なみだ)” の例文
青い稲田が一時にぽっとかすんだ。泣いたのだ。彼は狼狽うろたえだした。こんな安価な殉情的な事柄になみだを流したのが少し恥かしかったのだ。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
つねなんともおもはぬ島田しまだがめ今日けふばかりはづかしいとゆふぐれのかゞみまへなみだくむもあるべし、きくのおりきとても惡魔あくまうまがはりにはあるまじ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見送りの府吏大勢の中に、紅一点、「児島」と呼ばれた遊行女うかれめ婦もまじつてゐたが、彼女は再会の期しがたきを嘆き、なみだを拭ひ袖を振りながら
枕物狂 (新字旧仮名) / 川田順(著)
科人どもは手をあはせなみだを流し、かかる御めぐみこそ有がたけれとて、おもひ/\に逃行けるが、火しづまりて後、約束のごとく皆下谷にあつまりけり。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
彼女はそれから顔を胸のあたりまでうな垂れて、いつまでもいつまでも、淋しいなみだをながして泣いていた。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
燕王張玉の死を聞きて痛哭つうこくし、諸将と語るごとに、東昌とうしょうの事に及べば、曰く、張玉を失うより、われ今に至って寝食安からずと。なみだ下りてまず。諸将も皆泣く。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其のなみだが雨の如くはら/\/\と砂原へ落ちまするのを見て、多助は尚更悲しく
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ますらをとおもへるわれ水茎みづくき水城みづきのうへになみだのごはむ 〔巻六・九六八〕 大伴旅人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
さらにその深情、濃感、蘊籍うんせき渾厚こんこう、一読人をしてなみだおとさしむるに至るを覚う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
言已いいおわツテなみだ下ル。誠モマタ泫然げんぜんタリ。(中略)先生壮時ノ詩ハ既ニ刻スルモノ十余巻。しこうシテ晩年稿ヲ留メズ。僅ニ女史示ス所ノ者ヲ存スルノミ。しゅうシテ一巻トナシ題シテ『枕山先生遺稿』トイフ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女はなみだを拭いながら
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
常は何とも思はぬ島田が今日ばかりは恥かしいと夕ぐれの鏡の前になみだぐむもあるべし、菊の井のお力とても悪魔の生れ替りにはあるまじ
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「人もなきむなしき家は草枕旅にまさりて苦しかりけり」(巻三・四五一)、「吾妹子わぎもこがうゑし梅の木見る毎に心むせつつなみだし流る」(同・四五三)の二首を作っているが、共にあわれ深い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
行先ゆくさき何處いづこちゝなみだは一さわぎにゆめとやならん、つまじきは放蕩息子のらむすこつまじきは放蕩のら仕立したつ繼母まゝはゝぞかし。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さる子細しさいあればこそ此處こゝながれにおちこんでうそのありたけ串談じようだん其日そのひおくつてなさけ吉野紙よしのがみ薄物うすものに、ほたるひかりぴつかりとするばかりひとなみだは百ねんまんして
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つにさてじようさまのこゝろくみとりたまひてかとうれしきにもこゝろぽそく立上たちあがをとこかほそとうかゞひてホロリとこぼすなみだ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
口も利かれぬほど込上るなみだを呑込んで、これは私が惡う御座んした、堪忍をして下され、お力が親切で志して呉れたものを捨て仕舞つたは重々惡う御座いました
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
友仙の帯にぢりめんの帯あげも人手を借ずに手ばしこく締めたる姿、不図ふと見たる目にはこの様の病人とも思ひ寄るまじき美くしさ、両親ふたおやは見返りて今更になみだぐみぬ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私はどうしてもかうと決心してゐるのだからそれは折角だけれど聞かれないよと言ふに、吉はなみだの目に見つめて、お京さん後生だから此肩ここの手を放しておくんなさい。
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くにも人目ひとめはぢれば二かい座敷ざしきとこなげふしてしのなみだ、これをばとも朋輩ほうばいにもらさじとつゝむに根生こんぜうのしつかりした、のつよいといふものはあれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
まち高笑たかわらひするやうにりて、とき新玉あらたまはるりぬ、お美尾みを日々ひゞやすからぬおももち、をりにはなみだにくるゝこともあるを、みちせい自身みづからいへば、らうのみにものうたがはず
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お玄關からお歸りでは無いお出かけだぞと圖分づぶ/\しく大手を振りて、行先は何處、父がなみだは一夜の騷ぎに夢とやならん、持つまじきは放蕩のら息子、持つまじきは放蕩を仕立る繼母ぞかし。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暇乞いとまごひわざとうやうやしく、お峯下駄を直せ、お玄関からお帰りでは無いお出かけだぞと図分々々づぶづぶしく大手を振りて、行先は何処いづこ、父がなみだは一の騒ぎに夢とやならん、持つまじきは放蕩のら息子
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お初は口惜くやしく悲しく情なく、口も利かれぬほど込上こみあぐなみだを呑込んで、これは私が悪う御座んした、堪忍かんにんをして下され、お力が親切で志してくれたものを捨てしまつたは重々悪う御座いました
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やれ/\うしてこのおそくにたおうちではみなかはりもなしかといつかはらずもてはやさるれば、はりむしろにのるやうにておくさまあつかひなさけなくじつとなみだ呑込のみこんで、はいれも時候じかうさわりも御座ござりませぬ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やれやれどうしてこの遅くに出て来たおうちでは皆お変りもなしかといつに替らずもてはやさるれば、針のむしろにのる様にて奥さま扱かひ情なくじつとなみだ呑込のみこんで、はい誰れも時候のさわりも御座りませぬ
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)