籠手こて)” の例文
申分の無い普請で、部屋の外、納戸なんどになつて居る板敷の長四疊には、めん籠手こて塗胴ぬりどうや、竹刀しなひなどが、物々しくも掛けてあるのです。
革のこなし方が実に見事で、一朝にして生れた仕事でないのを想わせます。面頬めんぼおどう籠手こてもしばしば見とれるほどの技を示します。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
相手が動きに移ろうとし、または移りかけた時に、当方からほどこすわざで、先方の出頭でがしらを撃つ出会面であいめん出小手でこておさ籠手こてはら籠手こて
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
学生達は袖の長い籠手こてをはめていたが、それでも戦が終った時、手首に擦過傷や血の出るような掻き傷を負った者がすくなくなかった。
籠手こて脛当すねあても別々にして、ほかの荷物のなかへ何うにか欺うにか押込んで、先ず表向きは何の不思議も無しに江戸を立つことになりました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それはまるで隼人が誘いこんだようにみえたし、打ちを入れて伸びた図書介の籠手こてを、隼人の木剣が眼にもとまらず斬って取るのがみえた。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、主なる味方の戦死者を思い出すだけでも、無念がこみあげ、涙が声をかすめて、将士はみな籠手こてひじを曲げて、顔をおおってしまった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かなら朝夕てうせき餘暇よかには、二階にかいまどより、家外かぐわい小丘せうきうより、また海濱かいひん埠頭はとばより、籠手こてかざしてはるかなる海上かいじやう觀望くわんぼうせられんことを。
人数も、わずかに数人で、籠手こて臑当すねあてして、手槍を持ち、小銃を持っているものは、わずかに数人で、大砲は一門もなかった。
鳥羽伏見の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とにもかくにも二本まで腹へさわられて大兵の男はいらだって、めん籠手こて、腹のきらいなく盛んな気合で畳みかけ畳みかけ、透間すきまもなく攻め立てる。
改めらるゝになかには紺糸縅鐵小脾こんいとをどしてつこざね具足ぐそくりやう南蠻鐵桃形なんばんてつもゝなりかぶと其外籠手こて脛當すねあて佩楯はいだて沓等くつとうとも揃へて是ありまたそこかたなに疊紙たゝみの樣なるつゝみあり是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
行衣の下へ腹巻を着、籠手こてさえつけた範覚は、一方の物頭にでもなった気で、厳めしく物々しく振る舞うのであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
農家の子弟が面籠手こてかついで調布まで一里半撃剣の朝稽古に通ったり柔道を習ったりしたものだが、六年前に一度粕谷八幡山対烏山の間に大喧嘩おおげんかがあって
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
嵐の来らんことを恐れ、たちまちその鎚矛つちぼこ(22)を振り上げていくたびか打ち叩き、間もなく扉の板張りに、籠手こてはめたる手の入るほどの穴をぞ穿うがちける。
弓弦ゆんずる荘殺人事件」は古代よろい籠手こての神秘飛行が、「黄泉よみじ帰り」には死者再現の神秘が取扱われている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鼠色の行衣に籠手こて臑当すねあてと見まごう手甲てっこうに脚袢、胡桃の実程もある大粒の水晶の珠数をたすきのようにかけ、手に握太にぎりぶとの柄をすげた錫杖しゃくじょうを突き、背には重そうなおいを負うていた。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
続いて出でける男は、『しれ者かな』とて馬の口に取り附く処を、同じ様に斬り給えば、籠手こておおいより打ちて、打ち落されて退きにけり。その後、近附く者もなければ、云々。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
籠手こてをかざして眺むれば、キャンヌの町を囲むレステレエルの山の斜面の裾から頭頂いただきまで、無数に散在する粋で高尚な荘館シャトオ別荘ヴィラ——その間では、いまや霞のような巴旦杏アマンドの花盛り
この道場というは四けんと五間の板間いたのまで、その以前豊吉も小学校から帰り路、この家の少年こどもを餓鬼大将としてあばれ回ったところである。さらに維新前はおめん籠手こてまことの道場であった。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
めん籠手こての声が止むと間もなく、道場の電燈がフッと消えて人声一つしなくなった。……と思うとそれから暫くして、提灯ちょうちんの光りが一つ森の奥からあらわれて、共同浴場の方に近づいて来た。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
籠手こてやら脛当すねあてやらが
彼を始め十人は、籠手こてを枕に大地へ寝た。茂助は、もう水のないふくべを、手拭で巻いて、藤吉郎の枕にと、そっと主人の頭の下へ当てがった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少し前かがみになって、見えない眼を空へ向けながら、小太刀を籠手こて高に構えた姿が……あいつだ。盲無念の他にこれだけの突をするやつはない
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
(月かくれて暗し。籠手こて臑当すねあて、腹巻したる軍兵つわもの二人、上下よりうかがい出でて、芒むらに潜む。虫の声にわかにやむ。)
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さらにある者は籠手こてだけめて、甲も鎧も着けていない。ひどい奴になると左の足だけへ、古びた脛当てをくっつけて、後は何んにも着けていない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腰膚ぬいで冷水摩擦まさつをやる。日露戦争の余炎がまださめぬ頃で、めん籠手こてかついで朝稽古から帰って来る村の若者が「冷たいでしょう」と挨拶することもあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今にも籠手こて脛当すねあてが動き出して、丁度頭の上に懸けてある、大身おおみやりを取るかとも思われ、いきなりキャッと叫んで、逃げ出したい気持さえいたすのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「先の勝ちで籠手こてを取られた、いかにも凄い太刀先に見えた、もう一度あの人と立合をしてみたい」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
左舷さげん當番たうばん水夫すゐふいまたしか星火せいくわほとばしり、火箭くわせん慘憺さんたんたる難破船なんぱせん信號しんがうみとめてるには相違さうゐないのだが、何故なぜ平然へいぜんとしてどうずるいろもなく、籠手こてかざして其方そなたながめてるのみ。
弓はしっかりと握り、弓籠手こてをつける。また骨製或は金属製の拇指環をつける。
それから、ややしばらく、さむらいものの籠手こてになにかチラと気勢がうごく。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
爛々らんらんたるお互いの眼は、相見て、相見えぬ眼ざしだった。籠手こて、乱髪、膝がしら、満足な五肢を持つ者はひとりもない。——と、そのとき
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
那須の篠原に狩り暮らしている三浦、上総の籠手こての上にも、こうした霰がたばしっているかと千枝太郎は遠く思いやった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
石川の、面上に横たえた木剣が籠手こてさがりになり、すっと腰がおちた。木剣が斜めになると同時に、すっと、軽く、腰がおち「えっ」という気合がとんだ。
が、その中のはすねへばかり、脛当をあてた者があり、又腕へばかり鉄と鎖の、籠手こてを嵌めたものがあり、そうかと思うと腰へばかり、草摺くさずりを纏った者があった。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
友達殿はあくまで真面目くさって、それからが極意ごくいなのだ、そうして立合っているうちに、先方が必ず打ち込んで来る。めんとか、籠手こてとか、どうとかいって、打ち込んで来る。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いつの間にか真夜半まよなかとなりしならん、余は夢に恐ろしく高き塔に昇り、籠手こてをかざしてあまねく世界を眺めいるうち、フト足踏みすべらして真逆様に落つると見、アッと叫んで眼をさませば
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
卜斎は陣羽織をすててつぎに、手ばやく籠手こて具足ぐそくをとり、脛当すねあてくさり脚絆きゃはんにかえて、旅の鏃師らしいすがたにかわった。そして蛾次郎に
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(月かくれて暗し。籠手こて臑當すねあて、腹卷したる軍兵つはもの二人、上下よりうかゞひ出でゝ、芒むらに潜む。蟲の聲俄にやむ。)
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
直衛は面と籠手こてを左手に抱えたまま、右手に竹刀を持って向き直り、もういちど五人の顔を順に眺めた。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
板壁には竹刀しないだの木刀だの、稽古槍たんぽやりだの、鎖鎌だの、面、籠手こて、胴だの脛当すねあてだのが、ひととおり揃えて掛けてあり、一段高く師範の坐る席が、つくり設けてありもしたが
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一応、籠手こてをつけ終った後に、脅曳わきあい、胴を着けて、表帯うわおびを結び、肩罩そでをつけ
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
籠手こてかざしてわが軍艦ぐんかん」の甲板かんぱんながめてる。
三、四人、いちどに丹波の前後から組みついて、脾腹ひばら、首すじ、籠手こて深股ふかもも、滅茶滅茶に突いたり、斬ったりしてしまった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問題にしてはいない、そんなことは少しも重要ではない、めん籠手こてをつけた竹刀の勝負など、勝っても負けてもさしたることはないし、それは剣の道の末節にすぎない
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これに勇気をり立てられ、窮鼡の多治見の郎党ばらは、籠手こて脛当すねあてそこそこにして、太刀を抜き長柄をふるい、槍をしごいて館を走り出で、ヒタヒタと門ぎわへ押し出した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
筒袖つつそで野袴のばかまをつけたのや、籠手こて脛当すねあてに小袴や、旅人風に糸楯いとだてを負ったのや、百姓の蓑笠みのかさをつけたのや、手創てきずを布でいたのや、いずれもはげしい戦いとうえとにやつれた物凄ものすごい一団の人でしたから
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ごッた返している中に、武者ぶるいをわめいている若者ばらの多い武者溜りへ、籠手こて革紐かわひもを結び結び姿を見せた一部将は
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大坂の戦塵せんじんおさまって十年そこそこ、世の気風は殺伐で、武術試合などは素面素籠手こてに木剣、怪我くらいは勿論もちろんのこと、他流試合にはしばしば真剣が用いられるので
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして屈強な若者ばかりが、手に手に弓矢をひっ掴み、籠手こて脛当すねあてで身をよろい、往来を縦横に駆け廻わりながら、顔を空の方へ振り向け振り向け、こう口々に叫んでいる。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)