琵琶びわ)” の例文
琵琶びわ海老尾えびおに手をかけて、四つのいとねじをしきりと合せていた峰阿弥みねあみは、やがて、調べの音が心にかなうとやや顔を斜めに上げて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らしていた居間の道具類、始終いていた琵琶びわ和琴わごんなどの、今はいとの張られていないものなども御覧になるのが苦しかった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
琵琶びわの箱を背に負うて、座頭の位をあがなうために京上りをする途中、剽盗おいはぎや強盗に出遇う話はしば/\昔の物語の中に見受けられる。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大きい方は二行に並んですわった八人の楽女が横笛、立笛、そうしょう銅鈸どうばつ琵琶びわなどをもって、二人の踊り女の舞踊に伴奏する。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
宗近君は椅子いす横平おうへいな腰を据えてさっきから隣りのことを聴いている。御室おむろ御所ごしょ春寒はるさむに、めいをたまわる琵琶びわの風流は知るはずがない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
秀夫はそのじょちゅうにビールの酌をしてもらいながら、琵琶びわいていたきれいな婢のことを聞こうと思ったが、それはまりがわるくて聞けなかった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
中庭には琵琶びわのかたちをした池があり、それには石造りの太鼓橋が渡してあるし、芝を植えた築山つきやまには腰掛のちんがあった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
句意はきわめて明白で五月雨の降るころ近江おうみに行ってみると、あの広大な琵琶びわ湖の水が降り続く雨のために増しておった、というのであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
また琵琶びわの音が聴える。別にこの仕事に厭気がさしているわけではないけれども、長く続けてゆける仕事ではないと思う。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ひとりの少年が琵琶びわをかかえて来て、楊の車に一緒に載せてくれというので、承知して同乗させると、少年は車中で琵琶数十曲をひいて聞かせた。
こんな結果に陥ることを予期して、利根漁業組合では、堰堤が竣成した年から、琵琶びわ湖産の稚鮎を買い入れて、上流へも下流へも放流したのである。
利根の尺鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
またたとへば多くのいとにて調子しらべを合せし琵琶びわや琴が、ふしを知らざる者にさへ、鼓音ひくねたへにきこゆるごとく 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
さればとなく、昼となく、笛、太鼓、鼓などの、舞囃子まいばやしの音にして、うたいの声起り、深更時ならぬに琴、琵琶びわなどひびきかすかに、金沢の寝耳に達する事あり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いちばん上のおよめさんは琵琶びわをひき、二ばんめのおよめさんはしょうき、三ばんめのおよめさんはつづみつのでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
演壇では、筒袖つつそでの少年が薩摩さつま琵琶びわいて居た。凜々りりしくて好い。次ぎは呂昇の弟子の朝顔日記浜松小屋。まだ根から子供だ。其れから三曲さんきょく合奏がっそう熊野ゆや
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
浅草を去ったのは明治十二、三年以後で、それから後は牛島の梵雲庵に梵唄雨声ぼんばいうせい琵琶びわと三味線をたのしんでいた。
以前の三味線の撥は琵琶びわのそれのように、今少し中がくびれて先が開いていたのではないかと思う。熊本県の玉名たまな郡ではこの草をネコンピンといっている。
いかにもツングース系の、顔が平たい琵琶びわ型の、そして眼の細い、鼻のひしゃげた薄汚ない、まさかシャーマン教の巫女みこでもあるまいがと可笑しくなった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「いつも今ごろはもう妙高に雪がくるのですけれど そうすればきますが おととい貝をとりにいったら琵琶びわさきの入江に真鴨まがもが十羽ほどと鴛鴦もいました」
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
お銀が琵琶びわの葉影の蒼々した部屋で、呻吟うめき苦しんでいると、正一はその側へ行って、母親の手につかまった。その日お銀は朝から少しずつ産気づいて来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
唐宋諸賢ノ集中往往ニシテ粗笨そほん冗長ナルガ如キ者アリトイヘドモ、ソノ実ハ句鍛ヘ字錬リ一語モいやしクセズ。故ニ長篇ニ至ツテハすなわち北征南山長恨琵琶びわノ数首ノミ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
渋峠を余程くだった処に、澗満かんまんの滝という大滝が絶壁の上から落下する。右方うほうは原を隔てて琵琶びわ沼がある。
畢竟するに平家や謡曲等の詩文は、琵琶びわその他の音曲によって歌謡される、文字通りの「謡いもの」であって、独立した文学としては、韻文価値のないものである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
天蓋の天人にもみられる童話的挙措である。顔の面長おもながな天人が、琵琶びわをかかえている姿をみると、「行く春やおもたき琵琶の抱きごころ」という蕪村ぶそんの句を思い出す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
目隠しされてそこへ連れて行かれた医者がその家で聞いたという琵琶びわの音や、ある特定の日に早朝の街道に聞こえた人通りの声などを手掛りとして、先ず作業仮説を立て
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
日清にっしん戦争に琵琶びわを背負っていって、偉く働らいたり琵琶少尉の名ももろうたりしたが、なんやらそれで徹したものがあって、京極流も出来上ったが、あの人は、なんであんなに
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
雨もよいの空は、暗く低く、何となく気の滅入めいりそうな空模様である。そこへ、千手の前が、琵琶びわことをたずさえてやってきた。重衡を慰めよ、という頼朝の計らいであった。
と、間近の枝折戸の外で、急に掻き立てる琵琶びわの音。門付けの法師が来たのでもあろう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの男は琵琶びわでもき鳴らしたり、桜の花でも眺めたり、上臈じょうろう恋歌れんかでもつけていれば、それが極楽ごくらくじゃと思うている。じゃからおれに会いさえすれば、謀叛人の父ばかり怨んでいた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少し離れて等々力とどろきの不動、高尾の琵琶びわの滝、その頃は中央線も私設で八王子止り。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
するとすぐ僕の耳に入ったのは琵琶びわであった。そこの店先に一人の琵琶僧が立っていた。としのころ四十を五ツ六ツも越えたらしく、幅の広い四角な顔のたけの低い肥えた漢子おとこであった。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼が心はかれる琵琶びわにして
行く春やおもたき琵琶びわの抱き心
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「いや、琵琶びわだ」
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それに合わせて誰かゞきんのことをく。扇で拍子を取りながら唱歌をうたう。つゞいてそうのことや、和琴わごんや、琵琶びわが運び出された。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
実はそれを、教えてくれたのは、いつかの琵琶びわ法師でございます。——私とひいさまとが、あまりにいたましいといって、こう申しました。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのほかではきんをおきになることが第一の芸で、次は横笛、琵琶びわ、十三げんという順によくおできになる芸があると院も仰せになりました。
源氏物語:17 絵合 (新字新仮名) / 紫式部(著)
天人は琵琶びわを持って静かに蓮台れんだいの上にすわっている。素朴な点は鳳凰にゆずらない。また鳳凰と同じく顔と手が特に大きい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
左の端には火熨斗ひのしぐらいの大きさの鐘がやはり枠の中に釣るしてあった。そのほかにはことが二面あった。琵琶びわも二面あった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蝎の年を経たものは大きさ琵琶びわの如しなどと、シナの書物にも出ているが、そんなのは滅多にあるまい。私の見たのは、いずれもこおろぎぐらいであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは、何です、剣術の先生は足がふるえて立縮たちすくんだが、座頭の坊は琵琶びわ背負しょったなり四這よつんばいになって木曾のかけはしをすらすら渡り越したという、それと一般ひとつ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしてたとへば琵琶びわの頸にて、おとその調しらべ篳篥ひちりきの孔にて、入來る風またこれを得るごとく 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「何昔がよかろうか」というに炉の向こうにいた家刀自いえとじが「琵琶びわにスルスでも語らねか」と言ったとある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
琵琶びわ橋ニ上ルヤたちまちニシテ光彩ノ雲外ニひらめクヲ見ル。いわゆル名古屋城ノ金鴟尾きんしびナリ。城下ヲ過ギテ鷲津毅堂ヲ訪フ。よろこビ迎ヘテ酒ヲ置ク。平野泥江森春濤先ニアリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日はもうとっぷり暮れて、斗満とまむの川音が高くなった。幕外そとは耳もきれそうな霜夜しもよだが、帳内ちょうないは火があるので汗ばむ程の温気おんき。天幕の諸君はなおも馳走に薩摩さつま琵琶びわを持出した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もっとも群馬県庁の水産係が明治の初年に、琵琶びわ湖の鱒を移植したことがあるけれど、これは如何なる理由によるものか、繁殖が極めて少なく、まれに釣れるばかりである。
利根川の鮎 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「あの時は、まだ誰方どなたもお元気で、ふえ琵琶びわなど持ち出して、興じたものでございました」
彼は琵琶びわの師匠が本業なのだが、剣法が好きで道場へ通って来るのだと聞いていた。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その背景の前に時たま現れる鳥影か何ぞのように、琴や琵琶びわの絃音が投げ込まれる。そして花片の散り落ちるように、また漏刻ろうこくの時を刻むように羯鼓かっこの音が点々を打って行くのである。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
主人は白い長い腭鬚あごひげをひっぱり、黒ちりめんの羽織で、大きなしとねに坐り、銀の長ぎせるで煙草タバコをのみ、曲彔きょくろくをおき、床わきには蒔絵まきえ琵琶びわを飾り、金屏きんびょうの前の大がめに桜の枝を投げ入れ