、御姫様方と御四方およつかたまで御控へめさる、これわし脚気かつけの一つも踏み出したが最後
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それ程の寒さにあつても、人々は家の内に蟄して、炬燵こたつしりを暖めてゐることを許されない。昼は氷上に出て漁猟をする人々があり、夜は氷をつて氷庫に運ぶ人々がある。
諏訪湖畔冬の生活 (新字旧仮名) / 島木赤彦(著)
妾はロダンさんの鑑賞力を吟味するような気持で、優美に作られた妾の小さな胸、強いカーブを持ったしり、欲求に満ちた東洋女の顔にみとれながら恍惚となっていたのです。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
しり松火たいまつをつけられているように、真っ赤な傷口を持っている例の奔馬ほんばは、あれから盲滅法に駈けだして、八百八谷はっぴゃくやだにという鈴鹿の山坂を、またたく間に駈け通し、蟹坂かにさかを突破し
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その流れをしりをからげて渡りかけたのであるが、ふと下を見ると川底にえておる藻に白い花の咲いておるのが目にとまった、そこでそれを水の上からのぞいて見るというのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そう気が付くと同時に吾輩は今一度、念入りにゾッとさせられた。名探偵生命いのちがけの冒険とはこの事だと気が付いた。左右のおしりの下が一面にザラザラと粟立ったような気がした。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しりには穴が明いて、そこからも排泄物もするという次第で、いよいよ苦痛が加わると共に、堪らぬ時は号泣する、この号泣するのが、苦痛をまぎらす事になるといって、周囲を憚らず
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
旅の家族とおぼしい女交りの一連が、窮窟そうにギッシリ詰まっているが、屋根の上にはチョッキ一枚になって、シガアをくゆらしている荒くれ男たちが、不行儀に、しりすねをむき出しに
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
余は右向きに臥し帯を解き繃帯の紐を解きて用意す。繃帯は背より腹に巻きたる者一つ、しりおおひて足につなぎたる者一つ、都合二つあり。妹は余の後にありて、先づ臀のを解きうみぬぐふ。
明治卅三年十月十五日記事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お民は平手で、三つ四つ彼のしりを叩いた。それでも彼は、小豚の死骸のように転がったままでいた。そのうちに燈火がぱっと灯った。瞼を透して来る赤い光線の刺激で、おのずと眉根がよる。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「どうするって、つまり身投げだよ。見ていると、一刻ひとときの間に十も二十も飛びこむことがある、そら見な、あの通り真紅まっかになっている中に、真白いものがふわりと浮いているだろう、女のしりだ」
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
Mは体をらし濡らし、ずんずんおきへ進みはじめた。僕はMには頓着とんじゃくせず、着もの脱ぎ場から少し離れた、小高い砂山の上へ行った。それから貸下駄をしりの下に敷き、敷島しきしまでも一本吸おうとした。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
秀吉は此の時、遙か後の山上に立ち、あれを見よ、あれを見よとばかりに指さし、しり引捲ひきまくり小躍りしたと云うから、相当に目覚しい攻撃振りだと思われる。もっとも臀をまくるのは秀吉の癖である。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その宵、彼氏のおしりのまはりに、月光が
ちよつとしりを突き出して止つて見た。
メランコリア (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
まへのおしり
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
僕ハ彼女ヲ俯向キニサセ、しりノ孔マデ覗イテ見タガ、臀肉ガ左右ニ盛リ上ッテイル中間ノくぼミノトコロノ白サトイッタラナカッタ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しりもぼて/\大きくなり、乳房もだん/\大きくなって何様どないな事をしても男とは見えないじゃ、すると中には口の悪い者が有って
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうだね、一燻ひとくべあたつたらようがせう、いますぐくから」と傭人やとひにんがいつてくれてもおしなしりからえるのを我慢がまんして凝然ぢつ辛棒しんぼうしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
淫奔いんぽん、汚濁、しばらくのも神の御前みまえに汚らわしい。いばらむちを、しゃつの白脂しろあぶらしりに当てて石段から追落おいおとそう。——があきれ果てて聞くぞ、おんな
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
華奢きゃしゃな服装をして、身体の欠点を、高い肩や大きいしりを、隠そうとつとめていた。そういう欠点こそ、彼の自尊心をなやます唯一のものだった。
「ハハハハハ勘定だけならいいですが。人の屁を分析して、しりの穴が三角だの、四角だのって余計な事をやりますよ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「——さぁこん畜生、立たねえか、そらおめえのしりの下で、麦が泣いてるでねえか、こん畜生、モ一つなぐるぞ」
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
すると垢じみた継ぎだらけの裾が割れて、白い内股うちまたしりのほうまであらわに見え、私はうろたえて眼をそらした。私は信じがたいほど美しいものを見たのだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
猿は放り出されまいとして両手で翁の寝衣ねまきしりの処のずぼんにかじり付いている。その次は、もう翁の白髪は逆立っている。猿の体が延びて彎曲してちぎれそうになっている。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「いいえ、大丈夫ですわ。カーテンを明けてみましたら、帆村さんのおしりでしたわ。ホホホ」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)