眷属けんぞく)” の例文
旧字:眷屬
さて死すれば妻子、眷属けんぞく、朋友、家財、万事をもふりすて、れたるこの世を永く別れ去りて、ふたたびかえり来ることあたわず。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
山の祖神としては、この分身によって自分にも豊かさという性格を附け加え得られ、眷属けんぞくの繁栄を眼に見ることである。感謝すべきだ。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
失ふ。在家学道のものなほ財宝にまとはり、居処きょしょをむさぼり、眷属けんぞくに交はれば、たとひその志ありと云へども、障道の因縁いんねん多し。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「朝鮮へ国替くにかへ仰せ付けられたく、一類眷属けんぞくこと/″\く引率して彼地へ渡り、直ちに大明だいみんに取って掛り、事果てぬ限りは帰国つかまつるまじき旨の目安めやす
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
従類じうるゐ眷属けんぞくりたかつて、げつろしつさいなむ、しもと呵責かしやく魔界まかい清涼剤きつけぢや、しづか差置さしおけば人間にんげん気病きやみぬとな……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
むかしはヨブ凡ての所有を失ひ、凡ての親縁眷属けんぞくを失ひ、凡ての権威地位を失ひ、加ふるに身は悪瘡の苦痛に堪えがたく、身命旦夕に迫れり。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
我が身体さえ大切に思わない人はどうして妻子眷属けんぞくの身体までを大切に思いましょう。そういう人の家へは決して幸福という事が参りません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「返事をしないか。——しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷属けんぞくたちが、その方をずたずたにってしまうぞ」
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただし、それは大正末期までのことでかくいう百々子などの知っている頃は、昼間から鼠の眷属けんぞくが跳梁する、使用不能の空き部屋になっていた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「われら弓取りは、必然、代々の名和ノ庄から妻子眷属けんぞくまでを、これの武運に賭けているのです。負けろといわれても負けられはいたしません」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東京から、その家の持ち主の妻や子供達や、従兄従妹などという活発な眷属けんぞくがなだれ込んで来て部屋部屋を満した。
毛の指環 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「こんどこそは『鉄の水母』も、それから、その眷属けんぞくだという怪しい生物も、いっしょにやっつけてしまいます」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「女子どもに気をつけろ! 早く早く家の中へ隠せ! 来たぞ来たぞ血吸鬼どもが! 真鍮の城の眷属けんぞくどもが!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
六匹眷属けんぞく郎党をしたがえて、何かさしずしているようすは、これがついさっきまで老母のまえに、頭をたれてチョコナンとすわっていたあの飼猫の玉かと
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
李陵の身体は都にはないが、その罪の決定によって、彼の妻子眷属けんぞく家財などの処分が行なわれるのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
かりにただ一人の愛娘まなむすめなどを失うた淋しさは忍びがたくとも、同時にこれによって家のとうとさ、血の清さを証明しえたのみならず、さらにまた眷属けんぞく郷党きょうとうの信仰を
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
妾と夫婦の契約をなしたる葉石は、いうまでもなく、妻子さいし眷属けんぞく国許くにもとのこし置きたる人々さえ、様々の口実を設けては賤妓せんぎもてあそぶをはじとせず、ついには磯山の如き
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
むか阿修羅あしゅら帝釈天たいしゃくてんと戦って敗れたときは、八万四千の眷属けんぞくを領して藕糸孔中ぐうしこうちゅうってかくれたとある。維摩ゆいまが方丈の室に法を聴ける大衆は千か万かその数を忘れた。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「信道知識」即ち同信同行の一類眷属けんぞくも、現世安穏、来世には生死を解脱げだつして三尊にしたがいまつり、不生不死なる涅槃ねはんの彼岸に逍遥しょうようせられ、しかも尽きざる功徳により
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
どもは天の眷属けんぞくでございます。つみがあってただいままで雁の形をけておりました。只今ただいまむくいをはたしました。私共は天に帰ります。ただ私の一人の孫はまだ帰れません。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
いやしくも、家来けらい眷属けんぞくというものは、旦那だんなの身に、すこしでもためになることと聴きゃあ、百里をとおしとしねえのが作法——それを、どこまでも、突っ張るなんて——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
勿論これだけの自覚があったにしても、一家眷属けんぞくの口が乾上ひあがる惧がある以上、予は怪しげな語学の資本を運転させて、どこまでも教育家らしい店構みせがまえを張りつづける覚悟でいた。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
だが遂にアブばかりでなかった、石楠花の甘ずっぱい香気は私を包み、アブを包み、森に漂って、樹々の心髄までしみ透るかのように、私までがアブの眷属けんぞくになったかのように。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
われらの尊む夜叉羅刹やしゃらせつの呪いじゃ。五万年の昔、阿修羅あしゅらは天帝と闘うて、すでに勝利を得べきであったが、帝釈たいしゃく矢軍やいくさに射すくめられて、阿修羅の眷属けんぞくはことごとく亡び尽した。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「南無、大忿怒明王、法満天破法、十万の眷属けんぞく、八万の悪童子、今度の呪法に加護候え」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
この狸は通称を団九郎と言い、眷属けんぞくでは名の知れた一匹であったそうな。ほどなく経文をそらんじて諷経ふうきょうに唱和し、また作法を覚えて朝夜の坐禅ざぜんに加わり、あえて三十棒を怖れなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
因って迎え申したから時至れば一矢射たまえと乞う、うべないて楼に上って待つと敵の大蛇あまたの眷属けんぞくを率いて出で来るを向うざま鏑矢かぶらやにて口中に射入れ舌根を射切って喉下に射出す
仰ぎ願わくは、山王七社、王子眷属けんぞく、東西満山護法聖衆しょうじゅ、日光月光、無二の丹誠を照らし、唯一の玄応げんおうを垂れ給え。さすれば逆賊謀臣はたちどころに軍門に下り、こうべを京土にさらさん。
魑魅ちみとか妖怪変化とかの跳躍するのはけだしこう云う闇であろうが、その中に深いとばりを垂れ、屏風や襖を幾重にも囲って住んでいた女と云うのも、やはりその魑魅の眷属けんぞくではなかったか。
陰翳礼讃 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山の神の眷属けんぞくとして、もったいないくらい、あがめ尊んでくれさえしたものだ。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
俳優にとって、最も演じにくい場所は、故郷の劇場であって、しかも六親眷属けんぞく全部そろって坐っている一部屋の中に在っては、いかな名優も演技どころでは無くなるのではないでしょうか。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
内に妻子眷属けんぞく下女等までまた四、五人、合わせて八、九人の家にては精米一年に十四石四斗ばかり、この価十五両、味噌一両二分ばかり、こんず二両一分ばかり、油三両ばかり、薪四両二分ばかり
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
大家たいけとなると二百三百とけたにして吊るすから山はイルミネーションのようで町中まちなかまで明るくなる。その提燈の下で一家眷属けんぞくが、うだねえ、十時頃まで酒を飲む、御馳走を食べる、爆竹ばくちくをやる。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
次には眷属けんぞくことごとく没落の一途を辿り四方に離散する。
愛宕の峯々に住む大天狗の配下に属する眷属けんぞく
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人皆その眷属けんぞくごとくないがしろに呼ばれながら
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
眷属けんぞくが待ち受けていた。度々通った
「俺は眷属けんぞくを捕まえて来る」
眷属けんぞくばらばらと左右に居流る。一同ものを持てり。扮装いでたちおもいおもい、よろいつけたるもあり、髑髏どくろかしらに頂くもあり、百鬼夜行のていなるべし。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「返事をしないか。——しないな。好し。しなければ、しないで勝手にしろ。その代りおれの眷属けんぞくたちが、その方をずたずたに斬つてしまふぞ。」
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つねに良人の居所さえも知れないうえ、幼な子三人を抱え、わずかな家臣らと共に、これへ身を寄せていた久子以下の、亡命の眷属けんぞくたちであったのだ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸いにして地味ちみは豊かに肥え、労少なくして所得はもとの地にまさり、山野の楽しみも夏は故郷よりも多く、妻子眷属けんぞくとともにいれば、再び窮屈な以前の群れに
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雲の奥の一端に、目犍連、阿難をかばうて立ち居る。阿難は腕をこまねき坐り居る。その袖に娘は縋った儘。雲の中央にて護法の諸天善神達と、呪いの方の眷属けんぞく等と戦う。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
次第に眷属けんぞくが集まって来て、荘厳を極めた天狗の宮は、獣の糞や足跡で見る蔭もなく汚されてしまい、窩人達の家々にはたぬきむじなが群をなして住み子を産んだり育てたりした。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
叱咜する度土石を飛ばして丑の刻より寅の刻、卯となり辰となるまでもちつとも止まず励ましたつれば、数万すまん眷属けんぞく勇みをなし、水を渡るは波を蹴かへし、をかを走るは沙を蹴かへし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
普通の人から見れば、彼は野蛮である、兇暴である、殆ど𤢖わろ眷属けんぞくである。が、彼は決して所謂いわゆる悪人では無かった。彼が獰猛野獣の如きは其人そのひと境遇の罪で、其人そのひと自身の罪では無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それらはいずれも怪猫の眷属けんぞく郎党であって、死体を両脇に逃げさった山伏すがたの男こそが、怪猫玉の化身であったということは、みなさまには、ご推察のつかれるところであろうと思われます。
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
君も就いて出家すべしと勧めたのでしからば還ろうと言うと、竜女彼に八餅金へいきんを与え、これは竜金なり、君の父母眷属けんぞくみたす、終身用いて尽きじと言い眼を閉じしめて神変もて本国に送り届けた
「ほらね、あれは、あたしの眷属けんぞく……」
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
妻子王位ざい眷属けんぞく