珠数じゅず)” の例文
旧字:珠數
で、真言を唱えつつ珠数じゅず采配さいはいのごとくに振り廻して、そうして向うから出て来る山雲を退散せしむる状をなして大いにその雲と戦う。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
修験者の珠数じゅずを押しんで祈祷きとうする傍には、長者の一人むすめと、留守をあずかっている宇賀一門の老人達が二三人坐っておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
生蕃征伐に行った時、大勢の生蕃を珠数じゅずつなぎに生捕って山又山を越えて連れて帰る途中で、面倒臭くなると斬ってしまう事が度々であった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小さい子供を連れて、き夫のお墓に詣るらしい若い未亡人や、珠数じゅずを手にかけた大家の老夫人らしい人にも、行き違った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
水晶の浄土珠数じゅずれん、とって十九のまだ嫁入前の娘に、とはたで思ったのは大違い、粒の揃った百幾顆ひゃくいくつの、皆真珠であった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてよろいかぶとおいの中にかくして、背中せなか背負せおって、片手かたて金剛杖こんごうづえをつき、片手かたて珠数じゅずをもって、脚絆きゃはんの上に草鞋わらじをはき
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
国司の下の役人と、大喧嘩を起し、国庁を焼いたり、吏員を殺傷し、流罪るざいに科せられ、一族十八人、珠数じゅずつなぎに、配所へ送られたことがある。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空へ垂直に伸びた繩梯子は、珠数じゅずつなぎの警官隊をのせたまま、たちまち、間をクタクタクタとくずれて行った。警官の雨。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、女の肌にくびからつるしてあった細い黒檀こくたん珠数じゅずとその先にぶら下がっている銅貨のようなものがちらりと見えた。
女の子供などは往々おうおうそのくき交互こうごに短くり、皮でつらなったまま珠数じゅずのようになし、もてあそんでいることがある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
私はその時彼の生活の段々坊さんらしくなって行くのを認めたように思います。彼は手頸てくび珠数じゅずを懸けていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
珠数じゅずを首にかけ、手につえをつき見るからに荒々しい姿だ。肉体を苦しめられるだけ苦しめているような人の相貌そうぼうだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そなえたる少年、とし二十に余ることわずかなれば、新しき剃髪ていはつすがたいたましく、いまだ古びざる僧衣をまとい、珠数じゅずを下げ、草鞋わらじ穿うがちたり。奥の方を望みつつ
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
兄は、やがて小さい珠数じゅずを手首にはめて歩いて、そうして自分のことを、愚僧、と呼称することを案出しました。
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
生駒山いこまやまのケーブル・カアのイルミネーションがずうっと珠数じゅずのようにつながって、紫色した靄のあいだから、ところどころ絶えては続いてまたたいてます。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
老尼の住んでいるいおりは、昔から伝えられた名をそのままに燈外庵と呼ばれていました。珠数じゅず爪繰つまぐりながら老尼が燈外庵の庵を出ようとすると、若い尼が
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ジュズ花というのはこの花の茎を折って、珠数じゅずの形に真似まねて首に掛けて遊ぶからで、播磨はりま一国だけでなく三河の宝飯郡・石見の邑智おおち郡等にも同じ語がある。
考えは珠数じゅずつなぎにあとからあとからとつづいて出て来る。鶉だの、跳ね魚だの、貝殼だの、猹だの。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そして、左手に金剛杵こんごうしょを持ち、首へ珠数じゅずをかけてから、炉の中の灰を、右手の指で、額へ塗りつけた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
老人たちは話に聴き入りながら、手を合せたり珠数じゅずをつまぐったりした。なさけぶかい御領主さまにつきまとった四十七人の浪士は鬼畜にもひとしい男たちであった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
一、先日の『日本』に伊予松山からの通信として梟が「トシヨリコイ」と鳴くと書いてあつたが、それは誤りで八幡鳩(珠数じゅずカケ鳩)が「トシヨリコイ」と鳴くのである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
麦藁むぎわらの大きいアンヌマリイ帽に、珠数じゅず飾りをしたのをかぶっている。鼠色ねずみいろの長い着物式の上衣の胸から、刺繍ししゅうをした白いバチストが見えている。ジュポンも同じ鼠色である。
普請中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十八の娘盛り、恵まれざるラヴ狩人ハンター達はその辺にウジャウジャしているのですから、このにはねられたのを縛る段になると、飯田町だけでも若い男の珠数じゅずが出来そうです。
水晶すいしょう珠数じゅずをかけたり、どの人もつつましく指を組み合せて、そっちにいのっているのでした。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
最初の一つそれから三つ、そして続いてな、事実において、わしは一目見てそれは珠数じゅず、すなわちそれの一端に十字架のついてる普通の珠数であった事がわかってしまったじゃ。
小供たちはその球根を掘り起して、つないで、珠数じゅずなぞらえて、石地蔵のくびに掛けてる。それだけではすまない。まだまだいたずらをする。球根をりつぶすと粘った濃い汁が出る。
毎朝興福寺の如来様にょらいさまを拝みに参ります婆さんで、これが珠数じゅずをかけた手に竹杖をせっせとつき立てながら、まだもやのかかっている池のほとりへ来かかりますと、昨日きのうまでなかった建札が
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
首に珠数じゅずをかけ団扇太鼓うちわだいこを持って出なければなりません様に成って居ります。
や、や、源兵衛さん、こなた泣いていやしゃんすな。先程呉れたお珠数じゅずと言い、わたしのこの胸騒ぎ、またいまのお言葉。こりゃ迂濶うかつにお傍は離れられぬ。こなた何か、わたしに隠し立てを
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そしてそれから、また次の山が、丁度、珠数じゅずのように遠くへ続いていた。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
門内の石だたみの道には参下向まいりげこうそで珠数じゅずとが摺れ合うほどであった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この隣人はたもと珠数じゅずを入れ、かつては半蔵の教え子でもあった鶴松つるまつのことを忘れかねるというふうで、位牌所いはいじょ建立こんりゅうするとか、木魚もくぎょを寄付するとかに
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初めのうちは心がいらいらしておちつかなかったが、しだいにおちついてきて安らかになり、朝晩ほかのことは思わずに珠数じゅずつまぐっていられるようになった。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
たくましき男性筋肉と、なよやかな女性肉塊の、だんだら珠数じゅずつなぎがウネウネと海蛇かいだの様に蠢き漂うのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鼠色の、ずいぶん雨風を浴びた袈裟衣けさごろもをかけて、帽子を被り珠数じゅずを手首にかけながら、少しく前こごみになって、あまり高い音声ではないが、よくとおる声で
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新子は口おしさといきどおらしさで、涙が流れ出すと、たちまち糸の切れた珠数じゅずのように止め度なく落ちた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そして羊やいのこの血をそそぎ、四、五百人の左慈を珠数じゅずつなぎにひいて来て、一斉に、首を刎ねてしまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紋服を着て珠数じゅずを持ち十人あまりの塾生のまんなかに背を丸くして坐って、三尺ほど前方の畳のへりを見つめながら三郎は考える。嘘は犯罪から発散する音無しの屁だ。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
千代子は泣きながら返事もせずに、冷たい宵子を裸にしてき起した。その背中には紫色むらさきいろの斑点が一面に出ていた。着換が済むと御仙が小さい珠数じゅずを手にかけてやった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「……あの……黒い塗駕籠ぬりかごの中に紫色の被布ひふを召して、水晶のお珠数じゅずを巻いた手であの花をお渡しになりました。挟箱はさみばこ持った人と、怖い顔のお侍様が一人おともしておりました」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
木の実だか、貝殻だか、赤く塗った大粒を、ごつごつごつと、素ばらしい珠数じゅずを掛けた。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると閻魔はいやさうな顔もせずすぐに明治三十四年と五年の帖面を調べたが、そんな名は見当らぬといふ事で、閻魔先生少しやつきになつて珠数じゅず玉のやうな汗を流して調べた結果
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ぼうさんが承知しょうちして珠数じゅずをつまぐりながら、なにいのりはじめますと、不思議ふしぎにもうりがむくむくとうごしました。さてこそあやしいうりだというので、お医者いしゃ忠明ただあきら針療治はりりょうじ使つかはりして
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そりゃア実にたしかなもので…いや待てよ…あゝ珠数じゅずつりを取るのを忘れた
おまんらが集まって吉左衛門のために縫った経帷子きょうかたびら珠数じゅず頭陀袋ずだぶくろ編笠あみがさ藁草履わらぞうり、それにおくめが入れてやりたいと言ってそこへ持って来た吉左衛門常用のつえ
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
にわかにふさの長い珠数じゅずに持ちかえ、父母にもすすめて、朝夕お題目をあげて、父母は何の事かわからぬが子供に甘い親なので、とにかく次郎右衛門の言いつけどおりに
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
若い尼さんは、そのひざまずいて頭を下げている無数の善男善女を、いちいちその手に持てる水晶の珠数じゅずで撫でて行く。おれを撫でたのもあの珠数だな、と米友が思いました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その多くは、葫芦ころの口へ兵糧を運んでゆく蜀勢を襲撃したもので、糧米、輸車、そのほかの鹵獲は、魏の陣門に山積され、捕虜は毎日、珠数じゅずつなぎになって送られて来た。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その復讐事件の真相なるものをモウ一つ奥の方へ手繰たぐって行くと、現在、内地朝鮮の官界、政界、実業界に根強い勢力を張り廻わしている巨頭株の首を珠数じゅず繋ぎにしなければならぬという
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
湖の小波さざなみが誘うように、雪なす足の指の、ぶるぶると震えるのが見えて、肩も袖も、その尾花になびく。……手につまさぐるのは、真紅のいばらの実で、そのつらな紅玉ルビィが、手首に珊瑚さんご珠数じゅずに見えた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)